庵野秀明監督史上、最もHAPPYな作品「流星課長」
今回は、今さらながら庵野秀明のことについて少し書いてみたい。
庵野秀明(1960年生まれ)

・・といっても、この人のことはこれまで散々語られ尽くしてきた感があるよね。
ウルトラマンとか、仮面ライダーとか、ゴジラとか、宇宙戦艦ヤマトとか、デビルマンとか、ようするに70年代のコンテンツ群(漫画/アニメ/特撮)に作家性のルーツがある人なんでしょ?というのが皆さんの共通した認識だと思う。
まぁ、それはそれで概ね間違ってないが、ただ意外と皆さん見落としがちな「もうひとつの作家性のルーツ」というのも実はあるわけで、今回はそれについて少し触れていきたい。
・・じゃ、庵野さんを語るにおいて、皆さんが見落としがちな作品をふたつほど挙げさせてもらうね。
2002年監督/脚本作「流星課長」

2010年プロデュース作「監督失格」

庵野ファンなら、このふたつの作品はどうしても外せないと思う。
・・といいつつも、あまり語られることが多くはない2作品である。
なぜなら、この作品が「アニメ/特撮」じゃないからだろう。
ゆえに、これらの作品に庵野さんが関わったことで皆さん「??」となり、何だか理解不能ゆえ、脳内の「庵野秀明」というカテゴリーの分類から自然に削除しちゃってるんだよね(笑)。
ぶっちゃけ、それはコレ↓↓についても同じことがいえるのかもしれない。
1998年実写監督デビュー作「ラブ&ポップ」

・・いや、逆にこの3つを並べることにより、庵野さんの「もうひとつ」の輪郭がむしろハッキリと見えてくるんじゃないか?
「流星課長」⇒しりあがり寿、松尾スズキ(劇団大人計画)
「監督失格」⇒林由美香、アダルトビデオ
「ラブ&ポップ」⇒村上龍、ギャル、援助交際
そう、これらは全て同一の<時代>で繋がってるんですよね。
1980年代後半から1990年代前半にかけての約10年間、つまり分かりやすい言葉でいうと<バブル時代>ってやつですわ。
庵野さん自身のキャリアでいうと、ちょうどこの頃ぐらいに大阪から東京に出てきて、ガイナックスを立ち上げて仲間たちとワチャワチャやってた時代である。
上京から「エヴァ」(1995年)に至るまでの約10年間、ひょっとしたらだがこのあたりが彼にとって「一番楽しかった頃」なのかもしれない。

もちろん、もうひとつの「楽しかった頃」をいうと、それは仮面ライダーやウルトラマンに夢中になってた少年期ということになるわけで、つまり彼の中では<少年期><青年期>という2つの「楽しかった頃」があるわけよ。
・・で、彼が作品に<自分>をまるごと乗っけてしまう作家だということは皆さんもよくご存じでしょ?
だけど、多くの人が<少年期>軸でしか庵野作品を解釈しようとせず、もうひとつの<青年期>軸の方をなぜか無視してるし・・。

じゃ、この<青年期>軸の作品の本質が何かというと、「上京してきた庵野さんが目撃した東京」、そのものである。
バブルという時代そのもの、といってもいいのかもしれん。

バブルというと、こういうパリピ↑↑が踊ってるのをイメージする人が意外と多いんだが、それ、ちょっと違うんだよなぁ。
バブルというのは、実は「サブカル」が萌芽した時代なのよ。
ただ、ここでいう「サブカル」は現在普通に使われてるサブカルという語彙のニュアンスとは少し違う。
「メイン」に対する「サブ」、つまり一種のカウンターカルチャーみたいな意味合いがあったんだよね。
たとえば、少年ジャンプのような「メイン」の漫画文化に対する「サブ」として、前述のしりあがり寿先生などが出てきたんです。
しりあがり寿「エレキな春」(1985年)

でさ、メジャーな漫画読んでるより、こういうの読んでる方がカッコいいとされる時代だったんだ。
あと代表的なところでは女性漫画家で岡崎京子先生とかがいて、思えば庵野さんの奥さんである安野モヨコさんは岡崎京子直系のお弟子さんだし、彼女もまた、完全に「サブカル」畑出身なんだよね。
大人計画(1988年~)

で、芸能関係ではテレビに出てる俳優さんより舞台の役者さんを知ってる方がカッコいい、とされたのがバブル期の特徴。
その代表的なところが、前述松尾スズキさん主宰の「大人計画」だった。
今じゃ、ここの看板である宮藤官九郎/阿部サダヲがやたらメジャーになってしまったが、バブル当時はまだ知る人ぞ知るという存在で、明らかに彼らもサブカル側の人だった。
女優/林由美香

そして、このバブル期に勃興したムーブメントのひとつにアダルトビデオがあり、前述林由美香さんはその黎明期のスターのひとりである。
知らない人は全く知らない、でも知ってる人はめっちゃ知ってる、そういう意味では彼女もサブカル的存在だったのかもしれないね。

庵野さんが、なぜ彼女を主人公にドキュメンタリー映画「監督失格」を企画したのか詳細は知らんが、それにしてもドキュメンタリーの終盤でヒロインの由美香さんが謎の死を遂げてしまうというプロットには当時マジでドギモを抜かれましたわ・・。
彼女の遺体発見の時の戦慄が生々しく記録されており、こんな映画は世界でも類を見ないんじゃないか?
・・多分、彼女の死がその後の庵野さんに与えた影響は限りなく大きかったと思う。
バンドブーム/インディーズブーム到来

そして、何よりバブル期で最も目立ったムーブメントは音楽だったというのは間違いないんだよね。
それもテレビに出てるような歌手の流行の楽曲より、インディーズのバンドを聴いてる方がカッコいい、という妙な時代だったわけで。
上の画像は「有頂天」というインディーズ御三家の一角を占めてたバンドだが、今は知らん人の方が多いかも・・。
このバンドのリーダー/ケラさんが「ナゴムレコード」というレーベルを主宰し、その「ナゴム」から出てきたのが後の電気グルーブなんですよ。

・・で、80~90年代におけるバブルの流れ、何となく空気感をお分かりいただけました?
思うに、このバブルという文化において、最重要の概念とは「カッコいい」なんです(笑)。
じゃ、何をもって「カッコいい」とするのかということだが、分かりやすくいうと「多くの人が知らないことを知ってるのがカッコいい」という感覚で、たとえば周りで皆が「バックトゥザフューチャー」の話をしてるけど、あんなのよりは「ブレードランナー」や「未来世紀ブラジル」の話をしてる俺たちの方が絶対イケてるよね~、みたいなイメージですわ(笑)。
「ブレードランナー」(1982年)

「未来世紀ブラジル」(1985年)

・・じゃ、そういう人たちは「オタク」なのか?といえば、いやいや、実はここが非常に難しいところ。
私の解釈では、サブカル系の人たち全てがオタクじゃないんですよ。
たとえば、インディーズバンドに夢中になってる層はオタクではなく非オタなんです。
つまり、同じサブカル畑にもオタク/非オタの2種類の人種が存在してたんですね。
ただ、最初は分離して捉えられてたこの2種類の人種が、時代を経るごとにボーダーがだんだん曖昧になってくるのが興味深い。
そして、その象徴ともされるのが
2002年庵野(オタク)安野(非オタ)が結婚

さらに、そのエポックというべき2002年に公開された作品がコレ↓↓です。

この作品はね、いわば80~90年代バブルから勃興した「サブカル」組、その中のオタク/非オタの融合と解釈すべき、なかば<同窓会>ムービーなんですよ。
監督/脚本:庵野秀明
画コンテ/演出捕:摩砂雪
<出演>
流星課長:松尾スズキ
マリア:小日向しえ
乗客⑦:安野モヨコ
乗客⑬:樋口真嗣
酔っ払いの乗客①:井口昇
酔っ払いの乗客②:しりあがり寿
エキストラ:ガイナックス、スタジオジブリのスタッフ等

まず、冒頭から流星課長が読んでる本が村上龍「五分後の世界」という時点で既に面白い。

もう、このへんが庵野さんの大好きなアクション(仮面ライダー)そのものなんですよね。


実際の映像化では、めっちゃチープな特撮やCGによる表現なんですけど、個人的にはこういうの嫌いじゃないです(笑)。


いやホント、庵野さんはつくづく鉄道が好きだよねw


いつも庵野さんは鉄道を「もの悲しさ」のモチーフとして挿入してくるわけだが、しかし、この「流星課長」では例外的に鉄道を「ギャグ」のモチーフとして使っている。
特にラストなんてビックリするほどのハイテンションで、庵野作品としては異例ともいうべき超HAPPYな締め方なんですよ?


多分だが、この頃は精神状態が良かったんだろうなぁ~。
なんせ、2002年は結婚した年ですからww
今後の彼に「流星課長」以上のHAPPYな作品を作れるのかというと、きっともう無理でしょう。
自分が大好きな電車という器に、自らの青春、80~90年代バブルの煌めき(しりあがり寿や大人計画/松尾スズキや安野モヨコ)を詰め込んだ、まさに夢のような作品。
それが「流星課長」である。
これをまだ未見だという方は、ぜひ一度ご覧いただきたい。
複数のサブスクで配信されてるはずだし、仮に視聴環境になくともYouTubeで「RYUSEI KACHO」と検索すれば普通に視聴可能です(長さ13分のものが本編です)。
というわけで、今回は庵野秀明「もうひとつの軸」をご紹介させていただきました。


