押井守の作品を「つまらん・・」という人が多い理由
つい先日のことだが、「GHOST IN THE SHELL OFFICIAL CHANNEL」に「押井守監督に30の質問聞いてみた」という動画がアップされた。

興味ある人は直接動画を見てもらった方が話は早いだろうが、まぁこれは「GHOST IN THE SHELL30周年企画」としてのファンサービスだろうね。その質問内容は「朝はパン派?ごはん派?」みたいな「それ聞いて誰得?」的なやつもあるにせよ、個人的には結構興味深い内容でしたわ。
私が面白かったのは「過去に全く仕事のオファーが来なかった時期」の話題で、それは具体的にいうと
①「天使のたまご」の後の3年間
②「スカイクロラ」の後の3年間
という2度ほどあったらしい。
「この時期は辛かった」と・・。
で、正直なところ、①については本人も「自業自得」と納得したらしいが、もうひとつの②の方については本人的に「??」というものだったらしい。
・・そう、実は押井さんにとって「スカイクロラ」は自信作だったんですよ。
実際、彼はこのインタビューの中でも
「(これまで自作の中で)<世界観>を究極にやれたのは『スカイクロラ』だと思ってる」

と語っていました。
実は、彼にとって「納得の一作」だったんだね?
というわけで、今回はこの「スカイクロラ」を取り上げてみようと思う。
「スカイクロラ」(2008年)

先ほど「『スカイクロラ』の後、押井さんに3年仕事が来なかった」という件を書いたけど、そのへんの理由はかなり明確で、実のところ本作は興行的に大きくコケてます。
前作「イノセンス」が10億だったのに対し、「スカイクロラ」は7億。
・・そう、押井さんってネームバリューある割に、興収の方はイマイチの人なんだよね。
皆さんはこの作品、視聴済みですか?
もしも未見の方がいらしたら、YouTubeで無料動画が視聴可能ですので一度ご覧になってみてください(「The SkyCrawlers legendado」で検索)。
ご覧になれば、「うん、確かに7億は妥当だな・・」と十分に納得できると思います(笑)。

とはいえ、これ決して駄作ではないんですよ。
それこそ、押井さんの言う通り世界観はバッチリだし、映画としての評価は決して低くない。
でも、アニメの文脈から乖離し「映画すぎる」ところが押井さんの昔からの悪い癖である。
だから「アニメ好き」には全く刺さらず、「映画好き」の方にのみ刺さるんだよね・・。

で、この「スカイクロラ」における最大の特徴は「押井作品史上、最も西尾鉄也色が強い」という点かな?
いつもなら、沖浦/黄瀬/西尾という「ProductionI.G三大神」による作監三頭体制が押井流なのに、今回に限って「西尾1人作監」という珍しいカタチである。
なぜそうなったかというと、どうも制作の時期がマズかったというべきか、他社の大型作品と思いっきりカブったみたいなんだよね・・。
ひとつは劇場版「エヴァ」で、もうひとつがNHKアニメ「電脳コイル」。
特に「電脳コイル」の方は「あの磯光雄さんが遂に監督をやるぞ!」というアニメーター的にも「これは行かねば」的なビッグイベントだったらしく、巧いアニメーターさんたちを皆そっちに取られてしまったらしい。
・・で、流れ的には「向こうが済んで皆がこっちに合流するまでの間、西尾1人で頑張って!」っぽいノリだったみたいだね(笑)。

そういう流れもあってか、この作品はほぼ「西尾成分100%」で仕上がっており、その顕著な例が主人公ユーイチのキャラデザだろう。

これ、昔西尾さんがやってた「NARUTO」のサスケやん!

全般的に、いつものProductionI.G的キャラデザとは少し異なったテイスト。
個人的には嫌いじゃない。
で、この作品のストーリー的には
【舞台】
世界平和維持の為、「TVショー」としての戦争をテレビの中継で大衆に視聴させている社会(大衆の戦争への欲求を解消するのが目的?)
戦争は戦争代行業の企業同士で行われている。

【登場人物】
「キルドレ」という不老不死の特殊体質をもつ男女がメインキャスト。
彼らは十代半ばで成長が止まり、以降は齢をとることがない。
彼らは皆、戦争代行業者に戦闘機パイロットとして雇用されている。
彼らは戦争による「戦死」はするが、なぜかその後、その戦死者と全く同じ容姿、同じ性格のキルドレが追って補充されるのが常(もともと不死ゆえ、蘇生するのか?)。
ただし、その補充者に過去の記憶は無く、つまり先の戦死者とは別人という扱いになってるんだが、このへんの輪廻システムの詳細は謎である。

結局のところ、よく分からないオハナシなんです。
戦争⇒戦死⇒輪廻(リセット)⇒戦争⇒戦死⇒輪廻(リセット)
というループを延々繰り返すキルドレの虚しさを描いたドラマであり、物語に大した抑揚はなく、途中で退屈に感じる視聴者も多いだろう。
この作品、ループ系の物語として「ビューティフルドリーマー」の延長線上と捉えた人もいるだろうし、あるいはキルドレという<ゴーストをダビングした人形>のニュアンスから「イノセンス」の延長線上と捉えた人もいるに違いない。
まぁどっちにせよ、押井さんならではというべき世界観。
しかし、
「押井守の映画って、毎回つまらなくね?」

という人たちは一定数存在する。
多分だが、押井さん自身もそこは自覚してると思う。
で、これについては前述の「30の質問」動画とはまた別のやつだが、彼が自分の監督術について語る動画の中に幾つか興味深い話もあったのでひとつご紹介しておきたい。

この動画の中で彼が最初に語っていたのは、映画の3大構成要素である
・キャラクター
・物語
・世界観
のことについて。

以前、彼がジェームズキャメロンと話をしてた際、キャメロンは
「第一にキャラクター(スター俳優)、第二に物語(面白い脚本)
この優先順位を守らないとハリウッドでは必ず失敗する」
と断言していたらしい。
彼の言わんとしてることは、分からんでもないよね。
だけど押井さんの考えは少し違うみたいで、たとえば「スカイクロラ」では下の図のイメージなんだよ。
<世界観>

<キャラ> <物語>
押井さんにとっての「3大構成要素」のイメージは、常に正三角形のカタチであるらしい。
つまり「スカイクロラ」の場合は観客側から一番近いところに<世界観>がある一方、エンタメ要素となる<キャラ>や<物語>は深層の方にあるわけね。
ちゃんと掘っていかなきゃ面白さが見えてこない感じ?
このへんは、ハリウッド式と真逆の構造といっていいだろう。
おそらく、この世の八割方の人たちはハリウッド式支持派だし、そう考えると「押井守の映画って、毎回つまらなくね?」という人たちの感性は極めてノーマルということかも。
ただ、「自分はつまらなく感じる」⇒「この作品は駄作」というほど単純な話ではないことだけは一応ご理解ください。
こういうのは映画の構造上の話ですから・・。
また、この動画の中で押井さんは「自分のアタマの中の3つの分類」という少し奇妙な話をしてくれている。
アタマの中とは、つまり彼のアイデアの源泉という意味なんだろうが、そこには本棚のように知識・記憶が3つに分別されるカタチでストックされてるのだという。
<押井守のアタマの中の3分類>
①「鳥」

②「犬」

③「魚」

・・なんか、ワケ分かりませんよね(笑)。
でも実際、押井さんは自宅の本棚も「歴史」「政治」「人文」「科学」などのカテゴリーで本を分けたりせず、「鳥」「犬」「魚」の3つのイメージで分けてるらしくて・・。
なお、こういうのはあくまでイメージ論であり、
①「鳥」⇒神(宗教系)
②「犬」⇒政治、歴史、経済(現実系)
③「魚」⇒無意識(①②に分類不可のもの)
というカテゴリーになってるらしいぞ。
付け加えて、こういうのは本の分類のみならず、
「僕は、ありとあらゆることを『鳥』『犬』『魚』という3つで分けて捉えている」

と仰っていました。
なるほど、そういうことなら彼のこれまでの作品群も「鳥」系、「犬」系、「魚」系の3つに分類できるんでしょうね。
・・じゃ、今回の懸案である「スカイクロラ」はどれに該当するのか?

作中には「鳥」も「魚」も出てこず、ただ時々「犬」が出るばかりである。
・・じゃ、これは「犬」系作品?
と言いたいところだが、でも本作は<空>がひとつの大きな題材であって、私は【戦闘機=鳥】と意訳して
これは「鳥」系作品

すなわち、押井さんにしては神様(宗教)寄りの作風になってると解釈しますよ。

そもそも押井作品ってやつは、掘ってナンボのものさ。
で、そのシステムに適応さえしてしまえば、この「スカイクロラ」にしても実は面白い作品ですから。
未見の方は、変に食わず嫌いにならずご覧になってみてください。
あるいは「鳥」「犬」「魚」を鍵に、過去作をイチから洗い直してみるのもいいかも?

