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第3話:持家か賃貸か──老後リスクとインフレで「現実解」は変わりました


〜二択をやめて、“出口”を複線化する話〜

ここまでの話を、最後にひとつへ束ねます。
「持家か賃貸か」は永遠のテーマですが、いま議論が再燃している理由は、住宅価格の高騰“だけ”ではありません。

“老後に借りたくても借りにくいかもしれない”
この不安が、静かに、でも確実に効いてきています。

しかもやっかいなのは、これは誰か一人が悪い話ではないことです。
貸す側にも理屈があり、借りる側にも事情がある。だから摩擦が残ります。

そしてもうひとつ。
インフレが続くと、住まいは「その場の家賃・返済額」よりも、時間が経つほど差が広がる性質を持っています。
ここが、昔の“常識”をそのまま当てはめるとズレるポイントです。


1. 事実:老後の賃貸は「借りたくても借りにくい」現実が残っています

法律や建前の話をすると、「年齢だけで断るのは望ましくない」です。
ただ、現場はもう少し生々しい。

国土交通省の資料では、単身高齢者など(住宅確保要配慮者)に対して、大家さんの“拒否感”が大きいことが明記されています。
その背景として挙げられているのが、まさにここです。

  • 孤独死への不安

  • 死亡後の残置物(家具・荷物)の処理負担

  • 契約の解除や手続きの煩雑さ

さらに同じ資料の中で、**高齢者の入居拒否の理由は「居室内での死亡事故等への不安が約9割」**という記載もあります。

これ、借り手から見ると「ひどい…」となりがちですが、貸し手側から見ると「事故物件化・手続き負担・相続絡み・近隣対応」まで全部が一気に来ます。
感情論ではなく、**“不安が損失になり得る構造”**があるんです。

そして、ここで多くの人が誤解しがちなのが次の点です。

「空き家が多いなら、貸せばいいのに」

実際、空き家は全国で900万戸空き家率は**13.8%**で過去最高です。
でも、空き家が多い=誰でも借りやすい、にはなりません。

理由は単純で、空き家には“種類”があるからです。

  • 住める状態じゃない(古い・傷み・設備不足)

  • 場所がミスマッチ(職場や病院、交通の便から遠い)

  • 貸したいけど貸せない(管理不安、近隣トラブル、相続未整理)

つまり、数字上の空き家と、現役で流通する賃貸は別物になりがちです。

老後の賃貸リスクの芯は「借りられないことがある」だけじゃない。
**“借りられる物件に住み替える必要が出た瞬間に、条件が厳しくなる”**ことです。


2. 根拠:インフレは「借金」と「家賃」に“時間差”で効きます

ここは難しい言葉を抜きます。
インフレ=同じ1万円で買えるものが減る状態です。

で、住まいに関しては、インフレが起きると **ローンと家賃に“逆方向の時間差”**が出やすい。

2-1. 住宅ローン(固定に近い返済)に起きやすいこと

固定金利などで返済額が大きく変わらないと、物価や給料が上がっていく中で、

  • 月10万円の返済が、

  • 10年後・20年後には、いまほど重く感じにくい

こういう局面が出ます。
もちろん条件付きです。変動金利で金利が上がれば逆風になります。

でも「固定で耐えられる範囲なら、将来の負担感が相対的に軽くなる可能性がある」
この“方向性”は押さえておく価値があります。

2-2. 家賃に起きやすいこと

家賃は、更新・住み替えのタイミングで相場・物価・需給の影響を受けやすいです。
そして東京のような便利エリアは、需要が強く、下がりにくい。

実際、東京都区部の物価統計でも、**家賃は前年同月比で上昇(例:+1.2%、民営家賃 +1.8%)**といった数字が出ています。

全国の消費者物価指数(CPI)でも、2025年11月時点で総合指数は**113.2(2020年=100)、前年同月比+2.9%**と、物価全体の上昇が続いています。

つまりインフレ局面では、

  • ローン(固定)は“体感が軽くなる可能性”

  • 家賃は“じわじわ上がる・住み替えで跳ねる可能性”

という、地味だけど効く差が出やすい。

そしてここが重要で、あなたが第2話で言っていた
「金利が下がっても家賃は下がらない」の核心はここです。

家賃は金利だけでは決まりません。
修繕、人件費、管理費、保険料、税、そして需給。
**家賃は“生活コストの集合体”**なので、インフレの影響を受けやすいんです。


3. 影響:若いほど「固定費の高さ」が資産形成の速度を遅らせます

ここは説教じゃなく、構造の話です。

家賃が高いのは「損」ではありません。
通勤が楽、時間が増える、街が好き。これは価値です。
ただし同時に、資産形成の観点ではこうなります。

固定費が高い期間が長いほど、未来の選択肢を買うお金が貯まりにくい。

たとえば、住居費の差が月5万円あるとします。

  • 年:60万円

  • 10年:600万円

この600万円は、ただの数字じゃありません。
将来の選択肢の“材料”になります。

  • 頭金

  • 教育費

  • 住み替え資金

  • 親の介護対応

  • 仕事が変わる時のバッファ

そして住宅価格が上がる局面では、よく起きる現象があります。

貯まる速度より、価格が上がる速度が速い
→「貯めたのに届かない」
→意思決定が遅れる
→さらに選択肢が狭まる

怖いのは、これが30代・40代だけの話に見えて、
**最後は老後の住まいに“つながってしまう”**ことです。


4. リスク:持家にも賃貸にも「落とし穴」があります(賛成・反対・中立)

ここからは公平に並べます。
結論を急がず、「どこで詰むか」を先に見ます。

賛成(持家寄り):老後の“住まい確保”を優先する

持家の強みは、結局ここです。

  • 老後に“住む場所”が残りやすい

賃貸で借りにくくなる可能性が残る以上、先に確保しておくのは合理的です。
インフレ下では、家賃や住み替えコストが読みにくくなるので、持家は家計の見通しが作りやすい。

ただし、持家は「買った瞬間に勝ち」ではありません。
持ち続けるコストがじわじわ効きます。

  • 修繕(戸建でもマンションでも)

  • 管理費・修繕積立金(マンション)

  • 固定資産税

  • 設備更新(給湯器、配管、屋根、防水 etc.)

ここを軽く見ると、老後に「住まいはあるのに、支払いが苦しい」という逆転が起きます。

反対(賃貸寄り):柔軟性と所有リスク回避を取る

賃貸の強みは、身軽さです。

  • 転職

  • 家族構成の変化

  • 親の介護

  • 災害リスク

  • 近隣トラブル

人生はけっこう動きます。
その動きに合わせて住み替えやすいのは賃貸の圧倒的メリットです。

さらに、購入には初期費用がかかり、維持費もかかる。
その分を投資に回して、流動性(すぐ動かせるお金)を厚くする戦略も合理的です。

ただし、賃貸の弱点は2つ。

  • 老後に“借りられないリスク”がゼロではない

  • インフレ下で家賃が上がりやすい(更新・住み替えで跳ねる)

賃貸は「いつでも借りられる前提」に寄りかかりすぎると、将来の詰みポイントになり得ます。

中立(現実解):二択ではなく「出口戦略」を複線化する

結局、いちばん現実的なのはここです。

“買うか借りるか”ではなく、先に「出口」を決める。

出口とは、これです。

  • 住み続ける

  • 売る

  • 貸す

  • 小さく住み替える

  • 親と近居・同居

  • 施設・サービス付き住宅へ

住まいは投機ではなく、家計と家族の設計図です。
だから「出口」を複線化すると、相場に振り回されにくくなります。


5. 図表:この10年で“現実”がどう動いたか(空き家)

  • 空き家数は900万戸、空き家率は13.8%(令和5年住宅・土地統計調査 速報)

① 騰落率(推移)グラフ:空き家数・空き家率

② 実数表:主要年の空き家数・空き家率

空き家が増えているのに「老後の賃貸不安」が消えない。
ここが、住まい問題の“いちばん嫌なリアル”です。


6. どこから崩れる?どこは崩れない?

結論から言うと、住宅の局面変化は“価格”より先に、だいたい次の順でにじみます。

6-1. 取引量(売れた数)が先に動く

値段が落ちる前に、まず売買が鈍る。
あるいは逆に、値段が高くても売れ続けているなら、相場は崩れにくい。

6-2. 在庫(売り物件数)が溜まる or 減る

「売りたい人が増えた」のか、「売れ残りが増えた」のか。
ここがはっきりすると、空気が変わります。

全国宅建のデータ集(東日本レインズ等の出典を明記)では、首都圏中古マンション在庫について、2025年10月の在庫総数は43,669件など、月次の在庫推移が示されています。
(※数字は月次で動くので、ここは“方向”を見る使い方が向いています)

6-3. 着工(建てる量)が減ると、供給が細る

国交省の建築着工統計では、**2025年11月の新設住宅着工は前年同月比 -8.5%**とされています。

着工が減る=新しい供給が細る。
供給が細ると、価格が崩れにくくなる力にもなります(もちろん需要次第ですが)。

6-4. 賃料(家賃)がじわじわ効く

家賃が上がると、

  • 生活が苦しくなる

  • 住み替えが増える

  • “便利な場所”への集中が起きる

  • 便利な場所の家賃が下がりにくくなる

この循環が回りやすい。
東京都区部の統計で家賃上昇が確認できるのは、まさにこの流れと一致します。


7. 今後の展開:最も合理的な立場(条件付きで)

結論を一つに固定しません。
でも、**「どっちが現実的か」**は条件付きで言えます。

最も合理的な立場(条件付き)

家計が耐えられる上限内で、老後の住まいの出口を先に確保できるなら、“持家寄り”が合理的です。

理由はシンプルです。
老後の賃貸リスク(借りにくさ)が残る以上、住まい確保は生活の土台になる。
さらにインフレ局面では、家賃や住み替えコストが読みづらくなります。

ただし、次に当てはまるなら賃貸寄りが合理的になります。

  • 仕事・家族事情が動きやすく、住む場所が固定できない

  • 頭金や諸費用で家計が痩せる(投資・教育費・緊急資金が削られる)

  • 修繕費・管理費の上昇を吸収できる余力がない

  • 「売る/貸す」の出口が作れない立地・物件になりそう

要するに、合理性は気分ではなく、
キャッシュフロー(毎月の耐久力)と出口戦略で決まるということです。


8. 結び:住宅問題は、“家族戦略”と“資産形成”の話です

住宅高騰は、不動産の話に見えます。
でも本当は、家計の固定費をどう設計し、家族の未来の選択肢をどう守るかという“人生の設計図”の話です。

そして今、その設計図は「個人の勝負」から、
少しずつ **“家族のチーム戦”**に寄ってきています。

たとえばアメリカでは、複数世代同居が長期で増え、2021年時点で人口の18%が多世代同居という整理があります。
出典:Pew Research Center(2022)多世代同居の推移:1971年7% → 2021年18%

欧州でも、親元を出る年齢が高め(EU平均26.2歳)で、家賃・住宅価格の上昇が家計を圧迫している構図が見えます。
出典:Eurostat(2025)2024年の親元離れ平均年齢:26.2歳

さらにEU全体の住居コストは、長期で見ると上向きがはっきりしています。
2010年から2025年Q1までの累計で、住宅価格+57.9%、家賃+27.8%という整理が出ています。
出典:Eurostat(2025)住宅価格・家賃の長期推移(2010→2025Q1)

これ、日本も「他人事」ではなくて、**“便利な場所ほど住居費が重い”**という構造は同じです。

だから結論は、持家か賃貸かの二択ではなく、**家族戦略を含めた“出口の複線化”**になります。
ここからは、刺さるように具体例で言いますね。

家族戦略の「現実的な型」5つ(どれが自分に近いかで考える)

① 近居(徒歩〜電車で近い)型:助け合いはするが同居はしない

  • 介護・育児の支援が発生しやすい家庭に強い

  • 同居のストレスは避けつつ、移動コストを削れる

  • “老後の住み替え”も選択肢に残しやすい

② 同居(1つの家計に寄せる)型:家賃・住宅費の総額を落とす

  • 住居費が一番重い都市部では効きが大きい

  • 家計の可処分が増える=教育費・資産形成に回せる

  • 注意点は「生活ルール」「家計の境界線」を事前に決めること

③ 二世帯(完全分離 or 部分分離)型:同居の摩擦を設計で減らす

  • 生活音・水回り・玄関の分離で“揉めポイント”を減らす

  • 将来どちらかが抜けても、賃貸化・売却の出口を作りやすい

  • リフォーム費の上振れがあるので、見積もりは保守的に

④ “親の家を拠点化”型:親の持家を活かし、別の住まいを縮める

  • 親の家の修繕+バリアフリー化を先にやる

  • 自分世帯は「小さく住む」「勤務地に合わせて賃貸」を柔軟に

  • 相続・名義・修繕負担のルールを先に合意しておく

⑤ “出口を2本持つ”型:買うなら貸せる/売れる形にしておく

  • 住み続ける前提でも、「貸せる」「売れる」立地・間取りを意識

  • 老後に“借りにくい”が残るなら、出口がある方が詰みにくい
    (背景の流れ:多世代同居の増加)出典:Pew Research Center(2022)

家族戦略で、最初に決めるべき3つ(ここが曖昧だと揉めます)

  1. 住居費の上限:月いくらまでなら「生活の余白」が残るか

  2. 助け合いの範囲:育児・介護・送迎・緊急時、どこまで誰がやるか

  3. お金の境界線:名義、固定資産税、修繕費、相続時の精算ルール

ここが決まると、相場が高止まりしようが調整しようが、判断がブレにくくなります。
住まいは投機ではなく生活として、数字で冷静に整理していい。
そして“家族会議”は、早いほど有利です。揉めないために、です。

最後にもう一度だけ。
次に決めるべきは完璧な答えではなく、自分の「上限」と「出口」
これが固まった瞬間に、住まいは「不安の種」から「人生の土台」に変わります。


要点

  • 老後の賃貸は、現場では「貸主の不安(孤独死・残置物など)」が残り、借りたくても借りにくい局面があり得ます。

  • インフレ局面では、ローン(固定)は体感が軽くなる可能性がある一方、家賃は更新・住み替えで上がりやすく、“時間差”で効いてきます。

  • 結論は二択ではなく、住居費の上限+出口戦略の複線化で「現実解」が決まります(売る/貸す/住み続ける/住み替える/家族戦略)。

  • 米欧では住居費の重さを背景に、多世代同居・親元居住が“戦略”として現実に増えている流れが確認できます。

  • 家族戦略の肝は、住居費上限/助け合い範囲/お金の境界線を先に決めて、出口を複線化することです。

今日も最後までお読み頂きありがとうございました。

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