2025年9月8日午前2時30分【ゆるっとリレー小説1年A組|書く部スピンオフ・第13話】
このお話は、以下の企画の第十三話となります。
天文部の部長は早い時間から来て場所取りをしていたんだろう。すでにカメラはセットしてあって、二人分の簡易椅子も置いてあった。
部の備品だとはいえ、コンテストに応募する手前任せっぱなしはダメな気がする。片方のカメラを覗き込みながら、調整を重ねていく。
この設定のしかたも、教えてくれたのは啓太だった。あたしが啓太にもらったものはとてもたくさんある。
今夜の月が一番輝くように、設定を細かくさわりながら、心の中は冷静なようでいて騒がしかった。
あたしと見たいって、思ってくれたんだよね。
その事実だけで嬉しくなる。月食は、特別じゃないけど特別だから。
「ねえ、見て!」
遠くで誰かの声が上がった。つられたように夜空を見上げると、さっきまではきれいな円だった月の端が欠けてきている。
思わず時計を見た。午前1時27分。部分食の始まり。
「さあ、天体ショーの始まりだ」
そう言って啓太はファインダーを覗き込んだ。あたしはそのまま肉眼で欠けていくのを見守ることにする。
ゆっくり、でも確実に少しずつ変化していく満月は、見ていて飽きない。あたしも何度かカメラを確認しながら、特別な月の一番いい写真を狙ってシャッターを切った。
*
午前2時を過ぎて、月はずいぶん影に隠れてしまった。普段なら見ることのない赤銅色が月に広がる。
あと、もう少し。
「陽子」
熱心にカメラと向き合っていたはずの啓太があたしを呼んだ。振り向くと、その視線は月ではなく、あたしを見ている。まっすぐな眼差しに射止められて、息ができない。
「……いい?」
何をかは、訊かなかった。
だけどそれだけで理解したあたしは、ひとつだけこっそり息を吐くと頷く代わりに啓太に近づく。
お互い目は閉じていた。だけど周囲からすごい、とか、きれい、とか歓声が上がるからわかる。皆既食が始まったんだ。
時計は見なくても知ってる。
2025年9月8日午前2時30分。
あたしたちは、キスをしていた。
お次のKoh(コウ)さんへ:やりたい放題すみません、あとは託しました!
後続のみなさんも、どうぞよろしくお願いします……!
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