転倒、実は2種類ある?! ~支持基底面と重心位置のはなし⑥
月日の経つのは早いもので、支持基底面と重心位置のはなし、実に二年越しのシリーズ再開であります。
支持基底面と重心位置の話、おさらい
いまよりお堅い文体だった上記の記事に、自分はこんなことを書いておりました。
そして、覚える基本法則はひとつだけ。
「重心位置が支持基底面の内側にあるとき、人は安定している」
これだけである。逆の言い方をすると、
「重心位置が支持基底面を外れるとき、人は転ぶ」
介護系の皆様にはお馴染みのボディメカニクス。教科書に出ているそれ、介助の際の知恵だけじゃないのですよ。利用者さんの、転倒の分析にも使えるのです。

立位のひとの、支持基底面と重心位置の関係はこうなりますよね。
「重心位置が支持基底面の内側にあるとき、人は安定している」
は、こういうことです。青い点線の範囲に、赤丸があれば、人は転んでいない。重力と反力が、正反対の向きで釣り合う。まずはここを確認していただいて、お話を進めます。
さて、なぜこのシリーズを唐突に再開なの?というのには理由がありまして、先日こちらの記事を拝読していたのがきっかけです。
転倒は、転びはじめなら助けられる?
自分の仕事にも超お役立ちな、海外からのイカした論文を素早くご紹介してくださる理学療法士、Super Humanこと海津先生の記事に、こんなことが書かれていたのでした。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
転倒は、転びはじめに助けなければ救えない。これは理学療法士として患者さんと関わっていて会得したコツの1つだ。転びはじめは、介助に必要な力が少なくて済むが、行ききった転倒は救えない。加齢による弊害についても、同様の考え方ができるだろう。
手すり屋が介護保険を使って工事をする際、介護保険課に提出する書類に住宅改修が必要な理由書、というシロモノがあります(保険者によっては、作成はケアマネさん限定だったりしますが)。これの記述の際に歩行のふらつき、というフレーズが良く使われるのです。
人間は歩行時、支持基底面の中に重心位置を保つように動いておりますが、下肢筋力やバランスの検知力が低下すると、それが上手くいかなくなります。
そうすると、重心位置が支持基底面から外れる。そのとき、引力と反力を、同一線上に置くことが出来なくなります。そして、それを戻すことが出来ないと、転んでしまう。これを、「ふらつき型転倒」と定義しましょうかね。
この、直線上にない、大きさが等しく反平行(逆向き)な力のことを偶力と呼ぶのですが、この力の特徴は回転力(モーメントと呼びます)をもたらすこと。

この、人を転ばそうとする力を放置していると、人は転倒してしまいます。なので修正を急がねばなりません。
この回転モーメントMの大きさは、その作用線間の距離Lと、それぞれの重力と反力の大きさPの積、
M = P × L
で表せます。でもその回転モーメント、支持基底面の端部と重心位置の距離が小さければわずかなので、その回転を止めるための僅かな力を加えるだけでも止まるし、重心の位置をふたたび支持基底面の中に戻せる。
たとえば、利用者さんが庭木に掴まって歩いているような場面、現場では時々見かけます。これ、支持基底面の拡張にはならないな、と思ってみていても、案外それでバランスを取って歩いている。それは、木の枝からわずかな力を貰って、ふらついて重心位置が支持基底面の外に出た瞬間の回転モーメントを止める、ということをやっているのでしょうね。
だから全く役に立っていない、危ない!ということだけでは評価できないな、そんなことも思うのでした。
「転倒は、転びはじめに助けなければ救えない」、というのは、要はこういうことではないかな、と。
いやいや、ヒトは瞬速で転ぶよ?!
でも、ここで気づいたのです。海津先生のおっしゃる「転倒」って、自分のいちばん痛かった体験と違うぞ?と。
自分の転倒ナンバーワンの記念写真が、これ。

中華街で買う塩漬けザーサイが思い出される立派なコブ。今見てもちょっと感動。生きててよかった。
この時の転倒の原因、それは庭の花壇の縁の、煉瓦でした。
夜間に、車に乗せていた道具の片付けで物置きに行く際、接着モルタルが剥がれたソレに乗ったその刹那、自分はおでこを倉庫の上がり框にたたきつけていたのです。
このときは、速足で自分が乗っかった煉瓦が、文字通りコロンと転倒し、そのとき片足でぐっと体重を乗せた足場が消失した。その瞬間、空中に舞ったわけですね。
図解しましょう。

この種類の転倒を「脚掬われ型転倒」と定義します。支持基底面の一部が急になくなるタイプ。そのヤバい瞬間、重心位置が支持基底面から離れたところに取り残されます。なので、その瞬間の反力と引力(重力)の作用線の距離が、いきなり遠いのです。
もうお分かりかと思います。作用線間距離が大きければ、転倒モーメントも大きい。先ほどのふらつき型転倒とは比較にならない大きな回転モーメントが、いきなり発生する。
気がついたら、地面にキスをしている羽目になるのは、こちらの転倒タイプですね。
実際には、歩行に伴う運動エネルギーが加わるので、より速く転倒する感じになるのではないかとは思いますが。
「脚掬われ型転倒」に対処できる、住環境整備
でもこの危険な転倒タイプ、住環境整備で対応できます。まず、先ほどの踏み石が吹っ飛ぶ、みたいなケースなら、その足元を固定すればいい。
室内でも油断できません。特に敷物や、配線のコードの類。滑らないか、躓かないかをチェックです。
敷居のような躓き要素も住宅改修で処理できます。徹底して平坦化できるなら、敷居スロープよりこちらが自分としてはお勧め。
でもなにより、手すりをつけることは支持基底面を拡げることでもあるのです。ということは、足が滑っても、片手がその代わりを果たすので支持基底面は広いまま。これが手すりのいちばんの効果ですね。
その手すりを保持した手から、重心位置の微調整に必要な横力も貰えますしね。

そのあたりの話を、こちらの後半で書いておりました。
リハ職の方の転倒防止は、主に「ふらつき型転倒」を防ぐためのトレーニング。そしてそれが日常生活には非常に役に立つのは、論を待ちません。すごく大切。
でも、転倒にはいきなり転ぶ「脚掬われ型転倒」もある、という視点を持てると、利用者さんのアセスメントの際、どこをリハで対応し、どこを住環境整備で手当てするべきか、その優先順位付けの解像度が上がるのではありますまいか、というのが本日のお話でございました。
なおトップ画像は、転倒を示すフィギュアみたいなものはないだろうか、と考えて、以前つくったガンプラがあるじゃんと思い立って物置から拾ってきた、ガンダムフラウロスさん。四足歩行もできる、両刀使いの便利な奴ですな。

年一回、老眼チャレンジとしてガンプラを組み立てる義務を自分に課しているのです。
※ 参考note
すっかり苦手分野と化している構造計算ジャンル。その基本を教えてくださるゼロ所長さんの連載、お借りしました。
偶力の概念、こちらの記事に行きあたるまで思い出しもしなかった…。
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