なぜ押井守は「AVALON」をアニメ映画だと主張するのか?
今回は、押井守監督作品「AVALON」を取り上げてみたいと思う。
「AVALON」(2001年)

思えば、これ四半世紀も前の映画なんですよね。
しかもサブスクではどこも配信してないみたいで、ほとんど忘れ去られてるといっても過言ではない作品じゃないかと。
だが、押井ファンの間では「押井守の実写作品の中では唯一(?)の傑作」という共通認識があるわけで、できれば多くの人に見てもらいたい作品なんですわ。
前述のようにサブスクの配信はないので、視聴はレンタルの方でお願い致します。
「アホ!押井の実写なんぞにカネ払えるか!」と言いたい方は、まぁそれもゴモットモだと私も思うので(笑)、YouTubeにて「AVALON,2001」と検索すれば一応視聴可能なことはお伝えしておきます。
ただし、これ言語が全部ポーランド語なんですよ。
ゆえに自動翻訳機能の字幕で見なきゃならんのだが、ただ、この自動翻訳が結構クソでねぇ・・。
「邦画なのに、何でポーランド語やねん!」

と言いたい人もいるでしょう。
というか、これ出演者全員ポーランド人ですから。
日本/ポーランドの合作であり、演者はポーランド、スタッフは日本、という感じですね。
で、日本ではいまいち知名度の低い作品ではあるが、国際的にはかなり評価が高い作品であるのも事実。
ジェームズ・キャメロン(映画監督/プロデューサー)
「SF映画の常識を変える美しい映像。今まで作られたSF映画の中で、最も美しく芸術的でスタイリッシュな一本だ」

ラリー・ウォシャウスキー(映画監督)
「彼(押井)は常に新しいスタイルを切り開く監督だ」

アーネスト・クライン(小説家)
「『レディプレイヤー1』は、『AVALON』の影響を受けた作品」

・・なんか、皆からめっちゃ褒められてますやん!
なお、キャメロンに至っては「俺がプロデュースするから何か企画を持ってこい」と押井さんに言い、押井さんもその気になって企画書仕上げて持っていったら、キャメロンはそれに目を通し、「うむ、この企画は絶対にヒットしない」と言って返却してきたという(笑)。
後日談として、その企画はなぜか鈴木敏夫氏がおカネを出してくれて映画化に至ったわけだが、興行はキャメロンの見込み通り、きっちりとコケましたとも・・。
・・あ、その時の企画というのはコレ↓↓のことね。

さて、「AVALON」に話を戻そう。
いや、確かにね、この映画の映像美は結構凄いのよ。


はい、ご覧になってお分かりの通り、これは仮想世界舞台のサイバーパンクで、いうなれば「攻殻機動隊」実写版というテイストですね。
・・あ、もちろん押井さんの<趣味>↓↓の要素も出てきます。


・・で、何より興味深いのは、押井さんが
「『AVALON』はアニメーション映画です」

と語ってることなんだわ。
・・えっ?これ実写じゃん?と我々は思うが、押井さんに言わせれば「映像を全てにおいて加工した場合は、もはや実写映画とは呼べない」と言う理屈らしいのね。
それほどに、この作品は全体的に加工処理をしてるということなんだろう。

この草薙素子っぽい感じの主演女優さん↑↑も、モトの素体は全くイメージの違う女優さんであるらしい。

はい、上の画の右半分が女優さん本来の生身の姿で、左半分が押井さん好みに加工処理された姿(映画に出てきた姿)みたいです。
「右(ホンモノ)の方が全然イケてるやないか!」とツッコみたくもなるが、いや、押井さん的にはこの生々しさが逆にノイズなんですよ。
だって、「GHOST IN THE SHELL」を思い出してください。

ここまで<情報量>を極限まで削ぎ落したのが押井流のベストなんです。
で、押井さんは画のノイズ除去の為、撮った映像の色彩を全部ゼロにして、着色をイチから人為的にやり直すという手法をとったらしい。
こうして着色やり直しだからCG部分とも完全に色調が合わせられるので、結果的に実写⇔CGの違和感がほぼゼロ化し、なかなかの質感に仕上がっている。

というか、こういう話を聞く限りだと「全部描いてる」にも等しく、確かにこの映画は「アニメーション」なのかもなぁ・・。
なお、こういう手法は当時のハリウッドでもやってなかったらしく、映像を見たキャメロンたちがビビったことにも納得。
ポイントは、<情報量>なんだよね。
我々シロウトほど「情報は多い方がいい」と考えてしまいがちだが、それは大いなる間違い。
たとえば黒澤明なんて、晩年のカラー映画(色彩情報が多い作品群)よりも50~60年代のモノクロ映画の方が圧倒的に「雄弁」。
あとファッションでも、オシャレ上級者というのは皆共通して情報の引き算が巧いよね。
逆に、オシャレのセンスない奴は皆共通してノイズが多すぎるんだよ。
・・あぁ、そうか、そもそもアニメの良さとは実写に比べてノイズが少ないことかもな?


だから、押井さんがこの作品を敢えてポーランドで、しかもポーランド語で撮ったことの意味は分からなくもないんだ。
日本人の役者が日本語で演じるだけで、日本人観客にとってはもう情報過多だから。
よく知ってる役者さんであればあるほど発する情報量が多く、それが結局はノイズになるんですよ。


・・で、この<情報量>という話が、実はこの「AVALON」における非常に重要なキーワードなんですよね。


この2つの画像、上=バーチャル、下=リアル、だと思うでしょ?
いいえ、それは不正解で、正解は「両方ともバーチャル」なんですよ。
やはり下の方が情報量(ノイズ含む)が多いのでつい錯覚してしまうんだが、とどのつまり、現状我々がバーチャルとリアルを見分ける手段は情報量の多い/少ないでしかない、ということかと。

極論、今後技術が進んで、リアルと全く同等の情報量をバーチャルが備えてしまえば、おそらくそこにいる者はどっちがどっちか分からなくなりますよ。
というか、そこでふと気づくと思うんだよね。
「・・あれ?今まで自分が<リアル>と思ってたあのセカイって、ホントにリアルだったのかな?」って。
・・そう、このへんは昔から指摘されていることである。
私たちが目で見るもの、耳で聞く音、皮膚で触った感触、それらは全て脳が受け取った情報にすぎず、セカイの実在、自分の実在そのものなんて、結局誰も証明できないんですよ。
その情報の実体とは脳神経を走る電気信号であり、つまり、仮にだが人為的な信号送信を脳に直接施すことが可能ならば、その被験者はまず間違いなくバーチャルをリアルだと信じ込むことでしょう。
・・というか、我々人類とは元々そういう被験体であり、この世は全て仮想現実、全てプログラムなんだ、と主張する科学者もマジで実在しますから。

<虚構と現実>
これは、押井作品における一貫したテーマだね。
もはやライフワークといっていい。
「ビューティフルドリーマー」、「天使のたまご」、「御先祖様万々歳」、「GHOST IN THE SHELL」、「イノセンス」、「スカイクロラ」、みんなそうじゃないか・・。
そしてこの「AVALON」はこのテーマのど真ん中に位置する作品であって、押井作品史の中でも絶対に無視できないもののひとつである。
一種の完成形?
「草薙素子のリアルを一度見てみたい!」

という人は、ぜひ「AVALON」をどうぞ。
・・えっ?
ハリウッドが実写版「GHOST IN THE SHELL」を作ってるって?
いやいや、スカーレット・ヨハンソンのやつだろ?
スカーレット・ヨハンソンはねぇ、
なんか色々<情報量>テンコ盛りすぎるわ・・


元々がフェロモン系の女優ですからね。

・・もう、この柔らかそうなカラダ↑↑というだけでノイズなのよ。
少佐のカラダは、これぐらいカッチカチ↓↓じゃないと。


基本、「キレてるよ!」「仕上がってるよ!」と声をかけたくなるタイプのカラダである。
もちろん、欲情の対象にはならない。
ゴリラに欲情するのは、やはりゴリラ(バトー)だけである。
その点でいうと、
「AVALON」の女優さんはノイズが全く無くてよかったと思う。

というわけで、「AVALON」未見の方は是非一度ご覧ください。
押井監督はこういう「完全にコントロールした映像」になると、それが仮に実写であっても非凡な作品に仕上げますね。
ただ「イケるじゃん」と思って色々手を出すと後悔しますので、とりあえず「AVALON」だけでとどめておいてください(笑)。


