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糖尿病の三大合併症〜しめじの『し』について〜

前回は、膵臓がブラック労働の末に燃え尽きて、糖尿病になるまでのプロセスをお話ししました。

血液中に大量の糖が溢れかえると、体内ではジワジワとダメージを受け続けます。

そして時間が経過するにつれて、様々な症状が出現してくるようになります。

糖尿病には有名な「三大合併症」があるのですが、ご存知でしょうか?

この合併症を覚えるための合言葉として、「し・め・じ」というものがあります。

し:神経障害(しんけいしょうがい)
め:網膜症(もうまくしょう=目)
じ:腎症(じんしょう=腎臓)

この中で、もっとも早く現れるのが「神経障害」です。

今回は三大合併症の解説第一弾として、糖尿病で神経障害が起こる仕組みを解説していきます。


糖尿病を放置するとなぜ神経は破壊されるのか

糖尿病性の神経障害が起こるプロセスには多くの要因があります。

①「ソルビトール」で神経細胞が水ぶくれに

血液に大量の糖が溢れると、行き場を失った糖が、全身の神経細胞の中になだれ込みます。

ここで『ポリオール経路』という糖の処理ルートが目覚めます。

すると神経細胞の中で、糖が「ソルビトール」という物質に変換されます。

実は、このソルビトールが神経障害を起こす原因の一つとされています。

ソルビトールには、「周りの水分を強力に引き寄せる」という、かなり厄介な性質を持っています。

ナメクジに塩をかけると水が抜けますが、その「真逆」です。

水分を限界まで吸い込んだ神経細胞は、水を入れすぎた水風船のように内側からパンパンに膨れ上がってしまいます。

人間の神経は細い管(鞘)の中に収まっている構造です。

内側から水分でパンパンに膨らむと、中の神経をギュウギュウに圧迫してマヒさせてしまいます。

そして恐ろしいことに、この糖尿病による神経の破壊は、一度進んでしまうと基本的には「元に戻らない」と言われています。


②神経細胞内で起こる糖化(コゲつき)

ポリオール経路ではソルビトールの他にフルクトース(果糖)も作られます。

フルクトースは『糖化』のスピードがグルコースに比べて格段に早いのが特徴です。

糖化とは、糖がタンパク質と結びつき、細胞をコゲつかせて劣化させてしまうことです。

糖化により神経細胞を内部からボロボロにしてしまいます。


③神経細胞を内部からサビつかせる「活性酸素」

糖化だけでなく、さらに酸化も起こります。

私たちの細胞には、有害な「活性酸素」を消去するための抗酸化作用が備わっています。

この作用が正常に働くためには、「NADPH」というエネルギー源が欠かせません。

しかし、高血糖のせいでポリオール経路がフル稼働すると、ソルビトールを大量生産するために、
このNADPHを大量に消費してしまうのです。

抗酸化作用が低下した神経細胞の内部は、活性酸素によってサビつき、細胞が傷つけられてしまいます。


④微小血管の目詰まり

これで終わりではなく、血流障害も大きく影響します。

神経の周りには、酸素や栄養を届けるための「神経栄養血管」という非常に細い血管が網の目のように張り巡らされています。

脆くて細い血管に、ベタベタのシロップ状になった血液が流れ込むとどうなるか?

当然、目詰まり(微小血管障害)を起こします。

細胞には酸素と栄養が不可欠ですから、これが途絶えることは神経細胞にとって大問題です。


つまり、糖尿病を放置する限り神経細胞は…

・内側からは「自分の水分による圧迫」、「糖化によるコゲつき」、「活性酸素によるサビつき
・外側からは「血流が滞って酸素と栄養が十分に届かない

という、最悪な環境で毎日を過ごさないといけないわけです。

・足の先がピリピリ、ジンジンと痺れる
・足の裏に紙が貼り付いているような違和感がする

これらは糖尿病初期に起こる神経障害の症状です。

神経障害が悪化すると、足に怪我をしても痛みを感じなくなります。

これが原因で、足が腐り、最悪足を切断しなければならなくなる…なんてこともあります。

整形外科病棟や手術室で勤務していた頃、こういった患者さんを多く見てきました。

この『糖尿病性足病変』については、また別の記事で書きます。


障害されるのは末端の神経だけではない

神経は全身に張り巡らされていますから、障害されるのは末端の神経だけではありません。

特に自律神経は、自分の意思とは関係なく呼吸・消化・体温調節・排泄など生命維持に必要な機能を24時間自動でコントロールする神経です。

この自律神経が障害されると起こるものとして、

・起立性低血圧
・下痢・便秘
・神経因性膀胱(排尿障害)
・勃起障害
・無自覚性低血糖
・無痛性心筋虚血 

…などなど、多くあります。

特に怖いのが、無痛性心筋虚血でしょうか。

有名なのが、狭心症心筋梗塞などですね。

これらの病気は痛みがサインとして現れるのですが、

自律神経が麻痺してしまうと、心臓が悲鳴を上げているのに「痛みを感じにくい」という異常事態が起きてしまいます。

大した痛みもないためにそのまま放置して、発見された時には心筋梗塞が重症化している。

こんなこともありえます。

「痛みを感じない」というのは、良いことではありません。

体が出している「SOSのアラーム」を、切ってしまっているということなのです。


終わりに

いかがだったでしょうか。

今回は、しめじの「し」『神経障害』について解説しました。

ここまで読んで、怖くなった方もいるかもしれません。

しかし、神経を内側から破壊する「ポリオール経路」には、ルールがあります。

それは、「高血糖の時にしか、この経路は起動しない」ということです。

日々の食事で糖質の量や摂り方をコントロールし、血糖値を安定させていれば、この経路は眠ったままです。

すでに血糖値が高い方は、症状がないからといって、決して放置しないようにしましょう。

体内ではしっかりダメージを受けています。

次回の記事では、しめじの「め」。

ある日突然、視力を失う「網膜症」について書いていこうと思います。


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