お手頃ロープワークは、いい感じ ~手すりにまつわるエトセトラ ⑥
命綱。文字通り、命を守る綱のこと。
このことば、介護の世界ではそのサービスの存在の象徴として使われることが多いように思うのですが。でも、転倒防止を考える手すり屋としては、実は文字通り命綱が大切な場面というのもあるのでは、ということは考えなくてはなりません。
というのも、前回の記事で、転倒そのものを
「ふらつき型転倒」
「脚掬われ型転倒」
の、ふたつに分類してみたのですが、そう考えたとき、支持基底面を拡げる手すりって、必ずしも固い棒である必要ってないよね?という、以前から抱いていた疑問を思い出したわけです。要は、身体が反力をどう貰うかの話だけじゃね?と。
というわけで、本日は手すりの親戚ともいえる、ロープと生活安全についてのお話です。
よく考えれば身近にある、ロープ手すり
この手すり雑学深堀りシリーズ「手すりにまつわるエトセトラ」も久しぶりの投稿なのですが、以前のこんな雑学ネタのときに、こんな記事を入れていたのです。

そう、建築現場では、手すりは親綱というロープで常に代用されている。そして文字通り、転落事故から命を守っているわけです。
また、トップ画像は登山のときのトラバースロープをイメージしてgeminiさんにお願いした奴です。山男山女の皆様や、ボーイスカウトの少年少女には、ロープワークが身についている方も多いのではないでしょうか。綱や鎖に命を懸けて登っていく、そんな体験をした方もきっといるはずです。
でも、ちょっとデリケートな点もあります。それは、荷重の伝達がロープの向きのみ、でなされるという点。手すりは曲げに対する抗力がすぐに発生するけど、ロープはその条件があるのです。
ロープ手すりの、条件を考える
固定に様々な工具や部品が必要な手すりに比べて、ロープは比較的お手軽。なぜなら「結ぶ」という技術ひとつで、固定ができるから。
なので、ロープの選定と、ちゃんと結ぶ技術、結ぶ相手の見立て、その辺が安全なロープ張りに必要になりそうです。
どのくらいの強度が必要なんだろう?
その疑問、先人の研究を調べるのが早い。なので先ほどの画像の、現場での親綱というロープ手すり、まずはその性能を見てみましょう。あれ、転落防止用ですからね。

14.0kN≒1428㎏fがどうやら切断荷重の基準らしい。1.4トンか。親綱は人が落っこちるときの安全確保用ですからね。その転落時の衝撃も受け止める必要がある。
そして、関連論文などを読むと、あまり緩く張ったときは、いざという時の荷重が大きくなる。なので30㎏f以上の引っ張り力を与えて張ることが推奨されております。なるほど。ゆるゆる張りはいざという時、ドンという衝撃が加わっちゃうので強度的に不利なわけですね。

人が転落したときの親綱の張力Tについてもバッチリ記述がありました。ナイロンロープで400~500㎏f程度。手すりならそこまでの強度は不要かな、という見立てもできますね。先の切断強度、安全率を3倍くらいみている、ということでもありました。
素材はどんなのがいいのかな?
ロープで大事なのは、切れないこと。登山用ザイルだと、9.5mm径で1トンくらいの引張力に耐えるそうなのですが、手すりに使うにはちょっとオーバースペックかな、ということで、ご近所のDIYのお店を覗いてみます。

手触りの良い、φ9mmの綿ロープですが、対候性と耐水性のなさを考えると室内専用になります。そして切断荷重は350㎏f。

おススメはこのあたり。耐候性・耐水性ばっちりの、φ9mmクレモナ金剛打ロープ。切断荷重は400㎏fです。
ちなみにクレモナって何?という方には、こちらを。建築学を学んだ方は、なんかそんな図法があったな、と思い出すかもしれませんが、まったく無関係でした。かく言う自分もこの素材、よく知りませんでした…。

クラレ、元の社名が倉敷レーヨン。倉敷紡績の子会社で、倉敷美観地区の生みの親ですね。その大原社長の右腕だった浦辺鎮太郎の手になる倉敷国際ホテル、以前泊まったことがあるのですが、勝烈庵つながりで鎌倉や横浜の人にも馴染み深い棟方志功の巨大な版画が似合う、落ち着いた素敵な建物だったことを思い出します。浦辺さんの良い手すりのある建築も横浜にあるんですが、その話はまたいつか。
端はどこに結ぶ?
なお、ロープの引張力がそれだけ必要という事は、それが取り付く場所にもその強度が必要。なので、最低でも全体重をかけてびくともしない強度がないと、利用者さんの支持基底面を広げることはできません。
でも、利用者さんのふらつきを改善する(転びかかった時のリカバリー)という意味では、押すと動いてしまう木の幹でも有効かな、と思うところもあります。すぐ折れてしまうようなところは論外ですが。
また金具などを取り付けて対応する場合も、その基準(400kgf)が参考になるかも。ヨットなどにつかう、マリン用のステンレス金物なんていいですね。ちょっとお高いですけど。
そのロープが、ふらつき型転倒への対応かどうか、という視点でご判断いただければ。
さあ、パッツン張ってみよう
ロープはテンション(引張力)を伝達するもの。でも両端が固定されていれば、その引張力が直角方向に転換できるわけですね。
でも、繊維の塊だけに、新品だとちょっと世話が焼けるところもあります。それは育成が必要なこと。伸びるんですね、ロープって。なので、使っているとそれで緩みが出ることがあり、特に荷締めなどでは事故の元になったりするそうで。なので、あらかじめロープに荷重をかけて延ばしておく、プレテンション加工をしたものあるそうです。ロープ、奥が深い。
そんなことから考えると、張った後に締め直しが簡単にできる結び方が良さげです。そこで必要になるのが、ロープワークです。
ロープワークといえば、自分も現場監督をやっていた時に覚えた「南京結び」だけは身体が覚えていて、いまでも軽自動車(ワゴンRなんですけど)の屋根に装備した2本のルーフバーの上に、三尺六尺のベニヤ板などを括り付けることができます。あの職歴はその記憶だけでモトが取れているところがあるな、と思う節もあったりして。修業期間って、だいじ。
片方はがっちり結んで、もう片方がスライドできるといいのかな?
いろいろやってみたんですが、片側自在結びだとテンションが弱いので、がんばって両側アンカーヒッチで留めちゃうのがいいかもしれない。南京みたいに引き締められて、シンプルな奴があるといいのですけどね。

ロープワーク、自分も覚えておいて困ることはないので、どんなのがいいのか研究しておきます。後日こっそり更新するかも。
なお、副業先の近くにロープで張った手すり?を見つけたのも、この記事を書くきっかけだったんですけど、


最近通りかかったら、一部ちょいとマシな感じに張りなおされておりました。そういうメンテが可能なのは、ロープ手すりのメリットですよね。
苦肉の策でも、無いよりずっといい
このロープ横手すり、どんなところなら活用できるかな、と手すり屋が考えていると言いますと。
・介護保険の住宅改修費を使いたくないと考えている利用者さん
・大掛かりな工事を望まない利用者さん
・貸与品手すりを入れたくない、入れられない利用者さん
・外部通路が長く複雑な利用者さん
・植木を掴んで手すり代用にしている利用者さん
こんな方に、我々環境整備担当の人間が出来ることって、介護保険前提ではあんまり無いんですよね。
でもロープが掛けられる環境があるなら、まだ危険箇所に手を入れられる。ロープならそこまで費用も掛からないし、ご家族の対応でも可能、それであといま一歩、転倒リスクを減らすことが出来るのでは、と思ったのでした。
でも、ロープが脱落すると即転倒、となる危険もある。なので、ちゃんとした結び方を選ぶこと、結び先の強度があること、ロープの強度を確保すること、などのガイドになればと思った次第であります。
※余談
ちなみに、先のリンクにも張ったんですけど、縦手すり事例もあったんですよ、ストラップ(つり革)タイプの手すりとして。



河井寛次郎記念館にあったやつなのですが、割り切りと機能のバランスがすごいなこれ、と見返すたびに感心してしまうのでした。
このシリーズの初回のリンク、貼っておきますね。まだ手すりの法的定義のネタもあるんですけど、面白くないので絶賛放置中です…
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