“継ぐ”とは、守ることだけじゃない。122年の老舗を進化させる、アトツギの挑戦。|アントレプレナーシップ教育
1. 挑戦×継承――ゲスト選定の背景

このたびスポットティーチャーは、昨年度に引き続き福岡市教育委員会より最優秀事業者に選定され、アントレプレナーシップ教育「ゆめナビ授業」を担当することになりました👏
アントレプレナーシップとは、様々な困難や変化に対し、与えられた環境のみならず自ら枠を超えて行動を起こし、新たな価値を生み出していく精神
急激に変化する社会で柔軟に対応する力と体力を育むため、子どもたちのチャレンジマインドを養い、質の高いキャリア教育を目指します。起業家や著名人が小学校に訪問し、講話や体験活動を通じて、児童が夢や希望をもつことを支援します。
☟昨年度のゆめナビ授業はこちら☟
3学期にかけて抽選で選ばれた10校をお受けし、今年も先生方の授業スタイルやゲストのご希望を丁寧にヒアリングしたうえで、オーダーメイド型の授業を実施いたします。
今年度の記念すべき第1校目は、福岡市立今宿小学校です。対象は6年生6クラス。打ち合わせでは、たくさんの先生方に囲まれ、子どもたちの顔を思い浮かべながら意見を交わす、にぎやかで温かな時間となりました。
先生方からいただいた願いは、努力の必要性やプロセスの大切さを伝えてほしい、そして「失敗しても大丈夫。挑戦してみよう」というメッセージを子どもたちに届けてほしいということでした。一方で、6学級という規模ゆえに外部講師の機会が当たりにくいこと、体験活動の実施が難しいこと、さらに総合的な学習の計画上、実施は9月。体育館での一斉実施は残暑による安全面の懸念が大きいことも共有されました。どうすれば学びの質と安全の双方を守りながら、6クラスすべてに体験を届けられるのか――いただいた要望をもとに最適な方法を検討しました。
そこで今回は、授業者を特別に2人お招きし、3クラスずつ2回に分けて、エアコンの効いた教室で実施する方式を提案しました。こうすることで、一人あたりの距離が近づき、ゲストの言葉や表情がより伝わりやすくなると考えたからです。
お招きしたのは、株式会社博水 専務取締役(五代目)・江越雄大さんと、株式会社吉開のかまぼこ 代表取締役・林田茉優さんです。どちらも明治創業、100年以上続く老舗の練り物店の継承者であり、先代から受け継いだ技術と志を守りながら、若い感性で新しい価値づくりに挑戦し続けているお二人です。

右:(株)吉開のかまぼこ 代表取締役・林田茉優さん
今、社会では「後継者不足問題(アトツギ問題)」が静かに、しかし確実に広がっています。お二人は同じ練り物業界という共通項を持ちつつも、歩んできた道のりは対照的です。その違いこそが、伝統を次世代へつなぐ難しさと面白さ、そして挑戦の姿を多面的に映し出してくれるはずだと考えました。先生方の「失敗を恐れず挑戦する姿を伝えてほしい」という願いにも、まさに合致します。
企業の経営を引き継ぐ後継者が見つからず、事業の継続が困難になる社会課題を指します。従来は子どもや親族が経営を継ぐことが一般的でしたが、少子高齢化や価値観の多様化により親族内承継が難しくなるケースが増えています。その結果、黒字経営であっても後継者不在を理由に廃業を選ぶ企業が増加しており、地域の技術や雇用が失われ、経済全体への影響が懸念されています。
さらに、お二人は教育分野にも熱い志をお持ちです。2回開催という負担の大きい依頼にも、「やりましょう」と快く応えてくださいました。こうして、学年全体に等しく体験を届けながら、子どもたち一人ひとりに寄り添える授業の形が整いました。
さあ、どんな学びが生まれたのでしょうか。
ここからは、博水・江越雄大さんに焦点をあて、授業の様子をレポートいたします。お楽しみに😊
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2. 122年続く“練り物”の伝統を未来へ ― 家業を継ぐ覚悟と挑戦
チャイムが鳴る少し前、多目的室に子どもたちが続々と集まってきました。ゲストは当日まで内緒。スクリーン前で準備を進める二人に視線が集まり、ざわめきの中にも期待の気配が混じります。最初に登壇した林田さんの講話のあと、もう一人のゲスト・株式会社博水の江越雄大さんがマイクを握りました。
「みなさん、こんにちは。株式会社博水の専務取締役、江越雄大といいます。よろしくお願いします。僕と林田さんの共通点は、僕も“かまぼこ”や“練り物”を作っているということです。さつま揚げ、天ぷら、ちくわ、かまぼこ——おでんの種にもなっています。そういったものを作っている会社です」

スライドには、創業当時の職人たちの姿が映ります。
博水は122年前に江越さんのひいひいおじいさんが創業し、現在はお父さまが4代目社長として会社を守り、江越さんは5代目としてその想いを受け継いでいます。
「僕は、生まれた瞬間から“かまぼこ屋になる”と決まっていたような人間なんです。」
林田社長のように“他の会社を引き継いだ”のではなく、“家業を継ぐ”立場。
その違いに、子どもたちは少し驚いたように顔を見合わせました。

会場が落ち着いたところで、江越さんは問いかけます。
「じゃあみなさん、練り物は何からできているか知っていますか?」
「さかな!」「すり身!」と声が上がると、こくりとうなずいて続けます。
「正解。魚からできています。福岡県の長浜魚市場で魚を仕入れて、まずすり身を作ります。それを形にして、揚げればさつま揚げ、蒸せばかまぼこ、茹でればつみれ、焼けばちくわ。加熱の方法によって、香りも食感も変わるんです」

画面に古い絵の一部が拡大されます。
「練り物の歴史はとても古く、約910年前、平安時代から作られていた記録が残っています。長い歴史と伝統がある食べ物なんですね」
ここで表情を引き締め、声のトーンを少し落とします。
「でも今、大ピンチです。食べる人が減っている。作る会社や人も減っている。原料の魚も減っている。このままだと、練り物の歴史や伝統は途切れてしまうかもしれない。だから、守るために動くと決めて、僕は仕事をしています」

「だけど作るだけじゃダメ。『ちゃんと届く』までが仕事だと思っています。みんなが食べてみたい”と思える見せ方を工夫しています」と語り、
唐揚げのように見える練り物や、ちくわで作った“食べられるコップ”など、
ユニークな商品を紹介。

さらに、海外での試食販売やテレビ出演、演劇による会社紹介、
「アトツギ甲子園」への挑戦など、伝統を未来へつなぐ多彩な取り組みも紹介されました。
“伝統を守る”ことを「過去をなぞること」ではなく、「次の世代へ渡す挑戦」として語る江越さんの姿勢に、子どもたちは真剣に耳を傾けていました。

3. 「かまぼこで世界を少しよくする」――失敗と再挑戦の中で見つけた“仕事の意味”
ここで、江越さんは自分の歩みに話を移していきました。
「ここまで聞くと、いろんな活動をしていて“すごい人”に見えるかもしれない。でも全然そんなことはなくて。今の仕事は、最初は“やりたい仕事”ではありませんでした。幼稚園の卒業アルバムに“かまぼこになりたい”と書いたんですが、正直、親が喜ぶかなと思って書いただけなんです。」
意外そうに目を丸くする子どもたち。
江越さんは笑顔で続けます。
「小学校ではサッカー、ゲームも大好きで、休みの日はずっとやっていました。中学で英語が好きになったのは、図書館で見た世界遺産の写真集がきっかけ。『こんな景色を自分の目で見てみたい』と思って勉強を頑張り、高校・大学で留学も経験しました。」
ゲームやサッカーの話に、うなずきながら聞く子どもたち。
ところが話は思わぬ方向へ進みます。
「でも、大学4年生で大失敗します。行きたい会社に行けなかった。卒業しても就職先が決まらない。悔しくて、アルバイトでお金を貯めてフィリピンに一人で留学しました。」

「帰ってきても仕事は見つからず、“じゃあ家の仕事をやろうか”と。正直、最初はまったくおもしろくなかったです。」
スライドには、機械を洗う江越さんの写真が映し出されます。
「生魚の匂い。夏は暑く、冬は寒い工場。冷たい水。毎日、機械を洗いながら『自分はこのために生まれてきたのかな?』と思っていました。」

教室が静まり返ります。江越さんは、ゆっくりとその沈黙を受け止めながら語ります。
「転機はコロナ禍でした。お客さんがどんどん減っていく中で、“揚げたてギョロッケ”の直売を始めました。すると、今まで聞こえなかったお客さんの声が届くようになったんです。
『おいしくて感動しました』『魚が苦手な子どもが食べました』
その言葉で、初めて気づきました。
『僕の仕事は、誰かの役に立っていたんだ』って。
そこから、仕事がどんどんおもしろくなっていったんです。」
「練り物は、たんぱく質が豊富でおいしくて体にいい。そしてもう一つ大切なのが、“もったいない”を“おいしい”に変えられることです。魚は身だけじゃなく、頭や骨、内臓にも価値がある。工夫すれば、全部が商品に生まれ変わるんです。」

「これはギョロッケ。魚のコロッケです。実は3日後の給食に登場します!僕の会社の商品です。楽しみにしていてください!」
数日後に給食で出るギョロッケの製造写真が映ると、子どもたちが一斉に身を乗り出します。
「えっ!」「ほんとに?!」と歓声が上がり、教室が一気に明るくなりました。
「今度の給食のギョロッケは、ブリの頭や骨など、これまで捨てられていた部分をやわらかく加工してすり身にし、成形して揚げたものです。“捨てるはずだったもの”を“おいしい一品”に。練り物だからこそできる“循環”です。」

江越さんは最後に、まっすぐ子どもたちを見つめながら語ります。
「『世界をよくする』って聞くと大きく感じるかもしれません。
でも僕は、“身近な世界”——友だちや家族、先生など身近な誰かを喜ばせることが、世界を少しよくする第一歩だと思っています。
僕が作り、届ける。その一連の仕事が、どこかの誰かの“おいしい”や“うれしい”につながっている。今は、そう信じて働いています。」
最後に、子どもたちへ四つのメッセージが贈られました。
1️⃣ 失敗は終わりじゃない。
次の挑戦の“種”です。怖がらずにやってみてください。
2️⃣ 好きなことを続ける。
“好き”は力です。続けていると、誰かの役に立つようになります。
3️⃣ 気になることに一歩。
気になったら、調べる・試す。その小さな一歩が、未来につながります。
4️⃣ 少し苦手にも向き合う。
ちょっとだけ頑張ってやってみると、自分の得意が見えてきます。
深く一礼し、「ありがとうございました」と締めくくると、
会場から大きな拍手が湧き起こりました。
子どもたちは、伝統を受け継ぐ“かまぼこ屋さん”の話を超えて、
「仕事とは何か」「誰かを喜ばせるとはどういうことか」を自分のこととして感じ取っているようでした。

4. つくり手に学ぶ試食と商品開発ワーク
二人の講話のあとは、子どもたちが心待ちにしていた特別な時間です。なんと、こだわり抜いて作られたお二人の商品を実際に試食できます。
博水・江越さん。
「今日は“つみれ”を持ってきました。林田さんのかまぼこは“蒸す”。うちは小さなさつま揚げで“揚げる”。蒸すのと揚げるで、香りや食感、コクがどう違うかも楽しんでください」
吉開のかまぼこ・林田さん。
「体にやさしい素材だけで作っています。添加物・保存料は不使用、卵・でんぷんも使いません。要するに“魚のすり身・出汁・塩だけ”。素材の味を、ゆっくり味わってください」
二人から作り方とこだわりの説明を受け、いよいよ試食が始まります。創業100年以上の伝統を受け継ぐ練り物屋さん二社の味を、学校で体験できるのは本当に貴重です。
列がすっと伸び、「おいしい!」という小さな声があちこちから。目の前に作り手本人がいるからこそ、感想もまっすぐ届きます。

「やわらかい」「魚の味がする」「こっちはふわっとしてる」――子どもたちのことばに、江越さんも林田さんもにっこりとうなずいていました。

試食のあとは、教室全体がものづくりの思考へ。テーマは、
「もし、みんなが“かまぼこ屋の社長”だったら――担任の先生が本気で喜ぶ商品を開発しよう!」

「誰のため」は担任の先生に決定。そこから「素材」「味」「見た目」「価格」を考えます。
二人は逆算思考のヒントを示してくれました。
江越さん「から揚げ風の練り物や魚麺を例に、“ターゲット→価格→調理法→込めた思い”のつながりで考えてみよう。安さだけでなく、納得の値段を」
林田さん「健康を気にする方や贈り物がターゲットなら、デザインはシンプルで上品に。だから一本900円という価格が生まれます」

配られた用紙に、三人組の島ごとに笑い声と静かな考える時間が交互に流れます。担任の先生のもとには質問の列。
「辛いものは大丈夫ですか?」
「アレルギーはありますか?」
「よく食べる夜ごはんは?」
ゲストの二人にも、素材の選び方や調理法について質問が次々に飛び、二人は子どもたちの視線の高さにしゃがみ込んで丁寧に答えていました。

時間になり、担任の先生が各クラスで“いちばん喜ぶ”案を選出。その理由も言葉にして伝えてくださいました。選ばれなかったグループも、「どうしてその案が選ばれたのか」を真剣に聴き、比較と学びにつなげているのが印象的でした。

講話、試食、商品開発――二人の若き経営者から原体験にもとづく学びと、味わいながら考える時間を一気に受け取った濃いひとときでした。

今回授業を受けた子どもたちや先生方の感想を紹介します。



5. 今回のゆめナビ授業のまとめ
今回の授業では、明治創業の老舗を背負う二人の若き“練り物の継承者”にお越しいただきました。講話だけでなく、受け継いできた製法や味の背景を丁寧に教えていただき、その上でこだわり抜いた練り物の試食まで実施できたことは、子どもたちにとってかけがえのない学びとなりました。
お二人は日頃から多忙の中、日程調整から複数回の打ち合わせ、細かな準備まで誠実に対応してくださいました。多くの協力と時間の積み重ねがあって初めて実現した授業だったことを、ここに記して感謝をお伝えします。
当日、子どもたちの表情は私たちの想像を超えて輝いていました。質問の時間には自然と手が挙がり、「どこで買えますか?」「お店はどこですか?」という声がいくつも上がりました。
つくり手の思いや顔を知って“買う”ことは、同じ購買でも満足度が大きく異なる――その実感が、子どもたちの中に確かに芽生えた瞬間でした。これからモノにあふれる社会を生きるうえで、“何を買うか”を“自分で納得して選ぶ”姿勢は大切な力になるはずです。
また、耳にする機会は多いものの遠い出来事に感じがちな「後継ぎ問題/後継者不足」についても、若くして継承を決断した当事者の言葉として届けられました。華やかな成功談に終始することなく、迷いや失敗、工夫や連携までを明るく前向きに共有してくださったことで、子どもたちは「困難に出会ったとき、どう乗り越えるか」を自分事として捉え、挑戦する心を育むきっかけを得られたと感じます。
学校の事情や安全面への配慮にも快く協力いただき、度重なる打ち合わせと入念な準備で対応してくださった江越さん、林田さんに、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました😊

今回ご協力いただいた (株)博水、(株)吉開かまぼこ の情報は下記に記載しておりますので、ぜひご覧ください✨
☟(株)博水 ☟
☟(株)吉開かまぼこ☟
【おまけ】
ゆめナビ授業、令和7年度記念すべき第1校目は福岡市立今宿小学校でした!
今回はお昼をはさんでの授業となったため、校長室で休憩させていただきました。
お昼休みの校長室は、子どもたちでいっぱい。
江越さんも林田さんもあっという間に囲まれて、笑顔でたくさんの時間を過ごしてくださいました。

今回の授業は、以下のSDGsの目標につながる学びとなりました。

目標4:質の高い教育をみんなに
6学級すべてに等しく体験機会を届ける設計のもと、講話・試食・商品開発ワークを通じて「挑戦」「失敗から学ぶ力」「キャリア観」を育む横断的な学びを提供しました。
目標12:つくる責任 つかう責任
ブリの頭や骨など“捨てるはずだった部分”を活用したギョロッケの事例や、価格=込めた価値の考え方を学び、納得して選ぶ消費・資源循環の視点を身につけました。
目標14:海の豊かさを守ろう
魚食の減少や原料魚の減少という課題を知り、海の資源を大切にするための加工・活用の工夫(アップサイクル)に触れることで、持続可能な水産利用への関心を高めました。
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
学校・先生方・企業(博水/吉開のかまぼこ)・SPOTTEACHERが連携し、教室実施や給食との接続など現実的な実行方法を協働設計。安全と学びの質を両立させました。
SPOT TEACHERでの授業の様子を掲載いただきました!ありがとうございます😊
▼詳しくはこちら
SPOT TEACHERの「出前授業・アントレプレナーシップ教育」の取り組みや実績は、公式サイトで紹介しています☟
