「DARK FORCE」第3話 #創作大賞2024 #漫画原作部門
神聖セバリオス法王国を列強に並ぶ大国に押し上げた現法王。
民や信者たちは彼女を敬愛の念を込めてこう呼ぶ。
『女教皇アセリエス』と。
長い黒髪をした彼女の年齢は不明だが、見た目は二十歳くらい。
とても美しい容姿をしており、左右の目の色が違う。
右目が緑で左目は真紅。
在位して100年は過ぎたはずなのに、美しく咲き誇る彼女。
容姿の似た者を何代も入れ替えさせていると
揶揄する声が聞こえると、アセリエスは嬉しそうにこう微笑んだ。
アセリエス「ワタシを讃える声がまた聞こえるワ」
彼女は善人とは程遠い人物で、欲深くまた賢くもあった。
レーナは彼女のこの性格を理解した上で、
女教皇に仕える道を選んだ。
大神殿は広大な聖都を一目で見渡せるほど大きく、
アレスティルを特別扱いする者がいない聖域だった。
彼にとって居心地のいい場所。
この頃、アレスティルはレーナの事で悩んでいた。
アレスティル(レーナさんの物忘れの酷さは、
ただの記憶障害で済ませてしまって良いのだろうか。
……何かの病なら治す方法を見付けてあげたい)
彼が悩む度に大神殿へと訪れていると、話し相手となってくれる
一人の美しい黒髪の女性と出会う内に親しくなる。
アレスティル「あ、ロゼリアさん」
ロゼリア「坊やは、またあの子の事でお悩みなのかしら」
そう言って彼の横に座るロゼリアという女性は
派手な黒いドレスに白い眼帯で右目を覆った妖艶な美女だ。
アレスティル「いつも俺の愚痴を聞いてくれて、ありがとうございます」
ロゼリア「そんな事気にしないの。私は男を喜ばせる商売を
しているのだから、坊やの愚痴くらい何て事ないわ」
幅広い人脈を持つロゼリアは医学についても明るく、
レーナのような症状にも知識を持っていた。
彼女と話すとアレスティルの心は軽くなり、前向きになれた。
ロゼリア「その子が気になるのなら、早く自分のものにしてしまう事ね」
アレスティル「そんな、まだ出会って二ヶ月しか経ってないのに、
軽く思われてしまうのが正直怖いです」
ロゼリア「坊やのような美少年に好きと言われて悪い気のする
女なんていないでしょ。
寂しさだけなら私が埋めてあげてもいいけど、
坊やの純情を弄ぶのも気が引けてしまうのよね」
ロゼリアの甘い香りに、顔を赤らめてしまうアレスティル。
アレスティル「でも、こうして相談に乗ってもらえて嬉しいです
ロゼリアさんは困った事はありませんか?
俺で力になれる事があれば」
ロゼリア「有り難いけど、勇者様に助けてもらう程の事はないわね
私も仕事の息抜きになってるんだし、
いつでも声をかけてくれてかまわないわ」
アレスティル「はい、ロゼリアさん」
アレスティルと分かれたロゼリアは、
大神殿でも特別な資格がある者しか通れない門をくぐった。
その門の向こう側に出てきたのは、
この大神殿の主である女教皇アセリエスだった。
そうアセリエスとロゼリアは同一人物だ。
ただ完全な二重人格で、ロゼリアの行動をアセリエスは知らない。
彼女は女教皇になる際に、主神から呪いのような制約を受けていた。
それは新月に身体が一月若返るかわりに、
それまでの記憶を失うというものだった。
そこで生まれた人格がロゼリアで、
彼女はアセリエスと記憶を共有しないかわりに、
女教皇になる以前の記憶を失うことはなかった。
純白の法衣を纏い法王の椅子に座るアセリエスは、
レーナの記憶障害の理由を知っている。
アセリエス(またロゼリアに変わっていたみたいだわ。
ワタシのもう一つの人格<ロゼリア>は一体、
何を知りたがっているのかしら)
ロゼリアはアセリエスに気付かれないよう、レーナの事を探っていた。
アセリエスは一月しか記憶が持たない為、
秘密の場所に重要な事が書かれた手記をしまってある。
そこにはレーナの秘密が書かれているのだが
アセリエスはロゼリアに、簡単にその手記を見せてやる程
お人好しではない。
アセリエスは神に囚われた人格で、
ロゼリアの方が本来のアセリエスの人格を保っている。
元はアセリエスもロゼリアと同じく善良だったが、
神の呪いがアセリエスという人格を100年かけて歪めていった。
アレスティルは聖都の大通りに面した孤児院の隣にある
レーナの家に暮らしていた。
レーナ「アレスティル君の料理は孤児院でも大好評ですね」
アレスティル「手当たり次第にギルドのクエストをこなしてるのは
孤児院への寄付や炊き出しをする為だったりするの」
レーナ「アレスティル君が手伝ってくれるようになって
金回りは良くなったので、少しは貯金に回してます」
アレスティル「へぇー、レーナさんでも将来の事を考えてたりするんだ」
レーナ「今の目標は孤児院をもっと大きく建て替える事です。
私には大それた目標かも知れませんが」
レーナは天使のような笑みを浮かべてこう言った。
レーナ「子供たちには笑顔で大きくなって欲しいんです。
私も孤児だったので愛着もありますし、
笑顔に包まれてると自然と自分も笑顔に
させられちゃうじゃないですか」
アレスティルはそんなレーナの笑顔のそばにいたいと
優しい気持ちにさせられた。
大神殿でロゼリアと合うアレスティル。
ロゼリア「坊やの悩みの解決法がわかったわ」
アレスティル「本当ですか」
ロゼリア「私と二人だけの秘密にしてちょうだいね。
この国の大事に関わることだから、私まで危なくなるの」
アレスティル「……ロゼリアさん」
ロゼリアは強い意志を宿した真剣な面持ちで
アレスティルにレーナの秘密を語る。
ロゼリア「戦乙女レーナが以前ガルトラント王と
御前試合で戦った事があるのは知ってる?」
アレスティル「初耳です」
ロゼリア「レーナには奇跡の力があるの
それも圧倒的不利を覆す程の力が」
アレスティル「……」
ロゼリア「女教皇アセリエスはレーナにその力を使わせた
戦乙女の決戦スキルとも言える『想いの力』は
自分自身の存在と引き換えに、
爆発的な力を引き出す事が出来るの」
ロゼリア「ただそれは諸刃の剣。完全に使い切ってしまうと、
レーナ自身が消えてしまう。それも跡形もなく」
アレスティル「!?」
ロゼリア「彼女に残された想いの力はあと6割くらいだそうよ
これ以上、彼女に奇跡を使わせないで
記憶どころの話じゃ済まなくなるから」
アレスティル「わかりました、ロゼリアさん」
***
アセリエスは国の財がつぎ込まれた豪華な一室で、
一人の客の相手をしていた。
ノリのきいた白い礼服にその身を包んだ銀髪の男。
実はこの男、魔王軍四天王筆頭のマイオストである。
アセリエスには見る者が言葉を失うほどの絶世の美がある。
マイオストは贅の限りを尽くしたドレス姿の彼女を見て
淡々とこう言った。
マイオスト「まるでクジャクのようですな」
アセリエス「褒め言葉と受け取ってよいのかしら。
財という名の羽飾りを幾つも背中にさしたような女に
映っているみたいだワ」
マイオストはこちらの世界では『ガイヤート』の名で、
希少品を扱う商人ということになっている。
彼との取引で得られる物は貴重品であり、
アセリエスはその心を揺り動かされた。
マイオスト「猊下はこのガイヤートに次は何を持てと仰られるのです?
ありとあらゆる天上天下の宝をすでに
お持ちのようにも見えられますが」
アセリエス「アセリエスと呼ぶがよい。
公務でもないのにそう呼ばれては肩がこる」
マイオスト「ではアセリエス様。この私はあなた様の為に、
次はどのような嗜好を凝らせばよいのでしょう。
竜などを倒して若返りの秘薬でも手に入れて来いと?」
アセリエス「フフッ、それでは自ら老い朽ち果てていると
周りの馬鹿どもに言い触れて回るようなものだのぅ。
そういう冗談が言えるから、
そなたはお気に入りでいられるのだ」
アセリエス「世の中には様々な悦楽がある。
手に入れること、愛でること。
時には指をくわえてただ眺めること」
……そして奪い、奪われること」
マイオスト「お言葉に感謝いたします。しかし本当に怖い方だ。
かの大国ティヴァーテを焚き付けて戦をしたがる
その理由とは一体何なのでしょう」
アセリエスは気まぐれで
マイオストのその問いに答えてやる事にした。
どうして争いの種を蒔きたがるのかという事に。
アセリエス「あのバルマード王が最愛の王子を皇帝に差し出すとは
思わなんだが、とても美しい王子なので
暫く留め置くのもよいかも知れぬ。
これでは答えにはなっておらぬな」
マイオスト「いえいえ」
アセリエス「相手は誰でも良い
我が国の誇る戦乙女レーナを倒してさえくれればのう」
アセリエスの言葉はマイオストには理解し難いものだった。
自国の最高の戦力を失うことに何の意味があるのか。
アセリエス「レーナは良い駒じゃ、まさに天才じゃのう。
さして嫌っているというわけでもない」
アセリエス「ワタシは生まれて初めて欲しいと思ったものがある。
その思いは願いとさえ言えるほどに強い」
その深く艶のあるルビーとエメラルドの輝きを持つ、
アセリエスの両の目が彼女のその渇望を映し出す。
「勇者アレスティルが欲しい」と。
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