舞台 「近松心中物語」 観劇レビュー 2025/10/23


公演タイトル:「近松心中物語」
劇場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
企画・制作:CCCreation
作:秋元松代
演出:堀越涼
音楽監督:吉田能
出演:渡部豪太、豊田エリー、松島庄汰、木﨑ゆりあ、植本純米、霧矢大夢、猪俣三四郎、川田希、井上一馬、三遊亭遊かり、小林あや、田上真里奈、中村元紀、小田伸泰、秋山遊楽、前田隆成、加藤広祐、木村聡太、悦永舞、守屋えみ、中島多羅、竹内麻利奈、牧田優希、雛田みかん、白井もえ、コータロー、小川さくら
演奏:吉田能、福岡丈明、小倉理恵、あいあい
期間:10/18〜10/26(東京)
上演時間:約2時間(途中休憩なし)
作品キーワード:心中物語、ラブストーリー、悲劇、生演奏、パンク、コスプレ、音楽劇
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆
国内外で演劇公演などを企画・制作する「CCCreation」が、「あやめ十八番」を主宰する堀越涼さんを演出に、吉田能さんを音楽監督に迎えて、劇作家の秋元松代さんが1979年に発表した戯曲『近松心中物語』を上演するということで観劇。
『近松心中物語』は、近松門左衛門による世話物の人形浄瑠璃『冥途の飛脚』をベースに、『ひぢりめん卯月の紅葉』『跡追心中卯月のいろあげ』を織り交ぜて書かれた2組の男女の心中物語であり、1979年に蜷川幸雄さんの演出で帝国劇場で初演され、その後何度も上演が繰り返されてきた。
今回の上演では、『白蟻』(2024年6月)などで組んできた「CCCreation」と堀越涼さんの4度目のタッグで、『近松心中物語』を現代に置き換えて上演された。
私自身「CCCreation」の公演は『白蟻』で一度拝見しているが、『近松心中物語』の物語自体は初めて触れる。
物語は、飛脚問屋の養子である亀屋忠兵衛(渡部豪太)と遊女の梅川(豊田エリー)の男女と、傘屋の婿養子である傘屋与兵衛(松島庄汰)とその妻であるお亀(木﨑ゆりあ)の男女の心中物語である。
忠兵衛は槌屋にお金を届けた際に、梅川という女性に出会い恋をしてしまう。
しかし、後日忠兵衛は八右衛門(植本純米)から梅川に身請け話があると聞かされ慌てる。
一方で、傘屋には与兵衛と妻のお亀がいた。
与兵衛は婿養子であるため、お今からの当たりが厳しく窮屈な思いをしていたが、お亀からは愛されていた。
そんな中、与兵衛の元に忠兵衛がやってきて、梅川のために五十両を貸して欲しいのだと言う。
忠兵衛は、与兵衛の渡した五十両を持って梅川に会いに行き、梅川の身請け金を払おうとするが...というもの。
まず今作で驚かされたのは舞台美術と音楽である。
開演すると、ステージ下手側に電子音楽の楽器が置かれていて、そこに楽隊たちがやってきて生演奏が繰り広げられた。
「あやめ十八番」の公演では打楽器や管弦楽器による生演奏で届けられることが多いが、「CCCreation」では生演奏がシンセサイザーやエレキギターといった電子音楽になる点も特徴的である。
しかも効果音からBGMまで全てを電子音楽による生演奏で披露されるので、吉田能さんが音楽監督として今作でもその才能ぶりを発揮していて素晴らしかった。
舞台美術も非常に凝った見せ方をしていた。
『近松心中物語』という江戸時代の台詞で描いた物語を違和感なく現代に置き換えていて素晴らしかった。
ステージ上にはスプレーで落書きされたような移動式の階段付きパネルが置かれていて、それらを縦横無尽に動かすことで躍動的な舞台に仕上がっていた。
ここは新宿のトー横かと思わせられるほど、派手なコスプレに身を包んだ若者たちが沢山登場し、台詞は江戸時代のものなのに違和感がない点に驚かされた。
この舞台美術と音楽の世界観だけでずっと観られてしまうという魅力がそこにはあった。
また、リストカットして手首から赤いリボンのようなものが飛び出すことで血を表現したり、ハロウィンのコスプレやサンタのコスプレが登場したり、銀色の紙吹雪で雪を表現するなど、まるでステージ全体が一つのパーティのように演出されるのも非常に面白かった。
それでもって全く違和感を感じさせないのがまた素晴らしかった。
脚本はというと、事前に私が戯曲を読んでいなかったので、物語を追うという点については少し苦労する部分があった。
登場人物が多いので、誰がどういう役割なのかを理解するのに苦労した上、心中に至ってしまう動機など重要な部分を追いそびれてしまったので、脚本の見せ方はもう一工夫欲しかったと感じた。
舞台美術と音楽に意識が入ってしまい、物語に集中できなかったのもあるかもしれない。
事前に戯曲を読んでおいた方が良かったかなと感じた。
出演者は若い座組ではあったが、だからこそ新宿のトー横のような世界観がマッチしていたし、派手で賑やかな感じが似合っていて良かった。
特に、忠兵衛役を演じた渡部豪太さんと遊女の梅川役の豊田エリーさんの演技が素晴らしかった。
忠兵衛の梅川に一途な感じと、八右衛門に翻弄されてしまう様が本当に観ていて苦しかった。
また梅川役の豊田さんの、まるでステージ上で輝くシンデレラのような神々しさが凄く良かった。
事前に戯曲を読んでおいた方がストーリーも理解しやすくて楽しめるかもしれない。
ただ、近松門左衛門の心中物語をベースに描いた今作をここまで舞台美術と音楽で現代にアレンジ出来てしまうのは驚きなので、『近松心中物語』に初めて触れる観客だけでなく、今まで何度も今作を観てきた観客にもおすすめしたい。
アーカイブ配信も10月26日分の公演が7日間まで視聴できるのでご覧になって欲しい。

↓オープニング映像
↓戯曲
【鑑賞動機】
『近松心中物語』は有名な戯曲で一度は触れてみたいと思っていた。そんな中、いつも生演奏で素晴らしいクリエイションを展開する「あやめ十八番」の堀越涼さんの演出で上演されるということで観劇することにした。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。
ステージ下手側に、楽隊である吉田能さん、福岡丈明さん、小倉理恵さん、あいあいさんが付く。そして電子楽器で電子音楽の演奏を始める。
ステージ上には、ハロウィンのコスプレをした人々が集まってどんちゃん騒ぎをしている。歌ったり踊ったり(おそらく騒ぎ唄と掛合い唄を歌っている)している。客席側から、九重太夫(中島多羅)が女王のような風格を持って登場し、周囲から注目を集める。
そんなどんちゃん騒ぎの中、傘屋与兵衛(松島庄汰)はこうやって馬鹿騒ぎして廓で遊ことに飽きたと言っている。柏屋の仲居(井上一馬)はそんなこと言わないでくれよ若旦那とばかりで与兵衛を宥める。与兵衛は、ここの大阪新町の廓にいる白菊(白井もえ)を気に入っていて一緒に遊んでいたようである。
そこへ傘屋丁稚長松(秋山遊楽)が与兵衛の元にやってくる。やっと見つけたと言わんばかりの長松は、お今が与兵衛のことをずっと探しているから戻ってくるように言う。与兵衛は、どうして自分がここにいることが分かったのかと驚く。お今(霧矢大夢)がやってくる。お今は早く家に帰ってくるように与兵衛に言う。与兵衛は、家を出て行くように言ったのはお今ではないかと言う。しかし、家で妻のお亀が与兵衛のことを待っているから戻るようにと言う。
しかし、与兵衛は白菊という女性と一緒にいたことがお今にバレてしまい失望される。そのまま与兵衛はお今と長松と共に傘屋へ戻る。
飛脚問屋の養子である亀屋忠兵衛(渡部豪太)は、道端で拾ったお金をお金の持ち主に届けようと歩いていた。そこへ、八右衛門(植本純米)という男に出会う。忠兵衛は、拾った一歩のお金を持ち主の槌屋に届ける所だと言うと、八右衛門はさぞかし人が良いのだなと言う。
忠兵衛は槌屋という廓に到着し、槌屋平三郎(猪俣三四郎)に一歩を渡す。忠兵衛はすぐに帰ろうとしたが、槌屋で遊んでいた八右衛門に呼び止められ、お金を渡して帰るのは失礼だから、少し遊んで行けと言われる。しかし忠兵衛は廓に興味がなかったのですぐに帰ろうとする時、忠兵衛は遊女の梅川(豊田エリー)に出会い一目惚れする。そして、忠兵衛は梅川と遊んで彼女に恋をする。
忠兵衛の自宅である亀屋では、亀屋後妻妙閑(小林あや)と亀屋番頭伊右衛門(加藤広祐)が話していた。そこへ八右衛門がやってくる。忠兵衛はいるかと尋ねるが、もうすぐ帰ってくるだろうと妙閑は言う。
八右衛門は、そろそろ忠兵衛にも嫁が必要な年頃で縁談の話があると言う。妙閑はそれは良い話だと言う。
忠兵衛が帰ってくる。妙閑は八右衛門から縁談の話があると伝える。そろそろ嫁を迎えた方が良い年頃だから良い話だと言う。しかし忠兵衛は、縁談には興味がないとキッパリと言う。
妙閑と伊右衛門は去り、忠兵衛と八右衛門の二人きりになる。八右衛門は、以前忠兵衛が槌屋で出会った遊女の梅川には身請け話があるのだと言う。五十両用意しないと彼女と時間を共にすることは出来ないと告げる。忠兵衛は慌てる。
一方傘屋では、お鶴(竹内麻利菜)とお光(牧田優希)が与兵衛と遊んでいた。そこへお亀(木﨑ゆりあ)がやってくる。お亀はお鶴とお光を傘屋から追い出して与兵衛と二人きりになる。
お亀は、与兵衛が大阪新町の廓で白菊と遊んでいたことが許せず泣く。お亀は与兵衛のことが大好きな妻なのに、不倫するかように白菊と遊んだりと女ったらしで辛いのだと言う。
そこへお今もやってくる。お今も与兵衛を責める、どれだけお亀を苦しめたら気が済むのかと。しかしお今が与兵衛を強く責める姿勢をお亀は制す、そこまで与兵衛を責めないでと。与兵衛も婿養子に入って肩身が狭いのだと同情する。お亀は与兵衛にここから離れて欲しくないと泣く。
お今もお亀も去って与兵衛が一人になった時、忠兵衛が姿を現す。忠兵衛と与兵衛は幼馴染で同じ在所の生まれであった。そうであるが故に、忠兵衛は与兵衛に五十両を貸してくれないかと頼む。好きな遊女がいて、身請け話が出ているからそのお金で身請けしたいのだと言う。与兵衛は忠兵衛に五十両を渡す。忠兵衛は与兵衛に感謝して去っていく。
槌屋、お清(川田希)が切り盛りをしている中、梅川がやってくる。梅川は非常に落ち込んだ様子で、それは身請け話があるにも関わらず忠兵衛が会いに来てくれないからであった。
そこへ槌屋平三郎がやってきて、今忠兵衛から身請け金である五十両を受け取ったと梅川に報告する。梅川は非常に喜ぶ。梅川は槌屋で踊りを披露する。
梅川と忠兵衛は会う。梅川は忠兵衛に尋ねる。お金を用意して私に会いにきてくれたのは非常に嬉しいのだけれど、こんな大金をどうやって用意したのかが気になって心配だと言う。忠兵衛は、気前の良い友人が用意してくれたのだと正直に答え、梅川は良い友人をお持ちなのねと喜ぶ。
忠兵衛の前に八右衛門が現れる。忠兵衛がそんな大金を用意出来るはずがないと八右衛門は忠兵衛に言ってくる。八右衛門は、梅川は五十両では足りない、後銀が必要だと言う。三百両を用意しなければ渡せないと言う。八右衛門は三百両をばら撒いてみせる。
そこに梅川が階段の上から現れ、忠兵衛と八右衛門が対峙しているのをみて驚く。忠兵衛は、大阪にやってきた時にこしらえてきた全財産である三百両を全て出して梅川の身請け金とすると言う。平三郎は、忠兵衛からたしかに三百両を受け取って梅川の身請け金とした。
梅川は忠兵衛に訴える。どうしてそんな全財産を投げ打ってまでと。そのまま、忠兵衛と梅川は大阪を離れる。
お鶴とお光はガールズバー的なプラカードを持って宣伝している。その近くのゴミ箱に、与兵衛は隠れていた。与兵衛はお亀に石を投げて自分がここにいることを合図する。お亀は、与兵衛が五十両を持ち出して不意に家から姿を消してしまってどこへ行ってしまったのかと心配していたと言う。お今が与兵衛を勘当すると言っていて、そうなると離婚しなければいけないから嫌だから戻ってきてと言う。
お今がやってきたので、与兵衛は再びゴミ箱の中に隠れる。お今はお亀を見つけて早く寝るように言う。お今は去る。
そのままお亀は、与兵衛と一緒に亀屋を出て夜逃げするのだった。
与兵衛とお亀は、『曾根崎心中』で徳兵衛が心中をした場所までやってくる。お亀は言う、徳兵衛も近松門左衛門に浄瑠璃にしてもらえたから、多くの人に心中した事実が知れ渡ったのであって、それがなかったら決して誰も知らない心中だったと言う。
お亀はこんな好きな人にぞんざいに扱われるなら死にたいと言って、カッターで手首を切って大量の血を流して死ぬ。与兵衛はそんなお亀の最期を見届ける。
一方、雪が降りしきる中、忠兵衛と梅川は大阪の果てへと逃亡していた。忠兵衛は梅川と二人で傘を差しながら歩いていた。
梅川はつぶやく、ここは自分が生まれ育った場所だと、そしてこのまま遊女として大阪で生きていくよりは、あと20日だけでも忠兵衛と一緒にいたいと。梅川は来世で一緒に忠兵衛と生きよう、絶対に覚えていて欲しいと言う。だからこのまま私を殺してと。
忠兵衛は泣く泣く梅川の首を絞めて殺す。忠兵衛は発狂した感じでそのまま自分も梅川の上に倒れ込んで死を遂げる。
与兵衛が一人歩いているところに、亡霊となったお亀が現れる。いつまで私をひとりぼっちにするつもりなのだと生きている与兵衛に言う。
全員でサンタの格好やクリスマスパーティのコスプレをして、『それは恋』を歌う。中央には忠兵衛と梅川が二人で手を繋いで踊っている。ここで上演は終了する。
今作は、二組の男女の心中物語が描かれているが、特に忠兵衛と梅川の恋物語はグッと心揺さぶられるものがあったと思った。正直者で貧しい忠兵衛が、なけなしのお金を投げ打ってまで梅川に恋をして一緒にいたいと一途に思う気持ちがなんとも凄いなと感じた。今まで心中したいという気持ちがどういうものなのかよく分からなかったのだが、今作を観劇すると男女が心中したいと思う気持ちが現代を生きる私たちにもなんとなく分かるような気がした。
とんでもなく理不尽な仕打ちを受け続けて、これだったら好きな人と一緒に死にたいと思うかもしれない。生きるよりも好きな人と一緒に死んだほうがマシだと、少なくとも忠兵衛と梅川の二人に関しては観ていてそこに説得力を感じた。
一方で、与兵衛とお亀はそこまで個人的には惹かれなかった。与兵衛とんでもなくどうしようもないので、お亀がどうしてそんな男をずっと好きでいられるのかはよく分からなかったからかもしれない。そこに説得力のある演技が出来ていたらまた違った感想になったのかもしれないが。

【世界観・演出】(※ネタバレあり)
今作の一番の見どころは、舞台美術と音楽による世界観の構築だと思っていて、こんな風に『近松心中物語』を現代風にアレンジ出来てしまう演出の独自性が強く際立っていたかなと思い素晴らしかった。私は『近松心中物語』を初めて拝見したので、過去の上演を拝見したことがある方が今回の上演を観劇した時にどういう感想を抱くのか気になった。
舞台装置、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。
まずは舞台装置について。
ステージ上には可動式の巨大な舞台セットが複数用意されていて、階段つきの上部まで登っていくことの出来る巨大なパネルだった。そこにはスプレー何か落書きされたような装飾が施されていて、非常にトー横を想起させるような都市部の路地裏的な印象を感じた。その舞台装置たちを自由自在に動かしていくことで、様々なシーンを作り上げていた。
舞台セットの上部に登ることが出来るので、見事に高低差を使った演出になっていて、観客は様々なステージ上の部分に目をやることが出来て飽きさせない演出が素晴らしかった。
また、ステージ上に舞台セットを何も置かないシーンを作り上げることも可能で、特にラストの忠兵衛と梅川の心中のシーンでは、ステージ上に何もないからこその切なさが表現されていた。
あとは、2つの巨大な舞台装置が観音扉のように真っ二つに開いて内部をみせることが出来たので、扉が開いて中から出演者が登場みたいなシーンもあって面白かった。
小道具も沢山用意されていた。特にハロウィンやクリスマスパーティを想起する小道具演出が多くてユニークだった。お亀が最期にカッターで手首を切って、赤いリボンが手首から飛び出して血を表現するのは面白かったし、銀色の紙吹雪が雪を表現するラストも好きだった。
次に衣装について。
本当にコスプレがみんな可愛らしくて好きだった。ハロウィンコスプレにクリスマスコスプレがあって、若い女性キャストも多いので、そういうコスプレを着て踊ったり歌ったりしているだけでも映えるなと思うし、まさかこれが『近松心中物語』なのかという意外性も非常にあって良かった。
梅川の衣装が素晴らしかった。まるでシンデレラのように銀色に輝くドレスを着ていて、一人だけオーラが違うように感じた。『アナと雪の女王』っぽさがあった。そしてラストの真っ赤なドレスを着て最期を迎えるのも良かったし、一番ラストのサンタのコスプレも良かった。
川田希さん演じるお清が一人だけ着物というギャップも目立っていて好きだった。川田さんはやはり着物が似合う方だなと感じた。
次に舞台照明について。
やはり音楽が中心のシーンもあるので、その時は結構派手な照明が多かったような記憶である。
梅川と忠兵衛が心中する雪の降るシーンは、白く照明が照らされていて綺麗だった。
そして一番の見どころである舞台音響について。
吉田能さんが音楽監督をされる作品は必ず、すべてが生演奏で繰り広げられる。劇中の音楽をはじめ、効果音まで全て生演奏で作られていて凄いのだが、今作も漏れなくそうで素晴らしかった。
今回の作品では、電子楽器による電子音楽が中心で、現代劇というのもあってパンクのような感じの音楽が格好良かった。『近松心中物語』というタイトルからは想像出来ないようなメロディの数々で、それもびっくりさせられたのだが、吉田さんがこういうパンクロック的な曲調で生演奏の舞台も作れるんだみたいな新たな気づきもあった。
あとは、電話の声な度がちゃんと電話をしているところから聞こえてくるのとかも完璧だった。
最後にその他の演出について。
客席を使った演出が多かった。私は割と客席前方の前から三列目くらいに座っていたのだが、その後ろから役者が登場したりと、後ろの方の演技は振り返らないと見えないよみたいなシーンもあった。
あとは出演者が多いので非常に賑やかだなと感じたのだが、沢山人がいることによるカオス感というか、雑多な感じも今作の魅力の一つだったと思う。とある一つのシーンでも違う役者を見たら全然違う演技をしていたりと、同じ作品でも2回以上観て別の出演者に目を向けるだけで楽しみ方も全然違う気がした。
あとは単純に役者が多いだけではなく、役者の動きも多いよなと感じた。どこかNODA・MAP的というか、アンサンブルたちがステージ上を駆け巡っているようなそう言う賑やかさも好きだった。

【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
非常に多くの出演者がいたが、多くの役者は年齢も若くて非常に活気が見られて、観ている観客も元気をもらえるような、そんな座組で素晴らしかった。
特に印象に残った役者について記載する。
まずは、亀屋忠兵衛役を演じた渡部豪太さん。渡部さんの演技は世田谷パブリックシアター『セツアンの善人』(2024年11月)で一度演技を拝見したことがある。
個人的に今作で一番好きなキャラクターが忠兵衛だった。貧しくて女っ気もないが真面目で、お金を拾っても持ち主に届ける善人であった。そんな彼だったからこそ、遊女の梅川は彼に惹かれたに違いないし、そんな真面目な男性でも梅川には惹かれてしまうほど、彼女は絶世の美女なのだろうなと思う。
忠兵衛が八右衛門に翻弄される様が、なんとも哀れに思うし、八右衛門が憎く感じられてしまう。とはいえ、忠兵衛があまりにも善人で真面目すぎるので、八右衛門がイタズラしたくなる気持ちも分からなくもない。その二人の対立が見どころだと思うし良かった。特に身請け金三百両を支払うシーンは圧巻だった。
忠兵衛の梅川を思う気持ちはつくづく良いなと思う。ラストシーンで、梅川が先に死んでしまう様を見て忠兵衛が発狂しそうなそぶりで、口を開けたまま震える演技が非常に印象に残っている。大好きな人が目の前で死んでしまったら正気ではいられないよなという表情がとても良かった。
次に、遊女である梅川役を演じた豊田エリーさん。豊田さんの演技は、シス・カンパニー『いつぞやは』(2023年9月)、イキウメ『天の敵』(2022年9月)、シス・カンパニー『ザ・ウェルキン』(2022年7月)で演技を拝見したことがある。
豊田さんの演技は、イキウメ『天の敵』で観た時から非常に優しそうで温かみのある女性を演じるのが上手くて、多くの男性が虜になってしまう感じがあるなと思っていた。そして、今作ではまさにそんな魅力を持った遊女の梅川役ということでハマっていた。
現代に置き換えられての演出ということで、今作の梅川には和を感じられる部分は微塵もなかった。豊田さんの髪色も金髪だし衣装もドレスだし。だからこそシンデレラの様な出立ちで、全く元禄時代の物語がベースになっているなんて感じさせなかった。それでもしっくりくる役をこなされていて素敵だった。
槌屋のシーンでの梅川の存在感が本当にすごくて、まさに絶世の美女といったオーラだった。この存在感のある梅川を、既存の『近松心中物語』を知る人々が観たらどう思うか気になった。
ラストのサンタのコスプレをして『それは恋』を忠兵衛と歌って踊るシーンは最高なエンディングだなと思った。
傘屋与兵衛役を演じた松島庄汰さんも素晴らしかった。松島さんの演技は、CCCreation『白蟻』(2024年6月)で一度演技を拝見している。
松島さんの演技は素晴らしかったが、個人的には与兵衛にはこれっぽっちも魅力を感じなかった。お亀という与兵衛にぞっこんな妻がいるにも関わらず、お亀のことをぞんざいに扱うし、白菊という女性と不倫するし、何かあるとすぐ傘屋を飛び出して身を隠してしまったりとクズな男だなと思った。
しかし、観劇後に『近松心中物語』の原作を読み返したりして考えたのだが、与兵衛は与兵衛でお今に嫌われながらもずっと一緒に暮らしていて生きづらかったのかなと思う。また、お亀と家を飛び出してお亀は自害したのに、与兵衛は自害しなかったというのは、与兵衛はお亀との縁が切れたけれど、まだこの世でやりたいことをやるくらいの気持ちはあった、つまりまだこの世に未練があったからこそ生き残ったのかなと思った。お亀のことをそれほど愛していなかったし、むしろ傘屋の縁が切れて自由に出来るぞと思ったのかもしれないなと感じた。
そんなお亀役を演じたのは木﨑ゆりあさん。木﨑さんの演技は初めて拝見する。
可愛らしいコスプレに身を包んでいて、全然元禄時代の物語をベースにした作品を観ている感じはしなかったが、違和感が全くないのが凄かった。与兵衛に相手にされてなくて拗らせている感じが、今の若い女性らしさと上手く絡んで自然体にしていた。
木﨑さんの演技自体は素晴らしかったのだが、もっと与兵衛に酷いことをされている哀れな女性を演じても良かったのかもしれない。割と心中をはかろうとしてカッターで手首を切るという行動が唐突すぎる気がした。忠兵衛と梅川の男女と、与兵衛とお亀の男女の2組が割と物語の比重としても均等なくらいのバランスなので、もっと存在感ある魅力をお亀から引き出して欲しかったかなと感じた。
それ以外の役者でいくと、八右衛門役を演じた植本純米さんの悪い感じの演技は、忠兵衛の誠実さや正直さをより引き出しいて素晴らしかった。そしてお今役を演じた霧矢大夢さんはその力強くて怖そうな母として権力を振るう感じがはまり役で良かった。
槌屋のオーナーの平三郎や警官役を演じた猪俣三四郎さんの存在も素晴らしく、脇役として非常に大きな役割を果たしているように感じた。そして、劇中ではたしか唯一の和装であったお清役の川田希さんも、上手く他の役者を引き立てる存在としてベテラン感を発揮していた。また、序盤に九重女王様として君臨した中島多羅さんの存在感も際立っていた。
あとは、若い女性キャストたちはコスプレ姿が非常にキュートで、お光役の牧田優希さんやお鶴役の竹内麻利菜さんなど、新宿トー横感を感じさせるとても良い雰囲気を醸し出していた。

【舞台の考察】(※ネタバレあり)
ここでは、秋元松代さんが描いた『近松心中物語』の戯曲を、近松門左衛門の心中物語に触れながら考察したいと思う。
秋元さんが『近松心中物語』を創作しようとなった背景には、近松の心中物語を新しい観点から劇化したいという依頼があり、演出が蜷川幸雄さんだと決まっていたからだそうである。近松門左衛門の心中物語は全部で十五篇あるそうである。かの有名な人形浄瑠璃の『曾根崎心中』は、そんな心中物語の先駆けとして誕生し、『曾根崎心中』のヒットがあったからこそ、近松門左衛門は心中物語を十五篇も執筆したとされている。
秋元さんは、どの近松門左衛門の心中物語を題材にしても良いと言われていたので、秋元さん自身で題材として選んだ心中物語が『冥途の飛脚』という世話物だった。
『冥途の飛脚』というのは、今作でいう亀屋忠兵衛と遊女の梅川が登場する心中物語である。ただし、今作の『近松心中物語』に出てくる物語とは少し異なっている。当然、忠兵衛が与兵衛に五十両を借りにくるシーンなどない。
『冥途の飛脚』に登場する忠兵衛は、今作で登場する忠兵衛よりももっと女ったらしで梅川に振り回されている。
忠兵衛は、八右衛門が落とした五十両を拾うが、八右衛門に届ける前に槌屋の遊女の梅川に惚れて、彼女の身請け金として五十両を払ってしまう。それに怒った八右衛門は、三百両を払って梅川の身請け金としようとするが、ちょうどその時実家から忠兵衛に送られてきた三百両の後銀を見受け金として払って梅川を身請けする。
そのまま忠兵衛と梅川は大阪を離れて、雨の中一文無しになった二人は心中を遂げるという話である。
どうして『近松心中物語』の忠兵衛は、このような誠実な男性にしたのか、秋元さんの意図が非常に気になるところである。
そして秋元さんは、『冥途の飛脚』以外にもう一つ近松門左衛門の描いた心中物語をベースにした。それが、『ひぢりめん卯月の紅葉』と続編の『跡追心中卯月のいろあげ』という心中物語である。こちらはそれほど有名な心中物語出ないため、『近松心中物語』としてクローズアップされるまでは、ほとんど上演された記録がないレベルであった。
秋元さん曰く、原作の『ひぢりめん卯月の紅葉』『跡追心中卯月のいろあげ』はそれほど出来が良くなかったそうである。それは、お亀と与兵衛の登場人物の魅力に欠けているからだと。
そこで秋元さんは、原作ではお亀と与兵衛が心中するという物語に対して、与兵衛を心中させないという選択肢を取った。これによって、元禄時代と昭和時代の通路にしたそうである。
ただ、個人的にはそれでもお亀と与兵衛のキャラクターの魅力が、忠兵衛と梅川の二人の魅力に欠けるなとも感じた、少なくとも今回の上演においては。
『近松心中物語』は何度も再演が重ねられている有名な戯曲でもあるので、他の演出バージョンも観てみたいと感じた。割と今回の上演は、現代風なパンクなアレンジで攻めた演出を取っていたと思うので、王道な演出で観てみたいと思う。
それでも、堀越版『近松心中物語』は、このような奇抜な演出で上演することは後にも先にもない気がするので、観劇出来て良かったと思っている。
↓CCCreation過去作品
↓堀越涼さん演出作品
↓渡部豪太さん過去出演作品
↓豊田エリーさん過去出演作品
↓松島庄汰さん過去出演作品
↓植本純米さん過去出演作品
↓霧矢大夢さん過去出演作品
↓猪俣三四郎さん過去出演作品
↓川田希さん過去出演作品
↓秋山遊楽さん過去出演作品
↓木村聡太さん過去出演作品
↓悦永舞さん過去出演作品
↓竹内麻利菜さん過去出演作品

