【1万5000字で読む、日韓米・音楽企業10社の決算全解説】決算書が証明する「アイドルビジネスの正体」
こんにちは!
広告代理店でクリエイティブプランナーをしながら、アイドル市場をビジネス視点で考察しているnote、通称「アイビズ」です。
さて、早速、本日のテーマについて考えていきましょう
今日のテーマ
毎年この時期になると、発表されるのが決算。
これまであまりゆっくり読んだことはありませんでしたが、アイドルのビジネス構造を本当に理解したいなら、決算書は最高の教科書なんでは?と思い、今回記事にすることにしました。
今回、日韓の主要音楽企業(HYBE、SM、JYP、YG、ソニー、エイベックスなど)の最新決算データを横断的に読み込んでみたんですが、面白かったです!
日本にはアメリカの音楽会社の日本支社も多いので、いろいろ調べていたら、最終的には、ユニバーサル ミュージック グループ、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ワーナーミュージック・グループの「3大メジャーレーベル」も考察対象として入れています。
そして、先に結論を言ってしまうと、「音楽会社はもう音楽を売っていない」という事実が、数字として鮮明に浮かび上がってきました。
今日はその話を、アイドルビジネスの視点でガッツリと考察していきます。
一点注意点として「決算書の読み解き」の記事にはしていません。
あくまで決算書を参考に具体の企業が取り組んでいるアイドルビジネスを具体もピックアップしながら、俯瞰するような内容になっています。
その点、決算書を分析したい方には物足りない内容になっていると思いますのでご了承ください。
ただ、1万5000字超と過去最大級の長さになっていますので、さっと読みたい方には向いていない記事になってしまいましたが、ご一読いただくとこれからの音楽ビジネスがなんとなく見えてくる内容になっていると思いますので、ご興味ある方はお読みいただけると幸いです!
1. 売上・規模ランキングと市場の評価
まず企業の現在地を把握するためには、
「売上高(企業の規模)」
「営業利益(本業で稼いだ実際の儲け)」
「営業利益率(どれだけ効率よく稼いでいるか)」
の3つの指標を特に見る必要があると考えました。
韓国と日本で決算期や通貨単位(ウォンと円)が異なるため、単純比較は難しいですが、今回は比較しやすくするため、基本的に円に換算しつつ、直近3年間の推移を整理することで、各社の勢いと直面している課題が浮き彫りになると思い、整理しました。
(※参考レート:100韓国ウォン≒11円前後で推移)
【韓国K-POPビッグ4】財務データ推移(2023年〜2025年)
まずは韓国の音楽会社について。
調べている中で改めて知ったことですが、
韓国の音楽企業は、「芸能事務所」と「レコード会社」が一体化しているのが特徴とのこと。
日本や欧米は別れていることが多いので、韓国の音楽業界の違いがここでも明らかになりました。
これにより、アーティストの権利を自社で一括管理し、利益を最大化しやすい構造を持っています。
韓国のK-POP業界を牽引する4大芸能事務所は、
HYBE、SM Entertainment(SM)、JYP Entertainment(JYP)、YG Entertainment(YG)になります。
補足として、大まかな所属アーティストは下記になります。
HYBE
特徴: BTSを擁し、急速に成長。PLEDIS、SOURCE MUSIC、ADOR、KOZなどのレーベルを傘下に持つ。
主な所属: BTS, SEVENTEEN, TOMORROW X TOGETHER, ENHYPEN, LE SSERAFIM, NewJeans, &TEAM,KATSEYE,CORTISなど。
SM Entertainment(SM)
特徴: K-POPの基盤を築いた老舗。歌唱力やパフォーマンス力に定評があり、洗練された音楽性が特徴。
主な所属: 東方神起, SUPER JUNIOR, SHINee, EXO, Red Velvet, NCT, aespa, RIIZEなど。
JYP Entertainment(JYP)
特徴: 創業者J.Y. Parkのカラーが強く、ダンスパフォーマンスと親しみやすいグループコンセプトに強み。
主な所属: 2PM, TWICE, Stray Kids, ITZY, NiziU, NMIXX, NEXZなど。
YG Entertainment(YG)
特徴: ヒップホップベースの音楽と独自の世界観が特徴。実力派が多く、世界的な人気を誇る。
主な所属: BLACKPINK, BIGBANG, TREASURE, BABYMONSTERなど
また、音楽以外のビジネスも含みますが、LAPONEエンタテインメントを傘下にもつ「CJ ENM」も分析対象としました。
LAPONEエンタテインメント
主な所属:
JO1、INI、DXTEEN、ME:I(ミーアイ)、IS:SUE
補足までに、「CJ ENM」は韓国を代表する巨大な総合エンターテインメント企業で映画『パラサイト 半地下の家族』、ドラマ『愛の不時着』などの制作会社、音楽専門チャンネル「Mnet」を運営、世界最大級のK-POP授賞式「MAMA AWARDS」や、韓流フェスティバル「KCON」を主催しています。
CJ ENMは単なる放送局ではなく、IPの創出からプラットフォーム運営までを垂直統合で行う「K-カルチャーの巨人」と呼べる存在ともいえ、これはこれで今度noteで深掘りたいと思います。
ということで、上記、4大芸能事務所とCJ ENMの直近3年間の推移はこちらです。
数字は各社のIR資料から引用してきております。
後述の日本の音楽企業と比較しやすくするため、現在の為替1ウォン = 0.11円(100ウォン = 11円)で換算して、すべて円表記に変換しました。




今まで、韓国事務所は事業規模など見たこともなかったのですが、4大芸能事務所の中でHYBEがいつの間にかトップに躍り出ていたことは正直驚きです。
また営業利益を見るにかなり攻めの動き方をしているとわかりましたので、こちらは後述していきます。
【日本・主要エンタメ企業】財務データ推移(2023年〜2025年)
次に日本の音楽企業について。
日本の音楽業界は、先の韓国と対比的に「レコード会社(音源制作・流通)」と「芸能事務所」が分業しているケースが多いです。
近年はこの垣根が崩れ、360度ビジネス(マネジメントから音源、ライブまで一括で行うモデル)へ移行しつつある事例もありますが、
まだまだ伝統的なレコード会社と芸能事務所が別れているケースの方がメジャーと言えます。
この辺りの話は過去noteに記載しているので、気になる方はぜひ。
日本の音楽企業はアイドルが所属しているレコード・芸能事務所を中心に
下記をピックアップしました。
本noteは日本のアイドルを多く扱うので、ひとまず多めに整理しました。
〈レコード会社〉
ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)
主な所属:
アイドル: 乃木坂46、櫻坂46、日向坂46(坂道シリーズ)、NiziU、SixTONES(STARTO社所属)、SUPER EIGHT
アーティスト: YOASOBI、King Gnu、米津玄師、LiSA
エイベックス株式会社(avex)
主な所属:
アイドル: Snow Man(MENT RECORDING※)、Kis-My-Ft2(MENT RECORDING※)、SKE48、XG、豆柴の大群
アーティスト: 浜崎あゆみ、倖田來未、Da-iCE、AAA※MENT RECORDINGはエイベックスとSTARTO ENTERTAINMENTの合弁レーベル
ユニバーサルミュージック合同会社(UMJ)
主な所属:
アイドル: King & Prince、Aぇ! group、AKB48(キングから移籍)、&TEAM、Travis Japan、LE SSERAFIM
アーティスト: Ado、Mrs. GREEN APPLE、back number、椎名林檎
株式会社ワーナーミュージック・ジャパン
主な所属:
アイドル: TWICE、ITZY、CNBLUE
アーティスト: あいみょん、コブクロ、WANIMA、ONE OK ROCK
※下記2社は非上場のため今回の分析では対象外
ビクターエンタテインメント
主な所属:
アイドル: IVE(日本展開)、M!LK(スターダスト所属)
アーティスト: 星野源、サカナクション、桑田佳祐(サザンオールスターズ)、木村カエラ
キングレコード株式会社
主な所属:
アイドル: ももいろクローバーZ(EVIL LINE RECORDS)、STU48
アーティスト: 水樹奈々、宮野真守、森口博子
〈芸能事務所〉
アイドルやアーティストがが所属する多くの芸能事務所は下記ですが、多くが上場をしておらず、アミューズのみ上場をしているため対象としています。
アミューズ
主な所属
Perfume、BABYMETAL
※下記は非上場のため今回の分析では対象外
STARTO ENTERTAINMENT(旧ジャニーズ)
主な所属:
Snow Man、SixTONES、King & Prince、なにわ男子、SUPER EIGHT(旧関ジャニ∞)、WEST.、Hey! Say! JUMP、Kis-My-Ft2、Timelesz(旧Sexy Zone)、Aぇ! group、Travis Japan
BMSG
主な所属:
BE:FIRST、MAZZEL、HANA、STARGLOW
スターダストプロモーション
主な所属
ももいろクローバーZ、私立恵比寿中学、超ときめき♡宣伝部、超特急、DISH//、M!LK、SUPER★DRAGON、ONE N' ONLY
LDH JAPAN
主な所属
EXILE TRIBE: EXILE、三代目 J SOUL BROTHERS、GENERATIONS、THE RAMPAGE、FANTASTICS、BALLISTIK BOYZ、Girls²、iScream、CIRRA
このように見ると非上場も多いので、数字的に調べられないことも多くありそうですが、個別に会社がどんな取り組みをしているのか今度ゆっくりと見てみたいですね…
上記、集計できる企業の直近3年推移はこちら。




改めて、ソニーってガチですごいんですね。
音楽分野だけで2兆の売り上げです。
勝手ながら、BTSなどを抱えるHYBEの方が稼いでいるんでは?とか思っていたのですが・・・、全くの思い込みでした。
売上高だけで見るとHYBEは2,915億円なので、ソニーとHYBEは約7倍もの差があるんですね。
この表を見るとエイベックスの18億赤字は気になるところですが、こちらに関しては以前Xに載せておりますので、下記をご覧ください。
エイベックスが18億の営業赤字。でも中身は「攻めの絶好調」。不採算事業を切り捨て、XG等の次世代IPに資本をフル投下。特筆すべきは海外。5年でライブ動員4.7倍、グッズ売上は8.6倍と爆増🚀 ライブ等の“単発収益”から、音楽出版や配信等の“積み上げ型収益”へビジネスモデルを総入れ替え中なのも注目。 pic.twitter.com/1LdyGSnZIk
— 望月優夢 (@you_your_yumu) January 10, 2026
とはいえ、XGのプロデューサーの一件が今騒がれているのでこの18億円の赤字はかなりより厳しい事態になりそうだと危惧しています。
個人としては、XGのドキュメンタリーも拝見し、もちろん楽曲も好きでよく聴いているので、今回の出来事は残念でなりません。。。
2. 決算書を読むと見えてくる「音楽産業の再定義」
ここから具体的に音楽業界がどんな方向に向かっているのか?決算から深読みして考えていきたいのですが、
まず前提として、音楽会社のビジネスモデルがどう変わっていっているかを整理しておきます。
かつてのモデルはシンプルでした。
アーティストを発掘・育成して、テレビやラジオでプロモーションして、CDを売る。ライブはあくまで「CDのプロモーションの場」みたいなポジションでした。
しかし現在は、SpotifyやApple Musicの登場で、音楽のストリーミング再生1回あたりの単価は極めて低い。そのため楽曲だけで会社を大きく成長させることは、構造的にほぼ不可能な時代になってしまいました。
では現代の音楽企業は何で稼いでいるのか。
数字を見ていきましょう。
3. ビジネスモデル比較:「音楽会社ではない」ことを証明する売上の内訳
ここが今回のレポートでいちばん衝撃的だったポイントです。
〈HYBE〉
HYBEの2025年の売上内訳を見ると、これまで最大の柱だった「音源・CD売上」は前年比10.2%減。一方でコンサート収益は前年比69.4%増で、CD売上とほぼ同水準(約800億円台)に並んでいます。

さらにすごいのが、アーティストが直接稼働しない「間接参加型収益」=グッズ(MD)やライセンス収入などの領域が、年間1000億円を超えているんですよね。うちMDとライセンスだけで628億円(前年比35.8%増)という数字を叩き出しています。
〈SM〉
SMも同様で、2025年第4四半期はアルバム販売枚数が減少してパッケージ/音源部門は22.8%減。
しかし、グローバルツアーの拡大でコンサート収益が53.6%増、MDとライセンス収益が50.6%増となり、結果として過去最高の四半期売上を達成しています。

〈JYP〉
JYPも例外なく、音源収益は20.6%減。
とはいえ、アルバムはStray Kidsの「KARMA」「DO IT」が北米・欧州で大ヒットしたことで、35.4%増になったことには目を留めておきたいです。
Stray Kidsの大躍進が業績にポジティブな影響をもたらしているようです。

Stray Kidsの欧州スタジアムツアー等により、公演・MD事業が爆発的成長をし公演収益が82.4%増の208億円。
さらに「SKZOO」というキャラクターIPを使ったオンライングッズが利益率を大きく押し上げ、MD収益は42.1%増の207億円になっています。

このように見ていくと、現代においては、もはや楽曲=マーケティング・ファネルの入口」という設計思想になっていると思いました。
CDや音源ストリーミングは、新規ファンを安価に獲得するための「名刺」。
そこで心を掴んだファンに対して、数万円のコンサートチケット、数千円のグッズ、月額サブスクリプションを積み上げていく。完全にLTV(顧客生涯価値)最大化の発想で設計されています。
ソニーが証明する「楽曲は資産、CDは媒体」という真実
韓国以外はどうなのか?という視点で今度は日本を見ていきます。
この「楽曲=名刺」論を、最も説得力ある数字で証明してくれているのが実はソニーグループの音楽セグメントです。
まず、先の資料にもあったようにソニーG音楽事業の直近3年の業績を並べると、成長の凄さが一目でわかります。

https://www.sony.com/ja/SonyInfo/IR/library/presen/er/archive.html
音楽会社で営業利益率20%超え、しかも毎年右肩上がり。
これはK-POP各社を含めても、世界でトップクラスの収益構造です。
で、そのカラクリが、売上構造を見るとはっきりわかります。

2024年度の音楽制作(Recorded Music)の売上高は1兆1,960億円。
そのうちストリーミング収入だけで7,887億円、実に66%を占めているんですよね。CDや物理販売は残り34%の中の一部に過ぎません。
さらに韓国とは異なる視点で注目したいのが、音楽出版(Music Publishing)事業。
こちらは2024年度で3,798億円を売り上げています。
「音楽出版」とは何かというと、過去に制作された楽曲の著作権(版権)を管理して、世界中のプラットフォームや映像作品、CMで使われるたびにロイヤリティを回収し続けるビジネスです。
ソニーはこれをグローバルで624万曲以上という規模で持っている。
つまり、ソニーの音楽ビジネスの構造はこうなっています。
Recorded Music(演奏・録音):アーティストの新曲がストリーミングで世界中に流れるたびに課金
Music Publishing(出版・著作権):過去に作られた楽曲が世界中で使われるたびに課金
どちらも「一度作ったら、あとは寝ていても入ってくる」モデルです。物理的な在庫も、物流コストも、追加の人件費も、ほぼ発生しない。だから利益率が高くなるのは当然なんですよね。
これって「コンテンツをストック型資産として持ち続けるビジネス」の究極形です。
楽曲IPは正しく管理すれば理論上は永遠に収益を生み続ける。
ソニーは何十年も前にビートルズやマイケル・ジャクソンのカタログを買収しているわけですが、それが今でも毎年何百億円という収益をもたらしている。
音楽とは少々ずれますが、さらにソニーグループは3日、スヌーピーやチャーリー・ブラウンで知られる「ピーナッツ」IP(知的財産)を有するPeanuts Holdings LLCを連結子会社化したというビックニュースもありました。
「音楽会社」のはずが、今やスヌーピーまで傘下に収めて総合エンタメ・コングロマリット化しているのがソニーの今の姿です。
他の企業も取り上げるときりがないですが、
このように、韓国・日本問わず、音楽会社のビジネスモデルの中心がCDではもはやなくなっていることがお分かりいただけたかと思います。
4. HYBEの"意図的な大減益"が教えてくれること
数字の話でもう一つ、
韓国の話に戻りますが、とても注目したいのがHYBEの2025年業績です。

売上高は2915億円と過去最高を記録した一方、営業利益が前年比で実に72.9%も減少して55億円。
利益率はわずか1.9%です。
通常の企業なら「経営危機か?」と騒がれるレベルの数字です。
ところが株式市場は、HYBEに対して約15.16兆ウォン(約1.6兆円)という時価総額をつけています。これはSM・JYP・YGの3社を合算した額を大きく上回る評価です。
なぜか。
それは、この減益が「未来への戦略的先行投資」だとマーケットが正しく読んでいるからです。
北米市場のインフラ整備、新規アーティスト(KATSEYEなど)のグローバルデビュー費用、そして2026年のBTSワールドツアー(23カ国・82公演)という巨大な収益回収フェーズへの布石として、意図的に利益を使い切っているという事実があります。
注目ポイント:BTS WORLD TOUR ARIRANG(2026年〜)
・2022年以来約4年ぶり再始動、史上最大規模のスタジアムワールドツアー
・世界23カ国・34都市・計82公演(K-Popアーティスト史上最多公演記録)
・北米・南米・欧州・アジアの14都市に初上陸(マドリード、ブリュッセル、ミュンヘン、ボゴタ、リマ、ブエノスアイレス、台北、タンパ、トロントなど)
・全公演スタジアム規模+360度開放型ステージ導入
「今の費用対効果」だけじゃなくて「ブランドが将来生み出すキャッシュフロー」を考える、エンタメ企業がこれをここまで明示的にやっているのは、本当に見事だと思います。
また、他にも前回のnoteで紹介したように『WORLD SCOUT: THE FINAL PIECE』という大型スカウトプロジェクトを行っており、こちらでも積極的な投資が見られます。
日本でももし爆発的な人気を獲得できれば、HYBEにとって大きな利益になるかもしれません。今後どんな反響になるのか、要注目なコンテンツです。
5.ファンダムビジネス:IT企業化するエンタメ
現代のアイドルビジネスを語る上で、絶対に外せないのがファンダムプラットフォームの話です。
かつての「年会費制ファンクラブ」という概念は更新されつつあります。
今や音楽会社は、独自のITプラットフォームを自社で開発・運営する「SaaS(Software as a Service)企業」に変貌しています。
この領域で覇権争いをしているのが、韓国の音楽会社HYBE子会社の「Weverse」とSM・JYP陣営の「DearU bubble」です。
HYBEの「Weverse」:巨大なインフラを握るハイリスク・ハイリターン型
HYBEの子会社が運営する「Weverse(ウィバース)」は、アーティストとファンが交流する掲示板、限定動画の配信、そしてグッズやチケットを購入できるEコマースを統合した巨大なプラットフォームです。
〈規模とエンゲージメント〉
「Weverse」は2025年に月間アクティブユーザー数1,100万人を突破。ユーザーは月に平均263分(約4時間半)もアプリに滞在しています。


〈オープン化戦略〉
すごいのは「オープン化戦略」で、参加アーティストの90%以上が外部レーベル所属。アリアナ・グランデやデュア・リパまで参画していて、HYBEは音楽会社でありながら「業界インフラ」を握ろうとしているんですよね。
日本だと、YOASOBI、ちゃんみな、imase、AKB48、KAWAII LAB.、PEAK SPOT、SUPER★DRAGONあたりもWeverseに参画しています。
〈収益化と黒字転換〉
これまで巨大なサーバーインフラ代やシステム開発費により赤字(2024年は約11.8億円の純損失)を掘りながら規模を拡大してきましたが、
2025年に月額約330〜660円の「デジタルメンバーシップ(有料サブスクリプション)」や広告モデルを本格導入。
Eコマースの運用効率向上も相まって、2025年にサービス開始以来初となる通期黒字化を達成し、ついに巨大な収益回収フェーズに入りました。
SM・JYP連合の「DearU bubble」:1対1の「親密さ」を売る超・高収益モデル
一方で、SMエンターテインメントの子会社であるDearUが展開する「bubble(バブル)」は、「アーティストとのプライベートなチャット体験」に特化したプラットフォームです。
〈月額モデルと会員数〉
アーティスト1人あたり月額約495円を支払うと、SNSのダイレクトメッセージのようにアーティストから日常の写真やメッセージが届きます。
韓国国内の月間購読者数は200万人を大きく超えているサービスです。
〈多重購読と究極の高利益率ビジネス〉
bubbleの最大の強みは、ファンが「グループ内の複数のメンバーを多重購読する(推しが5人いれば月額2,500円払う)」ため、ユーザー1人あたりの単価(ARPU)が自然と上がっていく設計になっていること。
さらに、テキスト主体のチャットであるためWeverseのような重いインフラ費や広告費がかからないこと。
結果として2025年の売上高は約92.2億円に対して営業利益が約34.5億円となり、営業利益率は約37%という、IT企業としても異常値と言えるほどの高収益を叩き出している。

このように、「Weverse」はBtoB的なプラットフォームビジネス、「bubble」はBtoCのサブスクリプションモデルという違いがありますが、どちらも「ファンの感情をデータ化・収益化する仕組み」として機能している点は共通しています。
日本でもSTARTO ENTERTAINMENT(旧ジャニーズ事務所)所属アーティストの公式ファンクラブサイト「FAMILY CLUB web」等、各事務所・各グループの会員制サービスはありますが、韓国企業はこれらを「自社アーティストのファンサービス」に留めず、「ITプロダクト」として独立させて外部に展開することで、数千億円規模の企業価値を生み出しています。
この発想の差は、正直けっこう大きいと感じます。
ちなみにHYBEは、最近BtoB的なビジネス〈オープン化戦略〉を加速させているように思います。
HYBE JAPAN、韓国の芸能事務所KLAPと提携!Kep1erの日本ファンミーティングを共同主催とのこと。「Weverse」 しかり、HYBEは他レーベルのアーティストに対しても、アーティストの成長と発展をサポートする動きが多くて、音楽会社でありながら「業界インフラ」を握ろうとしている感がすごい。ガチ注目。 pic.twitter.com/HmlMpV9aNW
— 望月優夢 (@you_your_yumu) March 13, 2026
このように、HYBEは他レーベルのアーティストに対しても、アーティストの成長と発展をサポートする動きが増えているように感じます。
音楽会社でありながら「業界インフラ」を握ろうとしている攻めの姿勢は要注目ポイントかもしれません。
6.バーチャルアイドルとAI:不確実性を排除する究極の賭け
エンタメビジネスの最大の弱点は「生身の人間」を扱っていることです。
スキャンダル、健康問題、そして韓国特有の兵役問題。これらの属人的なリスクは、どれだけIPを積み上げても常についてまわる。最近あった出来事を思い出すだけでもたくさんありますよね・・・
そのリスクを根本から解消しようとしているのが、バーチャルアイドルとAI投資です。
K-POP勢の「人間リスク排除」戦略:PLAVEとHYBE
2024〜2025年で最も衝撃的だったのが、バーチャルボーイズグループ「PLAVE」のメガヒットです。
所属事務所VLASTはベンチャー企業のため具体の売上等は明らかになっていませんが、2025年には韓国最大のドームをソールドアウトさせ、ポップアップストアのMD販売だけで1回のイベントに70億ウォン(約7億円)を売り上げています。
また、こちらもHYBE JAPANが「PLAVE」の日本進出および日本国内におけるアーティスト活動を支援しているなど、HYBEとの関係性にも注目です。
バーチャルアイドル「PLAVE」日本進出へ
— 望月優夢 (@you_your_yumu) July 11, 2024
✅ HYBEの日本法人とタッグを組んで日本市場進出に挑戦
✅ 人の動きをデジタルデータ化するモーションキャプチャー技術によりリアルな動きを実現したのが特徴で、メンバー全員が作詞・作曲に参加https://t.co/HIsIqhjWKI
この辺りは以前noteにも書いているので、詳しくバーチャルアイドルを知りたい方はこちらを見ていただければと思います。
とはいえ、「デジタルアバターでそんなにファンが熱狂するの?」と思うかもしれません。が、むしろアニメファンやテック層を巻き込むことで、従来のアイドル市場を超えた新しい顧客層を獲得しています。
HYBEは合成音声スタートアップ「Supertone」を約3,150万ドル(およそ49億円)で買収しています。
狙いは、アーティストの「本物の声」をAIに学習させ、世界中のファンに向けて多言語での楽曲配信を可能にしたり、バーチャルコンサートで「ファン一人ひとりの名前をアーティストの声で呼びかける」パーソナライズ体験の提供。
過去には、AIバーチャルグループ「SYNDI8」もデビューしていました。
また、バーチャルアイドル以外にもIPビジネスの観点でも面白い動きがあります。
JYPは、韓国のアイドルグループ「Stray Kids」のメンバーを動物に見立てた公式キャラクター「SKZOO」のIPを持っています。

韓国アイドルのキャラクターの走りといえば、BTS(HYBE所属)の「BT21(ビーティーイシビル)」かと思いますが、今や他の会社・グループにも広まっている形です。

JYPはStray Kidsの「SKZOO」のほか、TWICEの「LOVELYS」のIPももち、バンダイの『たまごっち』とコラボさせたり、TWICEの「LOVELYS」をサンリオとコラボさせたりしているのも、「人間リスク排除」の一つの動きといえます。
結果、2025年第2四半期のMD収益は、前年比355.9%増という驚異的な数字になっています。

アーティスト本人が飛行機に乗って移動しなくても、キャラクターIPが24時間世界中で稼ぎ続けてくれる。これが音楽会社の目指す「不労所得モデル」の最終形です。
UMGはAIを「敵」ではなく「インフラ」にした
また、韓国以外に目を向けるとAI×音楽の動きにも注目しました。
AI×音楽ビジネスの話をするとき、どうしてもK-POPの文脈になりがちなんですが、欧米のメジャーレーベルも全く別の次元でAI戦略を動かしています。
中でも私がめちゃくちゃ注目したのが、ユニバーサルミュージックグループ(UMG)の動きです。
UMGはBTS・テイラー・スウィフト・ドレイク・ビリー・アイリッシュ等を抱え、世界の音楽市場シェアの約3分の1を握る、文字通り「音楽産業の王者」です。
このUMGが2026年1月、時価総額約4.5兆ドルのNVIDIAと戦略的協業を発表しました。
NVIDIAとユニバーサルミュージックグループが協業契約を締結
— 望月優夢 (@you_your_yumu) January 8, 2026
✅ 音楽の発見や制作やファン体験を高める責任あるAIを推進
✅ NVIDIAが開発したAIモデル「Music Flamingo」をUMGが保有する数百万曲に及ぶ膨大な楽曲カタログで拡張
✅ 「Music Flamingo」は、構造・理論・意味・文化まで理解できるAI pic.twitter.com/aWEyTYFyPj
NVIDIAという半導体の王者と音楽の王者が組んだ—それだけでも十分衝撃的ですが、何がすごいかというと、その「目的の設定」です。
普通のレーベルはAIに対して「著作権を侵害するな」と守りに入ると思います。実際すでにいくつも提訴が起きていますよね。
でもUMGは違います。
「AIというゲームのルールを、自分たちが書く」という攻めの発想で動いているんですよね。
「NVIDIA Music Flamingo」:楽曲探索の主導権を取り戻す
協業の核心の一つが「NVIDIA Music Flamingo」という音響AIです。
これが何をするかというと、UMGが保有する数百万曲のカタログを、AIが「感情」「コード進行」「楽器の音色」「文化的文脈」まで深く理解した上でリスナーに届ける仕組みです。従来の楽曲探索は「ジャンル:ポップ」「アーティスト:BTS」という受動的な検索でした。
でもMusic Flamingoは「今ちょっと落ち込んでいて、でも暗すぎないやつが聴きたい」「雨の日の夜に合う、少し大人なラブソング」みたいな会話的なリクエストに対応できる探索を目指しています。
これの何が革命的かというと、これまでSpotifyやTikTokのアルゴリズムに「どの楽曲を誰に届けるか」の主導権を握られていたのが、UMG自身の手に戻ってくるということです。プラットフォームのご機嫌を伺わなくても、自社のAIが直接ファンに旧譜カタログを届けられる。
ストリーミングは再生回数連動ですから、カタログ収益の拡大につながる構造です。
今まで外部プラットフォームに払っていた(主導権という意味での)コストを、自社のAIインフラで回収しようとしているという「マーケティングチャネルの内製化」とも言えます。
これはまたしても音楽のヒット指標が変わりそうな予感ですね・・・。
「AI Slop」との戦いと、クリエイター向けインフラの掌握
UMGとNVIDIAの取り組みで、もう一つ注目したいのが「アーティスト・インキュベーター」の設立です。
今、SunoやUdioといった生成AIプラットフォームによって、既存の音楽を模倣した大量の楽曲が市場に溢れています。これを「AI Slop(粗悪なAIのヘドロ)」と呼ぶらしいです。たまげた表現ですが、的を射ていると思います。
このAI Slopへの対抗戦略として、UMGとNVIDIAはアビーロード・スタジオやキャピトル・スタジオといった世界的施設を使って、トップアーティスト・ソングライター・プロデューサーを招聘し、「彼ら自身にAIツールの共同設計をさせる」インキュベーターを立ち上げました。
これの狙いは、「本物のクリエイターが設計したAIツール」をデファクトスタンダードにすることです。法的リスクのある野良AIを使うか、アーティスト公認・著作権完全保護の公式AIを使うか、という二択を市場に突きつける。プロのクリエイターや企業がどちらを選ぶかは、言わずもがなです。
Splice提携:顧客を「聴く人」から「作る人」にまで拡張する
さらに2025年12月、UMGは世界最大の音楽制作プラットフォーム「Splice」との提携を発表しています。
ユニバーサル ミュージック、音楽制作プラットフォーム「Splice」と提携 次世代AI音楽制作ツール開発へ
— 望月優夢 (@you_your_yumu) January 6, 2026
アーティスト側に馴染みがあり、理解があるプラットフォームと提携とは今後の動きが気になるところ👀
今のところ制作要素が多そうだからプロ向け感がある
🔗https://t.co/dKgkhdFVgM
SpliceはAbleton LiveやPro Toolsといったプロ向けDAW(音楽制作ソフト)に深く組み込まれた、ロイヤリティフリーのサンプルプラットフォームです。世界中のプロデューサーやビートメイカーが日常的に使っています。
この提携で何が起きるかというと、世界中のクリエイターがUMGのトップアーティストの「声」や「サウンド」を、合法的に自分の楽曲制作の素材として使えるようになります。そして、その楽曲が使われるたびに、元のサウンドを提供したアーティストにロイヤリティが支払われる仕組みが構築される。
これはUMGのビジネスモデルの市場の限界値を拡大した凄さがあります。
これまで音楽会社の顧客は「音楽を聴くファン」でした。でもSplice提携により、「音楽を作るクリエイター」全員がUMGの直接の顧客になる。世界中に何千万人もいる音楽制作者が、UMGのカタログから「素材を購入する」ユーザーになる。
これはレコード会社が完成品の販売から「クリエイティブ素材のSaaSビジネス」へと次元を広げる瞬間だと思います。
「守りと攻め」AI戦略の本質はルールメイキング
UMGのAI戦略全体を俯瞰すると、一つの明確な構造が見えます。
守り:SunoやUdioなど、著作物を無許可で学習に使う野良AIには訴訟と業界団体を通じた徹底的な法的圧力。「Say No To Suno」キャンペーンはその象徴です。
攻め:NVIDIAやSpliceと組んで、「倫理的で、アーティストに利益が還元される公式AIツール」を市場に投入。コンプライアンスを重視するプロは自然とこちらに引き寄せられる。
このハイブリッド戦略の本質は、「テクノロジーに負けないための防衛」ではなく、「テクノロジーのゲームのルールを自分が書くための攻撃」です。
HYBEが「アーティストの声をAI化してファン向けパーソナライズ体験を作る」という「ファン向け活用」をしているとすれば、UMGは「AI産業全体のインフラとして、自社カタログを組み込む」という次元の話をしている。
同じAI×音楽でも、アプローチのスケールが全然違う。
音楽産業のAI戦略を「防衛」「活用」「インフラ支配」の3段階で整理するなら、UMGはすでに最終段階に到達しつつある、そう感じたのが率直な感想です。
7.まとめ:推し活は、世界最高水準のビジネスエコシステムの上で動いている
ここまで鬼長くなりましたが、ここで全体を整理します。
今回の考察で見てきたのは、韓国・日本・アメリカという3つの地域の音楽会社でした。同じ「音楽会社」という括りでも、収益モデルもリスク構造もAI戦略も、ぜんぶ違う。その違いを整理すると、こんな図式になります。
「音楽という素材」を何のビジネスに組み込むか——3極の比較
韓国(HYBE・SM・JYP・YG)=アーティストIP集中型
楽曲はあくまで「名刺」。本命はコンサート・グッズ・ファンプラットフォームの3本柱で、アーティスト個人のIPを中心に収益を積み上げる「集中型モデル」です。WeverseやbubbleというSaaS的プラットフォームを自社開発して、ファンの熱量を定期収益に変換する仕組みまで作り上げている。
強みは「熱狂の爆発力」です。BTS・Stray KidsクラスのIPがワールドツアーをやれば、一年で数千億ウォンという収益が集中して入ってくる。ただしリスクも集中します。スキャンダル、兵役、メンバー脱退等、アーティスト個人に何かあれば、一夜にして売上構造が崩れるリスクと常に隣り合わせです。
日本(ソニー・エイベックス・アミューズ・BMSG)=分散IP型
ソニーが最も象徴的で、「楽曲カタログ×グローバルストリーミングインフラ」という分散型モデルです。音楽出版(著作権管理)だけで年間3,798億円を稼ぎ、624万曲のカタログが世界中で再生されるたびにロイヤリティが積み上がる。BTSが活動休止してもビートルズの版権で稼ぎ続けられる、というのがこのモデルの強さです。
アミューズはライブエンタテインメントが売上の6割超を占め、エイベックスはアニメ・映像IPで音楽減収を補う。日本各社は「アーティスト個人のIP」より「コンテンツ・体験・著作権」という形での分散を選んでいるという点で、K-POP勢と根本的な設計思想が異なっています。
アメリカ(UMG)=プラットフォームそのものを支配するモデル
UMGはさらにもう一段上の発想で動いています。NVIDIAと組んで「楽曲探索AIを自社で持つ」、Spliceと組んで「音楽制作の素材市場を支配する」——これはもはや「音楽会社」ではなく、音楽産業のインフラそのものを握ろうとしている企業の戦略です。
顧客の定義も違う。K-POP勢の顧客は「アーティストのファン」、ソニーの顧客は「プラットフォーム」、UMGは「ファン」も「クリエイター(制作者)」も「プラットフォーム」も全部顧客にしようとしている。TAMの設定が根本から違うんですよね。

3つの変化が、音楽産業を再定義している
この3極の違いを踏まえて、今回の考察を貫く3つのテーマを改めて整理します。
①「音楽は入口、本命は体験とIP」
これは日韓米共通の大前提です。ただ「IP」が何を指すかは会社によって全然違う。アーティストIPなのか、楽曲カタログIPなのか、ライブ体験IPなのか、キャラクターIPなのか。同じ「IP戦略」という言葉でも、設計思想はまったく異なっています。
②「SaaS企業への変貌」
WeverseとbubbleはK-POP勢のSaaS化の象徴ですが、UMGのSplice提携は「音楽制作ツールのSaaS化」という次の段階に踏み込んでいます。ファンが使うSaaSから、クリエイターが使うSaaSへ。音楽会社の事業領域はさらに広がり続けています。
③「不確実性を排除するテクノロジー投資」
HYBEはバーチャルアイドルとAI音声で「生身の人間リスク」を軽減しようとし、UMGはNVIDIAと組んで「プラットフォーム依存リスク」を排除しようとしている。リスクの種類は違えど、テクノロジーで不確実性をコントロールしようという意志は共通しています。
最後に
今回は日韓エンタメ企業の決算データから、アイドルビジネスの構造変化を考察しました。
「音楽会社は音楽を売っていない」
最初に結論として述べたこの言葉が、単なる煽りじゃなくて、数字に裏打ちされた事実だということが伝われば嬉しいです。
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