組織を変えたのは、判断基準ではなく「決める過程」だった
「言葉にしたところで、結局は人次第じゃないですか」
判断基準を言葉にする、という話をすると、こう返されることがあります。
たしかに、基準を作っただけで、人が変わるわけではありません。
その疑問は、もっともだと思います。
判断基準が組織を変えるのは、完成した言葉があるからではありません。
その言葉を決める過程で、判断の背景が共有されるからです。
実際に、変化が起きた組織を見ていくと、変わったタイミングは、
基準が「できた」瞬間ではありませんでした。
それぞれの立場から意見を出し合い、
何を判断のよりどころにするのかを決めていく。
変化が起きていたのは、その過程のほうでした。
基準は、配るだけでは他人事のままになる
判断基準というと、誰かがまとめて配布するもの、というイメージがあるかもしれません。でも、実際に組織が変わった現場で起きていたのは、もっと地味な作業です。
現場の意見を聞く。管理職の意見を聞く。経営の意見を聞く。
立場が違えば、当然、見えているものも違います。
現場は「その場で判断できる範囲を広げてほしい」と考える。
管理職は「責任の所在をはっきりさせたい」と考える。
経営は「どこまで任せて安全か」を見ています。
ただし、意見を聞くことは、すべての意見を採用することではありません。
全員の合意を取ることが目的になると、基準づくりは、なかなか前に進まなくなります。大切なのは、それぞれが何を懸念し、どのような背景から意見を出しているのかを共有することです。
そのうえで、誰が最終的に決めるのかを明確にしておく必要があります。
違う角度から出てきた意見を、一つの結論にまとめる前に、何度も見つめ直す。組織として運用できることと、それぞれの立場が判断の背景を理解できること。その両方が成り立つ地点を探っていきます。
この過程を飛ばして基準だけを配ると、基準は「誰かが決めたルール」のまま止まります。決めていく過程を経た基準は、「自分たちが判断するときのよりどころ」に変わっていきます。
「どうしましょう」という相談が、変わっていく
基準を決めていく過程を経た組織でも、相談の件数がすぐに減るとは限りません。むしろ最初は、相談が増えることもあります。
これまで曖昧なまま処理されていた判断の迷いが、相談として表に出てくるからです。
目指したいのは、相談をなくすことではありません。
相談する人が、自分なりの判断と、その根拠を持ったうえで相談できる状態です。
相談の中身は、少しずつ変わっていきます。
「どうしましょう」と判断を委ねる相談から、
「この基準に照らすと、私はこう考えます。合っていますか」
と確認する相談へ。
これは、判断の根拠が、個人の経験から組織の共通言語へ移り始めたサインです。
前任者がいなくても、判断は残る
以前は、判断に迷ったとき、頼れるのは前任者や、経験のある担当者だけでした。担当者が変わると、その判断の根拠ごと、組織から失われていました。
しかし、異なる立場の意見を踏まえ、決めていく過程を経て言葉になった基準は、担当者が変わっても残り続けます。
次の担当者は、決められた基準だけでなく、「なぜこの基準になったのか」という判断の背景まで引き継げるようになります。
残るのは、答えだけではありません。
次に同じような状況が起きたとき、
何をよりどころに考えればよいのかという、判断の土台です。
判断基準は、決める過程で組織のものになる
判断基準を言葉にすることは、
完成した答えを一方的に渡すことではありません。
現場、管理職、経営など、異なる立場から出てくる意見と、
その背景を共有する。
そのうえで、組織として何を判断のよりどころにするのか、
誰が最終的に決めるのかを明確にしていく。
この決めていく過程が、判断の根拠を、
個人の頭の中から組織の共通言語へ移していきます。
「言葉にしただけで、組織は変わるのか」
その問いへの答えは、完成した言葉そのものではありません。
基準を決めていく過程の中にあります。
判断基準は、作って配るだけでは組織に根づきません。
管理職の経験や頑張りだけに頼らず、チームが自分で判断できる状態をつくるには、判断が止まる構造を整理することが必要です。
組織の判断が止まる理由と、その整え方を資料にまとめました。
