天才詐欺師はトウモロコシがお好き
売り言葉に買い言葉、
喧嘩買わずにモロコシを買え。
“朝採れ”という言葉にめっぽう弱い。
特に、夏はことさらである。
夏休みの旬も終わりかけの8月23日、
あんなに調子良く宿題を進めていた娘にかげりが見え始めた。
念の為声をかけてみた。
「宿題どんな調子?」
「ちょっと進捗共有して。」
娘としても、
上履きで“パペットマペット”をしていた前科があり、
「年間読書冊数0冊はZARA」などと海外の人気ファッションブランドを巻き込んでまで自分の学の無さを大暴露するような人間に
「宿題やりなよ」
とは言われたくないと思うので、
この夏休み中は
あえてやんわり系上司に扮してちょいちょい宿題スヌーズを止めに入ってみたりもした。
ガン無視である。
ガン無視されるやんわり系上司。
いや、ガン無視される上履きパペマペ小学生。
「ハァァァァァア…もうやだ!無理でしょ、
時間ないもん…!ハァァァァァア」
始業式を翌日に控えた8月26日(火)AM9:46、
結局数多の宿題をスヌーズした娘は喧嘩の叩き売りを開始した。
まさに朝採れの喧嘩である。
この時点で売れ残っているのは以下の通りである。
◽︎絵日記(という名の夏休み全期間振り返りnote)
◽︎読書感想文(5冊分)
◽︎ドリル(国語残り2ページ・算数残り4ページ)
◽︎プチトマトの食レポ
売人は言う。
「まず、絵日記を売っぱらいたい。」
私「それはいい作戦であるな。」
娘「書き出しが思いつかないんだよね」
「よっぽどのキラーフレーズでも浮かばない限り
ケツか真ん中から攻めろ!」
娘「タイトルは、“回る練習”…」
私「弱い!…逆に聞くけどそんなタイトルの本、あったら読みたい?」
娘「読みたくはない。」
娘「衣装を着て、踊ります。と…」
私「だから何?裸で踊るパターンもあるの?」
娘「だったら絵日記のお手本を見せてよ!」
─それ私に言うか?
あることないことでっち上げてきた百戦錬磨の絵日記詐欺師のこの私に。
命知らずめ。
…よかろう。
XX年ぶりに見せてやろうではないか。
私の力を。
──────────
2025年8月21日(水)
天気:晴
題名:真夏の昼の年越し蕎麦
──────────
An die Freude
O Freunde, nicht diese Töne!
Sondern laßt uns angenehmere anstimmen
und freudenvollere.
私の右隣が年を越そうとしている。
たどたどしいドイツ語で、娘が車内に大晦日を呼び込んでいる。
今の私に必要なのは“歓喜”ではない。
他でもない“換気”である。
真夏の車中で聴く第九こと「歓喜の歌」ほどに風情のないものを私は知らない。
真冬にハイビスカス満開からの風鈴の音くらいには遠慮したい。
それとも
北半球と南半球が抱き合って階段から転げ落ちたのか?
はたまたティアマト彗星のせい?
もしかして半球のどこかに「お前は誰だ?」とか書いてある?
車酔いのせいで歪んだ視界に、
アロハシャツのオーケストラと、プルメリアでできたレイを首に下げた指揮者がタクトを振るさまがぼんやりと浮かび上がる。
「歓喜の歌」と冬とが
がっちりと手を組んで身体に染み込んだ南半球の住人としては、
熱気の中で聴く第九ほど脳をかき乱すものはない。
しつこいようだが、
「歓喜の歌」には「寒気」が欠かせないのだ。
とはいえ関東地方の夏に寒気を求めるのもナンセンスである。
グロッキーを連れて降り立つサービスエリア。
「食べられません、醒めるまでは」
の私と
「食べられません、冷めるまでは」
の娘と
「食べます」
の天野はフードコートへ向かう。
天野「味噌ラーメン」
娘「お子さまカレー」
私「飯キャンセル界隈」
しかし娘は言う。
「少しは食べとかないと、倒れるよ?」
いつも私が娘に言う台詞である。
“いつも”と言ったが娘は基本的に食べない日がない。
なんならカレーだと1食で米500gなんて余裕でぺろりである。
あの春雨3本分みたいな身体のどこに収納しているのかはなはだ疑問であるが
今はまず、
この食券パネル内から最適解を見つけなければならない。
まずは温度。
これは「冷」に限る。
そして食べ心地。
これはするする入る「麺」もしくは「茶漬け」だが後者はない。
以上のことから導き出されたのは…
「冷やしとろろ蕎麦」

いけた。

私の金で。
(これは私の分)
地上の星ことオクラが約4本分入っている。
「冷やしとろろ蕎麦」という名前には含まれていなかったオクラ、高級そうなでっかいカツオ節、香りの良い長ネギ、荒削りのシャキシャキわさびまでついている。
逆詐欺である。
“冷たいお蕎麦にとろろが申し訳程度にかかっているさま”
を連想させておいてのこれ。
「冷やし特盛とろろ蕎麦feat.地上の星&高級鰹節〜香り高い長ネギとシャキシャキわさびを添えて〜」
に改名してくれ、今すぐにな。
食券が真っ黒になるとかインク代の無駄とかそういうことを言っている場合ではない。
すぐに直すんだ。
約束だ。
余計なことを考えていたらグロッキーはだいぶ勢力を弱めていた。
ズズッと麺をすする。
An die Freude
O Freunde, nicht diese Töne!
Sondern laßt uns angenehmere anstimmen
und freudenvollere.
「…美味い!美味すぎる!これは今世紀最強の“冷やし特盛とろろ蕎麦feat.地上の星&高級鰹節〜香り高い長ネギとシャキシャキわさびを添えて〜”ではないか…!」
大歓喜である。
アロハシャツのオーケストラとプルメリアのレイを首から下げた指揮者、そして荒ぶるタクト…!
口の中で繰り広げられる出汁と麺のハーモニー…
これぞまさに「歓喜の歌」。
そしてさながら「年越し蕎麦」である。
…寒い。
私の真上にはエアコンの吹き出し口。
冷たい風を全身に浴びつつ冷たい蕎麦を頬張れば、
体感温度は南半球の12月31日そのもの。
寒気を浴び歓喜し、人が出入りするたびに換気されるこの空間…
真夏に食べる年越し蕎麦、それもまた乙なものだと知った8月の昼時であった。
(完)
私「どうだ、参ったか!」
娘「…。」
やはり百戦錬磨の絵日記詐欺師の腕は衰えていなかった。
勝ち残った顔面をした瞬間、
娘「入りきらないじゃん。」
私「?」
娘「長過ぎ。もっと簡潔に、だらだら書けばいいってもんじゃないでしょ!しかも何が言いたいのこれ。蕎麦が美味しかったってこと?それとも年越してないけど越したって勘違いしたこと?それとも…温泉卵勝手に買ったから怒ってる?」
私「…ごめんなさい。年越し蕎麦の話がしたかっただけです。」
娘「なら蕎麦の食レポと名前変えろのくだりいらないでしょ!」
どこにも出す予定のなかった絵日記の日記部分にダメ出しをされるアラウンドサーティである。
朝採れの喧嘩を買い、その喧嘩に色付けて売り返したら変な付属物を加えた上で返品されたといった具合。
腹が立った。
私は怒りを抑えるべく
“朝採れ娘”だと思うことにした。
それでも怒りは収まらない。
だからやっぱり、喧嘩買わずにモロコシを買え。
そしてモロコシにかぶりつけ。
さすればただ幸せだけが残るだろう。
↑
“冷やし特盛とろろ蕎麦feat.地上の星&高級鰹節〜香り高い長ネギとシャキシャキわさびを添えて〜”
を食べた日のリアルnoteはこちら。
↑
当初宿題を順調に進めていた娘の話など。
【参考資料】
◽︎NEXCO中日本
“冷やし特盛とろろ蕎麦feat.地上の星&高級鰹節〜香り高い長ネギとシャキシャキわさびを添えて〜”
が売っているサービスエリア
◽︎THE SNOW PEAK WAY
喧嘩ではなくモロコシを買えのモロコシことワシが買ったモロコシの生産者:佐藤栄太郎氏のインタビュー記事
いいなと思ったら応援しよう!
よもぎちゃーん!
はーい!
何が好き?
ポテトチップスよりも
お・ぬ・し
