「DARK FORCE」第1話 #創作大賞2024 #漫画原作部門
あらすじ
この世界には秘密がある。
神々と魔王が手を結んだ世界で、
魔物やダンジョンは人を強くする為の試練であり、
世界は多くの英雄を必要としていた。
聖剣を握る以前の記憶が無い勇者アレスティル。
彼は孤独を抱えていた。
そんな中『彼女』に出会う。
アレスティルに居場所をくれた女僧侶レーナ。
穏やかな日々に満たされていく彼は、次第に彼女に惹かれていく。
レーナが仕えるのは善人とはほど遠い女教皇アセリエス。
美しきアレスティルを見初めたアセリエスは、
彼が想いを寄せる相手がレーナと悟り、彼女を死地へ追いやろうとする。
愛しい日々を守る為、聖剣を手に立ち上がったアレスティルは、
その先で世界の真実を知る。
【】=補足説明。
魔王との和解を成立させ、
世界に一定の平和をもたらした勇者アレスティル。
気付いた時にはその手に握られていた聖剣。
彼はどうしても、聖剣を手にする以前の記憶が思い出せない。
アレスティル(この剣がなければと、鬱陶しく思う事もある)
【聖剣は手放しても、必ずアレスティルの手元に戻って来る。
それ自体がまるで呪いでもあるかのように】
アレスティル「ハーァ……」
荒野で深くため息を漏らすアレスティルはとても孤独だった。
アレスティルがティヴァーテ剣王国を抜け、
北西に位置する神聖セバリオス法王国に入った時、
『彼女』と出会う。
そこに広がる目を疑うような光景。
小国なら一体でも破滅されるほどの
凶悪な上級悪魔のグレーターデーモンを相手に
たった一人の女僧侶が戦っていた。
彼女は村人たちを懸命に守りながら、
悪魔の強力な暗黒のブレスを全身で受け止める。
その威力は村人ごと周囲数百メートルを灰燼に帰すほどだ!
女僧侶「ホーリーシールドッ!」
女僧侶は背後にいる人々を守る為、広範囲の聖なる盾を巡らせる。
強敵を相手にそんな余力はないはずなのに。
その中で彼女は、聖剣に手をかけたアレスティルの姿に気付く。
女僧侶「あなたもどうか早く、この場を離れて下さい」
アレスティルはその蒼い瞳を大きく見開き、言葉を無くす。
生まれて初めて、自分の身を案じる言葉に手が震えた。
こちらを見て微笑む彼女に人の温もりを感じさせられた瞬間だった。
アレスティル(彼女は勇敢な戦乙女だ。とても気高い心を持つ)
アレスティルは迷う。
彼女の為に戦いたい。
しかしそれは彼女の意思を、誇りを汚す事になる。
女僧侶「早くお逃げ下さい」
傷付きながらも金髪の天使は、
アレスティルに微笑みかけてくれる。
今、この瞬間も苦しいに違いない。
何度となく死線を潜り抜けてきたアレスティルにはそれがわかる。
アレスティルは恐るべき悪魔を前に、
震えて身動きすら出来ない村人たちに向かって叫んだ。
アレスティル「さっさと立ち上がれッ!
生き残りたければ自分の足で逃げろ!!」
グレーターデーモンから浴びせられた村人たちの恐怖を、
アレスティルの勇者覇気が打ち払う。
【『恐怖』=恐怖状態に陥ると全能力が3割減少し、混乱する。
耐性のない者たちは身動きすら取れなくなる】
【『勇者覇気』=勇者スキルの一つ。
中程度までの状態異常を無効化し、
広範囲バフで味方の意気と身体能力を大きく向上させる】
悪夢から覚めたように我に返る村人たちは、
小さな子供を抱きかかえながら離れていく。
母親「ありがとうございますっ」
村人(もしや勇者様!?)
強者のオーラを漂わせる、アレスティルの凜々しい立ち姿に
村人たちは希望を見出し避難を始めた。
彼らが安全地帯に逃げ去るまで、彼は女僧侶の戦いを見守る。
アレスティルはもし彼女が危機に陥る事があるようなら、
有無を言わさず目障りな悪魔をなぎ払うつもりでいた。
女僧侶「あなたも逃げて」
死闘を演じる彼女には、アレスティルの姿がぼやけて見える。
彼女は勇者であるアレスティルさえも聖なる盾の奇跡で守っていた。
アレスティル(この場に留まれば、彼女は全力で戦う事が出来ない)
僅かにだが彼女は押され始めている。
長時間にわたって村人たちを守り続けていたしわ寄せだ。
聖なる盾の奇跡はアレスティルにはあまりにも心地が良すぎた。
まるで天使の羽にでも包まれているかのように。
アレスティルの碧眼に銀光が流れる……。
彼女が何かを言いかけたその刹那、アレスティルは心で動く!!
アレスティル「凍結剣・絶対零度」
【『凍結剣・絶対零度』=アレスティルの必殺技の一つ。
マイナス273,15 ℃の氷結世界で対象のみを凍てつかせ、
一閃で無数の斬撃を浴びせる】
その言葉と共に世界が蒼く没する。
彼女には、アレスティルが何をしたのか分からない。
吸い込まれるように強く美しい光を放ち続ける聖剣に、
彼女が見入ってしまったその瞬間、
その背後を煌びやかにダイヤモンドダストが舞う。
アレスティルが静かに聖剣を鞘に収めると世界は元の色を取り戻し、
彼女の姿を美しくで照らしながら巨大な氷塊が砕け散る。
女僧侶「きれい……」
無数のプリズムのように虹色の輝きを放つ
氷片の正体がグレーターデーモンである事を
彼女が気が付くには少しだけ時間がかかった。
きょとんとした表情でその場に立ち尽くした彼女を残して、
アレスティルはその場から立ち去ろうとする。
彼は戻ってきた人たちが自分の事を
勇者だの英雄だのと持ち上げるのは遠慮したかったし、
アレスティルは彼女から初めて感じたその心地良さを記憶に留める為、
自分の正体が悟られる前に離れたかった。
勇者である事を知られれば、彼女の態度は一変するだろう。
そんな上辺だけの視線を浴びるのは、何としても避けたかった。
人々をそして勇者の自分までも純粋に守ろうとする、
そんな彼女の姿が見れただけで心満たされた感じがしたのだ。
孤独を感じていたアレスティルにとって
それは嬉しいことだった。
アレスティルは人々が逃げ出した反対側へと振り返ると、
彼女はアレスティルにこう尋ねてきた。
女僧侶「あの……。
私、さっきまで戦っていましたよね?」
頷くアレスティル。
女僧侶「えっとお兄さんが、
そのイリュージョンっていうんですか?
女僧侶「光輝くステッキ(聖剣)が青くキラーンって光ったと思ったら、
氷が砕けるのと同時に魔物がいなくなってしまったのですが」
アレスティルを見つめる彼女の瞳が、星のようにキラキラと輝く。
アレスティル(ステッキ?)
女僧侶「旅芸人や踊り子が活躍する話はギルドで聞いた事がありますが、
実際に目にしたら、その光景に圧倒されちゃいました」
女僧侶「凄いです、通りすがりの旅芸人さん!」
アレスティル「えっ……」
アレスティルは一瞬、自分が氷漬けになったように固まってしまった。
彼女の表情は真剣そのものだ。
すぐに平静を取り戻したアレスティル。
何もない荒野に上級悪魔が出るのも異常だが、
そんな強敵を一人で相手出来る彼女の事が気になる。
アレスティル「よかったら君のレベルを教えてくれないか?」
アレスティルは純粋に彼女の内に秘める強さに興味を持ち、
彼女にそう尋ねた。
この世界ではレベルが全てといっても過言ではない。
その最大値はレベル99(※1)
人間はレベル50で成長限界を迎る。
【※1=先の話になるが世界には一人だけその限界を超えた存在がいる
主神セバリオスは絶対能力と呼べる『最大限界』で
レベル100に達する】
【『最大限界』=セバリオスのみが持つスキルで、
どの世界であってもレベルが最大値に達する。
この世界エルザーディアではレベル管理システム『エクサー』により
レベル上限が99に制限されているが、
セバリオスは最大限界によって99+1のレベル100で存在する】
【『エクサー』=巨大な世界を一つ構成出来る超高度文明の箱船。
箱庭の規模は太陽系と同サイズで、世界を巨大なシールドで覆い、
異世界からの侵略を防いでいる。
どんな強敵が外部から侵入しても、レベルを99に制限する事で
箱庭を守っている。エクサー自体の破壊は不可能。
現エクサー管理者はエルザーディアで、主神セバリオスより上位の存在】
レベル90以上は神や魔王の領域。
人の身でこの域に達したのは、
大陸最強の剣王バルマードのレベル95を筆頭に、
歴代最高の勇者アレスティルのレベル93。
そこに剛鉄王ガルトラントのレベル92を加えた三人のみ。
レベル80以上で世界のバランスを変える超越者と呼ばれ、
S級冒険者と呼ばれる者たちでさえ、レベル50を超える者は少ない。
アレスティルが感じた彼女のレベルは50台後半、
上級悪魔を相手に単独で挑んだ彼女を高く評価しての事だ。
すると彼女は屈託のない笑みを見せ、その問いに答えた。
女僧侶「はい。私はセバリオス法王国に仕える僧侶で
名をレーナといいます。
歳は19才、ぎりぎりでティーンなのですっ」
レーナ「レベルの件ですね、私のレベルは87です」
アレスティル「たかっ!!」
思わず素でそう叫んでしまったアレスティル。
人生で出会う事が稀とさえ言える超越者が目の前にいたのだ。
レーナ「私は名乗ったのですから、
あなたも自己紹介をお願いします。
人に言えないような事は流してもらって結構なので」
レーナ「あ、あと……出来れば芸人レベル付きで。えへっ」
アレスティル(えへっ、って言われても)
アレスティルは何だか訳のわからない事態になったと、
ちょっと混乱する。
この距離で自分を見ても正体わからないという人には
それこそ初めて出会ったのだから。
アレスティル(腰の聖剣に気付いて下さいョ!)
と言いたくもなったが、気付かれていないならいないで
それは新鮮なことだったし、嬉しくないといえば嘘になった。
だが、どうしても『芸人』というところは否定したい。
アレスティルはどう否定したものかと悩む。
天真爛漫な彼女の天然ぶりで微妙に曲がったその美しい思い出も、
アレスティルはまだ鮮度の高いうちに記憶に留めたい。
記憶の大半を失っているアレスティルは、
少しずつでも素敵な思い出を積み重ねたいという想いがある。
好奇心に目を輝かせながらアレスティルを見つめるレーナ。
年頃の女の子との出会いなど皆無だったアレスティルは、
この金髪の美少女から詰め寄られる事は決して悪いものではない。
アレスティル(すーはー、こんな可愛い子を間近で見るのは緊張する。
ただどう接して良いのか、俺の女性経験の無さが恨めしい)
この世界はレベルが全てと言ったように、
レベルが87もある超越者の彼女は、もはや人の域を超えた
神や天使のような存在で、神と同様に不老不死の力も備わる。
(この場合の不老不死は、寿命では死なないという意味)
レベルは強さだけではなく、美しさも上昇させる。
神と人を分ける基準はただ一つ、レベルのみである。
つまり彼女が永遠の美少女であるという事を
アレスティルは意識している。
これから永遠とも言える人生が待ち受ける彼にとって、
人の一生は一瞬で、彼女のような存在は果てしなく貴重なのだ。
アレスティル(こんな出会いが生涯において何度あるだろう
余裕こいてると次は絶対ない気がする。
お友達から始めたい気持ちが沸いて来るのが自然だよね)
レーナは懐から取り出したメモ帳を片手に、
アレスティルの顔の特徴や背格好に至るまで細かくメモメモしている。
その仕草はどこか手馴れていて、まるで新聞記者の様だ。
【実はこのレーナも、アレスティルとは違う形で記憶障害を抱えており、
その影響で彼の勇名を忘れてしまっている。
彼女は大事に思った事は、自然とメモに取るのがクセ付いている】
レーナ「えっと芸人さんじゃなくて、
言い方はマジシャンやイリュージョニストの方がいいですか?」
アレスティル「いや、違うからね。言い方の問題じゃなく」
アレスティル「私は世界を旅する探求者。
いろんな不思議を発見してはいるが世界遺産巡りに近い方」
アレスティル「決して芸の道の探求はしていないので
そこは強く強調する」
レーナ「えーーっ!
あれだけの才能を埋もれさせるつもりですか!!」
本気でガッカリした様子のレーナに、
淡々と自己紹介を続けるアレスティル。
アレスティル「俺は秘密結社『魔王の穴』に追われる身で、
実を言うと今すぐにでもこの場所を離れなくてはならない」
レーナ「魔王の穴!? 恐ろしそうな組織ですね」
アレスティル「ああ、とても恐ろしいヤツらだ。
俺も危うく魔王の手下に改造される所だった」
アレスティルのバカな作り話に素直の聞き入るレーナ。
その純朴な姿がアレスティルにはチクチクと痛い。
レーナ「どうして追われる事に?」
アレスティル「……借金だ」
レーナが一瞬で真顔になる。
レーナ「ちゃんと働いて返した方がいいと思いますよ」
レーナの言うことはもっともだったが、
彼女のペースに巻き込まれては危険だと感じたアレスティル。
が、すでに遅し。
慈愛に満ちた表情をするレーナの質問攻めを、
今度はアレスティルの方が喰らうことになる。
レーナ「はい、ではまず名前と歳を教えてください。
迷える人たちを救うのも神に使える者の使命です」
レーナ「迷ってますよね?
いえ迷っているハズです!」
アレスティルはこういう変化にはとことん弱い。
ポスッと脇腹に拳を一発入れられたような気分だ。
まるで事情聴取でも受けるかのような気分で、
メモを走らせているレーナの問いに答えた。
アレスティル「俺はアレスティル、
歳は多分15か16才くらい」
レーナ「なるほどアレスティルさんですね。
15~6才ですか、少し曖昧ですネ。
では半年後に16才のお誕生日ということにしましょう」
アレスティル(本当は聖剣を手にした時には、
俺はもう不老不死だったので外見の歳になるけど)
アレスティル(魔王と和んでからもう10年以上経ってるから、
本当の歳とかわからないんだよね)
レーナ「あ、私の方がお姉さんってことになりますねっ!」
レーナ「……というかその歳で、よくお金貸してもらえましたね」
アレスティル(変な嘘を付くんじゃなかったーッ!)
アレスティルはレーナから浴びせられる同情が、痛くてたまらなかった。
レーナ「仕事のお世話しましょうか?」
確かに自分はある意味無職だ。
勇者とか言われても安定した収入があるわけではない。
もちろん借金など有りもしないのだが、
何らかの手に職を付けておいた方がいいのかな?
と流れで思わされてしまうアレスティル。
変な空気に翻弄されるアレスティルだったが、
自分の名前まで出してその正体に
気付かれていないのは幸いだと思う。
アレスティル(世界中に俺の魔道写真が出回って、
何処に行っても困り事を押しつけられていたが
知られてないって、こんなに新鮮な事なんだ)
人生の大半の記憶を失っていたアレスティルは、
自分の事を知らない場所で、自分を知らない人たちと
人生をやり直したいという願望をひそかに抱いていた。
アレスティル「レーナさん。
もしよかったら、誰も知らない南の島辺りで
俺の人生のやり直しに付き合ってもらえませんか」
レーナ「え、南の島ですか。
ちゃんと借りたお金は返さなくてはいけませんよ」
アレスティル「俺、立派な漁師になります。
素潜りで1万メートルくらい潜れますし、
どんな海の幸だって取り尽くせます」
アレスティル「いっぱい稼ぎますので、
豊かなスローライフで美しい日々の思い出が欲しいんです」
レーナ「うーん。
一度国に帰って教会から許可を得たら、
南の島への出張も可能かも知れません。
ちゃんとお仕事をする気があるなら手伝わせてもらいますよ」
熱く自分の願望を語るアレスティルに、
レーナは天使のような笑顔で微笑んでくれる。
アレスティル(俺は今、人生をやり直すチャンスを
手に入れられるかも知れない)
アレスティル(もう人に頼られるだけの人生じゃない、
自分による自分の為の
俺と彼女だけの素晴らしい人生を!)
南の島で二人仲良く過ごす日々を思い浮かべたアレスティルは、
そんな理想の世界を自分が夢見る事が出来るのかと、
聖剣を手にして以降の、苦労の連続の日々から救われる思いがした。
アレスティル「本当に、こんな見ず知らずの俺の為に
付いてきてくれると言うのですか」
レーナ「それも人助けならば、神のお導きでしょう」
アレスティル(この星に生まれてよかったーっ!)
ところがその時!
自分をその視線に捉える影があることにアレスティルは気付く。
アレスティル「えっ!?」
ヨボヨボのおじいさんが手を震わせながら
その杖をアレスティルの方に向けて、
しまりのない口でこう絶叫したのだ!!
おじいさん「おおぉ! やはり伝説のゴホ……ゴホ、
勇者、アレスティル様じゃーーッ!!」
レーナはその声の方向に振り返る。
アレスティルは頭を抱えてその場にうずくまった。
第2話
第3話
