白菜を包んだ新聞、よく見ると答えが。
先日、直売所へ大豆を買いに行った。
家の近くではなく、少し遠出になる距離。でも、そこにしか無いものがあるから時折通っている。
大豆の産地で、本当に美味しいのだ。
そこの炒り豆を目当てに買いに行く。ただ、直売所ゆえに、ある時とない時があって、がっかりして帰ることも幾度かあった。
生産量が少ないとか、出す人の都合だとか、その時その時でレジの人の説明も違う。
取り置きはできないと言われたこともあれば、「あるものしか無いですからね」と身も蓋もない返事をされたこともある。
なので期待はしない。あったらラッキーくらいの気持ちで行く。
その日は三つ、在庫があった。
嬉しくて全部買ってしまった。
きつく輪ゴムで留められた袋から香ばしい香りがしてくるような気さえする。開けて早く頬張りたい。
もともと大豆が好きなのもあるが、ここの炒り豆の軽さが美味しいのだ。
口いっぱいに頬張ってしっかりと噛み砕く。慌てて飲み込むと喉を傷めるのでご用心。
口がいっぱいで鼻呼吸をすると鼻腔に香ばしい香りが充満する。
きなこも好きなのだが、まるで、きなこを作る人間石臼になった気分。
それは大袈裟だが、とにかく香りが旨味に昇華されて、スーパーで売ってるおつまみコーナーなどにある、炒り豆とは格が違う。
念願の炒り豆を抱えて、ほくほく。満足しながら店内を見渡すと、みずみずしい白菜が目に留まった。なかなかのお値打ち品だ。
そこで白菜も抱えて帰ることになる。
レジで思わず口が滑った。
「炒り豆、あって嬉しいです。無い時もあるので。今日はラッキーでした。」
対応してくれたのは、今まで見かけたことのない人だった。
すると、
「取り置きもできますよ。レシートの電話番号に問い合わせてみてください。」
と教えてくれた。
思いがけず、優しい応対で気持ちがいい。
当初の目的とは違うものまで手にして家に戻り、白菜を包んでいた新聞紙を外そうとして気がついた。
新聞紙に鉛筆で何かが書き込まれている。
見ると漢字のクロスワードパズルだった。
しかも、ほぼすべてのマスが埋まっている。
思わず手を止めて見入ってしまった。
両手で丁寧に新聞紙の皺を伸ばしながら。
その文字が実に見事だったのだ。
達筆という言葉だけでは足りない気がする。
力任せではなく、流れるような筆致で、一文字一文字が整っている。
品があると言った方が近いかもしれない。
最近は他人の手書きの文字を見る機会がめっきり減った。連絡はLINE、買い物もネット。
だからだろうか。
しわくちゃになった新聞紙の上にHBよりも薄く硬質な感じで書き残された鉛筆の文字が、妙に新鮮に見えた。
クロスワードそのものより、その文字を書いた人のことが気になる。
どんな人だろう。
朝ごはんを食べながら解いたのだろうか。
お茶を飲みながら、ゆっくり埋めていったのだろうか。
几帳面そうな人だな、と勝手に想像する。
あの感じのいいレジの人だったりして。
想像は自由だ。
もちろん全然違うかもしれないけれど。
解き終えた新聞は役目を終え、その後白菜を包むために使われ、巡り巡って私の家にやって来た。
ただそれだけのことなのに、不思議な、巡り合わせ。
顔も名前も知らない誰かが確かにそこにいた。
しわくちゃになった新聞紙から、その気配だけが伝わってくる。
浅漬けにしようと白菜の葉を一枚一枚剥がしながら、しばらくその文字を眺めていた。
知らない人の気配に、少しだけ温もりを感じたのだった。
少し丁寧に文字を書いてみようと思った。
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