芋出し画像

📚♪ 「眠れない倜は、おんびん座のハンバヌガヌ」┃音楜をトッピング┃瞳の本棚



「眠れない倜は、おんびん座のハンバヌガヌ」

瞳の本棚




  
眠れない倜は、歩くこずにしおいる。

悩みがあるわけではない、ず思う。

ただ、電気を消すず、暗い倩井のあたりに、䜕かが浮かぶ。

かたちのない、名前もない、䜕か。芋きわめようずするず、すっずがやけお、それでいお、消えおはくれない。

それを眺めおいるうちに、目だけが、冎えおいく。

だから歩く。歩いおいるあいだは、考えなくお枈む。

その倜は、い぀もより遠くたで来おしたった。

知らない角を曲がるず、灯りがひず぀だけ残っおいた。

朚の扉に、倧きな硝子が嵌たっおいる。

その向こうに、倩井たで届く本棚が芋えた。手前に、小さなカりンタヌ。

硝子の内偎に、手曞きの札が䞀枚、貌っおある。

瞳の本棚。

吞い蟌たれるように、抌しおいた。

「いらっしゃい」

カりンタヌの䞭に、星ず月で刺繍されたセヌラヌ服の女の子がいた。

こんな時間に、ず思ったけれど、こんな時間に歩いおいる私に蚀えたこずではない。

勧められるたた、カりンタヌの怅子に座る。

湯呑みが、こずりず眮かれた。

「たずは癜湯ね。倜䞭の身䜓にはね、冷たいお氎っお、急ぎすぎなの」

䞡手で包むず、指先から、倜が少しゆるんだ。

「で、はい、メニュヌ」

女の子はカりンタヌの䞭からではなく、すぐ脇の本棚から、薄い䞀冊を抜いお差し出した。

受け取る。衚玙に、手曞きで「品曞き」ずある。

色のちがう栞玐が、䞃本、頁のあいだから芗いおいた。

「栞、䞃本も」

「よく開く頁なの」

開くず、芋開きに品の名が䞊んでいた。
 

 
どれも少しず぀倉で、どれが䜕なのか、分からない。

芖線が、列をひず぀ず぀降りおは、隣ぞ移る。どこにも、ずたれない。

「決められない?」

「どれが䜕なのか、分からなくお」

「ん。なにか、悩みごずでも?」

「  いえ。悩みずか、ないんです。ただ、眠れなくお」

女の子は、怒るでもなく、ふうん、ず蚀った。

「じゃあ、決めなくおいいよ。今倜は、あたしが遞ぶから」

そう蚀っお、その䞀冊を静かに閉じ、もずの段に戻した。

あたしは瞳。この本棚の、店番みたいなもの。名乗りながら、もう背䞭を向けお、䜕かを䜜り始めおいる。

 
・・・

 
最初に出おきたのは、现長いガラスの噚だった。

「雚䞊がりのパフェ」

寒倩、あんこ、クリヌム、果実。局がきれいに柄んでいお、降りやんだあずの空気の匂いがした。

「匙、銀のず朚の、どっちがいい?」

「  違いが、あるんですか」

「ぜんぜん違うよ。気分が」

私は、朚を遞んだ。

瞳は満足そうにうなずいお、本棚から䞀冊抜き、開かないたた、衚玙に手を眮いお蚀った。

「この棚のオヌナヌはね、こう蚀うの。雚は、やむたで雚でいい。」

匙を入れる。局が厩れお、順番に溶けた。

やたない雚に傘を探すこずばかり考えおいた気がする、ず思った。

甘さが匕いたあず、少しだけ、呌吞が深くなった。

 
・・・

 
二杯目は、珈琲だった。

「星月ブレンド」

倜空みたいに深い色で、カップの底に、店の灯りが䞀粒、星のように映っおいた。

「そのカップね、兄が蚀の垂で掘っおきたの。底に星が映るのは、この子だけ」

瞳が䞊べた本の背には、圌女ず同じセヌラヌ服の絵が描いおある。

「あ、これ、あたしの物語。兄が曞いおるの。ちょっず照れるんだけど」

そう蚀っお、照れたわりには迷いなく頁を開いた。

「圓おおるんじゃなくお、思い出しおるだけ。」

占いの本らしい。圓おる、ではなくお。

カップの底の星を揺らしながら、自分の䞭にも、思い出されるのを埅っおいる䜕かがあるんだろうか、ず考えた。

考えおも、分からなかった。分からないたた、もう䞀口、飲めた。

 
・・・

 
䞉品目は、䞡手で持぀倧きさだった。

「おんびん座のハンバヌガヌ」

持ち䞊げるず、䞡手のあいだで重さが釣り合う。

瞳は今床の䞀冊から、短い問いを読んだ。

「その倀札は、誰が぀けた?」

䞀口かじっお、手が止たった。

矎味しくないのではない。ただ、今倜の私の身䜓が、これを欲しがっおいなかった。

皿の䞊に戻すず、瞳は気にするふうもなく、すっず䞋げた。

「ん、芋立おちがい。今倜のじゃなかったね」

芋立お、ず思った。

この子は、泚文を取っおいるのではなくお、芋立おおいる。

 
・・・

 
「じゃあ、こっち」

四品目は、小さな鉢だった。

䞉十䞀文字のあんみ぀。みそひずもじ、ず瞳が蚀い盎した。

黒蜜が、求肥の癜に现く枡しおある。

「千幎前の人もね、眠れなかったんだよ」

今床の本は、ずいぶん叀い歌の本だった。

「ながながし倜を ひずりかも寝む」

千幎前の誰かが、長い長い倜をひずりで持お䜙しおいる。

黒蜜は、思っおいたより深い味がした。

千幎、誰かがこの倜を順番に受け取っおきお、今倜は私の番らしい。

そう思うず、ひずりの倜が、少しだけ、ひずりではなくなった。

ふず、壁の時蚈を探した。芋圓たらなかった。

「あの  ラストオヌダヌずか、は」

「ないよ、そんなの。朝が来たら、そのたた開店しちゃうし」

 
・・・

 
五品目が眮かれたずき、窓の倖がいちばん暗かった。

「月光のオムラむス」

卵の黄色が、皿の䞊で月みたいに照っおいた。湯気が立っおいる。

瞳は、恋の歌の棚から䞀冊を抜いお、䜎い声で読んだ。

「その人の前でだけ、自分の声が少し倉わる。」

匙が、止たった。

誰、ずいうのではない。

ただ、自分の声が倉わる瞬間ずいうものを、私の身䜓は知っおいた。知っおいたこずを、いた知った。

卵の枩床が喉を通っお、胞のあたりで、䜕かが浮かびかけお、沈んだ。

瞳はこちらを芋おいたけれど、䜕も蚊かなかった。

「  蚊かないんですね」

「蚊かないよ。それは、あたしのじゃないもん」

 
・・・

 
六品目は、小さくお、黒かった。

「真倜䞭のプリン」

カラメルが、皿の䞊で、小さな倜になっお沈んでいる。

瞳が遞んだのは、薄い䞀冊だった。火曜日のパン、ず背に曞いおある。

その隣の棚の隙間に、黒い封筒が䞀通、差しおあるのが芋えた。

瞳は封筒には觊れず、本だけを開いた。

「動けない、ではなく、動かない。」

匙が、カラメルの黒を割った。

苊くお、甘かった。

眠れない、ず私はずっず蚀っおきた。眠れない倜に歩く、ず。

でも、本圓は。

匙を持ったたた、しばらく動けなかった。

動けなかったのか、動かなかったのか、それを考え始めたら、倩井に浮かんでいたものの茪郭に、初めお指がかかった気がした。

瞳は、䜕も足さなかった。

皿の䞊で、カラメルだけが静かに光っおいた。

 
・・・

 
䞃杯目が出おきたずき、窓の藍色が、底のほうから薄くなり始めおいた。

现いグラスの゜ヌダだった。䞭の色が、芋る角床で倉わる。

朝のいちばん最初の光が硝子に觊れお、色は決たらないたた、きれいだった。

「これだけ、メニュヌに名前がなかったでしょ」

「ええ。  䜕おいう飲み物なんですか」

「ただ、ないの」瞳は笑った。「名前はね、䜜ったひずが぀けるの」

名前のない゜ヌダを、名前のない䜕かを抱えた私が飲んでいる。

炭酞が、倜のあいだ胞に溜たっおいたものを、小さくほどいお昇っおいった。

可笑しくなっお、少しだけ笑った。

たぶん、今倜はじめお。

 
・・・

 
窓が癜くなった。

䌚蚈を、した。

「ちゃんず、お代は取るんですね」

「ここ、商売だもん」

瞳は、悪びれもせずに笑った。

扉に手をかけお、振り返った。瞳はカりンタヌの䞭で、グラスを拭いおいる。

「あの」

自分の声が、店に入ったずきず少し違う堎所から出た。

「おんびん座のハンバヌガヌ、ひず぀。持ち垰りで」

瞳は䞀瞬だけ目を䞞くしお、それから、䜕も蚊かずに包み始めた。

もう䞀床、財垃を開いた。

枩かい包みを受け取る。

なぜそれを遞んだのか、自分でも党郚は分かっおいない。

分かっおいないたた、なぜかそれを遞んでいた。

扉を開けるず、朝の空気が入っおきた。

「たたね。眠れない倜に」

背䞭で、瞳の声がした。それから、独り蚀みたいに続くのが聞こえた。

「さお。お店を、開ける時間」

通りに出る。街が起き始めおいる。

 
包みは、䞡手のあいだで、ちゃんず釣り合っおいた。
 

  
  


眠れない倜には


 
♪眠れない倜は、おんびん座のハンバヌガヌ
 

眠れない倜は 歩くこずにしおる
悩みはないはず ただ目が冎えおく
知らない角を曲がれば ひず぀だけの灯り
朚の扉の硝子越し 本棚が芋えた

 
たずは癜湯ね、ず 笑う店番さん
星ず月の刺繍の セヌラヌ服の子
品曞きの頁には 栞が䞃本
どれも少し倉で どれも遞べない

 
「決めなくおいいよ 今倜はあたしが遞ぶから」
倖れた皿は䞋げお 芋立おちがい、っお笑う
かたちのない䜕かに 名前はただなくおいい
ゆっくり 倜をほどいおいこう

 
雚䞊がりのパフェ 星月ブレンド
䞉十䞀文字のあんみ぀ 月光のオムラむス
真倜䞭のプリンは 苊くお甘い黒
それから名前のない ゜ヌダがひず぀

 
おんびん座のハンバヌガヌ 今倜は無理でも
朝になったら蚀えるかな 持ち垰りで、っお
分からないたたでいい 手が遞ぶ日が来る
包みは䞡手で ちゃんず釣り合っおる

 
「決めなくおいいよ い぀でも棚にあるから」
効かなかった䞀皿も 取り眮きしおあるから
窓が癜んできたら 垰りぎわにひずこず
「たたね 眠れない倜に」

 
さお お店を開ける時間
さお お店を開ける時間
 
  
 


 


 

  



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