<怪獣>のプロが作った<魔獣>ファンタジー「クレバテス」
2025年夏クールのアニメの振り返りをひとつ。
夏クールでは「事前の予想より遥かに良かった」と思えた作品が個人的には3つあって、そのうちの1つがコレである↓↓
「クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者-」

ビジュアルを見た感じ、ごくありきたりな異世界ファンタジーである。
正直、こういうのは食傷気味だし・・と思い、敬遠した人も結構多かったんじゃないだろうか?
これ、一見「なろう」系に見えるが実はそうじゃなく、原作は岩原裕二先生の漫画である。
岩原先生はファンタジーよりもどっちかというとSF畑の人であり、過去にアニメ化された作品は、こんな感じです↓↓
「いばらの王」(2010年)

「ディメンションW」(2016年)

両作品とも難しい系のSFなんだが、とりわけ「ディメンションW」の方は落合陽一さんが
「ここまで設定を作り込んであるSFは『進撃の巨人』以来」

と大絶賛してたんだよね。
こういうサイバーパンク系の作品で、その分野の博士号を持ってる本職の人から絶賛される例はかなり珍しいと思う。
岩原先生、おそるべし・・。
で、そういう岩原先生が、今度は打って変わってゴリゴリのファンタジーをやっちゃうという野心的な試みである。
これまでSF分野では「設定が命」という精神を十分に見せつけてくれたんだが、これがファンタジーに移るとどうなるのかと思いきや、はい、やはりここでもエゲツない設定の作り込み方でしたわ(笑)。
素直に脱帽ですね・・。

ただし、今回は岩原先生の作劇よりも、アニメとしての演出の方に着目していきたい。
この作品の監督を務めたのは田口清隆さんという人である。
・・うむ、聞いたことない名前かと。
それもそのはず、この人、本職が特撮の演出家だから。
いうなれば「怪獣」のプロフェッショナルであり、まぁ、本作は主人公が「魔獣王クレバテス」↓↓ゆえ、そういう意味から起用されたのかもしれないけど。

で、この魔獣王の姿を見て、思い出したのはコレ↓↓ですよ。
邪神イリス


邪神イリスって分かります?
知る人ぞ知る、平成「ガメラ」シリーズ(特技監督/樋口真嗣)の第3作目に出てきた敵モンスターなんです。
聞けば、田口監督はどうやら樋口真嗣を信奉してる人らしく、この作品でも樋口オマージュで「イリス」を表現したかったんだろうなぁ、と。
(平成「ガメラ」は怪獣ファンにとっては聖典)

・・で、この「クレバテス」のプロモーションの中になかなか面白い企画がひとつあって、それというのが
押井守に「クレバテス」第1話を見てもらい、田口さんが押井さんに作品の感想を聞くという超恐ろしい企画でしたわww

よく知らんが、以前押井さんが総監督をした実写版「パトレイバー」で田口さんが監督を務めてたという縁らしく、このふたりは結構仲がいいみたい。
で、押井さんも色々細かいところのダメ出しをしつつ、ただ作品そのものの出来としては「一応合格」と言ってましたね。
ほとんど他人の作品を褒めない彼がそう言うんだから、逆にかなりの高評価だったと見るべきなのかもしれん。
確かに、聞けば田口さんはこれが生涯初めて関わったアニメの演出らしいんだが、決してそうは見えない、なかなかの出来でしたよ。
・・で、私も率直に思ったんですよね。
これまで特撮の演出をやってきた人は、アニメでも全然応用がきくんじゃないか、と。

こういう類いの人たちのストロングポイントって、やはり構図を平面でなく立体(3D)のセンスで作れるところなんだよね。
ほら、たとえばの話、庵野秀明が「シンエヴァンゲリオン劇場版」を作った時にわざわざ第三村のミニチュアのセットを制作したっていうじゃん?


「えっ?2Dアニメでわざわざミニチュア作るっておかしくね?」と思った人も結構いるかもしれんが、そりゃ確かに原画描く人たちはあくまで2Dで表現するにせよ、でも一方で画面設計する(カメラワーク想定する)立場は絶対に3Dの視点(立体視点)でなきゃダメなのよ。
これって、実はめちゃくちゃ大事なポイントなんだけどな。
・・そうね、じゃ有名な監督でもう1人例を挙げると、昨年オスカー獲った山崎貴さんっているでしょ?
あの人は「ALWAYS三丁目の夕日」のヒット以降、業界で<3DCGの鬼才>みたいな認識されちゃったもんで、多くの人が彼のことをIT分野の専門家か何かだと完全に誤解してるんだよね。
・・それ、全然違いますから。
もともと山崎さんは特撮畑にいた人で、地味にミニチュアとかを作ってた人なんだよ?
むしろ、それが異様に巧いことで有名だった人である。

で、こういうのを作れる才能がある人(つまり、空間把握能力が秀でた人)は、不思議なことにその多くが卓越した映像センスあるんだよねぇ・・。
・・あ、実はこの人↓↓もまたそうなんです。
山田尚子

この人は京アニ出身なもんで、ほとんどの人が<画の人>だと勘違いしてると思う。
・・いや、確かに彼女が美術系の大学出身だから普通に画は描けるんだが、でも彼女が得意にしてたのは作画より「立体造形」なのよ。
大学では「特撮部」に所属し、発泡スチロールでひたすらオブジェみたいなものを作っていたらしい。
あと、漫画界ではこの人↓↓もうそうですよ。
鳥山明

皆さんご存じの通り、漫画界でも屈指の画力を誇っていた鳥山先生だけど、実をいうと彼は漫画以外にもうひとつ「天才」とされた才能があり、それがプラモデル作りだったらしいのね。

・・そう、彼もまた、実は本質が「立体造形」の人だということ。
で、こういう卓越した3Dセンスは漫画の方でもしっかり生かされてるわけで、それがたとえば、こういうところ↓↓なんです。

鳥山先生が出てくるまで、こういう奥歯まで描いた漫画家は誰もいなかったらしい。
当時、これは業界全体に激震が走った「鳥山革命」(山田玲司先生命名)とされ、たとえば江川達也先生などはモロ影響を受け、すぐさま仕事場に人体模型を持ち込むようになったらしい(笑)。
実はこれ、後にきっちりアニメの作画にも反映されてます。

鳥山先生がこういう画を普通に描けたのは、何より彼が「プラモデル畑」の出身だったことが大きいと思う。
・・で、前述の田口清隆監督に話を戻すと、彼もまたミニチュア作りの達人なんだよね。

・・で、そういう3Dの感覚もあってか、「クレバテス」を見てると画に独特の奥行きがあるんですよ。



あぁ、この人センスいいなぁ・・と思いながら私は見てましたわ。
・・いやいや、「今回初めてアニメの監督やらせていただきました」という人にいきなりここまでのもの作られたら、アニメ畑本職の人たちも立つ瀬がないでしょうよ(笑)。
でも、いいんじゃないだろうか。
押井さんや庵野さんがあっちとこっちの二股をかけてる現状、逆にあっち側からこっちに来るのも全然OKですよ。
特に、特撮の人は全然イケるのでは・・?と今回思った。
やっぱ特撮の人ってね、「ゴマカシのプロフェッショナル」なのよ。
「いかにニセモノをホンモノっぽく見せるか」という一点でメシ食ってきた人たちなんだから、そのゴマカシの映像スキルはアニメ以上のものがあるのかもしれない。

で、そこは低予算アニメにしても事情はほぼ同じ、ある意味ゴマカシこそが命でしょ?
作画の拙さを、いかにしてエフェクトでゴマカすか・・みたいなギリギリの綱引き。
なお、今回の「クレバテス」もおそらく低予算系だったはずなのに、見ててちっともそれを感じなかったんですよ。
多分、田口監督なりの技巧があったんだろう。
これハマったな、と思う。

というわけで、まだ未見だという方は是非一度ご覧になってみてください。
物語の設定が深すぎて、まだ全容が何も分からんまま1期終了してしまったし、ツッコミどころも数えきれないほどあるものの、そのへんに幾多ある「なろう」系よりは遥かに良作だよ。
あと、主要キャラの赤ちゃんがかわいくて癒されます!

なお、第2期の制作が決定したようだね。

