押井守の<原点>、そして富野由悠季の<原点>
今回は、ふたつほど名作SF映画をご紹介してみたい。
どちらもが、アニメにゆかりの深い古典だ。
じゃ、まず最初はコレ↓↓
「ラ・ジュテ」(1962年)

ぶっちゃけ、これを見たことある人は少ないでしょうね・・。
しかし、SFファンの間ではめちゃくちゃ有名な古典です。
この作品に影響を受けたのが押井守で、彼はこの作品についてこうコメントしてるのよ。
「もし『ラ・ジュテ』に出会わなければ、自分は映画監督を目指していなかった」

それほどに、彼にとって<原点>ともいえる作品なのね。
だから意外と押井ファンは大体、これ視聴済みなんですよ。
時間が僅か28分の短編である。
モノクロで、台詞はなくモノローグだけで進行していく構成。
ゆえに、字幕版より日本語吹替版(ナレーター大塚明夫)での視聴をお薦めしたい。
この作品は結構たくさんのサブスクで配信されてるんだが、いずれも字幕版だと思うので、できればニコニコ動画にアーカイブされてるやつを見た方がいいと思う。
大塚さんのダンディボイスがよく合ってるし・・。

後に、これはハリウッドリメイクされたわけで、むしろそのリメイク版の方が有名かもしれないね↓↓
「12モンキーズ」(1996年)

これも確かに名作だが、でもSF映画ファンの人気投票企画をやると大体「ラ・ジュテ」の方が「12モンキーズ」を上回ります。
それほどに、映画史的にも金字塔といえる古典なんです。
ジャン・リュック・ゴダールにも影響を与えたとされている。
で、「12モンキーズ」を見てる人はお分かりだと思うが、「ラ・ジュテ」はタイムリープ系SFである。
舞台設定は「第3次世界大戦で地上が放射能汚染されてしまい、生き残った人々は地下に逃れ、迫りくる滅亡をただ待つのみ」という実に悲惨なものである。
これの監督/脚本を務めたクリスマルクルは、フランスがナチスドイツに占領されてた時代に地下組織(レジスタンス)にがっつり参加してた人らしく、まぁ、そのへんが「ラ・ジュテ」見てると妙に納得させられる感じである。
というのも、主人公は「支配されてる側」の人間で、「支配する側」の被験体として強制的にタイムリープ実験(死の危険性あり)させられてるんだわ・・。

・・で、この作品の特徴は「画が全く動かないこと」。
スチール写真の静止画のみで構成されており、いわば紙芝居みたいなもんである。
ただ、マルクル監督は写真家でもあるので、その静止画全て一部の隙もない<完璧な美>なのよ。


いやね、押井守がハマった意味がめちゃくちゃよく分かるわ。
彼は15歳の時にこれを見たんだろ?
そりゃ衝撃だよ、100%<完璧な美>だけで構成された映画なんて当時他にないからね。
で、静止画だけで構成される映画の利点は、「俳優が演技しなくていい」という点にあると思う。
これも押井さんに与えた影響デカかったんじゃないかな?
どっちかというと、彼もまた「演技」を必要としない画作りをする癖のある作家で、「演技」を極限まで抑えることで画の<完璧な美>を追求しちゃうタイプだよね。


やっぱ、「ラ・ジュテ」はまぎれもなく押井守の原点だと思う。
庵野秀明にとっての実相寺昭雄(⇐実は押井さんも実相寺ファンらしいが)みたいなもので、押井さんにとってはそれがマルケルなんでしょう。
付け加えると、マルケル監督は常に「猫」を自身のアイコンにしてたらしいんだが、

おそらく押井さんが意図的に「犬」をアイコン化しようとしてるのも、多分マルケルオマージュだと思うんですよ。

・・さて、2作品目。
次にご紹介したい映画は、この作品です↓↓
「禁断の惑星」(1956年)

はい、これも名作中の名作ですね。
宇宙系SF映画の原点ともされており、SF映画ファンの人気投票企画をやると必ず上位に食い込んでくる古典中の古典だ。
なお、この映画に影響を受けたのが富野由悠季であり、彼は15歳の時にこれを見たという。
ただ、その当時は「駄作」と感じたらしいんだが(役者の演技があれだったので・・)、後にアニメの仕事をするようになってからは評価を一変させ、
「『禁断の惑星』は映画を作る上での技術論を教えられた教科書」

だと語っている。
また彼は後に「禁断の惑星」をアニメ版でリブートしており、それが皆さんご存じ、この作品なんです↓↓
「伝説巨神イデオン」

ただ、「禁断の惑星」見て「皆殺しになるオチじゃないのはおかしい」とか「巨大ロボット出てこないのはおかしい」とかのツッコミはやめてね。
それらは富野オリジナルの要素だから。
・・あ、一応ロボットは出てくるけど↓↓、サイズはかなり小ぶりである。
<ロビーザロボット>

なお、「禁断の惑星」が「イデオン」の元ネタであることはハッキリと富野さんも公認してます。
<「禁断の惑星」の設定>
・その惑星には、20万年前に高度な科学の発達した文明があったらしいが、滅んでしまったのか現存していない
・その古代文明は、晩期に「イド」という潜在意識の中から実体あるエネルギー体を生み出す超テクノロジーを開発していた


この「イド」が、後に富野さんが考案した「イデオン」のエネルギー体、「イデ」の元ネタである。
なお、本作ではこれが「人間の潜在意識から生み出されるもの」という設定であり、「ID:INVADED」に出てきた潜在意識界、「イド」の定義とも酷似してるわ。

凄いね。
アメリカは1950年代の時点で、こういう高度なSFを作っちゃってたのか・・。
この「イド」の描写のみならず、各所に「これってホントに1950年代の映画かよ?」と驚かされる特撮技術がある。


・・あ、これってアレの元ネタじゃね?などと感じただろうが、この作品はありとあらゆるSF映画で模倣されており、原点オブ原点なんですね。
ならば「2001年宇宙の旅」「スターウォーズ」「ブレードランナー」などと並べて語られるべき作品だというのに、なぜか現実はそうなってない。
多分だが、その理由は
若き日のレスリーニールセンが主演してるからだと思う・・

我々の知るニールセンは「アホなおっさん」というイメージしかないので、割と真面目にやってるこの作品であっても、どうしてもB級にしか見えないんですよ(笑)。

・・いや、でもこれはホントに名作ですからね。
特にSF好きの人は是非チェックしておいてください。
1950~1960年代の映画は「古臭い」と思ってスルーしてる人も多いと思うが、それ大間違いですよ?
この時代って、特にSFが熱いんだ。
だって、「世界3大SF作家」アシモフ、ハインライン、クラークの全盛期だし、あと、冷戦ならではの米vsソ宇宙開発競争がめっちゃ熱かった時代だし、SF的な土壌は今より全然豊かだった。
むしろ、冷戦終結後にはSF人気が下火になったと思わない?
案外、日本だってそうなんだ。
日本の特撮といえば「怪獣」しか皆さんのイメージにはないかもしれんが、実は東宝&円谷英二で世界に誇れるSF大作を作ってたんですからね?
「地球防衛軍」(1957年)

「宇宙大戦争」(1959年)

「妖星ゴラス」(1962年)

監督/本多猪四郎、特技監督/円谷英二、音楽/伊福部昭(「つまり「ゴジラ」の3人)という黄金トリオの初期SF3部作は是非ご覧いただきたい。
巨大ロボットあり、宇宙大戦あり、アルマゲドンあり、というエンタメ要素テンコ盛りで、これらが原点になり、後の「宇宙戦艦ヤマト」「ガンダム」「マクロス」にも繋がったんだ。
今回挙げた作品群見ずして、SF語るなかれ!

