住宅ローンシリーズ第2回 — 5年ルールは優しさじゃのうて、痛み止めじゃ
「先輩、前回の宿題です。うちの親のローン、聞いてみました」
おう。なんて言うとった。
「『金利上がったらしいけど、うちは返済額変わってないから大丈夫』って」
……そうか。
「え、なんですかその間」
その一言がな、日本でいちばん多い勘違いじゃ。
「大丈夫じゃないんですか」
大丈夫かもしれん。ほんでな、「返済額が変わっとらんこと」は、大丈夫の証拠にはならんのじゃ。
「……どういうことですか」
今日はその話じゃ。5年ルールと125%ルール。 名前は優しいが、中身は痛み止めよ。
5年ルールは「5年間、請求額を据え置く」ルールじゃ
まず言葉の説明からじゃ。
変動金利の住宅ローンにはな、こういう決まりがついとることが多い。
5年ルール:金利が変わっても、毎月の返済額の見直しは5年に1回
125%ルール:見直しの時も、それまでの返済額の1.25倍までしか上げられん
「……えっと、めちゃくちゃ親切じゃないですか」
そう見えるじゃろ。
「見えます。急に返済額が倍になったら破産しますもん」
そうじゃ。破産させんための仕組みとして作られとる。そこは本当じゃ。
「じゃあいい制度なんじゃないですか」
制度としてはええ。ワシが言いたいんは別のことよ。
この制度は、金利が上がった事実を消しとらん。請求書の見た目を据え置いとるだけじゃ。
「……見た目」
ええか。ここが今日の核心じゃ。
金利は毎年2回、ちゃんと見直されとる。変わっとらんのは毎月払う金額だけじゃ。
「……あ。金利は動いてるんですか」
動いとる。おめえの親父さんのローンもな、金利はとっくに上がっとる可能性がある。 ただ、請求書に出てきとらんだけじゃ。
据え置いとる間に、中身は入れ替わっとる
ほんなら、払う額が同じで金利だけ上がったら、何が起きるか。
内訳が入れ替わる。
ワシの家で計算したる。残債2,050万円、毎月の返済は約72,400円じゃ。
金利0.475%のとき
| 内訳 | 金額 |
|---|---|
| 利息 | 約8,100円 |
| 元本の返済 | 約64,300円 |
| 合計 | 約72,400円 |
金利が1.475%に上がったとき(返済額は据え置き)
| 内訳 | 金額 |
|---|---|
| 利息 | 約25,200円 |
| 元本の返済 | 約47,200円 |
| 合計 | 約72,400円 |
「……合計は同じですね」
同じじゃ。ほんで元本の返済が64,300円から47,200円に落ちとる。
「あ」
気づいたか。
「毎月払ってる額は同じなのに、借金が減るスピードが遅くなってる」
そうじゃ。 そこが5年ルールの正体よ。
「……えっ、じゃあ払ってるのに元本が減ってないんですか」
減っとる。減っとるが、遅い。 月17,000円ぶん遅い。1年で20万円ぶんじゃ。
「20万円……」
5年で約100万円、元本の減りが遅れる。ほんで5年後の見直しの日には、想定より100万円多い残債が残っとる。
「……それ、5年後にどうなるんですか」
残債が多いまま、残り期間は短うなっとる。ほんなら毎月の返済額は——
「……跳ね上がる」
それが5年後に来る請求書じゃ。
痛み止めの話をする
おめえ、歯が痛うなった時に痛み止めを飲んだことあるか。
「ありますね。夜中に痛くなって、市販の薬で乗り切ったことがあります」
ほんで、痛みは止まったか。
「止まりました。朝には忘れてました」
虫歯は治ったか。
「……治ってないですね」
そうじゃ。痛み止めは痛みを止める薬であって、虫歯を治す薬じゃない。
5年ルールはこれと同じじゃ。毎月の痛み(返済額の増加)を止めてくれる。ほんでも、金利が上がったゆう事実は治しとらん。
「……で、放っておくとどうなるんですか」
歯医者に行くのが5年後になる。
「その頃には」
神経まで行っとる。
「……先輩、その例え、朝から聞きたくなかったです」
朝に聞かんかったら、5年後に聞くことになるんじゃ。
未払利息——起きにくいが、ゼロじゃない
ここでもう一つ、名前だけは有名なやつの話をする。未払利息じゃ。
「なんですかそれ」
金利がうんと上がってな、その月の利息が、毎月の返済額を超えてしまったときに起きる。
「……返済額より利息が多いって、あり得るんですか」
理屈ではある。そうなると、払った72,400円が全部利息に消えて、元本が1円も減らん。 ほんで払いきれんかった利息が「未払利息」として別に積み上がる。
「……こわっ。それ、今起きてるんですか」
正直に言うで。ワシのケースでは、まだ起きん。
「起きないんですか」
計算したら、ワシの残債と返済額で未払利息が出るには、金利が4%を超える必要がある。 今は1%台の話をしとる。まだ距離がある。
「……なんだ。じゃあ大丈夫じゃないですか」
ここで安心するんが、いちばん危ないんじゃ。
「なんでですか。起きないんでしょう」
借入額がでかい人、返済額がギリギリの人、借りたばっかりの人は話が別じゃ。残債5,000万・35年で借りたばっかりの人は、ワシよりずっと早く危ない水域に入る。
「……人によるんですか」
そうじゃ。じゃけぇ「みんな大丈夫」も「みんな危ない」も嘘じゃ。自分の数字を見るしかない。
ワシが言いたいんは、未払利息ゆう爆弾より、さっき話した**「元本が減らん」の方が、今まさに全員に起きとる**ゆうことじゃ。
「派手な爆弾より、地味な方が実害があるんですね」
だいたいそうじゃ。火事より水漏れの方が、家はよう壊れる。
125%ルールは、リボ払いと同じ構造じゃ
ほんで5年後じゃ。見直しの日が来る。
その時、返済額は125%までしか上がらん。ワシの場合は72,400円の1.25倍で、上限は約90,500円じゃ。
「あ、じゃあどれだけ金利が上がっても月9万円で済むんですか」
済まん。
「済まないんですか」
上限を超えた分は、消えとらん。 後ろに送られるだけじゃ。次の5年、またその次で回収される。最後は返済期間の終わりにまとめて請求が来ることもある。
「……それ、どこかで聞いた構造ですね」
リボ払いじゃ。
「あー!!」
毎月の請求は優しい。総額は残酷。「月々いくら」で安心させて、総額を見せんのがリボの手口じゃ。 125%ルールは悪意でやっとるわけじゃないが、構造は同じよ。
「……守る力シリーズでリボの回、やりましたよね」
やった。ほんで、あの時にワシが言うたことをもう一回言う。
「月々の支払い」で判断するな。「総額」で判断せえ。
ほんなら、どこを見りゃええんか
説教だけして終わったら、ただの脅しじゃ。今日やることを言う。
① 返済予定表を出す
紙でもネットバンキングでもええ。今の適用金利が書いてある。
「金利って、書いてあるんですか」
書いてある。ほんで、ほとんどの人が一度も見とらん。
② 今の残債と、元本と利息の内訳を見る
毎月の返済のうち、なんぼが利息に消えとるか。 借りた当初と比べて利息の割合が増えとったら、それが「金利が上がった証拠」じゃ。
③ 次の見直し日がいつか確認する
5年ルールがあるゆうことは、見直し日が決まっとるゆうことじゃ。そこが自分の期限よ。
「……期限が分かってると、準備できますね」
そうじゃ。5年ルールは敵じゃない。準備期間をくれとる制度じゃ。
「あれ、さっきまで痛み止めって言ってませんでした?」
痛み止めじゃ。ほんでな、痛み止めが効いとる間に病院に行きゃあ、それは正しい使い方じゃ。
「……あ」
薬が悪いんじゃない。薬で誤魔化して寝るのが悪いんじゃ。
「……先輩、今日ちょっといいこと言いましたね」
たまに言うで。
結局、何が大事なんじゃ
5年ルール=金利が変わっても毎月の返済額の見直しは5年に1回。125%ルール=見直し時も1.25倍までしか上げられん
どちらも破産させんための仕組みじゃ。制度としては真っ当。ほんでも金利が上がった事実を消しとるわけじゃない
返済額が据え置かれとる間に内訳が入れ替わる。利息の割合が増え、元本の減りが遅くなる(ワシの試算で月約17,000円ぶん)
未払利息は金利が大幅に上がった時に発生する。ワシの条件では4%超が必要でまだ遠い。ただし借入額がでかい人・借りたばかりの人は距離が近い
125%ルールの超過分は消えとらん。後ろに送られるだけ。構造はリボ払いと同じじゃ
痛み止めが効いとる間に病院へ行け。やることは3つ——返済予定表を出す/今の適用金利と内訳を見る/次の見直し日を確認する
次回は、固定に借り換えるべきかどうか——損益分岐点の出し方の話じゃ。
今日の参考書籍
まず、この3冊は全シリーズ共通の土台じゃ
📚 「本当の自由を手に入れる お金の大学」 リベ大・両学長 著
→ Amazonで見る / 楽天で見る
「月々いくら」で判断するな、総額で見い。守る力の章にその考え方が全部書いてある。
📚 「ジェイソン流お金の増やし方」 厚切りジェイソン 著
→ Amazonで見る / 楽天で見る
支出を「見える形」にする大切さ。返済予定表を開く気になる1冊じゃ。
📚 「20代から始める新NISA 高配当株投資術」 プラズマコイ 著
→ Amazonで見る / 楽天で見る
ローンを返しながら積立も続ける。その配分の考え方が漫画で分かる。
ほんで今回のテーマなら、この2冊じゃ
📚 「行動経済学が最強の学問である」 相良奈美香 著
→ Amazonで見る / 楽天で見る
なんで人は「月々の支払い」だけ見て総額を見んのか。その脳の癖が書いてある。リボにハマる仕組みも同じじゃ。
📚 「金利を見れば投資はうまくいく」 堀井正孝 著
→ Amazonで見る / 楽天で見る
金利が動くと、借りとる側と貸しとる側で何が起きるか。ローンを持っとる人ほど読む価値がある。
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出典・注記
5年ルール・125%ルールの仕組み、変動金利の利用割合について:参照:LIFULL HOME'S PRESS(参照日:2026-07-29)
日銀の政策金利1%(約31年ぶりの水準)への引き上げは2026年6月16日。参照:金利が上がるとどうなる(finwell)(参照日:2026-07-29)
記事中の内訳・未払利息の試算は、残債2,050万円・残り25年・元利均等返済を前提とした概算。5年ルール・125%ルールは全ての金融機関・商品に付いているわけではなく、適用されない商品もある。必ずご自身の契約内容を確認すること
未払利息の発生条件は借入額・返済額・金利により大きく異なる
⚠️ 本記事は情報提供を目的としており、投資助言・借入の推奨ではありません。住宅ローンの選択は自己責任で、必ずご自身の状況に合わせて判断してください。
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