USDCはなぜ突然「金のなる木」になったのか? ─ Circle最大のリスクとは ─ SoFiUSDの未来 Part6🚀
仮にAIによって世界の生産性が飛躍的に向上し、物価上昇率が低下したらどうなるだろうか。その結果、再び低金利時代へ戻る未来はないだろうか。
それが明日起きるとは思わない。
しかし長期的に見れば、決して突飛な話ではなく、実際、リーマン・ショック後を振り返ると、現在のような高金利環境の方がむしろ例外である。よって、再び低金利時代が訪れる可能性を考えることは決して不自然ではない。

そのとき興味深いのがUSDCを発行するCircleである。なぜなら、Circleは現在ステーブルコイン業界の勝者として語られる一方、その収益構造は意外なほど金利に依存しているからだ。
前回見たとおり、2026年第1四半期決算資料においては、売上の「94%」がReserve Income(裏付け資産からの運用収益)によって生み出されており、その他の収益源がほとんど育っていない。

<USDCはもともと「儲からない事業」だった>
今のCircleを見ると、
・USDC発行残高約750億ドル(2026年第1四半期期中平均)
・巨額の利益
・上場企業
という姿から立派な成功企業に見える。
しかし、USDCは最初から儲かっていたわけではない。2020〜2021年、FRBの政策金利はほぼゼロだった。
そのため、現在のCircleを支える準備金からの運用収益はほとんど存在していなかった。当時のUSDCは、「巨大な利益を生む事業」ではなかった。
それでもUSDCは生き残った。理由は3つある。
【当時のCircleは小さかった】
2020年頃のCircleは、未上場で、人員規模も小さく、規制対応も限定的で、事業範囲も狭く、現在とは比較にならないほど固定費が軽かった。つまり、儲からなくても耐えられたのである。
【USDCは戦略投資だった】
当時のUSDCは利益事業ではなかった。今すぐ儲けることより、「将来の金融インフラを取りに行く」ことを優先していた。
【DeFiブームが追い風になった】
2020〜2021年は、
・Aave(暗号資産の貸し借りができる分散型金融サービス)
・Compound(同上)
・Uniswap(暗号資産を交換できる分散型取引所)
などが急成長した時代だった。
USDCは市場に自然と採用され、広告費を大量投入せずとも流通量を増やすことができた。つまり、USDCは儲かったから生き残ったのではない。将来を信じて耐えていたのである。
<2022年、世界が一変する>
ところが2022年以降、状況は劇的に変わる。
FRBはインフレ退治のため歴史的な利上げを開始し、政策金利はゼロ近辺から5%前後まで急上昇──。
ここでCircleのビジネスモデルに思わぬことが起きる。
Circleは、USDCと同額のドルや短期国債を保有している。低金利時代にはほとんど価値を生まなかったその資産が、突然巨大な収益源へと変貌したのである。
新商品や新たな手数料収入を導入したわけではない。ゼロ金利時代に築いた発行残高とFRBの利上げによって、USDCは突然「金のなる木」になった。
皮肉なことに、USDCが儲かるようになったのは、金利環境が変わっただけである。
<Circleの固定費負担が増えている事実>
現在のCircleは、2020年のCircleとは全く違う会社になっている。
2020年頃のCircleは未上場で事業規模も小さく、規制対応も限定的だった。一方、現在は上場企業となり、グローバル展開や各国規制への対応も進めている。
つまり、同じ低金利でも、現在の方が耐久力は低いだろう。
<Circleが取れる現実的な選択肢>
仮に低金利時代が到来し、それが長期化した場合、Circleに残された選択肢は多くない。
【コスト削減】
最も現実的なのは、人員削減や新規投資の抑制、一部地域からの撤退などが考えられる。まず固定費を削ることになるだろう。
【手数料モデル導入】
例えば、発行手数料・償還手数料・法人利用料などの導入である。
しかし、「無料だから使われているUSDC」という前提が崩れる。また他のステーブルコインも発行や償還は基本無料であることを考えると、手数料の導入により、競争力が大きく低下する。現実的ではない。
【より高リスクな運用】
利回りを維持するため、裏付け資産に「長期債を増やす・リスク資産を組み入れる」という方法も理論上は存在する。
しかし、債券価格下落リスク・流動性リスク・決済リスクを伴う上、そもそもGENIUS Actの下では準備資産に厳しい制限が設けられており、ステーブルコイン発行体が利回り追求のために大きなリスクを取ることは難しい。
つまり、Circleは収益維持のためにリスクを高めることもできず、低金利環境では準備金運用収益そのものが縮小していく構造にあり、成長ストーリーは失われる可能性が高い。
<SoFiUSDとの違い>
ここで興味深いのがSoFiUSDである。SoFiも低金利時代が来れば、SoFiUSD事業は儲からなくなるのか。
しかし、CircleとSoFiではビジネスモデルそのものが違う。
CircleはUSDCを発行している。しかし利用者の多くは、Coinbase・Binance・Kraken・Robinhoodなどを通じてUSDCを利用している。
つまり、Circleは利用者との直接的な接点をほとんど持たず、そこからの収益化が難しい。言い換えれば、Circleの商品はUSDCそのものである。そのため、収益の中心も準備金運用収益にならざるを得ない。
一方のSoFiは違う。SoFiUSDが成功する場合、それはステーブルコイン単体で利益を生み出すというより、SoFiの金融サービス全体を強化する手段として機能する可能性が高い。
例えば、預金・ローン・Invest・SoFi Pay・国際送金に加え、Big Business BankingやMastercard MTNを通じた企業間決済・資金移動など、SoFiUSDは金融エコシステム全体をつなぐための部品になり得る。その結果、各種金融サービスからの手数料収入が期待できる。
またSoFiは、ローン事業・金融サービス事業など、すでに収益の多角化が進んでいるため、仮に将来、金利が再びゼロ近辺まで低下したとしても、SoFiの収益源がすべて消えることはない。
本当に重要なのは、ステーブルコインそのものではない。その上で展開される預金、融資、投資、決済、送金、企業金融などの金融エコシステム全体である。
高金利時代の今はUSDCの収益力が注目される。しかし低金利時代になれば、「誰が金融インフラ全体を押さえているのか」という視点の重要性が増していくのかもしれない。
また、Part1で触れたように、多くのステーブルコインが生き残れない理由は規制対応コストの増加だけではない。低金利時代の到来も見過ごせないリスクである。発行残高を伸ばせない発行体はもちろん、収益源が準備金運用収益に偏る発行体にとっても、厳しい時代が訪れる可能性がある。
そして戦いは、預金、融資、送金、投資、企業金融──あらゆる金融サービスを支える次世代インフラを巡る競争となっていく。
次章では、「金融インフラ」という視点から、ステーブルコインを巡る本当の戦いについて考えてみたい。
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