俺と愉快なイマジナリードッグス
ここのところ3kg分の幸福と平和ボケが太ももの付け根についたので
イマジナリー犬を引き回す朝の散歩を再開した。
リアル犬がいないので、
イマジナリー犬を連れて歩く。
月曜日はピットブル、ラブラドール、グレートデンとともに散歩をした。
大変グレートである。
火曜日はラブラドール、秋田犬、スタンダードプードル。
ハスキー、ラブラドール×2に遭遇した。
これは大収穫と言えよう。
水曜日の今日はマスチフ、ハスキー、ラブラドールである。
水曜日にしてラブラドール全色コンプリートである。

イマジナリー犬のいいところは、毎日犬を取っ替え引っ替えできるところだ。
犬のつまみ食いだ。
サブスクではない。
つまみ食いだ。
週も半ばだから、
敢えて月曜日の話をしよう。
いや、まだ週も半ばだが月曜日があまりにも濃すぎたから濃縮還元の還元が足りない。
だから還元したい。
どろっどろなんだ。
月曜日は、左耳だけが白馬村にとんぼ返りしたり
4歳児になったり、しなびたナスで味噌汁を作るなど大変忙しかったわけだが
その1日の始まりはマリー=アントワネットとガチンコ勝負できる程度には優雅であった。
朝一、グレートデンのマナミ(1歳)が飲み水ボウルを後ろ脚でひっくり返した。

少々申し訳なさそうな顔で、下の方で小刻みにしっぽを振るマナミ。
「気に病むことは無かろう、おかげで床がこんなに綺麗になったぞ。」
と床を拭き拭き、偉そうなことをほざくワシ。
しなびたナスの味噌汁が鍋から噴き出している。
シュオオオオオオオオオ…
ガス台もついでに綺麗に拭いておく。
朝も早よから2箇所も磨いて清々しい。
味噌汁の匂いに反応して食いしん坊のラブラドールがのそのそよろよろ台所にやってきた。
彼の名はマメサブロウ、もうすぐ13歳のおじいちゃん犬である。
顎周りに白毛が混じり、ごま塩風になっているところが大変愛おしい。

「おうおう、掃除、おつかれさんだな。」
と言った顔をしてこちらを見てから、
のそのそよろよろ退場していった。
時計を見ると5時だ。
脳内のジャック・バウアーが大焦りしている。
“夏の散歩は日の出前に始め、
日の出とともに帰路につく”
これ、努力義務。
相棒を“焼き犬”にしたくなければな。
「We gonna get through this.」
というわけで眠れる獅子ことピットブルのロットバルト(5歳)を
「非常に申し訳ないと思う…!」
とかなんとか言いながら起こす。
絶対起こすべきではない眠れる獅子を起こす。

ロットバルトは鼻をプシュっと鳴らし
「仕方ねェな…」
みたいな顔をして鼻先から尻尾の先までブルンブルン振るわせ戦闘体制に入った。
眠れる家族を起こさぬよう静かに鍵を開け、ドアを開ける。
せっかく開けた鍵を間髪入れず閉める。
「ア゛ーーーーーーーアチョワァッ」
「LINE」
ケンシロウと通知音がやり合っている。
かしましい頭の中を整理する目的も兼ねているイマジナリー3匹の犬との散歩の時間を台無しにしてくるクセツヨカラスである。
カラスに足止めされている場合ではない。
心をジャック・バウアーにして、
「俺を止めても無駄だ。」
進め、進むんだ。
進め、俺と愉快な仲間たち。
先頭は最年少、弾けるポップ姉さんマナミ(1歳)。
その後ろに眠れる獅子改め起きてる獅子ロットバルト(5歳)。
そして私。
最後尾はいぶし銀、激渋イケオジのマメサブロウ(12歳)。
おっと、目の前から小さなお友達が歩いてきたぞ。
道を開けろ!
びっくりさせないようにな、そうだ。
よし、オッケーだ。
マナミが立ち止まるとマメサブロウ以外が玉突き事故を起こす。
大きな身体で案外ビビりなマナミ。
ギョエエエエエ!!!!
ギョエエエエエ!!!!
緑多い茂る無臭キンモクセイから放たれるヒヨドリアラート。
ギョエエエエエ!!!!
ギョエエエエエ!!!!
「ア゛ーーーーーーーアチョワァッ」
静かにロットバルトが日本野鳥の会ごっこしている。
悪気はないのだろうが、コワモテが故に
“とって喰おう”としているようにしか見えない。
私「まさか、食べようとか思ってないです…よ…ね…?」
と、歩いたことによる汗なのか冷や汗なのか判別のつかない水分でTシャツにプリントされたスヌーピーを変色させながら私はロットバルトの脳に直接語りかける。
ロットバルト「さーあ、どうだかなァ。グゥゥゥゥウゥゥウ」
HAHAHAHAHA…
まさかね、まさかまさか。
「そんなわっけなーいさ、食べるわっけなーいさ、ねーぼけーたワシが思い込んだだっけさ」
と心の中で歌いながら再び3匹を引っ張ってゆく。
最後尾、マメサブロウがロットバルトの横に出てきた。
目を凝らすと前方にもそもそと前進してくるラブラドールらしきシルエットが見える。
すっかり私の前に出たマメサブロウはしっぽがもげそうなほどにぶん回している。
ロットバルトは甘んじてそのしっぽビンタをくらい片目を閉じている。
前方から来ていたのは西に3本いったところのハンナばあさんである。
マメサブロウ「おうおう、ご老体。久しぶりじゃのう。元気にしとったかい?」
ハンナ「あらいやだねェ、ご老体だなんて。この通り、ピンピンしとるわい。近頃じゃああんた、梨が美味しいのなんの…」
と言ったやりとりをしたかしていないかはわからないが和やかムードが漂う。
帰ったらこの3匹の相棒たちに梨を差し上げようと心に決めた。
油断していたらすっかり日が昇っている。
早く家に帰らねば…
相棒たちが“焼き犬”になってしまう。
小走りで帰路に着く午前5時40分。
帰り道は私ひとりだ。
「ねえ、ポン見なかったかしら?」
隣宅のマダムに呼び止められた。
「え?」
ポンというのはこのマダムと14年間苦楽を共にし、
この盆に先祖をストーカーして天に旅立った猫である。
私が愉快なイマジナリードッグスと共に散歩をするように、
マダムもまたポンの幻影と生きているのだろう。
「見ていませんね、この辺りでは。」
「まあ、心配はしてないんだけどね。そのうち帰ってくるわね。見かけたら教えてちょうだい。」
久しぶりに無償ホームズになった。
「今日なら何かのために死ねる。俺自身の意志で。」
…いくらなんでも脳をバウアーにジャックされ過ぎだろう。
イマジナリー犬との散歩のいいところ。
自由に、世界中のどんな犬でも連れて歩けるところ。
それに、体調が悪ければ散歩キャンセルにだって柔軟に対応してくれる。
ご飯代もかからない。
イマジナリー犬との散歩に不足しているもの。
それはリアルなモフモフ感と体温である。
夏に跳ね飛ぶ汗としてのよだれ、あれすらもない。
マダムも私もその辺りのリアルに飢えているのだ。
しかし、
脂肪だけはイマジナリーならいいのに、
そこだけは妙にリアリティを求めてくるのだからたまったもんじゃあない。
二葉亭四迷の“くたばってしめい”ってなァ具合だ。
暑くて暑くてくたばっちまいそうな夏はもうしばらく続く。
私のイマジナリードッグスとの散歩ももうしばらく続くだろう。
【イマジナリーではなくリアルだったけど今はイマジナリーの犬シリーズ】
↑
人生で初めて一緒に暮らした犬の足がだだちゃ豆こ匂いだった話。
↑
ラブラドールを蚊取り線香で燻製にするとより味わい深い話。
↑
夏休みの必需品、それはラブラドール・レトリバーである。
【参考資料】
◽︎みんなの犬図鑑
グレートデン
ラブラドール・レトリバー
アメリカンピットブルテリア
◽︎~ジャック・バウアー論<名言>~ 24 -TWENTY FOUR
◽︎公益財団法人日本野鳥の会
いいなと思ったら応援しよう!
よもぎちゃーん!
はーい!
何が好き?
ポテトチップスよりも
お・ぬ・し