「星雲賞」受賞SFをアニメで楽しもう
皆さんは「星雲賞」というのをご存じですか?
これは日本最古のSF賞であり、日本版ヒューゴ賞とも定義されています。
たとえば今話題の「プロジェクトへイルメアリー」などは、4年前の星雲賞を受賞をしてますよね。
まぁ何にせよ、この賞の動向を毎年チェックしておくことは時代のトレンドを把握する意味で、実はめっちゃ大事なことだと個人的には思っています。

で、これは日本SF大会参加登録者の投票により選ばれるシステムとなっており、まぁ正直なところ、これに投票する類いの人たちというのはオタクの中でも特にディープな第1層の人たちじゃないかな、と(笑)。
で、こういう集まりには一般人のレベルを遥かに超えた慧眼の人たちが実はたくさんいましてね。
そういう「本丸」には、さすがに私もついていけません・・(笑)。
ただ、こういう星雲賞の中でも一般人レベルが比較的入っていきやすいのが<コミック部門>だと思うし、今回はこれの受賞作品の中らアニメ化されているものをピックアップして幾つかご紹介していこうと思います。
じゃ、まずは星雲賞コミック部門における第1回受賞作品から。
「地球へ・・・」竹宮恵子
星雲賞コミック部門第1回(1978年)受賞

はい、もはや説明は必要のないほどの不朽の名作ですね。
アニメ化は1980年に劇場版が制作されており、今でもYouTubeで「地球へ」と検索すれば普通に視聴が可能ですので、未見の方は是非ご覧になってみてください。


で、これの原作の連載は1977年~1980年ということらしく、時期的にほぼ「ガンダム」とカブってます。
なんとなく、私の中で「地球へ」と「ガンダム」は構造が似てるのよ。
まず対立する2つの陣営という基本プロットがそうだし、そして「地球へ」ではミュウ、「ガンダム」ではニュータイプというように超能力者が物語の重要なカギになってる点とかさ。
竹宮恵子(1950年生まれ)

「地球へ」原作者・竹宮先生は1950年生まれであり、「ガンダム」富野さんと比較すると年齢では9歳下ということになる。
つまり、富野さんは「60年安保」を大学時代に迎えた世代であるのに対し、竹宮先生の方は「69年安保」を大学時代に迎えた人だということ。
「女性に左翼とかは関係ねーだろ?」と思い込んでる人も多分いるだろうが、そんなことはありません。
実際、大学時代の竹宮先生はどっぷり左翼系運動に参加してたらしいですし・・。
あ、同じ少女漫画家では池田理代子先生もそうだったみたいですね。
池田理代子(1947年生まれ)

そして面白いな~と思うのが、池田先生は「ベルサイユのばら」で<革命>を描き、また竹宮先生は「地球へ」で<革命>を描き、あと付け加えるなら富野由悠季も「ガンダム」で<革命>を描いたということです。
で、この3つの作品、ほぼ同時期に立て続けでアニメ化されましたよね。
1979年「ベルサイユのばら」アニメ化

1979年「ガンダム」アニメ化

1980年「地球へ」アニメ化

今思えば、この頃は<左翼>がアニメに満ちていた時代といえるのかな・・と。

そう、懸案の「地球へ」なんて、ほとんど左翼アニメだといっても過言ではないほどにその色が濃い。
そういや、富野さんは後の「逆襲のシャア」の中で一旦「アクシズ落とし」を仕掛けることにより地球から人類を追い出すという強硬策を示してたが、実は、それと全く同じ政策を竹宮先生もまた「地球へ」の中で示してるんだよね。
別に富野さんと竹宮先生はお互い影響し合ってる関係性ではないだろうに、でも実際にこうしてシンクロしちゃうというのは、やっぱりこれが<左翼>なんですよ。

ただ、設定のSF性という点では、やっぱ竹宮先生の方が一枚上手かな?
なんせ、こっちは「AI管理社会」という、まさにディストピアの本丸まで足突っ込んでますから・・。
70年代でこれを示したのは、日本サブカル界でもかなり早い方だったのではないかと思う。
で、少女漫画界では、この竹宮先生と萩尾望都先生が70年代からハードSFの路線を示したことの影響もあってか、あとに続く世代の中からも傑作SFを描く先生が複数名、湧いて出てきたわけです。
実際、1993年の星雲賞はこういう少女漫画↓↓が選ばれました。
「OZ」樹なつみ
星雲賞コミック部門第24回(1993年)受賞

これ、オトコは大体知らんのだが、逆にオンナノコならば誰しもが知ってる名作でしょう。
「花咲ける青少年」「八雲立つ」などが有名な樹なつみ先生。
・・あぁ、確かSF系では「獣王星」というのが以前ノイタミナでアニメ化されてましたよね。

で、懸案の「OZ」についてだが、これはもう正真正銘の本格SFですわ。
星雲賞受賞も納得というレベル。
これもまた完全にディストピア系で、「地球へ」とはまた別のカタチだが、ここでもまたAIの存在が重要案件となってます。

で、男性諸君に少女漫画をお薦めするのはさすがにハードルが高い気もするので、とりあえずOVA(全2巻)の視聴をお薦めしておきますね。
YouTubeで「OZ OVA」と検索すれば普通に見られますので・・。
・・いや、もちろん原作ファンからすれば「このOVA、全2巻でまとめてるから重要な場面がめっちゃカットされとる」と不満なのは分かるが(それは前述した劇場版「地球へ」も同様)、でも、こういう少女漫画のアニメ化はまず男性にも見てもらって門扉を開けることこそが重要ですし。
私はこういうOVA、非常にありがたい企画だと思う。
ちなみにこのOVA制作はマッドハウスで、これの制作当時はまだ原作が完結してなかったのに、それを樹先生に頼み込み無理やりラストのラフを描いて送ってもらったという伝説のOVAである(笑)。
丸山正雄、ムチャするわ~。
しかし、確かにその甲斐あってラストシーンは美しい・・

で、この作品の中で描かれるAIはすなわちアンドロイドであり、今まさに議論されている旬の話題「AIに自意識は芽生えるのか?」というところのど真ん中をエグってきてる感じだね。
SFファン目線では、このAI描写のくだりがマジで面白い。
AIでありながら「死にたくない、生きたい」という生存本能があったり、あるいは新世代機種が旧世代機種を見下して俗っぽく優越感に浸るくだりがあったり・・。
さらには新世代の方がニンゲンに近い分、脆くて旧世代より弱かったりするところも他のSFではまず見られない設定だったりもする。
なるほど、AIが究極に進化してニンゲンに近づけば近づくほどに、それはアンドロイドとして逆にスペックがビミョーになっちゃうということ?
そこまでいけば、もはやそのAIはAIじゃなくニンゲンそのものだわ。

ちなみに、樹先生は1960年生まれの女性
竹宮先生より10歳下で、もう左翼思想もヘッタクレもないオタク第一世代である。
やっぱ、花の24年組(※昭和24年=1949年)とオタク第一世代(1960年代生まれ)の間には、何か見えない線がそこに引かれてますよね・・(笑)。
昭和の竹宮恵子、平成の樹なつみ
とはいえ、樹先生の場合は昭和の先人たちの得意とした文学性をしっかりと受け継いでるところに好感がもてます。

さて、最後は少女漫画から離れて、この作品↓↓をご紹介したいと思います。
「ヨコハマ買い出し紀行」
星雲賞コミック部門第38回(2007年)受賞

・・はい、私から見て「これぞ、星雲賞!」という感じの作品ですね。
ようするに、めちゃくちゃマニアック。
「こんな漫画、聞いたことない」という人もいる一方で、実はこれちょっとしたカルト漫画である。
一番分かりやすく表現するなら
この作品が「アポカリプスホテル」の元ネタだということですよ。

ようするに、終末設定の日常系。
「アポカリプスホテル」
地球を離れたホテル支配人を待ち続ける、留守番のロボット従業員たち

「ヨコハマ買い出し紀行」
どこかに行った喫茶店マスターを待ち続ける、留守番のロボット従業員

そうね、本来なら終末モノって殺伐したものになりがちだが、そこを敢えてノホホンとしたユルい雰囲気を醸し出していく、変化球的コンセプト?
似たようなところで、確かこういうのも↓↓ありましたっけ。
「少女終末旅行」

ちなみにですが、この作品もまた星雲賞コミック部門第50回(2019年)受賞をしてます。
・・あぁ、あと「終末」といえば、この作品↓↓も星雲賞だわ。
「けものフレンズ」
星雲賞メディア部門第49回(2018年)受賞

お分かりになります?
ようするに
星雲賞は、終末日常系が大好き!
ということなんです。
・・で、こういうタイプの先駆けでもいえたのが「ヨコハマ買い出し紀行」で、実はサブカル史的にとても偉大な作品として位置づけられています。

で、これもまたアニメ化されてOVA全2巻が出てますので、一度YouTubeで「ヨコハマ買い出し紀行」と検索してみて下さい。
なお、この作品の特徴は、「アポカリプスホテル」や「けものフレンズ」と比べて登場人物が少なく静かであることと、ホントに何ひとつ大したことが起きないというところですね。
ストーリーは正直退屈。
じゃ、そんな作品がなぜ星雲賞に選ばれるほど名作扱いされるのかというと
「描写のホントの意味が分かると実はコワい」

という、いわゆる「実コワ」系作品なんですよ。
しかも、そういう描写はさりげなく挿入されるだけで深掘りはされないし、ぼ~っと見てるような人は最後まで「ただの日常系」「退屈な作品」としか思わないでしょう。
いや、星雲賞に選ばれる作品って全般的にそういう傾向があるのね。
理解できる人には理解できるけど、理解できない人は「つまらん」と言ってただディスるのはいいとして、そういうディスってる様を見て「ぷぷっ」と内心で嘲笑してるのが星雲賞を選んだSFファン第1層の方々だということをお忘れなく・・(笑)。

