全部ChatGPTにおまかせでは無理だった。「旅男!」AIコミカライズの舞台裏
みなさん、こんばんは。
2か月ほど前に、初めてのコラボ企画として、吉岡果音さんの長編ファンタジー小説「旅男!」第1話を、AIで8ページの漫画にした記事を公開しました。
原作・著作は吉岡果音さんの「旅男!」です。
この記事も元の漫画も、ご確認いただいた上で制作した、初のコラボ作品です。

で、
元記事の末尾に、制作クレジットを載せていたんですよね。
制作:
原作・著作:吉岡果音さん『旅男!』
全体的なディレクション:YeKu
コマ割り提案:Claude Opus 4.6
キャラクター原案:ChatGPT
キャラクターデザイン・作画:NanoBanana2/Pro
文字入れ・調整:Canva
コマ割り提案はClaude Opus 4.6、キャラクター原案はChatGPT、キャラクターデザイン・作画はNanoBanana2/Pro、文字入れ・調整はCanva……。
これを見て、疑問に思った方がいるかもしれません。
ChatGPTで漫画が作れるなら全部ChatGPTで作ればいいものを、なんでいちいち違う会社のAIを切り替えて使っているのか?
本当ですよね。私だってGeminiとか、ChatGPTで全部制作できるなら、その方が楽だったんです。全てはこの今のAI性能マップがアレでソレなのが原因で…。
全ての答えは、作る過程そのものにあります。
今日はこのコミカライズのメイキングを、ボツ画像も含めてお見せしながら、工程ごとに「なぜこのツールだったのか」をお話ししますね。
そもそも「旅男!」って?
「旅男!」は、ちょっと残念な旅男・キースと、旅女・アーデルハイトさんの出会いから始まる、コミカルで温かい冒険ファンタジーです。
そろそろ通算1000スキになりますね! 嬉しい!
ランキングを見たら、
異世界ファンタジーの月間ランキングで29位になってました。

仲間同士のやり取りが楽しくて、落ち込んだ日に読んでも心温まる小説です。私も、辛いことがあっても、何度も心を温めてもらったり、笑わせていただいたり。励まされました。
作者の果音さんは、お互いがnoteを始めた頃からのお付き合いの方です。この辺りの話は元記事にたっぷり書いたので、今日は省略します。
なんか果音さんが好きなのか、果音さんの創作が好きなのかもはや判然としません。最近思うんですけど、その2つって不可分なんですよね。
小説には、本人が大切にしている価値観や、普段引っかかっていること、興味のあること、全て出ますから。
とにかく、8ページの漫画なら、お忙しい方でもさっくり読めるはず。
でも、実は、「この工程はこのAI」という設計が最初からあったわけではありません。
いや、ある程度はあったし、以前自分のキャラクターでストーリー漫画を作った時に、出来る! と思ったから作ることにしたのですが、試行錯誤の積み重ねでした。
完成した8ページの後ろには、ボツ画像が100枚以上残っています。

没画像1:キースの服装とゲオルクのデザインが一致せず

没画像2:英語の効果音が入ってしまう。ゲオルクが子犬化

ツール選びよりもっと悩んだのが、「原作の魅力を8ページに凝縮する」ことでした。
第1話だけでも、見せたい場面はたくさんあります。でもページは8枚と決めている。どれかを削らないといけない。好きな作品だからこそ、どの場面も「これは外せない」に見えてしまうんですよね。
工程1 原作の読み込みとディレクション(AIに任せないところ)
最初にやったのは、原作をしっかり確認するところです。
第1話を読み込んで、登場人物や話の流れを把握。
それから全話をチェックして、キース、アーデルハイト、ゲオルクといったキャラクターの描写を確認していきました。
ところが、どれだけ探しても、服装などの詳細な設定は本文に見つかりませんでした。果音さんに伺ってみると、あまり細かくは決まっていないらしく、「自由に創っていただけたら、できれば楽しんでいただけたらなあ、と思います🥹💗」とのありがたいお言葉。
良かった。五芒星にヒイラギの葉っぱとドクロマークの虹色のペンダントを常につけている、みたいな細かい設定があったらAIじゃ無理だったかもしれません。
なので、ここは私のイメージで補わせていただきました。
どの場面を残して、キャラクターをどう見せるか。
ディレクションの部分だけは、まだ人間の仕事ですね。
AIは指示した通りに作ってくれますが、「この作品のどこが好きで、何をどう伝えたいか」は、私の中にしか無いからです。
工程2 コマ割り提案(Claude Opus 4.6)
コマ割りは、Anthropic社のClaudeというAIに任せました。
Claudeには、当時3つのモデルがありました。
そう、Haiku(低難易度のタスク向け)、Sonnet(中難易度のタスク向け)、Opus(高難易度のタスク向け)ですね。
(今はFableとMythosが追加されましたが、まぁこの時は無かったので)
整合性を取りつつうまくコマを割るには、ちょっとSonnetだと心もとなかったですし、一番大事なところなので課金プラン必須の最高モデル・Opusを使いました。
それで、Claudeには「スキル」という機能があって、手順書を参照させながら会話ができるんです。私が出した指示は、これだけでした。
「漫画のコマワリノウハウを調べてスキルにして」
これでClaudeが自分でコマ割りの手順書を作り、以後はそれを参照しながら作業してくれます。あとは「旅男!」の第1話を渡して、コマ割りとプロンプトの生成を依頼しました。

長編小説の文脈を読み取って構成に落とす作業は、この制作の時点では、Claudeとの相性が一番良いと感じました。
無料でも使える軽めのモデルで足りたかもしれませんが、私の体感だと、軽いモデルは考え無しに手を動かして修正が増え、かえって時間がかかります。結局、最初から能力の高いOpusに任せました。
当時のAI戦況だと、他社モデルを交えても、ClaudeのOpusが全てのモデルの中で一番の性能だったはずです。
それから、この工程には、後の作画のための仕込みがいくつか必要でした。
例えば、ドラゴンのゲオルク。コマごとに「どのくらいの大きさか」を逐一指定しておかないと、「ドラゴン」とだけ書いた指示では、生成のたびに大きさがマチマチになってしまいます。(さっきの没画象みたいに。原作だと子牛か大型犬くらいの大きさなんですよね。)
昼なのか夜なのか、背景はどこなのかも同じです。コマ割りの段階で文字にして固定しておかないと、イラストにした時ページ間でちぐはぐになるんです。悩ましいですね。
工程3 キャラクター原案(ChatGPT)
キャラクターのデザインを文章に起こすところまでは、迷いませんでした。
例えば、主人公のキースなら
年齢:26歳
職業:旅人
髪:黒い艶やかな髪(ボサッと土埃で薄汚れている)
目:海のように深く青い色の瞳。優しそうな目
顔:精悍な顔立ち 白い歯 汚れてるが美形 年齢のわりに無邪気な笑顔。
身長:背が高い 筋肉質
装備:大ぶりの剣を腰に下げている
これが小説上の設定です。
悩んだのは絵柄です。
色々な画像生成モデルを試しました。
中国系のモデルも、MidjourneyもStable Diffusionも。
でも、なんというか特定の画風に特化しすぎていて、汎用性が無いと感じるものが結構ありました。それと、権利関係を私には判断しきれないものも、候補から外しています。
そんなわけで、ChatGPTに戻ってきました。
途中、試しにNanoBanana(Googleの画像生成AI)でキースを生成してみたところ、できあがったのは原始人のようなキース(主人公)でした。
キー…ス…?

プロンプトは変えてないんですけどね。NanoBananaだとこうなるんですよね。
まぁ、
髪:黒い艶やかな髪(ボサッと土埃で薄汚れている)
目:海のように深く青い色の瞳。優しそうな目
顔:精悍な顔立ち 白い歯 汚れてるが美形 年齢のわりに無邪気な笑顔。
合ってますよね? 確かに。
私の頭の中の果音さん(空想)が、悲しい顔でこう言いました。
「YeKuさんのイメージでいいんですよ……でも、こういうイメージなんですね……」
絶対に違います。私もコイツが主人公の漫画は作りたくない。悪いけど、却下です。
もう少し日本の漫画風になるように、調整を頑張ってみました。

うん…。ね、まぁ…。そうなんだけど…。なんか…違うっていうか。
コレジャナイ感がすごくて。
私は諦めませんでした。これでどうだ?

うん……。
まぁ…。
シティーハンターの冴羽亮に似たイケメンなんですが、なんかもう少し、私の中では強いけど純粋で天然みたいなイメージがあって。ちょっと違うのかな。
なんかモダンさが足りないんですよね。NanoBananaはアニメ風画像の学習幅が狭そうです。
今回は漫画なので、AI生成特有のアニメっぽいテイストより、少しフラットでラフな質感が欲しいと思っていました。
そうなるとやっぱりChatGPTですね。たぶんCEOがオタクだからだと思いますが、日本風キャラクターの学習データが豊富で…。
そのイメージを伝えて、ChatGPTに原案を描いてもらいました。
漫画とかアニメっぽい画風は、フロンティアモデル(各社の最上位モデル)の中なら、この制作の時点ではChatGPTが圧倒的に得意でした。
完成版:キース君。

工程4 キャラクターデザイン・作画(NanoBanana2/Pro)
キャラクター原案はChatGPT。なのに、作画はNanoBanana2に交代します。さっき原始人を生み出した、あのGoogle勢です。
なぜか。
NanoBanana2は、キャラクターの追従能力がかなり高いからです。一度決めたキャラクターを、別のコマでも同じ顔・同じ服のまま描き続けてくれる。漫画では、これが何より大事です。
キャラの一貫性をどう保つかは、昔、4コマ漫画の記事で書きました。
たまに更新してるので今でも使えるモノになってるはずです。
ここにも書いたのですが、NanoBanana2は、参照画像を設定すると、画風をかなり再現してくれます。
工程3で作ったキャラクターデザインを都度読み込ませながら、1ページずつ作画していきました。

実は、「作画まで全部ChatGPTでやる」という案もありました。
そうですよね。私だってこんなにいくつものツールを行き来せず済めば、どれだけ良いか。
でも、この制作の時点のChatGPTは、日本語のセリフを破綻なく画像の中に描くのが苦手だったんです。なので作画からは外しました。
工程5 文字入れ・調整(Canva)
最後の仕上げは、AIではなく、Canvaでの手作業です。
NanoBanana2の日本語レンダリング(画像の中に日本語の文字を描く能力)は、以前と比べるとかなり良くなりました。
それでも、細かい効果音を入れるのはまだ難しい。
意図した日本語を一字一句そのまま出すのも難しいんです。
なんとなく、一度英語に翻訳してから、もう一度日本語に戻しているような挙動を感じます。セリフを2回繰り返してしまうこともありました。
そういう部分を、Canvaで1か所ずつ手で直し、効果音の文字もここで入れました。

さて、なぜ全部ChatGPTで作らないのか
冒頭の疑問に戻ります。
つまり、今は各社のAIサービスごとに、得意なことにバラツキがあるからなんですよね。
小説を読み込んで、構成に落とす頭の良さはClaude。
漫画らしい画風のキャラクター原案は、ChatGPT。
キャラの一貫性を保った作画は、NanoBanana2。
そして細かい日本語の文字入れは、人間がCanvaで。
試した結果、「これが一番だ」という組み合わせが、たまたま4つのツールにまたがっていた。それだけなんです。
これが今のAIツールの現実ですよ。どこにどれを使えば今の最高性能が出るのかがまばらで、一気通貫にできるツールがない…。
しかも、この勢力図はすごい速さで変わっていきます。
現に、このコミカライズの公開後の2026年4月21日に、OpenAIが新しい画像生成モデル「gpt-image-2」(ChatGPT上の名前は「ChatGPT Images 2.0」)を発表しました。
日本語を含む非英語テキストの描画が、大きく改善したそうです。今私はそれどころじゃないので使えていませんが、かなり評判が良いですよね。
私がChatGPTを作画から外した理由は、日本語のセリフが苦手だったこと。その弱点が、制作の直後に改善されてしまったわけですね。今同じものを作るなら、作画の主役が入れ替わっている可能性すらあります。
だから、この記事に書いた組み合わせも、もう最適解とは限りません。「これを使っていればOK」というAIは、今のところありません。少なくとも私は、出会ったことがないです。
それぞれのAIの得意なことを見極めて、適材適所で使い分ける。今のAI創作では、それが品質を決めます。
余談:ちなみに、当時のVeo3.1(Googleの動画生成AI)だとうまくアニメにならなかったのでスキップしましたが、最新のOmniで作ってみたら、ある程度の一貫性を保ったままアニメーションになりました。
AIツールは本当に、日進月歩で、明日何ができるようになっているか、誰にも分かりません…。
最後に、「自分の小説や好きな作品を漫画にしてみたい」という方のために、今回の経験から言えることをまとめておきますね。
・人間以外のキャラクターの大きさ・背景、文字のサイズは、コマ割りの段階で文字にして固定する
・キャラの一貫性は、デザイン画を参照画像としてAIに都度読み込ませて保つ
・日本語のセリフや効果音は、AI任せにせず、最後は手で仕上げる
また、作る場合は原作者さんに許可を取るようにしてくださいね。世の中の二次創作も本来、著作権上は翻案権を侵害していてアウトですが、許されているだけです。
なお、こうした漫画制作は、頑張ればもっとクオリティを上げられる気はしています。時間とコストがかかるので無償では難しいのですが、もしこんな風に作りたい(けど自分では難しい)方がいらっしゃればご相談ください。
最後に
ここまでツールの話ばかりしてきましたが、どれだけAIを使い分けても、この漫画の面白さの源泉は、全部原作にあります。
キースの残念で憎めない人柄も、アーデルハイトさんとの掛け合いの楽しさも、私が作ったものではありません。果音さんの「旅男!」が最初から持っていたものを、8ページにギュっとしただけ。
「旅男!」は、創作大賞2026に応募されています。読者応援期間は7月いっぱいまで続いていて、選考過程では、読者応援期間の人気度(スキやコメントなど)も参考とされるそうです。
漫画やこのメイキングで「楽しそう」と思ってくださった方は、ぜひ原作も読んでみてくださいね。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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