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「プロトピック軟膏を日本から世界へ 後編」棚瀬連載 第6回

FK506軟膏の米国治験に向けて

FDA(米国食品医薬品局)訪問後、臨床開発部のPatさんと私は、米国で初めてのFK506(タクロリムス)軟膏の治験を開始する医療機関探しに奔走しました。



免疫抑制剤の外用剤化の難しさ

過去にも免疫抑制剤が皮膚科で開発された事例はありました。
例えば、Sandoz社(現ノバルティス)が開発したシクロスポリンは、乾癬という皮膚疾患を対象にした内服薬です。しかし薬の分子量が大きく、皮膚から吸収することが難しかったため、外用剤の開発は断念されていました。

Amy Paller教授との出会い

我々は、米国におけるシクロスポリン開発のリーダー的存在であった、ミシガン大学のCharles Ellis教授を訪ねました。すると彼は、「FK506外用剤の開発にはぜひ協力したいが、私は乾癬の専門医なので、アトピー性皮膚炎のことならシカゴ・ノースウエスタン大学の小児皮膚科准教授のAmy Paller准教授に相談するといい」と紹介をしてくれました。


アメリカでも、やはり「人のつながり」は非常に重要です。

1999年ドイツ・ミュンヘンに赴任中
Fujisawa GmbHの仲間とオーストリアへのスキー旅行

Amy先生は、その後1996年に教授に昇任、2004年から現在まで同大学皮膚科の主任教授を務めておられます。米国研究皮膚科学会(SID)のPresidentを長く兼務しながら、国際小児皮膚科学会年次総会の会長を務めるなど、まさに小児皮膚科の第一人者です。

私が藤沢薬品から他社へ転職したため、彼女とは2001年以降お会いする機会はありませんでした。
その後私は、2012年に55歳でマルホ株式会社へ転職し、再び皮膚疾患の分野へ進みます。

そこで実に11年ぶりに参加した米国皮膚科学会にて、偶然にも教授と再会を果たしたのです。
かけ寄って直接ご挨拶すると、私のことをよく覚えていてくださったようで、満面の笑顔で「あの頃は最高に楽しかったね」と仰っていました。


その後、Amy先生はプロトピック軟膏(FK506軟膏の商品名)に対する一部の批判を受けて、非常に重要な研究を主導されます。

8,000人以上の小児アトピー性皮膚炎患者を10年間にわたって追跡した結果、プロトピック軟膏にの使用により、悪性リンパ腫などの重篤な副作用が起きることはないことを統計学的に証明したのです。この論文は製品信頼性を支える大きな根拠となり、プロトピック軟膏の存続に貢献しました。


待望の治験開始


マイアミでのThe First International Conference on FK506で
日本から来た元上司の天谷さんとの記念写真

ついにFDAから「治験開始を許可する」という連絡が入りました。

米国でのFK506軟膏のアトピー性皮膚炎に対する最初の治験は、成人患者を対象とした第1相試験でした。この治験の責任医師を引き受けてくださったのは、小児科のAmy先生と親交のあった、イリノイ大学シカゴ校・皮膚科教授のVirginia Fiedler先生です。

Patさんと私は、記念すべき第一例目の治験薬投与(塗布)現場に立ち会うことができました。第1相試験は主に安全性を確認する試験ですが、間もなく「効果が出ているようだ」という連絡を受けた時は、日本人だけでなく米国人にも効く可能性を感じることができて、ホッとしたことを今でも覚えています。

ドイツへの駐在中に訪れたノイシュバンシュタイン城

その後治験は順調に進み、日米欧で三極同時開発が本格化しました。
私はグローバルプロジェクトマネージャーとして製品開発に深く関わり、日米欧での承認取得に携わることができました。その間、ドイツ・ミュンヘンにある藤沢薬品欧州子会社にも赴任し、欧州での承認申請プロジェクトのリーダーを務めました。


思い出は数え切れませんが、その中のひとつをご紹介します。

北米での第2相試験開始を控え、治験責任医師やCRC(治験コーディネーター)など50~60名をシカゴに集めて実施した説明会でのこと。現地スタッフの後押しもあり、私は約8時間にわたる会議の司会を務めることになりました。

慣れない英語での進行、責任の重さ、緊張感のなかで説明会を終えた瞬間、自分の全身の筋肉が硬直していることに初めて気付いたのです。

そんな私の背中を押してくれた仲間の一人が、当時まだ若手だった優秀なCRA、Kim Vondraさんでした。

説明会後の一枚
Kimさん(右から2番目)や米国支社の方々と

あれから30年。Kimさんは今、xCAREエキスパートプラットフォームの登録専門家として、日本企業の米国治験開始に向けたFDA相談の準備を、現地で支援してくれています。

年月を経て再び同じ志の仲間とつながることができたことは、この仕事を続けてきたからこその喜びだと思っています。


執筆者:棚瀬 敦

藤沢薬品工業株式会社(現アステラス製薬)にてセファロスポリン、 タクロリムスの臨床開発、タクロリムス外用剤の グローバルプロジェクトリーダー、 アストラゼネカ株式会社では プロダクト開発リーダー部の部長として、
オラパリブ、 エソメプラゾールなど 様々な治療薬の開発リーダーを兼務しながら すべての国内開発品目の責任を負う。欧米赴任歴6年間。
その後大手CROsのVP/執行役員、 マルホ株式会社の執行役員兼欧米子会社取締役を歴任。
2018年から3年間、株式会社レナ サイエンス代表取締役社長を務め、 ATインターナショナルを設立(xCAREに吸収合併)。
現在は弊社取締役COOの他、複数のバイオベンチャー企業顧問、 監査役、アカデミアアドバイザー等を併任。

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