【ギリシア哲学】『エピクロス派(快楽主義)エピクロス』
〖はじめに〗
人はなぜ
不安から逃れられないのでしょうか。
将来の不安。
死への恐れ。
見えない運命への心配。
エピクロスは言いました。
人を苦しめる最大の原因は恐怖である。
特に
・死の恐怖
・神の恐怖
この二つです。
もし恐怖が消えれば、
人は自然に幸福になる。
そう考えた哲学者がいます。
それが――
エピクロスです。
彼は幸福を
静かな安心(心の平穏)
として定義した哲学者でした。

〖① 快楽とは何か〗
エピクロスは言います。
人生の目的は快楽である。
ただし、ここでいう快楽は、
私たちが普段イメージしがちなものとは少し違います。
一般に快楽というと、
・贅沢
・宴会
・刺激
・興奮
を思い浮かべるかもしれません。
けれどエピクロスにとって快楽とは、
・身体に痛みがない
・心に不安がない
・すでに足りている
という状態です。
つまり快楽とは、
心身が乱れていないことでした。
彼にとって幸福とは、
何かを次々に足すことではなく、
苦しみや不安が静まった状態に近づくことだったのです。
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〖② 動く快楽と静かな快楽〗
エピクロスは快楽を、
大きく二つに分けて考えます。
■ 動く快楽
刺激があり、一時的に強く感じられる快楽
例
・宴会
・贅沢
・強い欲望が満たされること
■ 静かな快楽
満ち足りて安定している快楽
例
・満腹
・健康
・安心
・友情
彼が重んじたのは、
後者の静かな快楽です。
なぜなら、
強い刺激は過ぎ去りやすく、
しばしば次の欲望を呼びます。
それに対して静かな快楽は、
大きく揺れず、長く続きやすい。
エピクロスは、
最高の快楽とは、こうした安定した満足である
と考えました。

〖③ 苦しみの原因は恐怖〗
人はなぜ、不安になるのでしょうか。
エピクロスは、
不安には根があると考えました。
その代表が、
・神への恐れ
・死への恐れ
です。
もし人が、
神が自分を罰するかもしれない
死後に苦しみが待っているかもしれない
と信じているなら、
心は落ち着きません。
だから彼の哲学は、
単なる理屈の遊びではありませんでした。
それはむしろ、
恐怖の根を見つけて取り除くための哲学
だったのです。
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〖④ 神は人間に干渉しない〗
エピクロスは、
神の存在そのものを否定したわけではありません。
ただし彼は、
神を次のように考えました。
・完全である
・幸福である
・不変である
完全で幸福な存在が、
人間の行いにいちいち怒ったり、
罰したり、振り回されたりするでしょうか。
エピクロスは、そうは考えませんでした。
神が本当に完全なら、
人間世界の細かな出来事に介入して
心を乱すはずがない。
だから彼は、
神は存在しても、人間に干渉しない
と考えました。
ここから、
神罰への恐怖は大きくやわらぎます。
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〖⑤ 死は恐れる対象ではない〗
エピクロスの有名な言葉があります。
「私たちがいるとき、死はない。
死があるとき、私たちはいない。」
彼にとって死とは、
感覚する主体が消えることです。
感じる者がいないなら、
苦しみも、恐怖も、経験されません。
だから死は、
経験される苦しみとしては現れない。
この考えからエピクロスは、
死は恐れの対象ではない
と結論づけました。
これは、
「死を軽く見よう」という話ではありません。
むしろ、
まだ来ていないものを想像して怯え続けることから、
心を少し解放しようとする考え方です。
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〖⑥ 世界は原子でできている〗
エピクロスは原子論を受け継ぎました。
世界は、
・原子
・空虚
から成り立っていると考えます。
心や魂もまた、
特別な別世界のものではなく、
原子のはたらきとして理解されます。
するとどうなるか。
・魂は身体から切り離された永遠の実体ではない
・死後に個人として残り続けるわけではない
・死後世界や神罰への想像に、強い根拠は置けない
こうして彼は、
宗教的な恐怖を支えていた考え方を、
自然な世界理解の中で組み替えました。
難しい言い方を避ければ、
見えない恐怖を、世界のしくみから静かにほどこうとした
とも言えます。
〖⑦ 欲望を減らせば幸福に近づく〗
エピクロス倫理の核心の一つが、
欲望の整理です。
彼は欲望を三つに分けました。
① 自然で必要な欲望
・食事
・睡眠
・最低限の安心
② 自然だが必要ではない欲望
・豪華な料理
・ぜいたくな楽しみ
③ 不自然で際限のない欲望
・富
・名誉
・権力
問題は③です。
こうした欲望には終わりがありません。
一つ手に入れても、また次が欲しくなる。
だから心は落ち着かず、
人は苦しみやすくなります。
逆にいえば、
少ないもので満足できる人ほど、
満たされやすい。
エピクロスが重んじたのは、
貧しさそのものではなく、
少なくても崩れない心の強さでした。
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〖⑧ 友情こそ最大の安全〗
エピクロスはアテナイで
**「園」**と呼ばれる共同体を開きました。
そこでは、
・男女が参加できた
・奴隷も参加できた
・身分にとらわれなかった
と伝えられます。
これは当時としては、
かなり開かれた場だったと見られます。
彼は、
富や権力よりも人を安心させるものがある
と考えました。
それが友情です。
不安な時代において、
一人で強がることより、
信頼できる友と穏やかに生きること。
エピクロスにとって友情は、
飾りではなく、
幸福を支える現実的な土台でした。

〖⑨ 四つの薬〗
エピクロス派には、
後に有名になった簡潔な教えがあります。
四つの薬
・神を恐れるな
・死を恐れるな
・善は得やすい
・悪は耐えやすい
これは、
心の不安をしずめるための
短い処方箋のようなものです。
幸福になるために
特別な才能や巨大な富がいるわけではない。
必要なものは案外少なく、
苦しみもまた永遠ではない。
そう考えることで、
心は少しずつ軽くなっていきます。

〖⑩ ヘレニズム時代の幸福哲学〗
エピクロスの時代は、
不安の強い時代でした。
都市国家は揺らぎ、
世界は広がり、
個人は以前より不安定になっていきます。
こうした中で哲学の関心も、
宇宙の原理そのものから、
どうすれば心を安定させられるかへと移っていきました。
エピクロス派、
ストア派、
懐疑派は、
いずれもこの時代を代表する
平穏の哲学です。
ただし向かい方は違います。
ストア派は、
運命を受け入れることで平穏を目指しました。
それに対してエピクロスは、
恐怖や思い込みを取り除くことで平穏に近づこうとしたのです。

〖哲学者データ〗
■ 名前 エピクロス
■ 生没 前341年頃生 ~ 前270年没
■ 師匠 ナウシパネス
■ 弟子 ヘルマルコス、メトロドロス、
ポリュアイノス 
■ 地域 サモス生まれ。その後、アテナイ
■ 学派 エピクロス派
■ 系統 ヘレニズム哲学/原子論を継承
■ 立場 快楽を善としますが、ここでの快楽は派手なぜいたくというより、
身体の痛みが少ないことと心の不安が静まっていることを重んじる哲学です。
友情、節度、心の平静を大切にし、アテナイで「園」と呼ばれる学園を開きました。 
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