天野も歩けば蝉に当たる
蝉の墓を作りたがる男、天野。
↑
多摩川=天の川だと信じて止まないヤバい男:天野
「よもちゃん、蝉のお墓作りたいんだけど…」
真夏の太陽にジリジリと焼き尽くされながら天野は申し訳なさそうに言った。
蝉の墓を作りたいときだけなぜかふたまわりほど小さくなる。
蝉だけではない。
何らかの亡骸を見つけると、すかさず墓を作りたがる。
天野が私のnote下書き一覧を見てしまったら、
きっと66基もの墓を作るに決まっている。
だから決して見られてはならない。
1.太陽に近い男、天野
奴の頭は私よりも20cm以上太陽に近いところにある。
並んで歩く時、気の毒になるくらい太陽光を集め真っ赤な顔をしている。
太陽光パネルなのか、光合成しているのか、ビタミンDを作っているのかは知らないが、とにかく太陽に近い。
だから私は20日遅れで天野18歳の誕生日に日傘をプレゼントした。
当時、男性で日傘をさしている人はほとんどいなかった。
天野は“日傘男子”の先駆けなのだ。
ただし、奴は傘の使い方を知らない。
2.傘の使い方を間違っている男、天野
雨が降っている日、私の傘は濡れない。
なぜなら、天野が傘をさす私に傘をさすからだ。
太陽が照りつける日、私の傘は日陰にある。
なぜなら、天野が日傘をさす私に日傘をさすからだ。
そして、雨の日彼は左手の甲にてるてる坊主の絵を描く。
眠っている隙に私の手の甲に描くこともある。
それで雨が止むかと言えば、そんなことはない。
確率の問題だが、私が外に出ると天候が荒れることが多い。
てるてる坊主のタトゥーが入ったJKが雨乞いしているかのような、
変な構図が生まれていたあの日々を思い出し…
感傷に浸るとか言うと思いました?
爆笑です。
3.蚊も殺せない男、天野
おそらく、彼が生きているのは675年。
自分にだけ生類憐れみの令が出ていると思っている。
それか5大将軍・徳川綱吉の生まれ変わりか何か。
甘んじて自分の血を吸わせながら、
「美味いかー?たくさん飲めよ〜」
と愛でている。
心ゆくまで血を与えてから
「元気でね」
と外に放つ。
天野曰く、お腹が満たされた蚊は動きが鈍くなるのでリリースしやすくなるとのこと。
「子どもの頃延々血ィ吸わせてたら蚊が爆発したことあるんだけど…」
と私がぼそりと呟くと
「ちょっと見てくる!」と叫んで先程逃した蚊を探しに行く。
涙目で戻ってきて
「爆発してたらどうしよう…」
などと言う。
彼は至って真剣だ。
笑ってはいけない。
そう思えば思うほど耐えられない。
とてもではないが
私が“目でハエを殺す女”だということは言えない。
↑
ハエ殺し初犯の記録です。
心の透明度というものに年齢は関係ないと知った15歳の夏。
私がカルピスなら天野はサイダーだ。
透明なガラスのコップに曇りのない氷を入れて
そっと注ぎ込むサイダーだ。
ガラスと氷の当たる軽やかな音と、
パチン、パチンと弾けては顔を打つ炭酸が心地の良いサイダーだ。
17歳、18歳と言えば子どもとしての集大成を迎える時期。
天野は子どもとしての自分を完うしようとしていたのかもしれない。
4.天野も歩けば蝉に当たる
【犬も歩あるけば棒に当あたる】
1.何かをしようとすれば、
何かと災難に遭うことも多いというたとえ。
2.出歩けば思わぬ幸運に出会うことのたとえ。
犬が歩けば棒に当たるように、
夏は天野以外も歩けば蝉に当たる。
そう、“出会う”という意味の“当たる”ならば。
でも天野という男は一味も二味も違う。
物理的に蝉に“当たる”。
というか、当たられる。
当然のことのように
日傘をさす私に日傘をさし、光合成している天野が申し訳なさそうに言う。
「よもちゃん、蝉のお墓作りたいんだけど…」
シャトーブリアンすら一瞬でウェルダンになりかねないほどに灼かれたアスファルトの上、
無防備に腹を丸出しにしている1匹のミンミンゼミ。
天野「7年も土の中で過ご…」
私「ミンミンゼミは長くても4年。」
天野「そうなの?」
私「そう。」
天野「大人になっても2しゅ…」
私「気合い入ってんのは3週間。」
天野「昭和のヤンキーみたいなミンミンゼミ?」
私「昭和に生きてたことないから知らないけどそんな感じだと思う。」
天野「…お墓作ってもいい?」
私「どうぞ。あっちに公園ある。」
天野「じゃあ俺がご遺体を運…」
ミンミンゼミ「ブミババババババ!!!!!」
天野「ウワァァァァァァア!!!!!」
ミンミンゼミ「必殺!ファイナルアタック!!」
ミンミンゼミは去り、
天野が無防備に腹を天に向けてひっくり返っている。
【蝉の“ファイナルアタック”回避術】
Point:生死を見極めよ。
◽︎脚が開いていれば「生」
◽︎脚が閉じていれば「死」
地面に落ちたセミの重心は羽側。
そのためお腹丸出しでひっくり返っている。
真実の死を迎えると人間同様血液の流れが停止。
すると体内から水分が失われて干からびる。
結果的に筋肉が収縮して脚が縮こまった状態になる。
カブトムシなど他の昆虫も同様。
夏の終りの風物詩?
「セミ爆弾」「セミファイナル」の見分け方
脚を開いているので「生」だ。
近づけば“天野のファイナルアタック”をくらい、
私の墓が作られてしまう。
太陽に照らされる天野の腹と、
笑いに打ち震える私の腹。
何事もなかったかのように立ち上がる天野。
「よかった…あの子はまだ生きてたんだね。」
どこまでも徳川綱吉。
果てしなく徳川綱吉。
あんたほどの5代将軍はいない。
1週間前の火曜日の夕方、今年最初の蝉の華がON AIRされた。
つまり、蝉のファイナルアタックによる死の恐怖が天野に迫っているということである。
今年は一体何基、蝉の墓ができるのだろう。
そして何回天野は2回り小さくなるのだろう。
蝉の声が岩にしみ入るどころか岩に反響して苛立ったならば
蝉のお墓を作るアラウンドサーティのおじさんを想像してほしい。
きっと、複数の意味で暑さが和らいでいくはずだ。
そして私は蝉の爆音の中に下書きを隠す。
そう、彼に葬られないために。
【参考資料】
◽︎和樂web
「生類憐みの令」は本当に悪法か? 保護されたのは犬だけじゃなかった
◽︎︎ウェザーニュース
夏の終りの風物詩?
「セミ爆弾」「セミファイナル」の見分け方
◽︎新潟県立鳥屋野潟公園
ミンミンゼミの鳴き方
いいなと思ったら応援しよう!
よもぎちゃーん!
はーい!
何が好き?
ポテトチップスよりも
お・ぬ・し