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「臨床開発部時代とFK506の開発秘話」棚瀬連載 第2回

第1回の投稿では、自己紹介と藤沢薬品(現・アステラス製薬)の臨床開発部配属と10年後に米国への赴任したお話をしました。
今回はもう少し臨床開発部時代の話をします。

藤沢薬品とFK506

1983年から1993年の10年間、私は医学調査部(臨床開発部)で抗生物質、抗がん剤、免疫抑制剤の国内臨床開発に携わりました。

その頃の臨床試験(治験)は「旧GCP時代」と呼ばれ、「患者さんの安全を守る」という最低限のことはしっかり学んでいましたが、仕事の進め方は今とは大きく異なるものでした。
当時は、治験に関わる全ての業務に携わることができましたが、今では分業やアウトソーシングが進み、効率重視のやり方に変わっています。

前回のお話では、免疫抑制剤FK506(タクロリムス)の発見と、その開発チームに入れた幸運について触れました。
FK506は筑波山のふもとの土壌にいた放線菌「ストレプトマイセス・ツクバエンシス」が産生する物質に免疫抑制作用があることから発明されました。

この発見をしたのは藤沢薬品の筑波研究所であり、当時の研究リーダーは故・青木初夫さんです。のちに藤沢薬品の合併前最後の社長、アステラス製薬発足時には会長となった方です。

下段中心が青木さん、その後ろが棚瀬です

青木さんはオープンイノベーションの象徴のような方でした。
特許出願前の極秘情報を除いて、研究内容や会社のノウハウ等を外部の企業関係者にどんどん話してしまうため、周囲の社員はヒヤヒヤしていました。

「いいじゃん、それで業界全体が活性化されるなら!」
青木さんはよくおっしゃっていました。

青木さんやその後のアステラス製薬の歴代社長とは、米国シカゴのFujisawa USAでもご一緒することになります。
この米国での5年間が、私の今の考え方や生き様を創りました。

青木さんをはじめとする米国事業立ち上げのため日本から来ていた駐在員は、心から尊敬する先輩ばかりで、時に「私はここにいるべきではないかもしれない」と感じる程でした。
しかし、現地で共に働いたアメリカ人の方々は、私にさらに大きな成長を与えてくれました。この話はまた今度書きたいと思います。

FK506がもたらした臓器移植の未来

FK506は、その後世界で注目される薬になります。
特に、臓器移植を行う移植外科医たちから多くの関心を集めました。

移植後の患者さんの拒絶反応を抑えるためには免疫抑制剤が必要ですが、当時の薬は副作用が強く、調整が難しいという課題がありました。
そこで、アメリカ・ピッツバーグ大学の「肝臓移植の父」と称されるスターズル博士が、1989年にFK506の最初の医師主導治験を実施、
その結果、FK506は移植された臓器を拒絶する免疫反応を、バランスよくコントロールできる薬であると判明したのです。

「肝臓移植の父」スターズル博士

藤沢薬品は、世界中の移植患者さんにこの薬を届けるため、企業治験を精力的に進めました。
私は日本の腎臓移植の臨床開発チームの一員として、日本で最も腎臓移植数の多い東京女子医科大学を担当しました。当時の主任教授は、日本の腎臓移植の草分け的存在であり、日本移植学会の理事長も務めた太田和夫先生でした。

肝臓移植の治験はアメリカが先行していましたが、世界初の腎臓移植の治験を行ったのは、日本でした
FK506の腎臓移植での世界第一例目は大阪大学泌尿器科で実施され、2例目と3例目は東京女子医科大学で行われました。私は太田教授のご厚意で手術室に入り、この2例の手術を間近で見学させていただきました。

当時、まだ33歳だった私がこのような貴重な経験をさせてもらえたことは、藤沢薬品や関係者からのFK506への期待の大きさを物語っています。

FK506の第一回国際会議に参加した時の写真です。

藤沢薬品は若手社員にチャンスを与える会社でした。
私のような若造が手術室に入ることも、当時の上司は喜んで許してくれました。

このような素晴らしい社風の藤沢薬品にも、私は本当に感謝しています。

FK506(商品名:プログラフ)の世界的な広がり

プログラフカプセル

その後FK506は「プログラフ(Prograf)」という商品名で、1993年に日本で最初に承認され、世界中に広まりました。
2008年に物質特許が切れましたが、発売から30年以上が経った今でも100か国以上で販売され、年間売上は約2,000億円にのぼります。

この薬の存在は、多くの人々の命を救い、世界中の医師や患者さんから感謝されています。

製造販売元はアステラス製薬ですが、
カプセルにはその前身であるフジサワのロゴ(四角の中にf)が残っています。

白血病治療への利用

FK506は臓器移植だけでなく、白血病治療の一環として行われる「同種造血幹細胞移植(骨髄移植など)」後の過剰免疫反応(GVHD)の抑制にも使われるようになります。

白血病を克服し、オリンピックを目指して頑張っている池江璃花子選手の闘病生活は、多くの人が知るところです。彼女は抗がん剤治療などで血液細胞をほとんど破壊した後、同種造血幹細胞移植を受けて回復しました。

NHKのドキュメンタリーで、池江選手がプログラフのカプセルを手にしているシーンを見たとき、私は胸が熱くなりました。
彼女のように病気と闘う人たちに、この薬が役立っていることを改めて実感しました。

実は、私のいとこも、プログラフを10年以上服用しています。
彼女はご主人から腎臓を提供され、移植手術を受けました。
私と会うたびに、「あっちゃん(私は敦といいます)たちのおかげで命をつなぐことができてるよ。ありがとう!」と言ってくれます。

多くの人の手によって誕生したFK506、
その一員になれたことを、私は心から幸せに思います。

次回予告

次の投稿では、そんなFK506がある学者の助言によってアトピー性皮膚炎の画期的な治療薬として世に出た話をしようと思います。


執筆者:棚瀬 敦

藤沢薬品工業株式会社(現アステラス製薬)にてセファロスポリン、
タクロリムスの臨床開発、タクロリムス外用剤のグローバルプロジェクトリーダー、
アストラゼネカ株式会社ではプロダクト開発リーダー部の部長として、オラパリブ、
エソメプラゾールなど様々な治療薬の開発リーダーを兼務しながら
すべての国内開発品目の責任を負う。欧米赴任歴6年間。
その後大手CROsのVP/執行役員、マルホ株式会社の執行役員兼欧米子会社取締役を歴任。
2018年から3年間、株式会社レナ サイエンス代表取締役社長を務め、
ATインターナショナルを設立(xCAREに吸収合併)。
現在は弊社取締役COOの他、複数のバイオベンチャー企業顧問、
監査役、アカデミアアドバイザー等を併任。

第1回投稿はこちらから

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