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キリスト教と政治の話。『福音派―終末論に引き裂かれるアメリカ社会』加藤喜之

すごく刺激的な本でした。さすが、話題になっているだけあります。アメリカに対するイメージが、ガラガラ崩れていきます。情報量がとんでもなく多いので、すべてを理解できているわけではないですが、自分が気になった部分をメモ的にまとめておきます。

この本で取り上げられるアメリカの「福音派」は、神様の言葉としての聖書、個人的な体験、キリスト教への信仰、布教を重視する人たち。一般的には長老派とかバプテスト派みたいな宗派があるけれど、福音派はそういう宗派の壁を越えたもの。政治勢力になってきたのは1970年代後半。

ずっと前から、アメリカでキリスト教の勢力が強い理由が不思議でした。いくら歴史的理由があったとしても、現代は科学が発達した21世紀です。でも、この本を読んで納得。アメリカもずっとキリスト教を信じる人たちが多数派だったわけではありません。第二次大戦後は、アメリカ人にとってもキリスト教みたいな古い考え方はダサかった模様。

でも、政治的にキリスト教は重宝されました。それは冷戦の時代だったから。共産主義に対抗するための思想として、キリスト教が期待された模様。これって、戦前の日本で仏教が「反共産主義」の思想として利用されたのと同じパターン。宗教は時代によってニーズが変わります。仏教だけでなく、キリスト教の団体の主張も変化しているところが面白いです。

冷戦が終わる頃になると、今度は、人種差別反対とか、男女平等とか新しい思想を批判するのにキリスト教の考え方が利用されたそうです。さらに、グローバル化で経済的に不況になると、宗教界隈は勢力を増していきます。

アメリカのスーパーマーケットで有名なウォルマートは、創始者が当初はキリスト教と対抗するような関係で、日曜日も休みませんでした。けれど、郊外に大規模な教会ができるようになると、郊外のウォルマートがネットでしか買えなかった福音派の本を店の片隅に置くようになり、いい関係を作っていきました。福音派の古い女性観は、ウォルマートが安価な女性労働力を雇用するのにも役立ったとか。

それから、アメリカではずっと妊娠中絶が強硬に反対されているのも不思議でした。この本によれば思想的な部分もあるにはあるけれど、別の理由で政治家を批判したいとき、あからさまにその理由を言わず、妊娠中絶反対を前面に出したとか。妊娠中絶は思想の如何に変わりなく、それなりに道徳的な人たちから賛同を得られる面もあるのだとか(ひどい……)

選挙のために、一定程度の組織票が必要なのはどの国でも同じ。アメリカでも政治家はキリスト教の団体に近づいて、組織票獲得を狙います。でも、若い政治家は必ずしもその団体の思想をすべて肯定するわけじゃないので、当選しても公約を履行しなくて教団から怒られたり、見限られたり。こういう部分が妙にリアルです。

そして、おもしろいとか言っていられないのが、イスラエルの問題。アメリカではユダヤ人のロビー活動が盛んで、彼らの力が大きいからパレスチナでの蛮行を止められないのは有名です。

ところが、アメリカ人は別にユダヤ人を応援しているわけではなくて、どちらかというと蔑視している。でも、イスラエルを支援するのは、彼らの信じる終末論のため。驚きすぎて、あいた口がふさがらないし、選民思想&反理性的すぎてげんなりします。

戦前の日本人でも終末論的な最終戦争みたいな考え方で「満洲事変」おこした人たちがいましたから、ニンゲンってそういうものなのだということはわかりますけれど。20世紀も終わって、今は21世紀も4分の1を過ぎたのに……。信じられないを通り越して、絶望的になりそうです。

というわけで、本当に内容が充実していて、おもしろいです。理解するのに何度も読み返さないといけないくらいですが、それもまた楽しい。アメリカ人的な政治思考を知りたい人、トランプ政権を知りたい人だけじゃなくて、ただただキリスト教に興味がある人にもおすすめです。

台湾から見た、アメリカ社会もおもしろいです。

アメリカ的思考を日本やフランス、イランと比較した本。おすすめです。


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