なぜ絵具に気をつけたいのか― 顔料(カドミウム・コバルト・フタロシアニンなど)と環境のはなし #2
この記事は『水彩画が好きだから、絵具と自然のことを考えた― 顔料と環境のはなし #1(まず知っておきたいこと)』の続編です(#2 から読んでも大丈夫ですが、背景と顔料については#1 に詳しく書いています)。
わたしはアクリル絵具でさえ、道具で使い捨てになるものが多そうに見えて、使うのをためらっている位なので、パレットに絵具を出したままにできたり、固形水彩絵具がある、透明水彩はとても手軽に感じます。
3年前に植物スケッチのオンラインクラスを受講した時は、そのコンパクトさが気に入って、サクラの固形水彩12色セットを近所で購入。水筆も付いていて、それだけで始められました。
その後しばらくして、約20年前にも一度水彩画を描いてみたい!とユザワヤでそれなりにいい絵具を買ったようなことを思い出し、帰省時に発掘したら、ホルベインのもの✨。当時は、中学校の美術の時間にしていたように、パレットにその都度絵具を出して、終われば洗い流していました。
水彩が好きなら知っておきたい
今回は水彩クラスも受講し、多少知識が入ってからチューブ絵具に再会。当時ランダムに買っていた絵具は22色。ほとんどの絵具が9割近く残っていました。
一気に手持ちの絵具が増えて興奮✨しながらも、一つ一つの絵具のチューブを眺めていたら、「口や目に入れると有害」という文字や❌<有害性あり>の警告マークを発見。ジョーン・ブリヤンNo.2とターコイズブルーについていました。
そこから自分なりに調べてみたら、絵具・画材の世界では(当たり前だろうけれど)アート・美学(色彩の美しさや、時には歴史的ロマン)が優先事項で、環境配慮の視点は遅れている印象をうけ、残念・・
各メーカーからの様々な努力や工夫は見られるけれど(不況の影響も大きいと思われ)、進んでいるとは言い難い状況・・
でも自分含め、ユーザー側の認識も低く。配慮できる、する気がある人にとっても、判断材料がオンラインで目につかな過ぎるように感じ、改善の余地がある、と思いました。
そこで、わたしが自分のために調べた、エコフレンドリーに、サスティナビリティもちゃんと気にしつつ、水彩画を心置きなく楽しむための情報をシェアします✨

気軽に下水道へ流したくない絵具(顔料)がある
絵具は、顔料とそれを固める糊(のり)で出きていて、水彩絵具の場合のそれは、アラビアゴム。天然樹脂で生分解性があり、環境への負荷はとても低いとされています。よって、わたしたちが気にすべきは、色彩のもとである、顔料(ピグメント)。
前回、顔料をたっぷり含んだ筆を、何も気にせずにそのまま水で洗い、その水をやはりそのまま下水道へ流してしまうと、知らずに環境破壊へ貢献⚡️してしまいかねない顔料を、気をつけたい順に細かく紹介しました。
今回は1位から3位にランクインした顔料を、「なぜ」気をつけたいと思うのか、わたしなりにまとめました。
1位 カドミウム系 (流すべきではない)
※代表的なカドミウム系顔料:PR108, PO20, PY35, PY37
カドミウム(とコバルト)は、代表的な重金属系の顔料。一般人でも「重金属」と聞けば、鉛とか水銀とか人にも環境にも悪影響を与える、有害物質として認識できると思います。カドミウム(とコバルト)も同じ。
(工場などでの大量使用ではなく)家庭で普通に、水彩絵具として使う場合でも、カドミウムの扱いに特に注意しなければいけない、大きな理由は2つ。
微量であっても水生生物に対して毒性が高い→生態系内で、極めて蓄積しやすい
生態系において、有益な役割がない
カドミウムが水中の生物にもたらす害は、体内に蓄積して成長や繁殖を阻害することーつまり時間をかけて、静かに個体群を滅ぼすということ。
カドミウム顔料は水に溶けにくい。でも、ある環境の条件下(pH変化や有機物、微生物の影響がある環境)では、長い時間をかけてにじみ出る(カドミウムイオンが放出される)可能性があるー
ごく微量でも(上記の通り)破壊力⚡️があるから、にじみ出る可能性がある以上、特に慎重な取り扱いをすべきーということ。
2位 コバルト系 (できる限り流すべきではない)
※代表的なコバルト系顔料:PB28, PB35, PB36, PG19, PG26, PG50, PV14(コバルトブルー、ターコイズブルー、セルリアンブルー、ヴァーディターブルーなど)
同じ重金属系顔料でも、カドミウムはその存在自体が問題になるのに対して、コバルトの方は、生体に必須なビタミンB12の構成元素であるが故に、ちょっと複雑。
コバルト顔料自体は、水中でそのまま(酸化物微粒子として)存在する限り、環境への影響はすぐには出ない。でもその微粒子から、ある環境の条件下で時間をかけて劣化し、無機コバルトが(イオンとして)にじみ出る。
2位とは言え、コバルト顔料の取り扱いをカドミウムと同じ程度に注意したい、その理由は、以下の2つ。
水中で生体に必要なビタミンB12を合成してくれている微生物(一部の細菌・藻類)を、死と機能不全に追い込む可能性が、極めて高い→食物連鎖の土台が壊れる
上記以外の(魚・無脊椎動物など含む)水生生体の代謝を破壊する可能性が、極めて高い
これは、比較的即効性のある毒性を持っている、ということ。
食物連鎖の土台が壊れることの重大さについては、説明は不要と思います。
機能不全や代謝が壊れるということは、例えばー
・鉄・亜鉛を使う酵素の働きを邪魔して、代謝を破綻させる
・酸化ストレスを誘発して、細胞やDNAを慢性的に壊す
・即効性のストレス(神経伝達異常、筋肉収縮異常など)を生む
などなど。人間でいえば、ホルモンバランスが乱れると様々な症状や病気になるのと似ていると思います。
カドミウムと違い、微生物は無機コバルトを取り込んでビタミンB12を合成する。だから無機コバルトに対して、比較的無防備なつくり。
そして本来、自然界に存在する(主に土壌に溶けている)微量が前提だから、過剰には耐えられないー
B12合成微生物以外の生体にとっても、食物連鎖上で取り込まれるビタミンB12、という安全な形以外の、過剰な無機コバルトは毒素になってしまうー
ということ。
3位 クロム系、フタロシアニンなど金属を含む合成顔料 (流さないように扱う価値あり)
※PG7, PG17, PG18, PG36, PB15, PB16, PB74, PBr24 (フタロブルー、フタログリーン、ビリジャン、ゴールドオーカーなど)
前回も書いたけれど、ここで再度強調したいのは1位と2位が僅差なのに対し、2位と3位の間にはかなりの差があります。
(自分の性格を考慮して(!)、気にすべきことが増えるとケアできる自信がない💦、まずはカドミウムとコバルトだけ、、と思う場合は、ぜひそうしてください✨
少し余裕があれば、以下、引き続きどうぞ🙏)
3位グループの顔料を、ランキング外の顔料(例えば、プルシアンブルー、ウルトラマリン、ペリレングリーン、インダンスレンブルーなど)よりも気をつけたい理由は、以下のすべての条件を併せ持つため、と言えます。
顔料の粒子サイズが微細で、分散性が高い
→移動しやすく、藻類や微生物表面に付着しやすい。
→光合成効率の低下を招きかねない。下水処理では、もともと重金属イオンや微細顔料粒子の回収は優先順位が低い。
→沈殿も凝集もしづらいものは、回収されづらい。水に溶けず、化学反応もしづらい。光でも壊れにくく、微生物にも分解されにくい。酸性・中性水でも変化しにくい→水中でとても安定しており、水中に長く居座る。
下水処理され、人の目には無色透明にうつる水であっても、上位の理由から、これらの顔料は微生物にとっては「光を削る存在」として残る可能性がある、ということ。

《ちょっと余談》3位グループが青と緑系顔料に偏っている理由
水彩画を描き始めてから、はじめて顔料を意識するようになりました。
鉱物由来の絵具の歴史や、その名前にまつわる昔話などは、ロマンがあって大好きです。
例えば、プルシアンブルーは葛飾北斎がよく使っていた青だとか、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』の目を引く青は、ウルトラマリンだとか(当時、金よりも高価なラピスラズリを砕いて作られた顔料!)✨
でも昔からあるそういった青色の顔料は、各色個性があって、万能選手ではなかったそうです。
ところが二十世紀初頭、ある失敗から偶然発見されたのが、化学の顔料フタロシアニン。そしてその化学構造が、後に工業製品にも使える顔料へと開発され得る程強いもので、フタロシアニンブルーやフタロシアニングリーンが生まれたー
つまり、昔は上記の3位グループにランクインできる条件(微細粒子で分散しやすく沈殿も凝集もせず、水と化学反応もしづらく、光でも壊れにくい等)を満たす顔料は存在していなかったけれど、偶然、それを満たす程に強いフタロシアニンが見つかった、という背景がわかりました。
因みに、赤や黄、橙、紫系にも合成顔料は存在するけれどー3位グループにランクインさせる程のものはない、という現状。
また3位グループにいる、 PB74(コバルト亜鉛)と PBr24(ゴールデンオーカー)は、フタロシアニン系とは性質は異なるものの、同じ3位グループとして扱えるだけの条件を満たしている顔料です。
次の記事では、これまで紹介した、気軽に排水したくない顔料を、どのように回収できるのか、その方法について話しています。
この記事の前提
末尾ながら、この記事の前提です。
絵具に含まれる毒性の「人体への影響」ではなく、「環境への配慮(水環境や土壌蓄積リスク)」という視点から書いています。
バインダー(糊)がアラビアゴムの透明水彩および不透明水彩(ガッシュ)の絵具を(工場などでの大量使用ではなく)家庭で普通に使う場合を想定しています。
※よって油絵具・溶剤系などは対象外です。
「筆を洗った水を洗面所で普通に流していいものだろうか?!」という疑問を持った同志に、こういった理由により、特別に回収したい顔料は存在する、ということを伝えるためにー
おわりに
水彩ユーザー向けの記事として、今回もなるべく平たい言葉で、読みやすく、わかりやすくを意識して書きました。それでも説明が細かすぎたり、わからなかったりする部分もあると思います。
でも少しでも、雰囲気だけでも、環境に対してマイナスの影響を与える可能性が、顔料によっては、十分にある、だから、取り扱いに気をつける意味があるーということが伝わっていればうれしいです。
