『あの日、僕らが壊したタイムマシン』【第1話】
【あらすじ】
2XXX年、時田優の開発したTSシステムの影響で、物流スピードは圧倒的に進化していた。通販で注文したものも一瞬で届く時代だ。それに対抗しようとする者は多くいたが、TSシステムの運搬スピードに敵うものはいなかった。
だが、TSシステムは物流の発展のために作られたシステムではなかった。
時田の本当の目的は、このシステムを利用しタイムマシンを開発すること。幼い頃に交わした約束を胸に、彼は今日も研究を続ける。
「ただ僕は、君に笑っていて欲しかったんだ…」
【補足説明】
《登場人物》
時田 優(ときた・すぐる)21歳
本作の主人公で、頭も性格も良い。伊野瀬の幼馴染で、彼女とのある”約束”を果たすため、日々タイムマシンの開発をしている。
伊野瀬 冬花(いのせ・ふゆか)21歳
本作のメインヒロインで、時田のサポート役。時田のことがずっと好きだが、付き合ってはいない。
祈山 繋心(きやま・けいしん)22歳
時田と同じ大学に通う同期。エネルギーを爆発的に放出し、高速移動を可能にする技術を開発した。
青川 朔良(あおかわ・さくら)16歳
かつて天才と呼ばれた少女。どんな衝撃にも耐えられる素材を作り出した。
《終盤の展開》※ネタバレ注意
時田・伊野瀬・祈山・青川の4人はタイムマシンを完成させ、ついに伊野瀬を乗せて動き出した。ところが、突然未知のエラーが起き、伊野瀬が時転回廊に取り残されてしまう。
伊野瀬を失い心が折れてしまった時田を祈山と青川が奮い立たせ、彼女を救う方法を考え始めた。タイムリミットが迫る中、時田たちは伊野瀬を助け出すことはできるのだろうか。
※ここに書ききれていませんが、1~3話の内容に、終盤に関係してくる重要な伏線があります。
【第1話】
タイムマシンがあったらどうするか、考えたことはあるだろうか。
過去に未来に…想像し始めると止まらない。
かつて僕もそうだった。そして5年前、夢にまで見たタイムマシンを完成させたが、結果として僕は”それ”を壊した。でも僕はあの日の選択を全く後悔していない。
なぜなら、今とても幸せだから。
* * *
5年前___
2XXX年、時田優という大学生がTSシステムを開発した。転送装置に宛先を設定した荷物を置けば、送り先に一瞬で届けてくれるというものだ。TSシステムを管理するメインコンピューターは時田のラボにあるため、システムの仕組みは謎に包まれていた。しかし、転送装置さえあれば使えるという手軽さから、多くの企業が導入した。その効果は凄まじく、物流は進化し、通販で注文したものも一瞬で届く時代になっていた。
初めは、TSシステムに対抗できる技術を開発しようとする者いたが、誰も敵わなかった。そのため、今や物流においてTSシステムに対抗しようとする者はいなかった。ただ一人、祈山繋心を除いて。
祈山はEBシステムの開発者で、その仕組みはエネルギーを一気に放出することで、物体を高速移動させるというものだ。スピードはTSシステムに若干劣る程度だが、その性質上商品によっては移動の衝撃に耐えられず、途中でダメージを受けることがあり、安定性に難がある。しかしEBシステムはTSシステムより安価なため、EBシステムを導入している企業も一定数存在する。いつか時田を超えるシステムを構築することが、祈山の目標であった。
そんな中、時田は今日もラボで研究を続けていた。
「優くん。はい、どうぞ」
「ありがとう、伊野瀬」
コーヒーを差し出したのは幼馴染の伊野瀬冬花。優とは違う大学に通っているが、研究のサポートなどをしている。
「今日のところはこのへんにしとこ?適度な休息も大事でしょ?」
「ああ、分かったよ」
「それにしてもすごいよね。今や日本中の人が優くんのシステムを利用しているんだから。でもみんな驚くだろうな~、TSシステムが作られた本当の目的を知ったら」
「このラボ以外にある転送装置は、生物が入れないように設定されているし、誰も夢にも思わないだろうね。僕らがタイムマシンを作ろうとしているなんて」
優は少し笑いながら答えた。
TSシステムの正式名称は”タイムスリップシステム”。皆は物が瞬間移動していると思っているが、実は違う。転送装置は、様々な時間軸が共存する時転回廊という空間に繋がっている。
例えば、時間軸をそのままにして時田のラボを宛先に設定すると転送装置に入れてから1分後に届くとする(これでも十分に早い)。しかし、転送時点から57秒前の時田の家に設定することで、転送装置に入れてからわずか3秒で届いたように見えるというわけである。これが誰もTSシステムのスピードに敵わなかった理由である。
このシステムを応用して、人が乗れるタイムマシンを作るのが、時田の本当の目標であり夢である。
実験の過程で時転回廊のことが分かってきた。
・時転回廊は対応する出口にさえ行ければ、あらゆる時代に移動できるが、今から離れた時間軸、すなわち遠い未来や過去に行こうとすれば、その分対応する出口は遠くに存在する。
・時転回廊で長い距離を一気に移動しようとすると大きな衝撃がかかり、鉄の塊でも潰れてしまう。
・転移装置から時転回廊に物体が入ってから一定の時間が経過すると出入口は塞がる。
・時転回廊の地面は底なし沼のようになっており、一度ハマると抜け出せないと考えられる。
・時転回廊の地面に完全に沈んだものは、取り出すことは不可能である。
時田はポッドに人を乗せて時転回廊を移動させようとしていたが、現状のポッドでは時点回廊内を満足に移動できず、すぐに衝撃で潰されてしまう。また、現在のポッドの移動スピードでは長い時間を超えようとした場合、辿り着く前に出口が閉じてしまう。
「これを解決するには強い衝撃に耐えうる素材で作られ、圧倒的なスピードを発揮するポッドを作る必要がある…か」
「私たちのだけの技術じゃ限界があるね」
「やっぱり、協力者が必要か…」
タイムマシンの開発は公にされていないため、外部に情報が漏れるわけにはいかない。悪用される危険性もある。したがって、協力者は時田が信頼できる人物である必要がある。
「そんな都合のいい人、いるのかなぁ」
時田がそうつぶやくと、少しニヤけながら伊野瀬が口を開く。
「素材の方は分からないけど、スピードを解決する手段はあるじゃん」
「え…?」
「いるでしょ?物体をすごいスピードで移動させる技術を持ってる人が」
「っ……繋心か!でもあいつが協力してくれるかどうか…」
祈山繋心はEBシステムの開発者で、時田が通う大学の同期。時田は、祈山の技術と才能を尊敬している。
「そんなの聞いてみないと分からないでしょ。休息も兼ねて明日会いに行ってきなよ」
「でもなぁ~~~」
「ほら、もーいいから!」
「はぁ…分かったよ」
そんなこんなで、時田は祈山の研究室へと向かうことになるのであった。
* * *
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
時田は伊野瀬に甘いので、伊野瀬の言うことには素直に従っている。祈山の研究室は大学の中にある。EBシステムは実績を積み、今かなり勢いのある研究ということもあり、人数も規模も時田のラボより大きい。時田は研究室のドアをノックし、扉を開いた。
「失礼します」
「何の用だ」
声をかけてきたのは祈山だった。明らかに嫌そうな顔をしている。しかし、本来祈山は時田と同じく情に厚い人物であり、研究室のメンバーからも慕われていた。時田にやたら敵意を向けるのは、ライバル意識からか、同族嫌悪か、まあそういった類のものである。
「EBシステムは素晴らしいシステムだと僕は思っている。この技術を持っている繋心が僕の研究に必要なんだ。協力してくれないか」
「何を言ってるんだ。あのTSシステムを開発したのは時田じゃないか。俺はお前を超えるために研究を続けてきた。だから、お前を超えるまでは一緒に研究なんて…」
「いや、EBシステムはTSシステムよりもずっとすごいよ。もう君はとっくに僕を超えている」
「っ!?」
「…もし僕の研究を手伝ってくれるなら、ラボに来てくれ。ラボの場所は公開していないが、君は信用しているから。頼む」
そう言って、時田は頭を下げた。そして、ラボの場所を記したメモを祈山に渡した。
「時田……」
* * *
時田がラボに戻ると、伊野瀬がいて声をかけてきた。
「おかえりー、どうだった?」
「手伝ってくれるならここに来てって伝えてきたよ」
「えっ、この場所教えたの!?」
伊野瀬が驚くのも当然である。TSシステムの技術が盗まれないようにということで、時田のラボの場所は明かされていない。しかしこれは表向きの理由で、本当の理由はタイムマシンを開発しているからである。もしタイムマシンを悪用されると大変なことになってしまう。伊野瀬は、万が一祈山が協力を断り、ラボの場所を他の人に教えてしまったら…と考えたのだろう。
その意図を汲み取ったのか、時田が答えた。
「大丈夫だよ。繋心はそういうことはしないやつだって、僕が一番よく分かっている。たとえ僕の誘いを断ったとしても、情報を流したりはしない」
「信頼してるんだね」
「うん、だから協力を頼んだんだ」
* * *
あれからいつも通り研究を続けていると、インターホンが鳴った。確認すると、そこにいたのは祈山だった。
「内容を踏まえ、研究室内で慎重に検討した結果、この俺がラボまで来た!」
時田は妙なテンションでやってきた祈山に若干動揺しつつ、ラボに招き入れた。
「祈山繋心さんですね!はじめまして、伊野瀬冬花です。優くんの研究のサポートをしています。よろしくお願いします」
「祈山です。こちらこそ、これからお世話になります」
席に案内し、改めて話をする。
「繋心、正直来てくれるとは思わなかったよ」
「俺も最初は引き受けるつもりなんてなかったよ。俺はずっと時田、お前を超えようとしてきた。それこそが俺の望みだと思っていた。でもあの日、お前がEBシステムを素直に褒めてくれたとき、なんかしがらみが解けたような気がした。多分俺は、お前に認められたかったんだ。今までライバルとしてしか接してこなかったが、これからは仲間としてもよろしく頼みたい」
祈山は今までで一番晴れやかな表情で、こう続けた。
「俺の技術が必要なんだろ?全力を尽くすよ」
「ありがとう繋心!でも研究室は大丈夫なの?」
「研究室のメンバーは『行ってこい』だの『ここは僕たちに任せろ』だの、まったく…本当に頼もしいやつらだよ」
祈山はとても嬉しそうに話した。
「ところで、なんでこんな立派な施設がこんな街はずれにあるんだ?外観じゃ全く分からなかったぞ」
「ああ、それは…」
「ここは、私のおじいちゃんのラボなんです」
時田が答えようとしたのを遮り、伊野瀬が話し始めた。
「私と優くんは幼馴染で、小学生の頃このラボに遊びに来たことがあるんです。そのとき、優くんはおじいちゃんから将来ラボを譲ってもらう約束をしました。それから数年後におじいちゃんは亡くなってしまったんですが、この”約束”があったのでラボはそのまま残されました。そして今は優くんがラボを引き継いで使っているわけです」
「いい話ですね。伊野瀬さんのおじいさんはこのラボをとても大切にしていたのでしょう。手入れが行き届いているのは一目で分かります」
祈山は続けて時田に話しかけた。
「それで、TSシステムと俺の技術がどう関係するんだ?あのシステムはもう完成されているだろう」
「今から話す内容は、他言無用で頼む」
ただならぬ空気を祈山は感じた。これは本当に何かとてつもない話をされるのだろうと悟った。
時田は、TSシステムは時転回廊という空間を利用していること、自分の研究の真の目的はこのシステムを応用してタイムマシンを作ることだということ、時転回廊をポッドで移動するのにEBシステムが応用できるのではないかということを話した。
祈山はしばらく黙り込んだあと、口を開いた。
「情報量が多い。理解はしているはずなのに、脳がそれを拒否している感覚だ…まさかタイムマシンとは……フッ、面白そうじゃないか。これが完成すれば世紀の大発明だぞ。しかもそのためには俺の協力が不可欠ときた。いいね、燃えてきた!」
「随分と頼もしい味方ができたね、優くん」
「本当に、ありがたい限りだよ」
つづく
【第2話】
【第3話】
