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「あなたの正史を書いてください」──2025年、私の探究心を最も刺激した言葉

こんにちは。東南裕美です。 私は現在、株式会社MIMIGURIでリサーチャーとして働きながら、立教大学大学院で組織開発の研究をしています。

このnoteは、MIMIGURI Advent Calendar 2025の3日目の記事です。西村さんからバトンを受け取りました。

アドベントカレンダーのお題は<「自分の今年を表現する」一冊>。 企画に参加することを決めてから、紹介する書籍を考えるだけで1週間以上悩んでしまいました…笑。

振り返ってみれば、2025年は自分の研究テーマに限らず、小説や漫画など幅広く読んだ1年でした。 『トリニティ組織』、『サーキット・スイッチャー』、『ゲーテはすべてを言った』、『スマホ時代の哲学』、『ダンジョン飯』、『存在の耐えられない軽さ』、『自分とか、ないから。』……。 新刊・既刊を問わず、面白かったコンテンツは山ほどあります。

しかし、どれも「“自分の今年を表現する”一冊か?」と問われると、どこかしっくりこない。

そこで、アドベントカレンダーのお題をもう一度よく読んでみました。

2025年を振り返り、「自分の今年を表現する」一冊を教えてください。

支えられた本、衝撃を受けた本、実践に影響を与えた本、価値観を揺さぶった本……。ビジネス書でも、小説でも、漫画でも論文でも構いません。あなたの「探究心を刺激したもの」であればOK。なんなら「映画」や「アート」、さらに「CULTIBASEで視聴したもの」など、本以外のコンテンツでも大丈夫。

ふむ。「あなたの『探究心を刺激したもの』であればOK。」とあります。
それならば「2025年、私の探究心を刺激したものは何か?」と問いを読み替えてみました。

その問いに読み替えた時、最初に思い浮かんだのが、本でも映画でもなく、私が所属する研究室の指導教官である中原淳先生にゼミで投げかけられた言葉「あなたの正史を書いてください」でした。

この言葉をもらったのは、私が執筆中の博士論文に関して、ゼミで進捗を発表したときのことです。「研究の目的を導出するまでの理論的背景を書くパートを、どういう流れで書き進めていくか?」という中でもらったアドバイスでした。

「あなたの正史」については、その場で詳しく定義を聞いたわけではありません。しかし、その時の文脈から、私は「あなたが正しいと思う歴史」を指していると解釈しています。(違ってたらどうしよう。笑)

組織開発という分野には、すでに多くの論文や書籍があり、それぞれが描く「正しい歴史」が存在します。中原先生の言葉は、「既存の文献で書かれた歴史をなぞるのではなく、あなたが研究しようとしている観点から、あなたにとっての正しい歴史を編み直しなさい」というメッセージだったのだと受け止めています。

この言葉を受けてからというもの、「私にとっての組織開発の正史とは何だろうか」を問い続け、関連文献を読み、研究を進めています。まさに、2025年の私の探究心はこの言葉によって駆動されていたと言えそうです。

ということで、今回はこの言葉を軸に、私の研究の前進に役立った文献(=他の人が書いた正史)をご紹介することで、アドベントカレンダーのお題への回答とします。(ちゃんと書籍も紹介するので許してもらえるだろう…!)

『組織開発の探究』が描く正史

「あなたの正史を書いてください」という言葉とセットで、2025年の私の探究心を刺激したのが、中原先生と、同じく組織開発を専門とする中村先生の共著『組織開発の探究』です。

本書は、日本の人事部「HRアワード2019」書籍部門で最優秀賞を受賞しており、ご存じの方も多い一冊かと思いますが、改めて出版社による紹介文を引用します。

『組織開発の探究理論に学び、実践に活かす』内容紹介
組織開発とはなにか。なにをきっかけに生まれ、いかなる変遷を経て発展してきたのか。本書では組織開発の思想的源流をデューイ、フッサール、フロイトに求め、そこから今に至る100年の発展の歴史を跡づける。さらに現在の組織開発のさまざまな手法を解説し、5社の企業事例を紹介する。

ダイヤモンド社の書籍紹介ページより

博士論文を執筆するフェーズに入った今、本書を読み返すと、2018年の出版当時に読んだ時とは異なる解像度でその凄さを感じました。その凄さとは、まさに先述した「正史」の描き方にあります。

『組織開発の探究』は、組織開発の定義や歴史について、数多くの文献を参照し紐解く骨太な書籍です。なかでも、組織開発の哲学的基盤まで歴史的に深ぼって紹介しているところが特徴的です。

本書では、「組織開発の理解は『3層』で行うとよいのではないか」という仮説を打ち立て、それを「組織開発の3層モデル」と名付けています。

中原淳, 中村和彦 (2018) 組織開発の探究 :理論に学び, 実践に活かす. ダイヤモンド社 より

この3層モデルの最下層に、「組織開発をひそかに下支えしているもの」として、「哲学的基盤」が置かれています。

ここで紹介する哲学は、もちろん、組織開発のためだけに生まれたものではありません。しかし、後に組織開発という営為が形成されていくためには、これらの哲学的・思想的基盤の形成が、どうしても、「必要」であった、というのが筆者らの仮説です。私たちが、組織開発を立体的かつ重層的に理解するために、これらの思想や哲学を概観したいと思います。

中原淳, 中村和彦 (2018) 組織開発の探究 :理論に学び, 実践に活かす. ダイヤモンド社

哲学的基盤には、ジョン・デューイを筆頭に、エドムント・フッサール、ジークムント・フロイトといった哲学者・精神分析学者らの思想を取り上げ、組織開発を人文社会科学の系譜に位置付けています。

この「組織開発は人文社会科学の系譜に位置づく」という解釈と、取り上げられている思想・哲学的基盤こそが、本書の独自性であり、著者たちが描こうとした「正史」だと言えます。

では、これが組織開発にとって唯一絶対の正史なのか?というと、そうではありません。異なる「正史」を描いた文献も存在します。そこで、対照的な例として、貴島耕平さんが2015年に執筆された博士論文「変革の管理実践としての組織開発-価値に基づいた介入による説得と了承の記述的研究-」を紹介します。

組織開発のもう1つの正史

この博士論文では、『組織開発の探究』とは全く異なる文脈で組織開発が語られます。

まず本論文は、これまでの組織変革に関する研究(組織変革のコンティンジェンシー理論や組織革新論など)を批判的に検討することから始まります。既存の研究は、あくまで組織が“変わる”プロセスを外部から観察して得た知識である。そこには、「いかにして組織を“変える”のか」という、変革を推進する当事者(行為主体)の視点が欠けていると指摘するのです。

その上で、組織開発こそが、変革を推進する主体の立場に立ち、組織に介入して変革を起こそうとする実践であると述べています。

その結果、貴島(2015)では、組織開発は「経営管理論」の文脈に位置付けて整理されており、たとえば、テイラーの「科学的管理法」や、メイヨーらの「人間関係論」といった管理実践の源流が組織開発のルーツであると論じています。

組織の変革に関する理論が抱えた限界を一言で表わせば、組織せられたものを、新たに組織するという行為主体的アプローチの欠如であると言えよう。では、組織開発が、組織せられたものを、新たに組織するということに対して、どのように取り組んできたのか。(中略)組織開発は、心理学や社会心理学、さらに言えば産業組織心理学の側面が強調されがちであるが、その設立には、経営管理論の古典と呼ばれる研究の影響を強く受けている

貴島耕平 (2015) 変革の管理実践としての組織開発-価値に基づいた介入による説得と了承の記述的研究-. 神戸大学 博士論文

つまり、本論文における「組織開発の正史」とは、「組織開発は、変革の管理実践として、経営管理論の系譜にある」ということです。

このように、論者によって、同じ「組織開発」でも描かれる正史は異なります。

私は組織開発の正史をどう書くか

では、私自身は組織開発の正史をどう書くか。現在はまだ仮説構築の段階のため、ここでしっかり紹介することはできないのですが、組織開発の思想と方法に影響を与えた、ある二人の研究者に着目しています。二人の思想の重なりと差異、そしてそれが後続の研究者にどう解釈され、引き継がれていったのか。そこを紐解くことで、私なりの「正史」が描けそうだと考えています。

ただ、今は関連文献を読んで、仮説の検証と調整をしている最中です。数ヶ月後には全く違うことを言っている可能性もあります(笑)。もう少しまとまってきたら、公開できる範囲でnoteでも紹介しようかと思っています。

おわりに

<「自分の今年を表現する」一冊>というお題に対し、変化球での回答になってしまいましたが、一冊を挙げるなら、やはり『組織開発の探究』ということになるでしょうか(無理やり)。

何度読み返しても「こんなことも書いてあったのか!」という発見がある良書です。組織開発に関心があり、まだ読んだことがない方は、ぜひお手に取ってみてください。分厚いですが、文章はとても読みやすいです。

さて、MIMIGURI Advent Calendar 2025、明日の担当はMIMIGURIのファシリテーター、田幡さんです!11月末時点では「直前で何事もなかったかのようにいなくなってたらごめんね!」と予告をされていたのですが、果たして記事は無事に公開されるのでしょうか…?! どうぞお楽しみに。

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東南裕美 最後までお読みいただき、ありがとうございます!いただいたチップは今後の執筆活動に充てさせていただきます✍️

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