天才/石ノ森章太郎が描いた「仮面ライダー」について
今回は、「仮面ライダー」について書いてみようと思う。
おそらく日本人で「仮面ライダー」を知らん人はほぼ皆無だと思うが、その割に大体の人が肝心のストーリーをふわっとしたイメージでしか捉えられていないものである。
「世界征服を企むショッカーの野望を阻む為、正義のヒーロー/仮面ライダーが彼らの送り込んでくる怪人たちと日々闘っていく物語」
ぐらいの理解しか正直してないよね?

まぁ、確かにその解釈で概ね間違ってはいないんだが、じゃ「ショッカーというのは何?」「彼らの目的は?」という質問に対して明確に答えられる人はかなり少ないと思う。

多分、この作品の「原典」的ポジションにあるのが石ノ森先生が描いた漫画版「仮面ライダー」だと思うが、実は、これが意外なほど短い作品なのね。

「原典」そのものは、僅かに全4巻とやら?
いや、その後には様々な作家さんがこの「原典」を基礎にして解釈を広げてくれてるわけだが、まぁ、それはそれとして、まず我々はこの「原典」からきちんと履修しておく必要があると思う。
きっと「仮面ライダー」シリーズそのものは今後50年、100年と続いていくコンテンツだろうし、我々オトナの役割はその基礎をこれからのコドモたちに正しく伝承していくことだと思うからね。
実は、結構いいテキストがあるんですよ。
それは1999年に制作された、「まんがビデオ/仮面ライダー」である。

「まんがビデオ」、これアニメーションのことではありません。
ぶっちゃけ、石ノ森先生の描いた漫画に声を当ててるだけのやつなんだが、たとえば主人公/本郷猛の声を当ててるのが俳優/藤岡弘さんだったりするので、これが結構スグレモノ。
じゃ、本編を見ていただきましょうか↓↓
・・はい、これを見ていただければ「原典」の概要をひと通り把握できると思います。
じゃ、「原典」の概要を少しまとめてみましょう。
<原典「仮面ライダー」の概要>
・本郷猛がショッカーに拉致されてバッタ怪人に改造されてしまうものの、洗脳前に施設を抜け出し、追跡してくるショッカーと戦闘になるという展開は「サイボーグ009」と全く同一。
・元ネタは明らかにアメコミの「バットマン」であり、富豪の青年/本郷猛が老執事/立花藤兵衛の協力の下、本郷家の財力を使ってショッカーと戦うという作劇になっている。
・ショッカーが一体どういう組織なのかは明確になっていないが、その黒幕が日本政府そのものであることは明確で、「洗脳による国民統治」を目的としてるっぽい。
・物語途中で本郷猛はショッカーに倒されてしまい、代わりに洗脳が解けた元ショッカー/一文字隼人が2代目ライダーとなる。
なお本郷は脳だけの状態だが生き残り、本郷家の研究室に保管される。

こうして見ると、テレビ版のやつとはだいぶストーリーが違うね。
なお、この漫画版とテレビ版は同時スタートだったらしく、2つのどっちが「正典」なのかは明確になってない。
昔は、こういうストーリーを全く共有しないメディアミックスが結構あったんです。
「デビルマン」もそうだよな?
まぁ私の場合、「デビルマン」も「仮面ライダー」も漫画版の方が「正典」だと捉えてる派だが(別に、それが正解とはいいませんけど)。
しかし、漫画版の方が正直エグイ内容ですよね・・。
特に主人公/本郷が脳ミソだけの状態になるくだりとか、多分これコドモ向け少年誌の連載だっただろうに、「先生、この表現はちょっと・・」とか言う編集さんは当時いなかったのかな?
当時のコドモたち、トラウマにならなかったかと少し心配になるわ。
まぁ、永井先生の場合も同様なんだけどさ。

そして、石ノ森先生が描いたショッカー。
テレビ版のやつは、漠然とした「世界征服を企む悪の秘密結社」という感じだったが、そもそも「世界征服」という概念が意味分からんって・・(笑)。
その点、漫画版の場合はもう少し突っ込んでいて、具体的に「日の下電子」という企業名が出てきたり、またその企業が日本政府と癒着してる構造まで明らかにされている。
石ノ森先生の設定では、ショッカーはいわば「体制側」だということだね。
果たして先生に左翼的思想があったのかまでは知らんが、少なくとも「仮面ライダー」の根底には反権力の意思が込められてるみたい。
そして、漫画版のラストで一文字が対峙した相手は「怪人」じゃなく、巨大コンピュータ(AI)のヒト型端末っぽい奴だった。
実はラスボスがAIって、これ「サイボーグ009」のブラックゴーストと全く同じである。

石ノ森先生、脳ミソ描くの好きやなぁ・・(笑)
本郷猛が脳ミソなら、ブラックゴーストも脳ミソかよ。
・・ようするにショッカーがやろうとしてたことって、世界中の人々の脳のハッキングだったんですよね。
こういう設定は、後に神山健治が「攻殻機動隊」の中で同じことをやってたし、ある意味で石ノ森先生の発想はかなり先進的だったといえるんですよ。

そして、2023年に庵野秀明がリブートした「シン仮面ライダー」。
これ、映画としてはあまり評価されなかったけど、でも設定の作り方とかはめちゃくちゃうまいんですよ。
さすが庵野さん、という感じである。
現在に至るまでの壮大な「仮面ライダー」シリーズの流れは完全無視して、庵野さんが今回やったのは純粋に「石ノ森版」限定のリブートである。

私が特に「庵野さん、うまいなぁ」と思ったポイントは、やはりショッカーの設定だわ。
ここを安易に「悪の秘密結社」などにせず、彼らなりの「大義」がある、という設定にしたんだよね。
まず、ショッカーの首領が「アイ」という世界最高の人工知能で、そのアイには「人類を幸福に導くこと」が最重要の命題としてプログラミングされてるらしいのよ。
で、その世界最高知能による演算で導き出した「最大幸福への最適解」は、最も不幸な人たち(絶望した人たち)を救済する、というプランだったわけね。
で、それが具体的には「最も絶望した人たちにチカラを与える(改造人間にする)」というカタチになっていて・・。
社会的弱者(つまり私たち?)にチカラを与えたら一体どうなるのか?
という顛末を、我々にイヤというほど見せつけてくれる。


もう、これだけで普通に面白いじゃん?
というか、ここをドラマとして掘り下げればもっと面白くなったのは間違いないんだが、いかんせん2時間足らずという尺では全然掘り下げれなかったよね・・。
モッタイナイ。
もう少しバトルシーン削ってでも、ちゃんとドラマを描けばよかったのに・・。

で、ラスボスの森山未來は「全人類が肉体を捨て、魂となって別空間で融合する」という幸福実現を目指している。
まぁ、例の「エヴァ」の「サードインパクト」みたいなやつですわ。
結局、「エヴァ」だろうが「仮面ライダー」だろうが最後は同じ話になってしまうところを見るに、よっぽど庵野さんにとって「サードインパクト(魂と魂の融合)」ってやつは最重要テーマなんだろう。
なんか、このへんは彼の心の奥底の闇のようなものを感じさせてくれますよね・・。

私が思うに、庵野さんが「仮面ライダー」に惹かれてるのはそのカッコよさなどでなく、それより主人公のどうしようもない暗さ、そして物語における闇の深さの方なんじゃないの?

・・いや、そうは言っても庵野さん自身は決して「暗い人」ではない。
誰もが「明るい人」「いい人」だと証言している。
しかし、その一方で彼は子供の頃、父からDVを受けてたとも聞くし、また、母からは「産まなきゃよかった」と言われたこともあったらしいぞ?
おそらく、何らかの心の傷を奥底に抱えていることは事実だろう。
・・なら、今の庵野さんの普段の明るさは一体何なのかといえば、
多分、それこそが「仮面」ですよ・・

庵野さんって、いわばリアル仮面ライダーなんでしょうね(笑)

こういう「自分と自分の作品のキャラを重ね合わせちゃう」という作家性、 似たところでは富野由悠季もまたそうなんだが(彼の場合はシャアだね)、庵野さんと富野さんの共通項は、ともに「鬱病を発症した」という点であることは皆さんもご存じの通り。
・・そう、だからこういう作家性の人は危険なのさ。
仮に作品ディスられりゃ、それは自分の「仮面」の内側を否定されることにもなっちゃうし・・。
思えば、こういう「私小説」系ってのはもともと文学発祥のものだよね。
たとえば
・太宰治「人間失格」
・三島由紀夫「仮面の告白」

でも結局のところ、
太宰も三島も、2人とも自殺という最期だったんですよねぇ・・

・・いや、縁起でもない話をして申し訳ありません。
でもね、実際庵野さんは今まで何度か自殺未遂をしてるよ?
90年代に一度、あと2010年代にも一度。
あと、これは完全に私の憶測にすぎないけど、多分2020年代にも一度やってる可能性あると思うんだ。
昨年に発表された庵野さんの左脚複雑骨折

ちなみに、2010年代にも複雑骨折・・

スポーツ選手でもないオッサンが、そう何度も複雑骨折なんてしますか?
・・考えられる原因は、そう多くはないですよね?
特に庵野さんの場合、分かりやすいんですよ。
「エヴァQ」ファンから酷評⇒庵野、なぜか骨折・・
「シン仮面ライダー」ファンから酷評⇒庵野、なぜか骨折・・
正直、私は庵野さんのことを「令和の太宰」と呼びたいほどだわw


だから基本、庵野作品の本質は太宰治みたいなものだと思ってください。
そこを履き違えて変に「エンタメ」を求めたりするから、評価が下にブレてしまったりもするんです。
できればそこを踏まえて、是非「シン仮面ライダー」を再視聴していただければと思う。
ポイントは、【仮面ライダー=庵野秀明】として見れるかどうか、だよ?
そこをきちんと押さえて見れば、実はこの作品、そこそこ良作だということをご理解いただけると思うんだが・・。


