子どもから「気力を削ぎ落としていくもの」は、何なのか?
不登校の何が問題なのか
オードリー・タンさんへの取材や、台湾での子育てをきっかけに、台湾のオルタナティブ教育を調べるようになりました。
台湾で暮らして14年目、すっかり日本のリアルな現状が分からなくなっており、皆さんから「日本では不登校が問題になっている」と言われても、何が問題なのかが分からずにいました。
不登校児の数が激増していると言いますが、それの何が問題なのでしょうか。
不快に思われたら申し訳ないのですが、率直に申し上げて、「子どもが、自分には今の学校が合わない」と認識したのは、「自分にとって必要な学びとは何か?を探すタイミングが来た」と言うこともできるはずです。
私が暮らしている台湾では、小学校に上がる際、または小学校を転校する形で「主流の教育ではなく、オルタナティブ教育を選択しました」という子どもが年々増加しています。
確かに、30年ほど前、黎明期の頃は「主流の学校に合わない子どもたちが選ぶもの」だったオルタナティブ教育ですが、30年経った現在では、「誰もが選ぶことのできる、教育の選択肢」という立ち位置です。
こんな疑問を常々口にしていたら、日本の保護者の方たちとの交流の中で、ある傾向が見えてきました。
「日本では、不登校になった時点で子どものエネルギーが枯渇し、そもそも“学ぼう”という気力自体がなくなってしまっている状態なのかもしれません」
こう教えてくださったのは、長野市で若者の自立支援事業をされている「学び舎めぶき」代表の永井佐千子さんでした。
👇「学び舎めぶき」代表の永井さんが
「自主学習のすすめ」を読んだ感想を書いてくださったnoteはこちら
子どもから「気力を削ぎ落としていくもの」は、何なのか?
台湾に根付いている中医の概念では、子どもとはエネルギーの塊のようなものだとされています。
それが「子どものエネルギーが枯渇している」とは、ただごとではありません。いったいどうしたことなのでしょうか。
先日、日本の「母親アップデートコミュニティ」さんが、「自主学習のすすめ」のオンライン読書会を開催してくださり、私もこっそり覗かせていただきました。

(花束の画像加工は筆者による)
👇読書会を企画くださった、大石真那さん(NPO法人HIKIDASHI代表)によるnote
👇読書会に参加くださった、「母親アップデートコミュニティ」代表・なつみっくすさんのnote
読書会を主催くださった大石さんのnoteには、このように書かれていました。
ただ、我が子の不登校初期に立ち返って考えると、そもそもこの「自分はこれがしたい!」と思えるエネルギーが無かったように思いました。表情も乏しく、癇癪を起こすことも多くて、親としても「とにかく生きていてくれたら」というフェーズで、とても「やりたいことを探そう」という状態ではなかったような気がします。
実際にメンバーの中にも、「行きたいのに行けない自分を責めていて、まだ傷ついている最中だ」というお子さんもおられて、
そうなる前に、「学校以外にも選択肢がある」ということを知っていたら、もう少し違っていたのではないかという意見もありました。
今となっては私もそう思いますが、当初はとにかく「何とかまた学校に(教室に)行けるように」ということしか考えていなかったような気がして、その親の思いは今でも息子の中に負の感情として根強く残っているようで本当に反省しています。戻れるなら関わり方を変えてやり直したい。
なので、まずは学校に通うのが当たり前な価値観で育ってきた私達世代が、
「学校に行かなくてもいろいろ道がある。この子に合うのはなんだろう。」と思えることがとても大切だと感じました。
と言いつつも、本当に選択肢が少ないし、何か選ぼうとするとお金がかかるものも多い。息子も一時オンラインフリースクールに参加していたけれど、月額利用料が結構な値段で、本人のモチベーションの割に家計への負担が大きくて数ヶ月で辞めてしまったこともありました。
多くの若者の自立支援をされている永井さんと、ご自身のお子さんが不登校になった経験がおありの大石さん。そんなお二人が別々の場所で「子どものエネルギーの枯渇」について触れられていました。
これは偶然なのでしょうか?
仮説「最初からチョイスがあれば、エネルギーを削がれないのでは?」
これはあくまで現在の私の仮説なのですが、日本の子どもたちは選択肢がほぼ「主流の教育」の一択しかない状態に(外から見ていると)見えます。
主流の教育に合わない子どもたちは自力で頑張るしかなく、「みんなと同じにできなかった」などと(本来その必要はないはずなのに)自信を失い、エネルギーを削がれてしまう状態にあるのかもしれません。

逆に台湾は「アジアで唯一、法律によって多様な教育を認めている」という環境なので、子どもたちは、エネルギーを削がれる前から「自分に合った教育をチョイスする選択肢がある」「合わなかったら別の選択をする」ことができます。
個人的な意見ですが、これは「公教育にチョイスがない」日本の社会的な構造が生み出す課題であり、それを解決できるのは主権者である私たちです。
オードリー・タンさんでさえ、幼少期にエネルギーが枯渇した過去がある
私は今のところ当事者ではないので、どうしても無責任な発言になってしまうのは申し訳ないのですが、台湾・台北で子育てしている身としては、問題なのは公教育にチョイスがないことであって、一つしかない主流の教育が子どもに合わないこと自体、“何の問題もない”ように感じます。
オードリー・タンさんのお母様が書かれた子育ての手記『成長戦争』 には、子どもが学校に行きたくないと主張している時、保護者や周りの大人たちが「そんなはずはない」と否定したり、見て見ぬふりをするのではなく、向き合い、寄り添ってあげることこそが、子どもにとって何よりの救いになるということが書かれていました。
教育のチョイスがなかった当時の台湾では、あのオードリー・タンさんでさえ、不登校に反対され、登校を強いられたことでエネルギーが枯渇し、自分や世界と絶交し、お母様の表現では“雷に打たれたウミガメのようになった”過去があるのです。
👇オードリー・タンさんのお母様、リー・ヤーチンさんの言葉
「彼が必要としているのは、ただただ無条件の愛で受け入れてもらうことだと思った。一度、私が耐えられず彼を学校に行かせようとした時、彼がまっすぐ私を見て『お母さん! 世界中の人が僕のことをわかってくれなくてもいい。どうしてお母さんまで僕のことをわかってくれないの?』と言った瞬間、私は心が凍りついた。きっと彼が人生で最も絶望した瞬間だっただろう。あれ以来、学生が自殺したニュースを見る度、本当に辛くなる。保護者のうち誰かが一切を顧みずただただその子を愛すれば、もしかしたら死を選ばなくても良かったのではないかと、いつも思う」
👇当時を振り返ったオードリー・タンさんの言葉
当時の教師は、 『レジリエンスを育てなければならない』と言いました。悪い状況になっても、自らで克服する力のことです。また、台湾には『苦労を糧にする』という諺もあります。ですが、耐性をつけるために我慢することと、その苦しみの奴隷になることは、非常に区別が付けづらいのです。
『学習性無力感』といって、何もできることがないのだという感覚を一度抱いてしまうと、いざ世界の不公平なことを変えられるチャンスが訪れても、籠に長い間閉じ込められた鳥が飛び立てなくなってしまうように、何もできなくなってしまう。
この時の私は、その極限を超えていました。筋肉を鍛えすぎると怪我をして、靭帯や骨を損傷すると一生回復するのが難しくなるように、当時の学校の状況は、私の極限を超えていたのです」
(※この『オードリー・タン 母の手記「成長戦争」』は、年内に別の出版社から文庫化されることになりました。文庫なのでよりお手軽にご購入いただけるのと、文庫化に向けて、加筆・修正も行いました。また別途、お知らせさせてください。)
オードリーさんが私にご自身の生い立ちの物語を託し、『オードリー・タン 母の手記「成長戦争」』という本を書かせてくださったのは、「私たちが過去に受けた苦難を、誰かがもう一度味わうことがありませんように」という願いがあってのことです。
そして、この『成長戦争』のきょうだい本だと私が思っている『オードリー・タンの母が語る「自主学習のすすめ」』には、オードリーさんのお母様、リー・ヤーチンさんによるアンサーのようなくだりがありました。
私たちの理解によれば、子どもと保護者、教師たちにとって最も心が折れそうになるのは、学歴主義ではなく、学業成績でもなく、「相手に話が通じない」と感じることや、「相手は私のことを何も分かっていない」と感じることでした。─子どもは、多くの大人たちが自分たちのことを分かろうとしてくれず、ただ自分たちを訓練しようとしているように感じます。多くの保護者は、子どもが自分たちから理解されることを望まず、毎日何もかもが面白くないといった様子で、自分たちとは会話をしようとしないと感じています。
教師は、一部の子どもたちは殻に閉じこもった貝のようで、自分にできることは何もないと感じています。─教師にしっかりとした考えがあるべきと思う保護者がいたり、保護者から強い干渉を受けていると感じる教師がいたりするなど、こうした心理は多くの場合、それぞれの関係者を緊張させます。
同書では何度も、“保護者と教師、子どもの「三角形コミュニケーション」”の大切さが繰り返し説かれています。難しく、時間も手間もかかることだと思いますが、本当に大切なことだと感じます。
同時に、「公教育にチョイスを」と声を上げ、行動している方たちと繋がり、市民の力を発揮していくことで、この状況を打破できるはずだと思います。
どうか、これ以上、子どもたちのエネルギーが枯渇させられることなく、自分にとって必要な学びを見つけることができますように。
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