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この一杯で全てが整う|味噌煮込みの話【食事001】

食事001|名古屋の食文化は、味噌の深さに宿る。


仕事帰り、あのスープの酸味を思い出すと、唾液が出る。


私はこの一杯のために走る。


ホームは桜山店

八事からほど近い桜山店が、私のホームだ。

木造の和風民家調の佇まい。暖簾をくぐると、昔ながらの落ち着いた空気が漂う。チェーン店でありながら、あの空間には固有の「場の力」がある。名古屋の日常が、そのまま残っているような感覚だ。

タウンアーキテクトとして言えば、建物が持つ記憶と素材感が、食体験の質を底上げしている。同じ料理でも、空間が違えば味が変わる。桜山店の木造の空気感は、あのスープの味の一部だと思っている。

ちなみに名古屋には「山本屋本店」と「山本屋総本家」という紛らわしい二店がある。名古屋人でも混乱する。私が通うのは山本屋本店だ。


注文はこれ一択

スタミナもつ入り味噌煮込みうどん。これ一択だ。

モツはしっかり底に隠れている


さらにニラともつを追加トッピング。ご飯は大を必ず注文する。口の中をもつでいっぱいにして、濃厚な味噌スープを飲む。そのままご飯と一緒に流し込む。これが最高だ。

土鍋が運ばれてくる。蓋を開けた瞬間、ぐつぐつと煮立つ音と共に蒸気が立ち上がる。赤味噌と鰹出汁が混ざり合った香りが、鼻を突く。この瞬間だけで、もう報われる。

山本屋本店の麺はバリカタが特徴だ。初めて食べた人は「芯が残っている」と驚く。しかしこれが正しい。最初は違和感があっても、食べ進むうちにクセになる。煮込まれながらも独特のコシを保つ自家製麺が、濃厚な味噌スープを受け止める。土鍋の蓋を皿代わりにする。名古屋人なら誰でも知っている作法だ。


唾液が出る瞬間

仕事帰り、ふとあのスープの酸味と旨みが頭をよぎる瞬間がある。そのときは迷わない。そのまま職場近くのJR名古屋駅店へ直行する。

これはパブロフの反射だ。脳が「報酬」を記憶している。あの味噌の香り、もつの旨み、バリカタの麺——すべてが組み合わさって、強烈な食の記憶として刷り込まれている。

大きくてぷりぷりのモツがたまらない

至福のゴールデンコース

平日に有給休暇を取った日は、決まったコースがある。

ラン → サウナ → 味噌煮込みうどん → ミニシアター

これが私のゴールデンコースだ。動事・整事・食事・芸事——8つの事が一日に凝縮される。

この順番には理由がある。ランニングで脳を起こし、サウナでリセットする。その状態で食べる味噌煮込みは、別格に旨い。サウナで整った脳はリラックスかつ覚醒した状態にある。その状態では味覚感度が上がる。だから美味い。そして腸脳相関によって、発酵食品である赤味噌がセロトニンの分泌を助ける。脳が冴えた状態で、幸福感が満ちてくる。

「ラン→サウナ→味噌煮込みうどん」は、デメリットを克服するための流れであり、味噌煮込みを最高に楽しむための流れでもある。

その後に何をするかは、その日の目的による。映画でも、仕事でも、研究でも、カメラでも、楽器でも。脳が燃料を得た状態で、何をやっても全開になる。


名古屋めしとしての味噌煮込みうどん

豆味噌を使ってうどんを煮込む「味噌煮込うどん」は名古屋圏だけにみられる料理だ。

名古屋の食文化は、しばしば「濃い」「くどい」と言われる。しかしそれは誤解だ。赤味噌の深いコクと酸味は、単なる濃さではない。発酵文化が生んだ複雑な旨みだ。名古屋人はその味を、子供の頃から身体に刻み込んでいる。

名古屋人が見栄っ張りでお得好きだとすれば、味噌煮込みうどんはその哲学の体現だとも言える。シンプルな素材で、最大限の旨みを引き出す。合理的で、深い。


今日も、あの土鍋へ

八事から桜山へ。
この距離感が、この体験を日常にしている。

暖簾をくぐり、スタミナもつ入りを注文し、ニラともつを追加する。ご飯は大。土鍋が運ばれてくる。蓋を開ければ、ぐつぐつと音を立てる赤い海。

味噌煮込みうどんは、食事ではなく、脳に燃料を入れるために、私は今日もあの土鍋へ向かう。


あなたが「脳に燃料を入れる」食事は何ですか?


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