医療系学生におけるレジリエンス教育の効果
論文の紹介
タイトル
Grit, resilience and growth-mindset interventions in health professional students: A systematic review and meta-analysis
(医療系学生におけるグリット・レジリエンス・成長マインドセット介入:システマティックレビューおよびメタ解析)
著者・雑誌・発行年
Marlena Calo, Belinda Judd, Casey Peiris
Medical Education, 2024
論文の概要
本研究は、医療系学生に対するレジリエンス・グリット・成長マインドセットを高める介入の効果を検証したシステマティックレビューおよびメタ解析です。
医療系学生は、
学業負担
臨床実習
患者の死や重症疾患との関わり
などにより高い心理的ストレスを経験するとされています。実際に先行研究では、
バーンアウト:75%
うつ症状:27%
自殺念慮:11%
といった高い精神的負担が報告されています。
そこで本研究では、以下の3つの心理特性に着目しました。
Resilience(レジリエンス):困難から回復する力
Grit(グリット):長期目標への粘り強さ
Growth mindset(成長マインドセット):能力は努力で伸びるという信念
CINAHL、MEDLINE、ERIC、Embaseを対象に検索を行い、
33研究・2862名の医療系学生が分析対象となりました。
本研究の特徴は、
・レジリエンス・グリット・成長マインドセットを同時に検討した初めてのレビュー
・メタ解析によって介入効果を定量評価している点
にあります。
主な結果
▶ レジリエンス介入の効果
レジリエンス向上を目的とした介入は13研究・990名でメタ解析が実施されました。
結果として、
SMD = 0.74(95%CI 0.03–1.46)
となり、中程度の改善効果が確認されました。
さらに興味深いのは介入回数による違いです。
複数回セッションの介入
SMD = 0.97(大きい効果)
単回セッション
有意な効果なし
つまり、
レジリエンスは1回の講義ではなく、継続的トレーニングで向上する
可能性が示されています。
▶ グリットの介入効果
グリットを対象とした研究は4研究あり、
メタ解析(2研究)では
SMD = 0.48
と、小さい改善効果が示されました。
ただし信頼区間が0をまたいでおり、
統計学的に明確な効果は確認されませんでした。
▶ 成長マインドセットの介入効果
成長マインドセット教育(2研究)のメタ解析では、
SMD = 0.25
となり、小さい改善効果が示されました。
しかしこちらも信頼区間が0を含んでおり、
効果の確実性は低い
と評価されています。
▶ ストレスへの影響
レジリエンス介入は、学生の知覚ストレスを有意に減少させました。
SMD = −0.38(95%CI −0.62〜−0.14)
つまり、
心理的スキルトレーニングはストレス軽減にも寄与する
可能性があります。
全体像として重要なポイント
本研究で重要なのは、
・レジリエンス介入は中〜大程度の効果を持つ
・単回セッションでは効果が乏しい
・グリット・成長マインドセットのエビデンスはまだ限定的
・ストレス軽減効果が確認された
という点です。
特に、
教育的介入で心理的レジリエンスを高められる可能性
を示した点は重要です。

結論
本研究は、
医療系学生に対するレジリエンス介入は有効であり、ストレス軽減にも寄与する
ことを示しました。
また、
複数回セッションの継続的介入が重要
であることが明らかになりました。
教育的アプローチとして有望なのは、
マインドフルネス
瞑想
ヨガ
認知的リフレーミング
目標設定
自己省察
などの心理スキルトレーニングです。
面白かった点
個人的に印象的だったのは、
グリットを高める経験の積み重ねがレジリエンスの向上につながる可能性です。
何かを継続して取り組む機会が多いほど、当然ながら困難や壁に直面する場面も増えます。
そのたびに
「どうすれば良いか」を自分なりに考える経験を重ね、
試行錯誤を通して乗り越えられたとき、
結果としてレジリエンスが育つという印象を持ちました。
これは学生だけでなく、
スタッフ教育の場面でも非常に近い感覚があります。
新しい役割や課題を任されることで悩む機会は増えますが、
そのプロセス自体が思考力や対応力を育て、
最終的には
「困難への耐性」
として蓄積されていくのではないかと感じました。
教育・マネジメントへの示唆
本論文を読みながら興味深いと感じたのは、
成長マインドセット → グリット → レジリエンス
という流れです。
まず、成長マインドセットが土台を作ります。
知性や能力は固定されたものではなく、
努力によって伸びるという前提に立つことで、
失敗の意味が変わります。
例えばミスを
「向いていない証拠」
と捉えるのではなく、
「スキル習得の過程における必要なデータ」
と再解釈できるようになります。
その結果、失敗を過度に恐れなくなり、
粘り強く挑戦し続ける力(グリット)が生まれます。
そして、この試行錯誤を繰り返すプロセスそのものが、
最終的に
レジリエンス(逆境から回復する力)
を育てていくのではないかと感じました。
そのため組織マネジメントとしては、
スタッフに対して
・何を任せるのか
・何を期待しているのか
を具体的に示し、
挑戦と試行錯誤の機会を意図的に設計することが重要だと感じました。
個人の資質としてレジリエンスを捉えるのではなく、
経験の積み重ねを通して育つ能力として支援する視点
が重要なのかもしれません。
