小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(28)振り向いて
Chapter28
「待って! あなたはこの間の、釣り竿の人⋯⋯!?」
レナはスマホを片手に、その人物を追いかけるために池のほとりを小走りで進んだ。足元には湿った草や砂利があり、滑らないように慎重に足を運んだ。彼女の足音が静かな水面に響くたびに、小さな波紋が広がっていく。
「私! まだあなたに聞きたい事があって!」
レナは息を切らしながらも、注意深く足元を確認しつつ、急いで前に進んだ。草むらや石ころに引っかからないように気をつけながら、彼女は一瞬も目を離さずにその人物を追った。池の水際はぬかるんでいて、足を取られそうになる度にバランスを取り直しながら進んでいった。
遠くに見える人影は次第に小さくなっていく。レナは心の中で焦りを感じながらも、冷静さを保とうと深呼吸をした。滑りやすい地面に気をつけながら、彼女はさらにスピードを上げた。
突然、その人物がぴたりと止まり、こちらを振り向いた。それは釣り竿の男性ではなく、水色のワンピースを着た幼い女の子だった。
「え? 女の子!?」
レナは驚きと共に、少しがっかりしたような気持ちが胸に広がった。それでも、何か手がかりがあるかもしれないという思いで少女の方へ歩み寄り、その小さな背丈に合わせて屈んだ。
「ごめんね、ちょっといい? この辺りで⋯⋯釣りをしている男の人を見かけなかった?」
少女は無言のままレナを見上げた。彼女の肩にかかる金髪は水が滴り落ち、服もずぶ濡れで、まるで池に落ちたばかりのようだった。
「ちょっと、大丈夫!? まさか池に落ちちゃったんじゃないよね?」
レナは驚きながらも心配そうに少女を見つめた。よく見ると、少女の脇には白いぬいぐるみが抱えられており、それもまた水で濡れて重たそうだった。少女の様子を見て、レナは続けて言った。
「それもびしょびしょじゃない! とりあえず危ないからこっちへ来て──」
そう言いながら少女の手を引いた瞬間、彼女に抱えられていたぬいぐるみが地面に落ちた。それを見たレナは、思わず動きが止まってしまった。
「え? それって⋯⋯そのぬいぐるみ⋯⋯私が大好きだった、あの⋯⋯!?」
地面に落ちたそれは、レナが子供の頃にお気に入りだった可愛い「おにぎりのキャラクター」のぬいぐるみだった。その容姿と相まって、レナはハッとした。
「あなた⋯⋯もしかして⋯⋯私⋯⋯??」
幼少期の自分の姿を目の当たりにしたレナは青ざめ、そこに立ちすくんだ。

