手すりには、あのフリクションフォース ~手すりにまつわるエトセトラ ①
手すりについて、てすり屋が今知っていることを深堀りしつつ、手すりについての知見を皆様と高めていこうぜ、という新シリーズです。よろしくお付き合いのほど。
そもそも、手すりっていったいなんなんでしょう、ということを考えていたのは、実はけっこう前からの話です。
まずは、手すりって実は握れる棒としての手すりである必要はないところ、あるよね?という気づきは、ずっと以前から発生しています。一年前の投稿がこれだったし。
どうも、手すりをつかうときには、握るということが必要な動作と、握らなくてもいい動作がありそうだ、ということですね。そして、握らなくても使える手すりの役割は、必ずしも丸い断面である必要もない、ということになる。そのあたり、動作面からちゃんと理解しないと、その生活場面に必要な手すりとはなにか、ということも把握できない。
そもそも、英語で手すりってなんていうの、と調べると、介護系の教科書にはグラブバーとハンドレール(単にレールとも呼ぶらしい)である、と書かれていたりする。なるほど、握るか握らないか、その機能によって単語がちゃんと分類されているのですね。
そこになんとなくの解答を掴んだうえで、トイレへのL字手すり推奨の風潮に威勢よく反旗を翻す、こんな投稿も入れていました。
居酒屋への入りしな、とりあえず生ビアーの中ジョッキを注文する感覚で、現地調査の際に初手でこいつを指定するケアマネ勢やリハ職の皆様、そのためにコスト爆上げを利用者さんに強いている自覚、御座いますでしょうか?という記事ですね。
でも、このL字手すりにおける縦手すり部分の役割を考えることは、この手すりの仕事の思考実験にうってつけなのです。
なので、ここは棒人間さんにご登場いただきまして、その動作を分解しつつ、それを横に置き換え可能なのは、なんで?というところを掘ってみましょう。
まず、立ち上がりの動作のおさらいです。まずは縦手すりバージョンから。

座位のとき(左)の支持基底面は、両足と両座骨の外周を繋いだ青い細線の内側。つまりとても広い支持基底面となっています。そして上体は骨盤の上に乗っているため、お尻側に重心位置(赤丸)があります。
そこから立位に転換するためには、まず両足だけが作り出す支持基底面に、その重心位置を載せないと始まりません。なので、身体の前方の手すりを持とうとする動作を行うことで、上肢が傾き自然に重心が前方に移る、それが縦手すりの大事な役割です。手を伸ばして触ったところで、力を入れずとも右の重心位置になることが理想ですね。
なお、たまに身体の真横に縦手すりがあったりする現場に出会うことがありますが(最近さすがに減ってきてはいるけれども)、それを使った立ち上がりは、重心移動がその手すりに妨げられ、座位である身体の真横で手すりを握り、摩擦力で上向きの力を加える不自然な動作になるため、立ち座りは結構きついはずです。
ここで、縦と横手すりの比較をしてみます。

上図、左が横手すりを使った立ち上がり(肘掛けプッシュアップでない方法)、右が縦手すりを使った立ち上がり動作です。L字手すりと横手すりの比較であれば、プッシュアップなら同じように出来るのでそこは割愛。
これ、立ち上がっておしりが浮いた瞬間を切り取っているのですが、その瞬間の支持基底面(下側の、両足裏とその先端、後端を結んだ線の範囲)と、身体の重心位置(それの垂直投影点)の関係は、重心が支持基底面の後方にある、まだ不安定な状態です。出来ることなら、支持基底面の中心に近いところまで重心位置を移動させ、そして歩行に移りたい。そのための力を、手すりは身体に与えます。
図中の手のあたりにある、黄色の矢印の向きの力、がその力です。
横手すりなら、しっかり手すりを握り、身体の側に引き寄せる力を加えることで、その重心を前方に移す力を手すりから貰います。また縦手すりも、通常は同じように握って引き寄せるのですが、手を鈎型に曲げて手すりに引っ掛け、引き寄せる(握らなくてもいい)だけでもその力を受け取ることが出来ます。
その方の身体能力として握りがしっかり出来るのであれば、縦手すりにそんなに拘る必要もなさそう、ということがわかると思います。
その人の動作にとって適切な位置に手すりがあれば、必ずしも縦手すりでなくても同じ力が貰えること、見えてきましたでしょうか。
要するに、手すりは、ひとことでいえば反力を発生するもの、反力発生器なんです。そして、その方向は二種類。
・握らない場合の反力は、手すりの向きと直角方向
・握る場合の反力は、手すりの向きと並行方向
そして握らない手すり(ハンドレール)は、先に張ったリンクの通り、下駄箱やテーブルでも同じ機能、つまり支持基底面を広げて安定性を高める機能を発揮できます。
でも、利用者さんが握ることが可能な形状であれば、もう一つの機能、それと直角方向に反力を与える機能をそこにインストールすることが出来る、それが握れる手すりの特徴ということになります。こうすると、ただの棒である手すりから、人間は二方向の力を受け取ることが出来るようになるわけです。
そして、その手すりと並行方向に受け取る反力の正体は、握力に比例して、握った際に発生する摩擦力(フリクションフォース)なんですね。
次回、その摩擦力がもたらす反力について、ディンプル手すりの効果から深堀りしてみます。
なお、手すりを使った動作を考える時に必須の、支持基底面と重心位置の話はこちらから。いくつかの連作シリーズになっております。
※余談
トップ画像、投稿一年目にして初めて画像生成AIにご注文してみました。某俳優さんと手すりの組み合わせを注文したところ、すかさずこんな画像が即座に出力される未来に生きているわたしたち、すごいラッキーガイ、なのかも。
このシリーズのリンク、こちらに貼っておきますね。
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