車内では手すり持ったまま 〜手すりにまつわるエトセトラ ④
てすり屋が、手すりをひたすら深堀りするシリーズ、前回作はこちらです。
毎回4000字程度の長めのお話ですが、画像多めで参ります。
いわゆる手すり的なものとしてこれまでご紹介したものは、人が歩く速度まで対応するものでした。なので、どちらかというと体重を支える、支持基底面を広げる役割が大きかったのですが、そうも言っていられないのが今回のお話。運動エネルギーたくさんの一族、つまり自動車、電車、船、飛行機など、移動する物体の中の手すりです。
これらは、乗員の身体ごと加減速しますが、それらは当然ながら一体につくられているわけではありません。保持するものがなにもないと、容易に中の人が慣性で車内を吹っ飛んでいきます。
なので自家用車などではシートベルトで車両と乗員を一体化するのですが、公共交通機関のような大きなハコだと、そうもいきません。そこで、身体がその水平方向への加速度についていくための反力を身体に与える手すりを有効に設置して、乗客と車体が一体として加減速できるように工夫しているわけですね。
まずは序の口からいってみましょう。
乗用車
こちら、乗員は3点式シートベルトで車体と固定されている前提ではありますが、前後の加速に対してはベルトと座面で対応できても、側方への加速、いわゆる横Gにはそれだけでは対処ができないのでした。
なので、窓の上に取り付けられていることが多いのがこちら。アシストグリップ、というそうです。

峠道などで身体がグラグラするとき、ぐっと堪えるために活躍するのがこのグリップ。要は内側への横向きの加速度がかかったとき、身体が反力を貰うためのものですね。外向きの加速度のときはロックされたドアに凭れればいいので。
ところがこれ、メーカーさんのこんな注意書きがあるのでした。

ということで、手すりと言うにはちょっと足りないみたいです。自分、工事で取り付ける手すりには、池中玄太同等の全体重をかけてテストしますからね。

こちら、ぶら下がったら危ないよ、ということで。
路線バス
路線バスは、バリアフリー法が行き渡ったことでノンステップバスが主流になっておりますが、車体の前半分は低床でも、エンジンを載せる後ろ側は段差ができてしまいます。なので、段差を乗り越えるための昇降用の手すりと、立ったまま乗るひとのための手すりが散りばめられております。

目立つオレンジの手すりが、そこらじゅうにあります。立って乗る誰もが掴むところを確保できるように、という配慮ですね。なお椅子の背から立ち上がる縦の手すりは2席おきのレイアウトです。さらに。

天井には、3本の通路に沿った横棒があるのですが、センターに一段低めの横棒が手すりとして設置されております。ぎゅむぎゅむに詰められたときも、これがあると助かりますね。
これらを使って、乗っているひと一人ひとりに、加減速や横への加速度に抵抗するための反力を与えようというのが、これらの手すりの役割なのですね。

降りたらすぐに別の低床バスが来たので、取材理由を運転手さんにお願いして撮らせてもらったのがこちら。前のドアが、車いすでの出入りにも対応した観音折戸(二組の折戸が両側に開く)タイプでした。そしてその内側についた細身の手すりと、料金箱側に固定されたの太めの手すりが連続している。ほうほう。なので、
「ドアに付いている手すりが良いですね!」と運転手さんに話したところ、
「それ、手すりじゃないんです、グラグラするので」というお返事。
なるほど、その頼りなさの表現がこの細さでもあるのか、と納得。乗用車のアシストグリップ程度のもの、と理解しました。でもこれがないと、昇降の際はやっぱり怖いだろうな、と。ドアの形と手すりの齟齬ですね。
こちらの住宅改修の仕事でも、たまにドアに手すりをつけられないかというご相談をいただきます。でも動いてしまう手すりはむしろ危ないのです。それが手すりとして機能しづらい理由をお話しして、貸与品などをその代わりにお勧めしたりするのですが、それと似たような話ですね、こちら。アチラ(開閉幅)を取ればコチラ(手すりの丈夫さ)が立たず、ということです。
観光バス
路線バスと観光バスでは手すりも違ったアプローチになりますね。立って乗る人がいないので。床下に荷物をいれる関係で、低床にもしにくいですし。
眺めてみるとこちらは、乗り口の手すりに工夫があるな、と。

向かって左は階段の形状に合わせて縦から横に変わっていく曲線手すり、更にその先は運転台のハッチの天端、そしてフェンスの腰壁に連続した握りが続いていきます。反対側は細身ですが、縦とL字の手すりを配置。車両が停まっているとき使う手すりなので、こちらは家などと同じ役割で解釈できます。
そして、特徴的だったのがこちら。

肘掛けと、正面座席の背の裏のグリップの役割はそれぞれ座位の安定と、立ち座りの補助、それに横G対策と想像ができますが。
ひとつだけ異端の者がおりました。シートの通路側に、何やらお団子が。
これは、通路を移動する方が、椅子の背に手をかける際に使うポイント手すりですね。ここ触って、と誘導することで、身体の安定を図るだけでなく、シート生地の汚れやヘタリ防止にも役立つ工夫です。面白い。
電車
鉄道車両の中でも、特に立っている人を詰め込む宿命を背負った電車の内装は、手すりとともに進化してきたのではないでしょうか。

戦前の車両のデータを持ってきました。かつて鶴見線にいたやつですね。
これ、ドアの間に垂直の棒が立っています。これのことをスタンションポール、と呼んだそうで。吊り革のない、ドアの間に追いやられた際、皆さんがここを頼ったのですね。その代わり、現在の車両につきものの、椅子の袖についている縦手すりがない。あとは椅子の肘掛けと、ドア横の手すりだけです。でもこれ、満員のときは真ん中のポールに押し付けられて骨折する人もいたそうで、不評だった様子。手すりが人を傷つけることもある、という教訓ですね。
そして現代の電車はこんな感じです。横須賀線の新しいやつ。

シートの着座間隔制御(長椅子に7人腰掛けてね!)の役割を兼ねた、シートの間の2本の縦手すりが、ちょっと湾曲してますね。なんか理由がありそうです。
これ、調べたら鉄道総研さんの研究成果でした。

手すりについては、通路側に100~150mm程度張り出させることで、立っている人がよりしっかり握れるようになること、座っている人が立ちあがりやすくなることが明らかになりました。手すりを150mm程度張出させても、座位客の膝より内側であり、乗り降りのしやすさは標準的なものと変わりませんでした。
便器横の縦手すりが、便座先端に近すぎると逆に立ちにくい話の応用編だったとは。重心位置が脚に乗りやすくする工夫ですね、これ。ほかにも、手の短いお子さんが立っているとき、座り客の脚にぶつかりにくくなるなどのメリットも。
そして、つり革についても研究成果があるんですね。どのくらいの高さなら使いやすい人が多いか、という。

その下を通る人が多くなるドア周囲のつり革高さは175cm程度、それ以外だと160cm程度が多いかな、と思うのですが、こういう研究を参照してその寸法は決まるのでしょうね。

こちらは2階建てグリーン車の、下から上がるときの手すり。観光バスのものと似てますが、より複雑な形状でした。より階段がタイトですからね。
ほかのもいくつか見ていきます。
コチラは広島遠征時に撮っておいたひろでん。路線バスっぽさがあります。

こちらは地元の観光客が殺到する鉄道、路面も走る江ノ電です。自分も高校時代は大変お世話になりました。最近は中国や台湾の方に大人気ですね。

これ、超満員だとこの荷棚のところが掴みやすかったのですよね。しっかり感があって。

もひとつ地元モノ、過酷な横Gや加速でジェットコースター気分が味わえると評判の、湘南モノレール。ちょっと特殊な車両で、裾が絞られて、天井も低い車内となっております。

その天井の低さを逆手に取った手すりですね、これ。
各社さま、いろいろと今も手すりを工夫されておりますね。
手すりをつくる設計兼職人として、こんなまとめを作ったことがどこかで役に立つことがあるかもしれないし、ないかもしれないですが、何事も観察は大切であろうということで。
トップ画像はこのシリーズ恒例のお遊び、例によってジェットと警察と亜実由美と手すり、その他を混ぜ込んで得られた画像です。なんかいい感じ、でも誰だ君たちは?
そして次回作もできました。
※作者お勧めプレイバック
なお、ノンステップバスに至るまでの歴史を考えるときに必須のことを、以前書いておりました。青い芝の会、そして川崎バス闘争のお話です。
なぜ一部の車いすユーザーがあんなバトルを繰り広げるのか、その文脈を知っていると、周囲の皆様も自分なりの理解が進むのではないかと。
※池中玄太つながりの、余談
ひと月ほど前のこの記事で、余談として入れたコエンザイムQ10+ビタミン等サプリでのダイエットトライの話。節制ゼロ、とにかくサプリのみ、という縛りです。
おおよそ体重82kgでスタートして、1ヶ月ちょっと経過。どんなものでしょうか。

なんと、体重80kg人のベンチマーク、池中玄太氏を捲くるところまで漕ぎつけております。なお血圧はあまり変わらない模様ですが。
待て、次回の定点レポ!
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