中国地方スーパー、逆襲の構造【第3回・完】紅旗チェーン・中百集団に見る、地方スーパー5社の勝ち方
序
本シリーズでは、地方で強さを発揮する中国のスーパー5社を取り上げてきた。
第1回では、全国チェーンが撤退した売り場を比優特と家家悦がどう飲み込んでいるかを見た(第1回は下記のURLを参照ください)。
第2回では、河南省の胖東来が、店舗数ではなく従業員への利益配分と自社PB商品の開発力で稼ぐ仕組みを見た(第2回は下記のURLを参照ください)。
最終回となる今回は、成都の紅旗チェーン(Hongqi Chain)と武漢の中百集団という対照的な二社を通じて、「地方で強い」というだけでは説明できない、勝敗を分ける最後の要因を見ていく。

01.同じ「地方密着」でも、明暗はこれほど分かれる
成都を地盤とする紅旗チェーン(Hongqi Chain)と、武漢を地盤とする中百集団は、どちらも「地元で圧倒的な密度を持つ」という点では共通している。しかし両社の現在地はまったく異なる。
紅旗チェーン(Hongqi Chain)は2025年に売上高95.56億元(約2246億円)、純利益4.81億元(約113億円)を確保し、多くの同業が苦しむ中で数少ない安定した収益を上げている企業の一つである。
一方の中百集団は、2025年12月期の売上高が82.83億元(約1947億円)まで落ち込み、純損益は9.57億元(約225億円)の赤字に拡大した。
同じ「地方密着型」というラベルの下にあっても、勝ち方も苦しみ方もまったく別物だという事実は、地方スーパーを一括りに語ることの危うさを示している。

02.48歳、負債を背負って始めた紅旗の原点
紅旗の現在の強さは、創業の経緯まで遡ると理解しやすくなる。
創業者の曹世如氏は、成都の老舗国有商店「紅旗商場(モール)」に1972年に入社し、28年にわたって現場を歩いた人物である。しかしこの国有商店は経営が行き詰まり、1999年の資産評価では卸売部門の純資産がマイナス1118万元という、実質的な債務超過状態にあった。
2000年、48歳になっていた曹氏は自ら300万元を出資し、この不良債権化した部門を無償で引き継ぐ形で紅旗チェーン(Hongqi Chain)を設立する。このとき、40人以上の国有企業職員が、退職金や身分保障を放棄してまで曹氏についていくことを選んだという。
「一般の人が家を出れば、必ず『紅旗』の看板が見える」という曹氏の言葉どおり、紅旗はその後の20年余りをかけて、成都及び周辺の四川地方都市に3000店規模の網の目を張り巡らせた。
2012年には「A株便利店第一株(中国本土市場におけるコンビニ・スーパーチェーン企業の上場最優株)」として深圳証券取引所に上場し、当時1336店だった店舗数は、その後の10年余りでさらに積み上げられている。

国有企業の行き詰まった一部門から出発し、負債を背負う覚悟と40人の仲間だけを元手に、20年余りで地域No.1の小売チェーンに育て上げたという経緯は、比優特や胖東来と並べても、最も泥臭い部類の創業譚だと言ってよい。
03.立地ごとに商品を変える——ヤオコー流と重なる強さ
紅旗の店舗網は、単純に数が多いだけではない。同社は住宅街店舗、商店街店舗、交通拠点店舗という三つの型に分けて、立地ごとに商品構成とサービス内容を変えている。
この発想は、日本の埼玉発のスーパー「ヤオコー」が、国道16号を境に北側は高齢者向けに鮮魚を強化し、南側はファミリー層向けに精肉を強化するという「南北政策」を敷いているのと同じ論理である。
全国一律の品揃えではなく、同じ会社の中で立地ごとに商品構成を変えるという発想そのものが、地方密着型チェーンに共通する勝ち方だと分かる。
紅旗はこれに加えて、公共料金の代理徴収や学費の代理納付など80種類以上の生活サービスを店頭で提供し、中国政府が推進する「一刻钟便民生活圈(15分生活圏)」政策——都市住民が徒歩15分圏内で日常の買い物や行政手続きを済ませられるようにするという全国的な取り組み——の追い風も受けている。
仕入れ先との関係でも、共同開発した「紅旗優選」ブランドの商品数を2025年に60品目まで増やし、2026年には100品目への拡大を計画している。
胖東来のように完全な自社開発の自社PB商品を持つわけではないが、取引先メーカーと組んで地域限定の共同商品を育てるという点では、これも一つの自社PB商品戦略だと言える。
04.24時間クラウド見守りと、創業者引退という転機
デジタル面での取り組みも着実である。夜間を無人カメラで遠隔管理する「24時間クラウド見守り店舗」がすでに500店を超え、2026年に1500店、2027年に全店展開を目標に掲げる。深夜帯は店員を常駐させず、防犯カメラと通話システムで本部が遠隔対応することで、人件費を抑えながら営業時間を伸ばす仕組みである。
抖音(ティックトック)でのライブコマース経由の売上は2025年に11億元(約259億円)を突破しており、コンビニという成熟した業態の中でも、営業時間と接客の設計を絶えず更新し続けている。
もっとも、この安定の裏側で2024年には四川省国資委系の四川商投投資が5.52億元(約130億円)で経営権を取得し、72歳になった曹氏は会長職を退いた。地元メディアは曹氏を「成都小売チェーンの女王」と呼び、その退任を一つの時代の区切りとして報じている。

一代で作り上げた民営の店舗網が、創業者の高齢化という避けられない節目を迎えたとき、身売りではなく地元国有資本への承継という形を選んだこと自体、この会社がどれだけ地元にとって欠かせないインフラになっていたかを物語っている。
紅旗はいま、国有資本の傘の下で次の段階に入ろうとしている。
05.1937年創業、老舗国有企業が抱える構造的な難しさ
対照的なのが、中百集団が置かれている状況である。
中百の前身は1937年、愛国実業家によって設立された中国国貨公司武漢分公司にまで遡る、90年近い歴史を持つ老舗である。
1997年に深圳証券取引所へ上場し、現在は武漢市国有資産監督管理委員会傘下の武商聯集団に属しているが、同じ傘下にある武商集団との間で、17年にわたり業務の棲み分けが完全には整理されていないという、地方国有企業特有の構造的な複雑さを抱えている。
武商聯集団は2007年、武漢市国資委が武商集団と中百集団という二つの上場企業を同じ傘の下にまとめる目的で発足したが、両社は長年にわたって同じ武漢市内で似た業態のスーパーや百貨店を運営し続けており、この「同業競争」を解消する再編は幾度となく期限を延長されてきた。
紅旗が一人の創業者の決断から出発した身軽な組織であるのに対し、中百は兄弟会社との役割分担すら十分に整理されていない組織構造の中で、変革を迫られている。

06.大型店を壊しながら、同時に新業態を立ち上げる中百の賭け
その中百も、手をこまねいているわけではない。
2025年には大型総合スーパーを30店舗閉鎖する一方、小型のハードディスカウントショップや、注文から数十分で届ける前置倉庫方式の「中百隣里購24時間オンラインスーパー」の展開を進め、即食・調理済み食品を供給する3R食品工場の稼働も始めた。
自社アプリ「抱抱生活」の月間利用者は41万人に達している。裏方では、中央倉庫の第2期工事と、生鮮野菜専門の漢口北集荷センターが稼働を始めており、これまで大型店ごとにばらばらだった仕入れルートを一本化する作業も進んでいる。

2025年通期では新規224店を開業した一方で414店を閉鎖しており、店舗の入れ替えの規模だけを見れば、決して小さな改革ではない。自社PB商品「勁購」「玲瓏」の売上も、既存の大型倉庫型店舗において前年比8.68%増と伸びている。
それでも損益はまだ改善に転じていない。
これは中百が変わろうとしていないからではなく、大型店中心の旧モデルを解体しながら、同時に複数の新業態を立ち上げるという、紅旗が経験してこなかった種類の難易度の高い作業に取り組んでいるためだと見るべきである。
07.密度は必要条件であって、十分条件ではない
紅旗と中百集団を並べて見えてくるのは、地方での密度の高さそのものは、勝敗を決める必要条件であっても十分条件ではないという事実である。
紅旗は、便利さと生活サービスという単一の軸を、20年かけて磨き続けることで強さを維持してきた。
中百は、大型店という過去の成功モデルを抱えたまま、複数の新業態を同時並行で立ち上げるという、より難度の高い転換に挑んでいる。
どちらが正しいかという問いよりも、それぞれの企業が置かれた歴史的経緯と組織構造の中で、どこまで一貫した実行ができているかが問われている。
紅旗のように民営企業として身軽に意思決定できた期間に強さの土台を作り終えた企業と、中百のように国有企業特有の調整コストを抱えたまま大規模な業態転換に挑む企業とでは、同じ「地方密着」を掲げていても、変革にかかる時間の長さがそもそも違うのである。
08.5社が示した5つの勝ち方——連載を終えて
3回にわたるこの連載を通じて見えてきたのは、家家悦、紅旗、中百集団、胖東来、比優特という5社が、それぞれまったく異なる方法で「地方の強さ」を作り上げてきた姿である。
第1回で見た比優特と家家悦は、物件と物流という後方インフラを武器にした。比優特は全国チェーンが退場した跡地を居抜きで引き継ぎ、日々配送の高頻度補充体制で同じ床面積の売上を二倍にした。家家悦は逆に、9か所の物流団地という後方インフラを先に固めてから、多業態の店舗網をその上に積み上げた。
第2回で見た胖東来は、店舗数でも物流でもなく、従業員への利益配分と自社PB商品の開発力という、資本を投じただけでは買えない信頼を武器にした。
そして今回見た紅旗は、生活サービスの密度と立地ごとの品揃えの作り込みで住民を離さない仕組みを作り、中百集団は、大型店中心の旧モデルを解体しながら複数の新業態へ同時に転換するという、シリーズの中で最も難易度の高い賭けに挑んでいる。
この5社を、地方密度、物流速度、生鮮及び調理食品の強さ、自社PB商品の独自性、オンラインとオフラインの在庫連携という五つの軸に当てはめると、それぞれが異なる組み合わせで解を出してきたことがより鮮明になる。

全国チェーンが退場した跡地を物流の力で二倍の売上に変えた比優特、後方の物流団地を先に固めてから多業態を積み上げた家家悦は、密度と物流速度を武器にしている。従業員への利益配分と自社PB商品の開発力を競争力に変えた胖東来は、信頼という無形資産で他を圧倒している。生活サービスの密度と夜間営業のデジタル化で成都の住民を離さない紅旗は、便利さそのものを商品にしている。そして中百集団は、この五つの軸すべてで同時に追い上げようとしている、シリーズの中で最も難易度の高い挑戦者だと位置づけられる。
日本企業が中国の地方チェーンを評価する際も、どの企業が「有名かどうか」ではなく、この五つの軸のうちどこで実際に強さを発揮しているかを見極めることが、今後の取引先選びや市場理解の精度を左右することになるだろう。
全国一律の市場という前提が崩れた以上、勝者の顔ぶれも、都市ごとに描き直す必要がある。ある地方チェーンと組むかどうかを判断するときは、その企業の店舗数や知名度ではなく、密度・物流・生鮮・自社PB商品・在庫連携のどこで実際に他社を上回っているのかを一つずつ確かめることが、遠回りに見えて最も確実な出発点になる。
3回にわたって見てきたように、中国の地方城市で強さを持つスーパーは、決して「縮小版の全国チェーン」ではない。それぞれの土地の事情、それぞれの創業の経緯を、それぞれのやり方で武器に変えてきた企業群である。
次に中国のある都市で、聞き慣れない名前の地方チェーンが急成長しているという話を耳にしたときは、その企業がこの五つの軸のどこで勝負しているのかを問うことから始めるとよい。
それが、全国一律の物差しを捨てた先にある、中国小売を読み解くための新しい起点になる。
References
紅旗连鎖股份有限公司「2025年度決算報告書」2026年、上場企業公式決算資料
中百控股集団股份有限公司「2025年度決算報告書」2026年、上場企業公式決算資料
搜狐「红旗连锁要易主了 来看看曹世如的创业之路」2024年、経済メディア
新浪財経「曹世如破釜沉舟打造零售龙头创富23亿 红旗连锁稳健扩张营收破百亿门店达3561家」2023年4月、経済メディア
南方財経網「72岁"零售女王"转身:"便利店第一股"易主 国资入主红旗连锁」2025年、経済メディア
武漢市商務局「武汉商贸集团昨日正式揭牌 武商中百整合重组走向全国」2020年10月、武汉市政府公式発表
蓝鲸財経「中百、武商延长重组承诺,17年同业竞争困局待解」2024年7月、経済メディア
ダイヤモンド・オンライン「「スーパー総選挙」4連覇のオーケーを破り1位になった埼玉生まれのスーパーとは?」、経済メディア
ITmedia ビジネスオンライン「「オーケー」「ヤオコー」「ロピア」はなぜ好調なのか? 絶対王者・イオンよりも利益率が高いワケ」2026年2月、業界専門メディア
商務部等9部门「城市一刻钟便民生活圈建设」関連政策文件、2025年、政府公開資料
筆者紹介
厳 偉(Wayne Yan)
株式会社コーポレイトディレクション上海オフィス 副総経理
日中食品経営研究会 発起人・主宰
FBIF食品飲料イノベーションフォーラム 日本研究首席戦略アドバイザー
中国飴酒会Ideas新商品イノベーションコンテスト 審査員
複数の日本大手食品企業 中国事業戦略アドバイザー
【日本企業向け】
市場参入の道筋づくりから、商品の現地適応、チャネル戦略の設計までを一貫して支援。試行錯誤のコストを抑え、意思決定のリードタイム短縮に寄与します。
【中国企業向け】
日本企業の経営思考や商品開発の方法論を読み解き、日中食品経営研究会やCDI東京本社のネットワークも活かしながら、両国企業間の具体的な事業提携や資本連携を橋渡しします。

日中食品経営研究会
日中食品産業の経営層が「顔の見える対話」を重ねる、中国国内唯一のハイエンド私的勉強会です。
本会は、株式会社コーポレイトディレクション上海オフィス副総経理 厳偉の発起により、上海公共政策研究センター理事長で前復旦大学日本研究センター副主任の張浩川教授、マカオ城市大学社会心理学専門家の法卉博士とともに立ち上げました。「産学連携」を土台に、業界の最前線で起きている変化を経営視点で読み解く場を目指しています。
毎月開催するクローズドの会合には、実質的な経営判断を担う方のみご参加いただけます。これまでに、ハウス食品、ヤクルト、カルビー、キリン、明治、味の素、サントリー、グリコ、亀田製菓、キューピー、日東紅茶、AGF、カゴメ、伊藤食品、インダスソース、三井物産といった日本を代表する食品・流通企業のトップマネジメントが参加。中国側からは、妙可藍多、スターバックス、メトロ、HotMaxx(好特売)、莫小仙、水獺吨吨、松鮮鮮、零食有鳴、鳴鳴很忙、叮咚買菜などの経営陣、そしてニールセンIQ、小風景科技、高岩科技といった業界関係者が出席しています。
定例会に加え、工場見学や日本への視察ツアー、テーマ別座談会なども随時実施。公式WeChatでは、日中両言語で業界動向と経営事例を発信しています。
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