見出し画像

廃業寸前の老舗を継いだ28歳。“どうせ”を“まさか”に変えた挑戦。|アントレプレナーシップ教育

1. 挑戦×継承――ゲスト選定の背景

🐱事業紹介🐱

このたびスポットティーチャーは、昨年度に引き続き福岡市教育委員会より最優秀事業者に選定され、アントレプレナーシップ教育「ゆめナビ授業」を担当することになりました👏

アントレプレナーシップとは、様々な困難や変化に対し、与えられた環境のみならず自ら枠を超えて行動を起こし、新たな価値を生み出していく精神

引用:文部科学省「アントレプレナーシップ教育とは?」

急激に変化する社会で柔軟に対応する力と体力を育むため、子どもたちのチャレンジマインドを養い、質の高いキャリア教育を目指します。起業家や著名人が小学校に訪問し、講話や体験活動を通じて、児童が夢や希望をもつことを支援します。

ゆめナビの目的

☟昨年度のゆめナビ授業はこちら☟


3学期にかけて抽選で選ばれた10校をお受けし、今年も先生方の授業スタイルやゲストのご希望を丁寧にヒアリングしたうえで、オーダーメイド型の授業を実施いたします。

今年度の記念すべき第1校目は、福岡市立今宿小学校です。対象は6年生6クラス。打ち合わせでは、たくさんの先生方に囲まれ、子どもたちの顔を思い浮かべながら意見を交わす、にぎやかで温かな時間となりました。

先生方からいただいた願いは、努力の必要性やプロセスの大切さを伝えてほしい、そして「失敗しても大丈夫。挑戦してみよう」というメッセージを子どもたちに届けてほしいということでした。一方で、6学級という規模ゆえに外部講師の機会が当たりにくいこと、体験活動の実施が難しいこと、さらに総合的な学習の計画上、実施は9月。体育館での一斉実施は残暑による安全面の懸念が大きいことも共有されました。どうすれば学びの質と安全の双方を守りながら、6クラスすべてに体験を届けられるのか――いただいた要望をもとに最適な方法を検討しました。

そこで今回は、授業者を特別に2人お招きし、3クラスずつ2回に分けて、エアコンの効いた教室で実施する方式を提案しました。こうすることで、一人あたりの距離が近づき、ゲストの言葉や表情がより伝わりやすくなると考えたからです。

お招きしたのは、株式会社吉開のかまぼこ 代表取締役・林田茉優さんと、株式会社博水 専務取締役(五代目)・江越雄大さんです。どちらも明治創業、100年以上続く老舗の練り物店の継承者であり、先代から受け継いだ技術と志を守りながら、若い感性で新しい価値づくりに挑戦し続けているお二人です。

左:(株)吉開のかまぼこ 代表取締役・林田茉優さん
右:(株)博水 専務取締役(五代目)・江越雄大さん

今、社会では「後継者不足問題(アトツギ問題)」が静かに、しかし確実に広がっています。お二人は同じ練り物業界という共通項を持ちつつも、歩んできた道のりは対照的です。その違いこそが、伝統を次世代へつなぐ難しさと面白さ、そして挑戦の姿を多面的に映し出してくれるはずだと考えました。先生方の「失敗を恐れず挑戦する姿を伝えてほしい」という願いにも、まさに合致します。

企業の経営を引き継ぐ後継者が見つからず、事業の継続が困難になる社会課題を指します。従来は子どもや親族が経営を継ぐことが一般的でしたが、少子高齢化や価値観の多様化により親族内承継が難しくなるケースが増えています。その結果、黒字経営であっても後継者不在を理由に廃業を選ぶ企業が増加しており、地域の技術や雇用が失われ、経済全体への影響が懸念されています。

後継者不足問題(アトツギ問題)とは?


さらに、お二人は教育分野にも熱い志をお持ちです。2回開催という負担の大きい依頼にも、「やりましょう」と快く応えてくださいました。こうして、学年全体に等しく体験を届けながら、子どもたち一人ひとりに寄り添える授業の形が整いました。

さあ、どんな学びが生まれたのでしょうか。
ここからは、吉開のかまぼこ・林田茉優代表に焦点をあて、授業の様子をレポートいたします。お楽しみに😊

☟株式会社博水の江越さんの授業はこちら☟

2. 太鼓が教えてくれた「はたらく」の意味


チャイムが鳴る少し前、多目的室に子どもたちが続々と集まってきました。ゲストは当日まで内緒。スクリーン前で準備を進める二人に視線が集まり、ざわめきの中にも期待の気配が混じります。授業は林田さんの自己紹介から始まりました。

「皆さんがすぐに実践できるようなことを、私なりにまとめてきました。これからのより良い人生にするための何かヒントになればいいなと思って、お話しさせていただきます」

最初のスライドに映ったのは、店先で看板を手に笑顔を見せる二人の写真です。白髪まじりで穏やかに微笑むのが先代の吉開さん、隣が若い林田さん。

「こちら、右側に写っているのが、私の一つ前に吉開のかまぼこの社長をしていた吉開さんです。今年で80歳になりました。隣にいるのが私、28歳です。年齢差は52歳。おじいちゃんと孫くらいの差なんですけれども、全く血はつながっていません。実は私は今、かまぼこ屋なんですけれども、家がもともとかまぼこ屋というわけではなく、本当に赤の他人である私が老舗のかまぼこ屋を引き継いでやっています

「えっ、他人?」と小さなささやき。林田さんがにっこりと微笑み、緊張が少しほぐれます。

「私が代表になったのは3年ほど前です。その時、テレビ番組『激レアさんを連れてきた。』では、こんなタイトルをつけていただきました。『偶然知った廃業寸前の老舗かまぼこ屋さんを、自分と全然関係ないのに、ほっとけなくて、2年半かけて復活させた人』もう、まさにこの通りなんですね」

次のスライドには手描きの折れ線グラフ。小学校から大学までの推移が一目でわかります。中学でぐっと上がり、高校で急降下。子どもたちは身を乗り出して線の行方を追いました。

「これ、私の小学校1年生から高校・大学に至るまでの“あるもの”を表したグラフです。何だと思いますか?はい、聞こえました。成績、そうです。私の勉強に対するやる気”と、それに伴った学力です。下がりすぎですよね。でも、みんなも下がるかもしれんよね。いやいや、本当に」

明るい口調に笑いが起きます。林田さんは、そこから高校時代の話へ。

「私は中学で吹奏楽を始めて、高校では精華女子で太鼓を叩き続けました。朝5時に起きて、夜11時すぎに帰る生活。部活は全力。でも授業は97%寝ていましたね。それでも、音楽から学んだことが、今の仕事に生きています

少し声の調子を落として、言葉を丁寧に置きます。

「たとえば、何のために演奏するのか。目の前のお客様に喜んでもらうためです。仕事も同じです。『はたらく』は『傍(はた)を楽にする』と書きます。身近な人の困りごとをほどき、喜んでもらえたとき、“ありがとう”の印としてお金をいただける。お金は目的ではなく、感謝のかたちなんです」

スライドが切り替わり、教室に小さな間が生まれます。

「感動って、いつ起きると思いますか?」

「うれしいとき」「がんばったとき」――数人の声が重なります。林田さんはうなずき、目を細めました。

「顧問の先生が教えてくれました。『どうせ』が『まさか』に変わる瞬間に、人は心を震わせる、と。精華女子なら全国に行くに決まっている、という“どうせ”を、練習と工夫で“まさか今年の精華はここまで!”に変える。その瞬間に、初めて大きな感動が生まれます」

視線は子どもたち一人ひとりに向けられます。

「人生も同じです。目の前のことに一つずつ全力で向き合い続けると、ある日、『まさか自分が』に出会えます。――まさか自分が、かまぼこ屋の社長になるなんて。

その言葉に、笑いと驚きが交じった空気が生まれ、子どもたちの表情はぐっと引き締まりました。林田さんの学生時代の話は、続く「転機」へとつながっていきます。

3. 決断と行動でつないだ老舗の灯


音楽漬けだった林田さんも大学生になり、そこでずっと大切にしたい言葉に出会いました。
「――人生の経営者になる――。親や先生に決めてもらうのではなく、自分で選ぶ。うまくいかなければ次の設計図にすればいい」

林田さんは、身近なたとえで続けます。大切な選択を他人に委ねると、うまくいかなかったとき“人のせい”にしてしまう。でも自分で決めれば、振り返りと改善に変えられる。その違いを、子どもたちにも伝わる言葉で丁寧にほどいていきました。

この考え方は、大学の「ベンチャー起業論」で育ちました。授業を通して会社を訪ね、経営者に会い、音楽以外の世界が一気に開けたといいます。そこで初めて強く心を動かされた社会課題が、後継者未定(あとつぎ)問題でした。素晴らしい技術や伝統があっても、継ぐ人がいないために失われていく。日本で起きているその現実を、林田さんは具体的な出会いから知ります。

出会いの相手は、「世界一細い注射針」を作った職人・岡野雅行さん。林田さんは何度も電話し、最後は縦書きの手紙を書きました。
今お会いしないと、もう二度とお話を伺えないかもしれません。なぜ廃業を決断されたのか、どうしても知りたいのです
誠実な言葉は届き、東京で聞いたのはこの一言。
技術は、人が人に、時間をかけて伝えるものだ
この言葉が、林田さんの中のスイッチを押しました。

そして出会ったのが吉開のかまぼこ。創業135年。 


完全無添加で、卵やでんぷんを使わず、魚のすり身と出汁と塩だけで練り上げる誠実な一本。けれど会社は1年間休業中で、店先には「再開を待っています」という手紙が積み重なっていました。
「初めて伺った日に、私は見ず知らずのおじいさんの手を握っていました。『復活を手伝わせてください』って」
その手は温かく握り返され、「ぜひお願いします」と返ってきました。

「その後は、ひたすら“人を探す旅”でした」。食品会社を60社ほどあたって頭を下げ、3年。なかなか結果は出ません…。


そして、とうとう引継ぎ先の会社が見つかったのです!

しかしそれと同時に、思いがけず降ってきた言葉が…

「あなたが社長をやりませんか」


不意を突かれた林田さんは、いったん首を振りました。経営経験ゼロ技術の知識ゼロ――自分はふさわしくない、と。そこで先代に相談します。

「私が社長になるかもしれないけれど正直どう思いますか」

先代は笑って、短く力強く告げました。

「そりゃよかやんね。作り方は私が教える。技術指導は私に任せなさい。」


林田さんは静かにうなずきました。自分の力が足りないなら、足りない分を集めればいい。思いの真ん中に立てるなら、やれる。今、現場には29歳の工場長、24歳、16歳の若い仲間が並び、毎朝の蒸気とともに作業が始まります。

「実は今日、そのかまぼこを持ってきています」。主にオンラインで、贈答にも選ばれる商品です。魚のすり身と出汁と塩だけ――林田さんは素材の説明を繰り返し、「ぜひ味わって食べてみてください」と締めくくりました。

最後に、林田さんは五つのメッセージを子どもたちへ届けました。
「『ありがとう』『ごめんなさい』『お願いします』を素直に言うこと。失敗を“最高のネタ”にして挑戦を続けること。嘘をつかず、心に正直でいること。五分前行動(初対面は十五分前)で余裕を持つこと。『知らない』は最強の武器。プロに堂々と聞くこと」

そして、ふっと照れ笑い。
最近の推しフレーズはM1グランプリで連続優勝を果たした令和ロマンの『やらない後悔より、やって大成功』です!

教室に、もう一度やわらかな笑いが広がりました。

4. つくり手に学ぶ試食と商品開発ワーク


二人の講話のあとは、子どもたちが心待ちにしていた特別な時間です。なんと、こだわり抜いて作られたお二人の商品を実際に試食できます。

吉開のかまぼこ・林田さん。
体にやさしい素材だけで作っています。添加物・保存料は不使用、卵・でんぷんも使いません。要するに“魚のすり身・出汁・塩だけ”。素材の味を、ゆっくり味わってください

博水・江越さん。
今日は“つみれ”を持ってきました。林田さんのかまぼこは“蒸す”。うちは小さなさつま揚げで“揚げる”。蒸すのと揚げるで、香りや食感、コクがどう違うかも楽しんでください

二人から作り方とこだわりの説明を受け、いよいよ試食が始まります。創業100年以上の伝統を受け継ぐ練り物屋さん二社の味を、学校で体験できるのは本当に貴重です。
列がすっと伸び、「おいしい!」という小さな声があちこちから。目の前に作り手本人がいるからこそ、感想もまっすぐ届きます。

「やわらかい」「魚の味がする」「こっちはふわっとしてる」――子どもたちのことばに、林田さんも江越さんもにっこりとうなずいていました。

試食のあとは、教室全体がものづくりの思考へ。テーマは、

「もし、みんなが“かまぼこ屋の社長”だったら――担任の先生が本気で喜ぶ商品を開発しよう!」

「誰のため」は担任の先生に決定。そこから「素材」「味」「見た目」「価格」を考えます。

二人は逆算思考のヒントを示してくれました。

林田さん「健康を気にする方や贈り物がターゲットなら、デザインはシンプルで上品に。だから一本900円という価格が生まれます」

江越さん「から揚げ風の練り物や魚麺を例に、“ターゲット→価格→調理法→込めた思い”のつながりで考えてみよう。安さだけでなく、納得の値段を」

配られた用紙に、三人組の島ごとに笑い声と静かな考える時間が交互に流れます。担任の先生のもとには質問の列。
「辛いものは大丈夫ですか?」
「アレルギーはありますか?」
「よく食べる夜ごはんは?」
ゲストの二人にも、素材の選び方や調理法について質問が次々に飛び、二人は子どもたちの視線の高さにしゃがみ込んで丁寧に答えていました。

時間になり、担任の先生が各クラスで“いちばん喜ぶ”案を選出。その理由も言葉にして伝えてくださいました。選ばれなかったグループも、「どうしてその案が選ばれたのか」を真剣に聴き、比較と学びにつなげているのが印象的でした。

講話、試食、商品開発――二人の若き経営者から原体験にもとづく学びと、味わいながら考える時間を一気に受け取った濃いひとときでした。

今回授業を受けた子どもたちや先生方の感想を紹介します。

子どもたちの感想✨ほんの一部です!
先生方からも感想をいただきました✨
林田さんからも感想をいただきました✨

5. 今回のゆめナビ授業のまとめ


今回の授業では、明治創業の老舗を背負う二人の若き“練り物の継承者”にお越しいただきました。講話だけでなく、受け継いできた製法や味の背景を丁寧に教えていただき、その上でこだわり抜いた練り物の試食まで実施できたことは、子どもたちにとってかけがえのない学びとなりました。

お二人は日頃から多忙の中、日程調整から複数回の打ち合わせ、細かな準備まで誠実に対応してくださいました。多くの協力と時間の積み重ねがあって初めて実現した授業だったことを、ここに記して感謝をお伝えします。

当日、子どもたちの表情は私たちの想像を超えて輝いていました。質問の時間には自然と手が挙がり、「どこで買えますか?」「お店はどこですか?」という声がいくつも上がりました。
つくり手の思いや顔を知って“買う”ことは、同じ購買でも満足度が大きく異なる――その実感が、子どもたちの中に確かに芽生えた瞬間でした。これからモノにあふれる社会を生きるうえで、“何を買うか”を“自分で納得して選ぶ”姿勢は大切な力になるはずです。

また、耳にする機会は多いものの遠い出来事に感じがちな「後継ぎ問題/後継者不足」についても、若くして継承を決断した当事者の言葉として届けられました。華やかな成功談に終始することなく、迷いや失敗、工夫や連携までを明るく前向きに共有してくださったことで、子どもたちは「困難に出会ったとき、どう乗り越えるか」を自分事として捉え、挑戦する心を育むきっかけを得られたと感じます。

学校の事情や安全面への配慮にも快く協力いただき、度重なる打ち合わせと入念な準備で対応してくださった林田さん、江越さんに、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました😊

今回ご協力いただいた (株)吉開かまぼこ、(株)博水 の情報は下記に記載しておりますので、ぜひご覧ください✨

☟(株)吉開かまぼこ☟


☟(株)博水
 

【おまけ】

ゆめナビ授業、令和7年度記念すべき第1校目は福岡市立今宿小学校でした!
今回はお昼をはさんでの授業となったため、校長室で休憩させていただきました。
お昼休みの校長室は、子どもたちでいっぱい。
林田さんも江越さんもあっという間に囲まれて、笑顔でたくさんの時間を過ごしてくださいました。

心温まる楽しいひとときとなりました。今宿小学校の皆様、本当にありがとうございました~🐱

今回の授業は、以下のSDGsの目標につながる学びとなりました。

目標4:質の高い教育をみんなに
挑戦と失敗から学ぶ姿勢を具体例で示し、キャリア・総合・家庭科(食)を横断した主体的な学びを提供しました。6学級全員に等しく体験機会を届ける設計としました。
目標11:住み続けられるまちづくりを
100年以上続く練り物づくりの技と志を次世代へ継承する意義や、担い手不足(後継者問題)を自分ごととして考えるきっかけとなりました。
目標12:つくる責任 つかう責任
無添加・厳選素材の製法や「価格=込めた価値」の考え方を学び、試食と商品開発ワークを通じて“納得して選ぶ消費”の視点を育みました。
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
学校・先生方・企業(吉開のかまぼこ/博水)・SPOTTEACHERが連携し、教室分割や安全面への配慮を含む実施方法を協働設計。6クラスに公平で質の高い学びを実現しました。

SPOT TEACHERの「出前授業・アントレプレナーシップ教育」の取り組みや実績は、公式サイトで紹介しています☟


いいなと思ったら応援しよう!