かたむく身体を引っ張った、あのバーを見よ ~手すりにまつわるエトセトラ ⑤
こちらが高校時代から愛読している週刊モーニングにて、「ポールスター」という漫画が絶賛連載中である。
熱海を舞台に繰り広げられる、母が得意だったポールダンスを通して成長する、娘さんの話。
一見、えっちなやつだと思われがちな(個人の感想です)ポールダンスというものに、競技があるとは不覚にも知らず。いろいろ調べてみるとちゃんと五輪競技入りを目指す世界競技団体もあり、その日本版のポールスポーツ協会もあるそうで(パラポールというものまで!)。
ちなみに競技用ポールの直径は45mm、使用可能高さは4mとのこと。手で握るだけでなく、身体を巻き付けたりするときにも力が入りやすい太さなのでしょうね。
さらに調べてみると、
運動としてのポールの使用は、インドで800年以上の歴史をもつ伝統的なスポーツ「マラカーンブ(英語版)」が最古とされている[2]。これはインドのレスリングの訓練から発達した器械体操の一種で、高さ2.6メートルの木製の柱を用いて行なわれ、ポールマラカーンブ (Pole Mallakhamb) と呼ばれる。
なんと、そのルーツはインドのマラカーンブという中世からの伝統競技に遡るそうな。
とてもインド味のある、不思議人間的な動きの競技であります。
でも、客観的にみると、このポールって、手すりでもありますよね?
ずいぶん前に、手すりは支持基底面を広げるための装置、という話を書いておりました。
転倒防止のためには、その考え方は基本に置いておいて間違いない。
でも、これ系のスポーツで、ポールにつかまっている方の支持基底面は、こう。ポールにつかまっている人を、上から見たところです。

支持基底面もわずかなその断面部だけ・・・
むしろ、支持基底面が考えうる最小、ポールの断面のみになっている…。
つまりこの場合、手すりには支持基底面を増やす効果はないわけで、じゃ何の効果があるの?という話が今日のテーマです。
狭い支持基底面に、重心を乗せるためには?
ポールダンスで、実際にポール=手すりから身体はどんな力をもらっているか、よく見てみましょう。なお便宜上、わかりやすくするために静止状態を扱います。まずは側方からみてみます。

薄く赤をかけたところがポールと身体の接触部。ここで、摩擦力を働かせないと身体は下に落ちます。逆の言い方をすると、静止しているということは、体が地球の中心に向かって引っ張られる力と同じだけ、上向きの力を摩擦力としてポールから貰っている。
ここで摩擦力のおさらい。
F'=μN
F' :最大静止摩擦力
μミュー :静止摩擦係数
N :垂直抗力
摩擦力は見かけの接触面積には依存しない、
垂直抗力と静止摩擦係数のみで計算できる
つまり、ポールを数か所でぎゅっと抱きしめていれば、まずは落ちない。でも、コスチュームや肌はそれぞれ静止摩擦係数が違う(汗で濡れても変わる)から、ある程度の面積でμが大きいところの選択肢をつくってカバーしているのでは、と思われる。
でも、実は重心位置がその支持基底面に乗っているかたちには、そのままだとなっていないのです。物理的にはそのままだと転倒します。
でも、ポールにつかまっていればポーズを取っても落ちませんよね。

本来の重心位置はピンクのところなのですが、手でポールを引っ張るとその反力(赤矢印)をもらえます。それで、重心位置を赤い部分まで移動しているのですね。
さらに、重心位置をポールから離した、ダイナミックなポーズを取ると、手のひらや、その下で足裏などが受けるポールに対する垂直抗力が増える。だから静止摩擦係数が小さくても、落ちなくなるという効果も得られます。
つまり、縦の手すりは、握ったときに支持基底面を広げるだけでなく、重心位置を支持基底面に乗せるための水平方向の反力を与える機能もあるということがわかります。
そのことを踏まえて、歩行にふらつきがある方の、日常の生活シーンに戻ります。
「壁に手をつくから大丈夫」とは?!
こちら、歩行が不安定な方のご自宅にて、手すりをお勧めするときに「それはいらないわ」に続く二の句で言われがちな言葉ランキングの、栄えある2位くらいにランクするやつです。ちなみに1位は「気をつけているから大丈夫」、3位は「手すりに頼ると動けなくなるから」あたりでしょうか。
自分は、これを言われた時にその周囲を確認します。そして、必要な形で壁があるなら、様子見することもあるのです。
どういうことか。歩行時の支持基底面(青線)を上から見てみましょう。

歩行が不安定、ということは、支持基底面から重心位置(ピンクの点:圧中心点とも呼ばれます)が外れやすい状態、と言い換えられます。人はそれが外れたときに転ぶので。
この場合、壁側に倒れかけたときに壁を押さえることで、それと反対向きの反力(赤矢印)を身体は受け取ることができる。つまり重心位置を支持基底面の中心側に戻せる。なので転ばずに済むのですね。
ただし、壁は掴めません。だから、壁がない反対側によろけたら、それを止める手立てはあまりないということでもあります。壁を使った重心コントロールは、一方向だけなのですね。
支持基底面を増やし、四方向に重心をコントロールする手すり
でも、その壁に横手すりがあったら、どうでしょうか。
とっさにそれを掴むことができれば、その手すりから離れる向きにも、近づく向きにも反力(赤矢印)を受け取れる。
さらにぎゅっと握って摩擦力を使えば、進行方向へ転びそうなとときや、後ろに倒れそうなときにブレーキもかかる(青矢印)。重心位置のコントロール、自由自在です。
さらに、手すりに体重を乗せられる状態で歩けば、支持基底面を二足歩行よりはるかに増やすことができる。

この図の違いを見れば、手すりを取り付けることの転倒防止効果、一目瞭然ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
手すりを付けることにお悩みの方、壁を触って歩くより、ずっと安心できますよ?ということで、本日はセクシー路線と思いきや、がっつり理詰めの話でございました。
手すり雑学をまとめた、手すりにまつわるエトセトラ連作、こちらでございます(文末にシリーズのリンクを張りました)。ご興味ありましたら是非に。
※余談
タイトルは今回もPUFFYの歌詞縛り。MOTHERは名曲ですねえ。
トップ画像も画像生成AI縛りなのですが、なぜかセクシー系ばかり作られてしまうか、Microsoft Designerなどは作ったやつを勝手にこちらには見せず、自分だけのお楽しみにする始末。なので苦労してようやく、note運営に怒られなくて済みそうな健康的なやつが取り出せた次第。でもなんでリングの上っぽい背景なのでしょうね。
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