【とんま村の物語】🌻第11話 解説:なぜ、日本は破綻しないまま、暮らしを削っているのか―自国通貨建て債務とインフレ税が映す、通貨価値低下の正体 noteマネーピックアップ
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【とんま村の物語】第11話:「100兆チャ~リンの落とし物。~バクのあくびと、ゼロの威張り顔~」
はじめに

桃の介:
第10話三部作では、世界が危機のたびにお金と借金を増やしてきた歴史を見ました。
第10話①では金本位制のブレーキが外れた歴史。
第10話②では、その流れで日本が「失われた30年」の先に、円安、物価高、実質賃金の低下、預金の購買力低下という形で、静かな清算局面に入っている現代日本の「診断」を見ました。
第10話③では、ドル基軸体制そのものが「返済不能な約束」の上にあることを見ました。
第11話解説は第10話②の続きなんですか?
日本の円安や物価高の話なら、前にかなり見ましたが...
ゆん吉:
いい問いだね。
第10話②は今に至る「経緯」と現状の「診断」だったが、
第11話ではその背景にある構造をさらに深掘りする。
過去の歴史的な通貨暴落の教訓を参考にしながら、私たちの「円」の価値が失われるメカニズムをより詳細に解剖するんだ。
日本は過去の通貨暴落国と「出口のない財政赤字」という病根は共有しているが、症状の出方が違う。
帳簿上の破綻を避けている間に、生活者の購買力がじわじわ削られている実態を見ていこう。
今回の地図
今回見るのは、「日本は財政破綻するのか、しないのか」という単純な二択ではありません。
見たいのは、なぜ日本は急に壊れにくいのに、暮らしの購買力は静かにそして確かに削られているのかです。
つまり、今回の流れはこうです。

1. 数字の「肥大」と価値の「希釈」―インフレ税のメカニズム

ゆん吉:
100兆円という莫大なお金が市場にチャ~リンと投げ込まれても、それに見合うだけの「供給力(モノやエネルギー)」が増えなければ、お金1単位あたりの価値は薄まる。
見かけ上、お金の数字が増えても、モノが増えなければ1単位あたりの力は薄まる。
給料の額面が増えても、物価がそれ以上に上がれば実質的には豊かにならない。これを政府の視点で見ると、巧妙な「清算」の手段になる。

2. 急性破綻と慢性的価値喪失―「不渡り」で死ぬか「希釈」で溶けるか

桃の介:
過去の通貨危機だって「財政問題」が原因ですよね?
なぜあんなに急激に、ATMからお金が出なくなるような「支払い不能」が起きるんですか?
ゆん吉:
まず前提として、国によって「どの通貨で借金できるか」が違うんだ。
信用力が低い国や、国内の金融市場がまだ十分に大きくない国は、自国通貨だけでは十分なお金を集められないことがある。その場合、ドルなどの外貨で借金する。
桃の介:
なぜ外貨なんですか?
ゆん吉:
貸す側から見ると、価値が不安定な通貨より、ドルのように世界中で使える通貨で返してほしいからだよ。だから、信用力の弱い国ほど「自国通貨ではなく、外貨で借りる」ことになりやすい。
一方、日本は違う。日本は長い間、円で国債を発行し、それを国内の銀行、保険会社、年金基金、日銀などが大量に保有してきた。国内に大きな貯蓄と金融市場があり、政府が円建てで資金を調達できる構造がある。
だから日本は、アルゼンチンや一部の新興国のように、外貨が尽きた瞬間に支払い不能になるタイプとは違うんだ。
急性破綻の引き金は「自分で刷れないお金(外貨)」で借金をしていることにある。
外貨建て債務の国は、信認を失うと外貨が調達できなくなり、自分では刷れないため物理的に支払いが不可能になるんだ。
対して、日本のような自国通貨建て債務の場合、形式的な支払い不能には陥りにくい。
ただし、その代わりに、通貨価値・物価・為替への負荷として現れうるんだ。

ゆん吉:
日本は「刷れる円」で借金しているから、心停止(不渡り)は免れる。
しかし、不渡りを出さないために円を刷り続けることは、心臓を動かすために全身の血液(通貨価値)を薄め続けているのと同じなんだ。
3. MMT(現代貨幣理論)の見方と、日本が直面する「生活」の壁

桃の介:
それって、最近よく聞く「MMT(自国通貨建てなら破綻しない)」の説明そのものですよね。
ゆん吉:
日本は、「自国通貨建て債務であれば、形式的な支払い不能には陥りにくい」というMMT的な見方を、かなり強く示してきた国だと言える。
桃の介:
じゃあ、やっぱり問題ないんですか?
ゆん吉:
いや、MMTが指摘する通り、自国通貨建て政府にとっての制約は形式的な資金不足ではなく、インフレだ。
ここが日本にとって残酷な落とし穴なんだよ。
日本はエネルギーの大半、食料の約6割(※)を海外に頼っているだろう?
(※)2023年度供給熱量ベース自給率38%(農林水産省)。エネルギー自給率約13%(資源エネルギー庁)。
ゆん吉:
政府と中央銀行が「支払い不能」を避ける方向で財政・金融を支え続けると、金利差、貿易収支、物価期待などと重なりながら、円の信認や為替に下押し圧力がかかりやすくなる。
日本のように食料やエネルギーを海外に大きく依存する国では、その圧力は輸入物価高として生活者に現れやすい。
つまり、円安・輸入物価高・実質賃金低下という形で、その制約が生活者側に現れているんだ。
MMTが指摘する「本当の制約は財源ではなくインフレである」という論点は、日本ではとくに重い意味を持つ。
食料やエネルギーを海外に頼る日本では、インフレ制約は国内の供給力だけでなく、円安と輸入コストの上昇を通じて、生活者の負担として現れやすい。
これが現代日本の病理の正体なんだよ。
4. 「統合政府」の数字と、日本の借金の結論

ゆん吉:
統合政府(政府+日銀)という大きな視点で見ると、日本の財政の特殊な構造と「なぜ破綻しないのか」の正体が見えてくる。
【政府・日銀・統合政府のバランスシート(2023年ベース・兆円)】

※統合政府は、一般政府に日銀を加え、日銀が保有する国債を一般政府の負債・日銀の資産として資産負債の両側から控除した概算。
時点が完全に一致しないため、構造を把握するための概算である。
ゆん吉:
統合政府、つまり政府と日銀を一体として見ると、日本の財政は、単純な「借金だけの国」とは違う姿を見せる。一般政府ベースで見れば正味資産はプラスであり、政府と日銀を統合して見れば、日銀が保有する国債のような公的部門内の資産・負債は相殺して考えることができる。
桃の介:
では、日本の借金は怖くないんですか?
ゆん吉:
そこを取り違えてはいけない。
ここで言いたいのは、「日本は資産超過だから大丈夫」という話ではない。
むしろ逆だ。帳簿上ただちに破綻しにくいからこそ、問題は別の場所に出るんだ。
「日本は借金で明日にも財政破綻する」という単純な破綻論は粗い。
しかし、だからといって、暮らしが守られるわけではない。
政府の帳簿を守る能力と、円の購買力を守る能力は別物だ。
保有資産の多くは、道路、土地、公共インフラ、出資金など、すぐに売って円の価値や生活者の購買力を守るために使えるものではない。
つまり、日本の借金問題は「不渡り」としてではなく、通貨価値の溶解として生活者を直撃している。
ここが、この章でいちばん大事な点なんだ。

5. 逃げ場のない世代間格差―それぞれの悲鳴

ゆん吉:
政府の帳簿を守るために、いわば生活者が兵糧攻めにあっている。
このコストは、世代ごとに異なる残酷な「削られ方」として現れる。
結果として、高齢層は過去に蓄えた預金の購買力を削られ、現役・若年層は実質賃金と負担増によって未来の選択肢を削られているんだ。
高齢層: 預金の「数字」は守られるが、インフレで実質価値が削られ、過去の努力の結晶が溶けていく。
現役・若年層: 賃金が物価に追いつかない中、税と社会保険料を合わせた国民負担率は45%前後に達し、現役世代には社会保険料と税負担の重さがのしかかっている。結果、手取りが伸びず、将来への選択肢が物理的に奪われていく。
今の日本は、政府の帳簿を守るために、「高齢者の過去」と「若者の未来」を同時に燃料として燃やしている状態なんだよ。
生活者から見れば、これは極めて見えにくい、しかし確実な「負担」なんだ。
6. まとめ:100兆チャ~リンが映すもの

ゆん吉:
日本は「急に壊れにくい」。自国通貨建て債務、一般政府の資産、日銀の存在によって、爆発的な不渡りは起きにくい。
しかし、「暮らしの購買力は静かに削られている」。
MMTが指摘する限界であるインフレが、円安、輸入物価高、実質賃金低下として、生活者の側に現れているんだ。
問われているのは、お金の桁ではない。
そのお金が、明日の暮らしをどれだけ安心して支えられるか。
100兆チャ~リンが映しているのは、その問いなんだ。
参考文献・資料
通貨制度・国際金融史
・Barry Eichengreen, Globalizing Capital: A History of the International Monetary System, Princeton University Press, 2008.
・Barry Eichengreen, Exorbitant Privilege: The Rise and Fall of the Dollar and the Future of the International Monetary System, Oxford University Press, 2011.
・Charles P. Kindleberger, The World in Depression, 1929–1939, University of California Press, 1973.
・Adam Fergusson, When Money Dies: The Nightmare of Deficit Spending, Devaluation, and Hyperinflation, PublicAffairs, 2010.
・Steve H. Hanke and Alex K. F. Kwok, “On the Measurement of Zimbabwe’s Hyperinflation,” Cato Journal, Vol. 29, No. 2, 2009.
・International Monetary Fund, “Argentina and the IMF.”
現代貨幣論・財政論・統合政府
・L. Randall Wray, Modern Money Theory: A Primer on Macroeconomics for Sovereign Monetary Systems, Palgrave Macmillan, 2015.
・Stephanie Kelton, The Deficit Myth: Modern Monetary Theory and the Birth of the People's Economy, PublicAffairs, 2020.
・Wynne Godley and Marc Lavoie, Monetary Economics: An Integrated Approach to Credit, Money, Income, Production and Wealth, Palgrave Macmillan, 2007.
・International Monetary Fund, Japan’s Public Sector Balance Sheet, IMF Working Paper, 2019.
・International Monetary Fund, “Public Sector Balance Sheet” 関連資料。
日本の財政・バランスシート
・財務省「令和5年度『国の財務書類』のポイント」
・財務省「令和5年度 国の財務書類」
・内閣府「2023年度 国民経済計算年次推計」
・内閣府「2024年度 国民経済計算年次推計」
・日本銀行「第138回事業年度(令和4年度)決算等について」
・日本銀行「営業毎旬報告」
食料・エネルギー・生活コスト
・農林水産省「令和6年度 食料・農業・農村白書」
・農林水産省「食料自給率」関連資料
・資源エネルギー庁「エネルギー白書」
・厚生労働省「毎月勤労統計調査」
・総務省統計局「消費者物価指数」
・財務省「国民負担率」関連資料
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