属人化は、引き継ぎの前から始まっている——日々の「判断理由」を残す設計
「あの人がいないと、この業務は分からない」
そう感じる場面が、社内にひとつやふたつあるのではないでしょうか。
引き継ぎ資料はある。
任せる前に、優先順位や判断できる範囲も伝えている。
それでも属人化がなくならないとしたら、
見落としているのは、その「あいだ」かもしれません。
足りないのは、日々の業務の中で生まれる
「判断の理由」を、組織に残す仕組みです。
任せたあと、引き継ぐ前。担当者が日々判断している最中に、
その理由がどこにも残らないまま消えていく。
そこに、属人化が静かに進む原因があります。
以前、任せる前に渡しておきたい3つのこと——何を優先するか、どこまで自分で決めてよいか、どの段階で相談するか——についてお伝えしました。
また、引き継ぐときに残しておきたい「判断の理由」についても、
別の記事で書きました。
今回取り上げるのは、この二つの「あいだ」にある日常の設計です。
渡したつもりが、渡っていなかった
任せる前に、優先順位や判断できる範囲を渡していたとします。
それでも、日々の細かい判断は、
その都度その場で行われ、その場で消えていきます。
「今日はこう対応した」という結果は残っても、「
なぜそう対応したのか」という理由は、誰の目にも触れないまま
、担当者の頭の中だけに積み重なっていきます。
引き継ぎ資料は、担当者が変わる場面で参照されることが多いものです。
そのため、担当している間に行われた日々の判断理由は、
記録からこぼれやすくなります。
消えていたのは、引き継ぎの前から
引き継ぎの場面では、判断の理由を残すことが大切だとお伝えしました。
でも、担当者が変わる前の日常で、理由がすでに残っていなければ、
引き継ぎの瞬間になって、慌てて思い出すしかありません。
思い出せる範囲には限りがあります。
結局、「なんとなくそうしてきた」という説明で終わり、
次の担当者は同じように、理由のない対応を引き継ぐことになります。
日々の判断が記録されないまま蓄積されると、
その人の頭の中だけが、組織の判断履歴になっていきます。
ただし、日々行われる判断を、すべて細かく記録する必要はありません。
残しておきたいのは、例外的な対応をしたときや、
これまでの方針を変更したときなど、次の人の判断に影響するものです。
大切なのは、記録を増やすことではありません。
その記録を見た人が、過去の対応をそのまままねるのではなく、
状況が変わったときにも、自分で考えて判断できるようにすることです。
そのために、「何をしたか」だけでなく、
「なぜ今回はそう判断したのか」を組織の中に残しておきます。
いなくなって、初めて気づく
属人化は、平常時には問題として見えません。
その人が普通に働いている間は、判断は滞りなく行われ、
業務は回っているように見えます。
問題が表面化するのは、異動・休職・退職などによって、
その人がいなくなるときです。
そのとき初めて、判断の理由が
どこにも残っていなかったことに気づきます。
任せる前に判断基準を渡す設計と、引き継ぐときに背景や経緯を渡す設計。その二つをつなぐのが、日々の判断理由を組織に残す設計です。
残す内容は、複雑である必要はありません。
最低限、次の3点が分かるようにします。
何を決めたか
何を基準に決めたか
どのような条件になったら見直すか
この3点が残っていれば、次の担当者は過去の対応をまねるだけでなく、その時々の状況に合わせて判断できます。
属人化を防ぐのは、引き継ぎのやり方を見直すことだけではありません。
任せる前には、何を優先するのか、どこまで自分で決めてよいのか、
どの段階で相談するのかという「判断基準」を渡す。
日々の業務では、何を決めたのかだけでなく、
なぜそう決めたのかという「判断の理由」を残す。
そして引き継ぐときには、それまでの判断の背景や経緯を整理して、
次の担当者に渡す。
この3つがつながって初めて、判断は担当者個人の経験ではなく、
組織の中に残るものになります。
どれか一つが欠けると、判断は再び特定の人の頭の中に集まり、
属人化が静かに進んでいきます。
では、いまの組織では、誰の頭の中に、どの判断が残っているでしょうか。
組織判断レビューでは、実際の案件をもとに、判断が特定の人に集中している場面と、平常時から組織に残しておくべき判断の理由を一緒に整理します。
その人がいなくなってからではなく、普段どおりに業務が回っている今、一度確認してみませんか。
