「惑星ソラリス」が日本のSFアニメに与えた影響
昨年のことですが、「SFマガジン」が<SFオールタイムベスト>という企画を10年ぶりに実施したことが少しばかり話題になったんです。
じゃ、そのランキングTOP10をまずはご覧いただきましょう。
<「SFマガジン」オールタイムベストSF>
【1位】ソラリス

映画化
【2位】プロジェクトヘイルメアリー

映画化予定
【3位】三体

ドラマ化
【4位】幼年期の終り

ドラマ化
【5位】ディアスポラ

【6位】星を継ぐもの

漫画化
【7位】夏への扉

映画化
【8位】火星の人

映画化
【9位】アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

映画化
【10位】ハローサマー、グッドバイ

私、いつも思うが、SF作家ってミドルネームにアルファベット一文字だけ真ん中に挿入してる人がやたら多くない?
アーサーCクラークとかジェイムズPホーガンとかロバートAハインラインとかフィリップKディックとか。
多分、そういうのに倣って藤子F不二雄先生も真ん中にF入れたと思うんだが、じゃ、逆に藤子不二雄A先生はなぜ真ん中に入れず、ケツにAを入れたんだろう?
・・ひょっとしたら、あれはA先生なりの
「僕がやりたいのはSFじゃないんです」

という意思表示みたいなものだったんでしょうか?
・・という話はさておき、今回話題として取り上げてみたいのがランキング1位の「ソラリス」である。
このタイトル、なんか聞き覚えあるでしょ?
そう、2002年にスティーブンソダーバーグ監督、ジョージクルーニー主演で映画化されましたよね。

だけど、これは2度目の映画化なんですよ。
本命は1972年版のコチラ↓↓です。
「惑星ソラリス」監督:A・タルコフスキー

カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ受賞
タルコフスキー、名前は聞いたことぐらいあるでしょ?
彼はソ連を代表する名匠の1人で、この「惑星ソラリス」はキューブリック「2001年宇宙の旅」と並ぶSF映画の金字塔です。
この人の影響を受けた日本人クリエイターは多く、その最たる人物といえばどう考えても彼でしょう↓↓
押井守

まぁ、私から言わせると押井さんは<和製タルコフスキー>だが、不思議と押井さん自身はなぜかその崇拝を明言してないんだわ。
それどころか、「あの人の映画は常にタルいよねw」とか言ってるし・・。
とはいえ、彼の「天使のたまご」は、明らかにタルコフスキーの文脈で構築された作品だと思う。
最も分かりやすいのは、特にラストの締めくくりだね。
「惑星ソラリス」ラストシーン

これは「惑星ソラリス」の有名なラストシーン。
上空からのショットで画はどんどんズームアウトしていき、「今、主人公がどこにいるのか」というのが俯瞰で徐々に見えてくるギミックである。
・・これって、「天使のたまご」のラストと全くの相似じゃん?
「天使のたまご」ラストシーン

この「天使のたまご」でも、ラストは上空からのショットでどんどんズームアウトしていくにつれ、この場所の真のカタチが俯瞰で見えてくるギミックとなっていた。
・・まぁ、これは「ソラリス」のオマージュで間違いないわ。
というか、この作品は全体的な空気感からしてタルコフスキーっぽいんだよね。
これは、純粋に押井さんが彼を敬愛しているからそういう作風にしたんだという説と、実はあともうひとつ、「宮崎駿がタルコフスキーを絶賛してた」という情報を前から押井さんも聞いてたもんで、敢えて巨匠に気に入られるよう作風をそっち側に寄せてみた、という説もあるんですよ。
ちなみに本作の試写会終了後、巨匠からは「こんなの作って、あなたアタマがおかしい」と言われたらしいですけど・・(笑)。

あと、「ビューティフルドリーマー」の最後もまた「惑星ソラリス」の文脈なんですよ。
あの作品、エンディングでグ~ッとカメラがズームアウトして、校舎の全体が最後にようやく見えるパターンでしょ?
・・そこで、みんな初めてハッとするんだよね。
「こ、校舎の階が・・
これ、完全にまだ夢の中やん!」

そう、この時から既に彼は「タルコフスキー技巧」を使ってたということ。
この<脱出したようで実は脱出してない>ギミックは、完全に「ソラリス」そのまんまじゃん?

<「惑星ソラリス」ストーリー概要>
地球から遠く離れた惑星ソラリスは、海と雲に覆われた神秘的な星である。
その海は「生きている」「知性がある」とも報告され、地球科学者グループはそこに観測ステーションを作り、長期間その海の研究を続けてきた。
しかし成果は何ひとつなく、研究を継続するか否かのジャッジの任を受け、主人公はその惑星ソラリスに初めて赴くことに。
するとステーションに入って間もなくのこと、なぜか主人公のもとにかつて死んだはずの自分の妻が現れて・・。

この作品、ストーリー的にはまるでホラーなんだが、でも、そういう怖い系では断じてないんですよ。
ちゃんとSFですから。
カギは、やはり「海」なんですね。
これ自体が、どうやら知的生命体らしい・・

この「海」に類似したものとして、皆さんもご存じのアニメ作品からこれらの地球外生命体を思い出してみてください↓↓
「蒼穹のファフナー」:フェストゥム

「エウレカセブン」:スカブコーラル

「シドニアの騎士」:ガウナ

これらも、なんだか無形のよく分からん生命体でありつつ、ちゃんと知性があったでしょ?
で、人類とのコンタクト用としてヒト型の端末を生み出したりしてました。
たとえば「エウレカセブン」では、それがヒロインのエウレカだったわけです。

こういう<無形の知的生命体>⇒<ヒト型の端末を顕在化させ、人類と接触する>的パターン、今じゃ定番のこの展開、それら全てのルーツになってるのが、やはり名作「ソラリス」ということなんでしょうね。
で、こういうルーツとなった古典だからこそ、昨年の<オールタイムベストSF>でも第1位に選ばれたということなんでしょう。
こういう原典は、やはり見ておくに越したことはない。
さて、実をいうとタルコフスキーにはあともうひとつ、古典SF名作があるんですよ。
「ストーカー」(1978年)

前述した、宮崎駿が絶賛した作品というのは、これのことなんですわ。
なお本作は一昨年、2024年にローリングストーン誌(アメリカ)が発表した「史上最高のSF映画ベスト150」にて第2位に選ばれたんですよ。
【1位】2001年宇宙の旅

【2位】ストーカー

【3位】未知との遭遇

【4位】ブレードランナー

【5位】エイリアン

超有名なハリウッド作品の中で、第2位だけソ連作品というのが妙に違和感あるんですけど?
また、この「ベスト150」ランキングには日本作品も5つだけランクインをしてますので、ついでにそれもご紹介しておきます。
【32位】AKIRA

【37位】ゴジラ

【72位】GHOST IN THE SHELL

【80位】鉄男

【84位】パプリカ

ちなみに、前述「惑星ソラリス」は第20位でした。
<「ストーカー」ストーリー概要>

で、この「ストーカー」もまた「ソラリス」とよく似た系統の話。
「ソラリス」の場合は「海」が謎めいた存在だったが、この「ストーカー」の場合は「ゾーン」という場所(謎の隕石?もしくはUFO?が落ちた場所)が妙なパワースポットになっていて、なんか超常的なことが次々に起きるという展開。
ただ、この作品は社会的メタファーが込められてる分、「ソラリス」よりもさらに難解な作りなのね。
そもそも主要登場人物が男3人なんだが、この3人が全員ハゲてるので最初のうちはハゲの見分けがつかんという難解さもある(笑)。



で、このゾーンの中の「部屋」という聖域に入れば「何でも願い事が叶う」という設定になっていて、「・・なるほど、3人とも毛が生えるように願うんだな?」と思いながら私は見ていたわけだが、果たしてクライマックス、3人の毛は生えるのか?
・・というストーリー展開では全然ありませんでした(当然だね)。
で、この映画は164分という長尺なんだが、そのうちの大半の時間はハゲ3人でゾーン内をウロウロしてるだけなのよ。
いや、それだけならまだしも、この映画はワンカット長回しが異様なほどに多いんです。
普通、アニメのワンカットって平均4~5秒なのね。
実写映画だともう少し長くて、でもせいぜい平均10秒前後?
だけど、タルコフスキーは平気で2分以上を連発する!

この単調な長回しのせいか知らんが、この映画はめっちゃ眠くなります!
宮崎駿は絶賛したというが、いやいや、あんたも絶対に途中で寝とるやろ!
・・そういえば、このタルコフスキーの退屈なワンカット長回しをわざわざアニメに導入しようとした物好きな監督さんが実は1人いました。
その監督さんって、誰だか分かります?
はい、(案の定)この人なんですけど・・

この和製タルコフスキー、2008年「スカイクロラ」という作品で、アニメとしては規格外というべきワンカット長回しに挑んだわけさ。


結果、「スカイクロラ」は途中で寝オチした人がやたら多かった・・という話を聞きます(笑)
・・やっぱね、タルコフスキー流は日本人には敷居が少し高いですよ。
いや、ホンモノの映画通(それこそ押井さんクラス)がこういうのをイイとするのは分かるにせよ、少なくとも私みたいなエセ映画ファンには少々荷が重い。
私は、正直「ワンカット5秒」で十分ですわ。
どうも映画通いわく、「5秒ぐらいじゃ<芝居>をするには不十分」らしいんですけどね・・。
いや、そりゃそうでしょうけど。

まぁ「ストーカー」はともかく「ソラリス」の方はまだ見やすいので、今回は「ソラリス」のみ私からのお薦めとさせていただきます。


