ヤワな手にも役立つ、すべらない凹の手すり ~手すりにまつわるエトセトラ ②
今日のお話は、手すりの凸凹(ディンプル)と、ついでにその太さについて。
前回の投稿で、手すりには握る使い方と、握らない使い方があるよ、というお話をしました。
要は、摩擦力を使う使い方と、そうでない使い方です。
今回は、摩擦力を使わない手すり(ハンドレール)の話はとりあえず置いといて。
まずは、その摩擦力ってどうやったら増える?というところから、話を始める必要があるのです。グラブバーとしての手すりの、深堀りですね。
そもそも摩擦力って何よ?
高校物理で出てきます。自分は理系クラスだったはず、なので履修したのだけど超うろ覚えなので復習。
ものづくりWebさんからも図と公式をお借りします。

F'=μN
F' :最大静止摩擦力
μ :静止摩擦係数
N :垂直抗力
自分も改めて調べて、おおっと思ったのですが。
「摩擦力は見かけの接触面積には依存しない」
この公式からわかることが上記。面積というパラメータ、公式のどこにもでてこない。これ、すごく不思議ですよね。直感とズレがある。
どういうことなんだ?と、自分も色々漁ってみたのですが、どうも
見かけの接触面積≠実接触面積
ということだそうで。要は、接触面の一部は仕事をサボっている。
物理って奥が深いですねえ。
疑問に思うとキリがないですが、ここをまず押さえていただきたく。
また静止摩擦係数μは手のひらと、手すりの表面の材質・状態で決まります。手すりに油を塗りたくった状態(μ≒0)を想像していただければ、何となくご理解いただけるのでは。
まとめます。手すりの静止摩擦力は平面でなく、棒を握る動作なので、
手すりに手が接触している面積は摩擦力の大小には無関係
その中心方向への加力(握力)と、双方の材質が摩擦力を決める
となります。握力と材質、摩擦力の大きさを決めるのは、それだけ。
摩擦力を生むための、ベストの太さを考える
なので、手すりにおいて表面の摩擦力を得るためには、握力が必要ということがわかる。そしてその握力をしっかり発揮するための条件を考えます。
まずは、親指をほかの四指と反対側に回して、棒にきちんと指を巻き付けること。これは、そうでない場面ではどうなるかを考えて反証してみます。
例えば、手を鈎型(L字型)にして手すりを引っ掛けたり、単に手のひらで押すだけだと、手すりに力を与えると身体が動きますよね?それは反対向きの力、反力がどこからも貰えないからです。
なので、親指をほかの四指と反対側に回して反力を与える、挟み込みのかたちにすることが(ほぼ)必須であることがわかります。
そして、その棒の太さについて考えます。
手すりの太さって、主力メーカーだとだいたい直径35mm、バリエーションとして32mmがある、というような品揃えなんですが。
そもそも手に比べて太いものって、力が入りにくいんです。握力検査でも、握り幅がその人の手に比べて大きいと、なかなか加力が出来ないはずですよね。
ただし細すぎてもダメで、自分の指が加力の妨げになります。自分の指を潰しながら全力で握ることはできないため、適切な太さが必要、となるわけです。
また、断面が真円でなく楕円等だと、使いやすい角度への姿勢誘導という性質が出てくるかもしれません。握りやすくなる方を無意識に人間は持ちたがるはずなので。
じゃ、その適切な太さ、とは。

目安として、握力をしっかり掛けるためには、OKのハンドサインをつくってから、その親指と人差指の先端を軽く離して四角形が作れるくらいの大きさが適切なんじゃないかな、と思います。個人的見解ですが。自分だと画像の矢印部の距離が、おおよそ35-40mmくらいに落ち着きますね。そして現在の既製品手すりの太さも、おおよそそのくらいになっています。
実際に握ってみましょ。


どうやら、この50代男性の手では、手すりが32mmより細いと指先が手のひら側に接触する、つまり握る力が弱くなりそうですね。でも、この2つの選択肢なら、この人はどちらでもしっかり握れると思います。なので、握力に比例する摩擦力に関しては、32と35mm、どちらの太さも実は大差ないというのが結論でよいかと。ただしこの手の大きさなら。
手の大きさの違いと、太さの違いの関係
じゃ、手の小さい人ならどうなんだ、という事を考えます。これもサンプル取りました。

とある高齢女性、手タレとしてデビューするのはご辞退、ということで、外形線を方眼紙にトレースして参りました。おおよそ、手首の線から人差指まで、165mmです。50代男性がおおよそ180mmとして、高齢女性の手は成人男性の165/180≒0.92倍。
ということは、男性に35mm手すりがジャストフィットなら、その係数を掛ければ高齢女性向きの手すりの太さが見えるはず。
35mm×0.92=32.2mm!
つまり、このくらいの体格の高齢女性においては、32mmの細めのものが、男性の35mm手すりに相当する握力を生む太さとなることがわかります。なるほど、各社の品揃えには意味があったわけですね。
ただし、32mmの木製手すりを横手すりとして使う場合、経済的に不利になります。金具間距離が最大600mmとなり、900mm飛ばせる35mmのものに比べて金具の数が増えるので。そのあたりも考慮して現場で悩んでいるのです。
ディンプル付きだと、何が良いのか?
各社の手すりには、表面がフラットなものだけではなく、凹部や凸部(ディンプル)が満遍なく付けられたものがあります。
あれ、指がフィットしそうだよね、滑りにくそうだよね、という理解にはすぐ至るのですが、これもちょっと考えてみます。
思考実験のために持ってきたのが、これ。過去記事を引用します。
シロクマ印の、どこでもグリップ。これ、巨大ディンプルと解釈できますよね。

その中で、これをクローズアップしてみます。

これがあると、縦手すりでも出っ張りに手のどこかが、引っかかる。そして、その手を下にずらそうとすると、その出っ張りが手に直接、反力(黄色)を与える。
要は、手すりにディンプル(凹凸)があると、この効果が多く細かく発生するということです。表面がフラットな手すりでは握力に比例する摩擦力に手すり方向の支持力が依存するところを、その凹凸が同じ方向への抗力を発生する。つまり、軸方向への支持力が、摩擦力+ディンプル部の抗力、となる。握力が低下しても、凹凸付きならば、元気なときのフラット手すり使用と同じくらいの軸方向の反力が受けられるかもしれないわけです。
ま、直感と同じ結果なのですが、ちゃんと考えておくのは大事かと。
ならば、すべてディンプル付きにしたら良いのでは?
ディンプル付きの手すり、摩擦力プラスαの軸方向支持力を発生することがわかったところで、ではこれをすべてのところに使えばいいじゃん、という考え方は出てきますよね。
そうは問屋がおろしません、もといメーカーが立ちはだかります。TOTOさんの手すりカタログより引用。

この例だと、セーフティタイプ、フラットの1.3倍の価格となります。つまりお高い。全部これに揃えると、介護保険の住宅改修費の支給(総額20万円)枠を利用する場合、付けられる本数や長さが減ります。
また、僅かですがディンプルには手垢なども付きやすく、残りやすいというデメリットもあると言える。
それらを考慮して、
・男性の手におけるΦ35相当の使い勝手=女性の手のΦ32相当と考えられる
・軸力方向への支持力を増強したい部分の手すりには、限定的にディンプル付きを採用する。
これを、こちらの手すり計画の基本としています。
でも、実はそこまで神経質にならずとも、いざとなればどこでもグリップをつければいいや、と割り切って、凹凸のないフラットタイプで揃えるのもありかもしれませんね。要は、棒を換えなくても、握力低下に対応する方法があるよ、ということを知っていればいいのではないか、と。ちなみにアマゾンでただいま一個550円でした、このボール状のスグレモノ。
当シリーズ続編は、手すりのいろいろを、英単語や法令から追っかけてみようかな、と準備中です。しばしお待ちいただければ。
※ 余談
AI画像生成にチャレンジし始めたこのシリーズですが(今回のは、いつかあなたにはすべて打ち明ける、階段手すりのある風景を出力しようと苦心して、背後のキャラの高さがおかしいが妥協です)、そんなタイミングでこんなお知らせがnote事務局より届きました。エントリー、してみるもんです。

苦節1年(そこまで実は苦しんではいない)、はじめて文章に対価がつきました。でも、アマギフが手に入ることより、このnoteのAIが、妙に手すりにこだわったりするようになるとシテヤッタリだぜ、というのが、いちばん嬉しいことだったりもします。世界を1タイルだけ、自分色に塗り替えた気分、とでも言いましょうか。
そして、さっそく成瀬あかりシリーズの小説を買い込んで即赤字になりました。菊竹事務所のあの名建築を推す成瀬氏、いまさらですが買わないわけにはいかないじゃないですか。
というわけで週末、京都やら亀岡やら大津やら山崎やら近江八幡やらに行って参ります。年イチのAWAY旅ですね。
いいなと思ったら応援しよう!
この記事、すごく役に立った!などのとき、頂けたら感謝です。note運営さんへのお礼、そして図書費に充てさせていただきます。
