【とんま村の物語】第20話:幸せとは、心置きなくポンコツでいられることと言っても過言ではないのだ(最終回)
🍃前話:「ベーシックインカムは、村どうしでも必要だった~ぷるり~んの次は、村どうしの安心へ~」
🌻解説:最終回「競争を、生きるための義務から解放したい」
🐝前話+第20話サマリー
前話、とんま村では、ついに村どうしのズレを少しならす仕組みが動きはじめました。
それぞれの村で“生きるぶん(ベーシックインカム)”の仕組みを入れるだけでは、村どうしのやり取りの中で、やはり強い村へお金が寄っていく。
だから、持っているところから少し受けて、足りないところの沈み込みを浅くする。
ただし、何もかも同じにはしない。
工夫して売ることも、買うことも、挑戦することも、ちゃんと残す。
そんな、少し面倒で、かなり大事な仕組みが、ようやく静かに動きはじめたのでした。
そして今話。
どうぶつの村の物語は、いよいよ最後です。
お金の仕組みをいじっていたはずなのに、最後に残ったのは、もっとくだらなくて、もっと大事なことでした。
――つまり、幸せとは、心置きなくポンコツでいられることである、という話です。
① 天の声

「……日曜日の夜。
皆さんは、自分自身を、どんな言葉で労ってあげているでしょうか。
もっとちゃんとしろ。
もっと賢くなれ。
もっと急げ。
もっと役に立て。
……そういう言葉を、自分に向けて眠る夜も、たぶんあるのでしょう。
けれど、ここ、どうぶつの村では、誰一人として“正解”を探す者はいなくなりました。
月が替われば、いつものようにぷるり~ん(ベーシックインカム)が入ってくる。
誰かは昼寝をし、誰かはパンを焦がし、誰かは気が向いたらチャ~リンを借りて、また派手に転ぶ。
……けれど、もうそれで人生が終わる者は誰もいませんでした。
それは、賢さを脱ぎ捨てた者たちが辿り着いた、究極に無意味で、究極に豊かな、愛しき日々の記録なのです」
② ほどけていく世界

朝の広場。働きバチくんが切り株で羽を休めていました。
ライオン
「ひえぇ! 働きバチくん、飛ばないの!? だいじょうぶ!?」
働きバチ
「はい。今日は、飛ばない日です。前は『飛ばないと終わる』気がしてましたけど、今は飛ばなくても明日が続くので」
がつがつ村でも、キツネがゆっくり帳面を閉じました。
キツネ
「……まあ、今日の売り逃しは、明日取り返せばいいか」
イグアナ
「……出ました。がつがつ村における『まあいいか』の発生。かなり珍しい自然現象でございます」
もたもた村では、夕方になってもお茶を飲む鈴の音が響いています。
ヤギばあさん
「……明日がちゃんと来るなら、それで十分ですよぉ」
イグアナ
「……どうやら世界は、いい具合にほどけてきた模様です」
③ アリクイの究極の遊び
ハシゴの下では、アリクイとアルパカが石ころを弾いていました。
アリクイ
「おーおー! 見てよパカくん! 今のこの、世界で一番誰の役にも立たない絶妙な指の動き! いよっ、いよっ、無意味の極み!」
アルパカ
「……はい。今の一投、何の得にもなりませんでした」
アリクイ
「最高だねぇ! その『得にならない』って評価、一番欲しかったやつだよぉ!」
ライオン
「何してるの……?」
アリクイ
「おはじきだよぉ! 以前の僕は『この石を貸して増やそう』とか考えてたけど……今はただ弾く! 無意味! ガハハ!」
イグアナ
「……出ました。信用創造の果てに辿り着いたのが、ただの石遊びだった件でございます」
④ 趣味の完成

イグアナ
「バクさん。お聞きします。結局、バクさんが仕組みを整えたかったのは、みんなを心置きなくポンコツにするためだったんですか?」
バク
「……いや。たとえポンコツでも明日が続くようにするためだよ」
アルパカ
「……前は、ちょっと転ぶだけで、全部まずくなる気がしてました」
バク
「そう。だから、みんな無理に賢くしてたんだ。
急いで、役に立って、ちゃんとしていないと、不安だったからね」
イグアナ
「……なるほど。“ちゃんとしていないと生き延びられない世界”のほうを、やめたかったわけですね」
バク
「うん。
ちゃんとしてる日だけ生きてていい村なんて、息苦しいだろ」
ライオン
「趣味でここまでやるの、やっぱりちょっと変じゃない……?」
バク
「……変でいいんだよ。幸せっていうのは、賢くなることじゃなくて、変なことに夢中になることやポンコツでいられる時間を、誰にも邪魔されないことなんだから」
そう言って、バクは村の入り口に、一枚の大きな板をぺたりと貼りました。
『みんな知ってますよ(君たちが愛すべきポンコツだってことは)』
カメの長老
「……あ、代表です。幸せというのは、立派になることではなく、転んでも今日が終わらないことかもしれません。
……そして、心置きなくポンコツでいられるには、じつは、かなりちゃんとした仕組みが要るのです」
ライオン
「うわっ! 最後までやっぱり気づかなかった……!」
イグアナ
「……はい。だいたい大事なことは、岩が最後に持っていきます」
④ 天の声

「……こうして、どうぶつの村からは、“正しさ”という名の棘が、少しずつ抜けていきました。
仕組みが優しくなった時、どうぶつたちはようやく、自分たちのダメなところを少しずつ愛せるようになったのです。
賢明であることよりも、滑稽であること。
完璧であることよりも、転んでも終わらないこと。
何者かになることよりも、ただ、心置きなくポンコツでいられること。
……それが幸せだと言ってしまっても、たぶん、もう怒られないのでしょう。
さて、明日の朝、鏡の中の自分を見た時、あなたは少しだけ、少し不格好な自分を許してあげられるでしょうか。
この物語はフィクションですが、あなたのポッケの“ぷるり~ん”は、案外、もう湧いているのかもしれません。
……それでは皆さん、またいつか。
日曜日が、あなたを優しく追い越していくその時まで」
おしまい

