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愛知から福岡まで800km、一般道。この旅を始めた理由を改めて振り返ってみた

愛知県常滑市から福岡市まで、約800km。

これを一般道で走っている。年に何回か。大型連休のたびに。

このアカウントで温泉や穴場の記事を読んでくれている方の中には、「なんでこの人は愛知と福岡をこんな走り方で往復しているんだろう」と思った方もいるかもしれない。

今日は、その話を書こうと思う。

先に言っておくと、ロマンで始めた旅ではない。



家族が、バラバラの場所にいる

私は愛知に単身赴任をしている。妻と子どもたちは福岡。長男だけは奈良の高校で寮暮らしをしていて、家族が見事にバラバラに散らばっている状況だ。

5年ほど前までは、家族で一緒に暮らしていた。でも、妻の実家のこと、私の両親のこと、子どもたちの教育環境、自宅を将来的にどうするか、いずれ来るかもしれない介護のこと──いろんな事情が重なって、家族は福岡に拠点を移した。

私だけが愛知に残った。

1〜2ヶ月に1回は帰る。大型連休には必ず帰る。理由はシンプルで、家族に会いたいから帰る。それだけだ。

問題は、その「帰る」にかかるお金の話である。



選択肢が、ひとつずつ消えていった

普段の帰省は、ジェットスターを使う。セントレアから福岡空港まで、往復12,000〜15,000円。安いし、早い。これが通常の最適解だ。

ただし、これには条件がある。平日に移動すること。

単身赴任で帰省する人間にとって、航空券の安さは「いつ飛ぶか」で決まる。大型連休のど真ん中に飛ぼうものなら、片道20,000円は平気で超えてくる。往復40,000円。通常の3倍近い。帰省のたびにこの金額が飛んでいくのは、正直きつい。

だから普段は、連休の前後に有休を1〜2日つけて、平日の安い便を狙う。これがいつもの戦い方だった。

ところが、2024年の夏は、カレンダーの並びが悪かった。

大型連休の中日に稼働日が複数挟まっていて、ちゃんとした連休にするには有休を4日取る必要があった。

有休4日。この数字は、単身赴任者にとって微妙なラインだ。3日までなら「帰省ですか、いいですね」で済む。4日になると、周囲の空気にうっすらと冷気が混じり始める。上司の「ああ、いいよ」の「いいよ」のトーンが、ほんの少し下がる。気のせいかもしれない。気のせいだと思いたい。

結局、有休を移動日には使えなかった。帰省する日数を最大限確保するために、有休は連休の中日を埋めるために使う。移動は連休のピーク日にならざるを得ない。つまり、安い航空券は取れない。

では、青春18きっぷはどうか。

以前はこれが大型連休の隠し球だった。旧ルールでは5日分をバラで使えたので、片道を18きっぷで在来線、帰りは日をずらして安い便の飛行機──というハイブリッドが組めた。余った分はチケット屋やヤフオクで売れた。

ただし正直に言うと、18きっぷの片道はかなりの修行だ。金曜の夜に仕事を終えてJRに飛び乗り、姫路で1泊。翌朝の始発で福岡まで。宿泊費を入れて片道10,000円弱。安いが、体力の消耗がすごい。年々これがしんどくなっていた。

で、2024年の夏。航空券は高い。有休は中日に全投入。18きっぷのハイブリッドも、安い便がない以上うまく組めない。

選択肢が、消えていった。

じゃあ車で行ったらいくらだ?

計算してみた。ガソリン代、高速代を少しだけ使うとして、片道約13,000円。往復26,000円。大型連休のピーク時の飛行機と比べると、約14,000円安い。

ただし、800kmを一般道で走るなら途中で寝る必要がある。車中泊が前提になる。普段の通勤車をそのまま使えるわけじゃない。準備が要る。この準備の話はまた別の機会に書こうと思うが、車で行くと決めたのは出発の2〜3ヶ月前だった。

これが、残った選択肢だった。

ちなみに、その年の冬に青春18きっぷのルールが改定された。連続日限定になり、バラ使い不可、転売不可。かつてのハイブリッド戦略は完全に封じられた。結果的に、私は夏の時点で先に答えを見つけていたことになる。



初めての800km――2024年、夏

2024年8月。土曜日。半日だけ有休を使って、昼の12時に常滑を出た。

初めての下道800km。初めての車中泊。正直、本当にたどり着けるのか分からなかった。計算上は行けるはずだが、計算と現実は違う。頭では分かっていたつもりだったが、その「違い」は、出発して2時間もしないうちに思い知ることになった。

伊勢湾岸。

大型連休初日の昼過ぎ、伊勢湾岸道路は完全に詰まっていた。流れない。全然流れない。ナビの到着予想時刻がじりじり後ろにずれていくのを眺めながら、「やばい、これ計画破綻するのでは」と胃のあたりがきゅっと縮んだ。

仕方なく一般道に降りた。国道23号。ところがここも混んでいる。まあそうだ、みんな考えることは同じだ。

結局、渋滞が緩和したのは桑名まで北上してからだった。そこからようやく流れ始めて、琵琶湖方面へ抜けていく。アクセルを踏んで、ちゃんとスピードが出る。ただそれだけのことが、あんなにほっとするとは思わなかった。

伊勢湾岸で何が起きたかの詳しい話は、また別の記事で書く。あれは一本の記事にしないと収まらない量の「やらかし」があった。

スムーズに走れるようになったとはいえ、出発からすでに何時間も経っている。渋滞の中でじわじわ削られた集中力と体力は、流れが戻ったからといって自動的に回復するわけじゃない。肩が固まっている。腰が重い。目の奥がぼんやりする。

このまま走り続けるのは無理だ、どこかで休もう。

そう思って立ち寄ったのが、滋賀県のマキノ高原温泉だった。

ここで起きたことが、この旅の、そしてこのアカウントの原点になった。

温泉に浸かった。ただそれだけだ。特別なことは何もしていない。ただ、お湯に体を沈めた。

出た後、自分の体の状態が変わっていることに気づいた。

肩が軽い。腰の重さが消えている。あの、渋滞の中でじわじわ蓄積されていった疲労が、きれいに流されている。道の駅で15分仮眠を取るのとは、まるで次元が違う回復だった。

「温泉、すごいな。」

大げさでもなんでもなく、そう思った。

この体験が、それ以降のルート設計を変えた。休憩場所は道の駅ではなく、温泉地にする。2〜3時間走ったら、ルート上の温泉を探して立ち寄る。そこで疲労をリセットして、また走り出す。

これが私のルールになった。

マキノを出た後は、豊岡で夕食の買い物をして、鳥取の道の駅 燕趙園で車中泊。翌日、山陰を走って下関へ。ところがこの下関でも渋滞に捕まった。伊勢湾岸とはまた違う種類の「詰み方」だったのだが、この話も別の記事に譲る。

日曜の夕方、18時過ぎ。福岡に着いた。

800km、一般道。1泊2日。できた。



2025年の夏、2回目の800kmを走った。

今度は夕方に出発して、名古屋から奈良へ抜け、兵庫を経由して中国山地を走るルート。1回目の経験を踏まえて、渋滞しやすい区間と時間帯を避けた。

このルートの詳細は、別の記事で書く予定だ。



コストを削るために始めた旅だった。

飛行機が高い、有休は中日に使う、18きっぷは体力的にしんどい。消去法で残った選択肢が、車と下道と車中泊だった。

それが、結果として最高の旅になった。

渋滞にハマって焦ったり、車中泊の場所を探して右往左往したり、温泉の営業時間に間に合わなくて星空に誓ったりしながら、800kmの道の上で気づいたことがある。この道中には、ガイドブックに載っていない温泉がある。地元の人しか知らないような食堂がある。朝靄の中の山道や、深夜の国道の静けさがある。

節約の旅が、発見の旅に変わった瞬間は、たぶんあのマキノ高原温泉だったと思う。

このアカウントで書いている温泉や穴場は、全部この800kmの道中で見つけたものだ。

まだ書いていない温泉がある。まだ紹介していない場所がある。800kmの道の上には、まだまだたくさん。


この旅で見つけた温泉たち

🔗 【福岡・二日市】博多湯。1860年創業、350円。4歳児の反乱と、硫黄の匂いの話

🔗 【島根】有福温泉。何も知らずに入って、体が先に「本物だ」と分かってしまった話

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
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次回は、知多半島の朝市の話を書く予定です。


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