【とんま村の物語】第19話:ベーシックインカムは、村どうしでも必要だった~ぷるり~んの次は、村どうしの安心へ~
🍃前話:「まねする村が、出てきた~ぷるり~ん、外の村でざわつく~」
🌻解説:「勝つ側と、負担を背負う側が生まれ続ける世界で―多段階ベーシックインカム(MBI)が、国内から世界へ調整の層を重ねる理由」
🌻番外編「既存研究と多段階ベーシックインカムの違い」
🐝前話+第19話サマリー
前話、とんま村のぷるり~ん(ベーシックインカム)を見て、がつがつ村とのびのび村も、自分たちなりのぷるり~んを始めました。
ぷるり~んは、毎月、それぞれの村で一人ひとりに配られます。しかも、その村の中でしか使えません。どんぐりでできているので、長く置いておくと腐って使えなくなります。だから、ためこむより、その村の中で早めに使われます。
そのおかげで、どの村でも、村の中の毎日の買い物は前より回りやすくなりました。けれど、村どうしの商売で動くのは、前からあるお金の方です。とんま村ならチャ~リンです。そして、そのお金は、やっぱり勢いのある村へ寄りやすいのでした。
そして今話。とんま村のどうぶつたちは、ようやく気づきます。必要なのは、格差をなくすことではありません。
各村の安心の土台を続けていけるように、村どうしのお金の偏りを、あとから少しならす仕組み(二段階目のベーシックインカム)なのだと。
① 天の声

「……日曜日の夜。
皆さんは、“よいことが広がれば、だいたい全部うまくいく”と思って眠りにつくでしょうか。
それぞれの村でベーシックインカムが実現し、村の中の安心の土台はできました。
けれど、村どうしの商売で動くお金は、やっぱり強い村へ寄っていきます。
すると今度は、別の問いが出てきます。
――この安心は、ずっと続けられるのだろうか。
今夜は、そのお話です。」
② 村の中の安心と、村どうしの偏り

イグアナ
「……えー、毎度おなじみ、流浪の爬虫類、イグアナでございます。本日は“やさしい仕組みの、その先”をお送りします。いやはや。よいことをしたはずなのに、まだ問題が残っております」
ライオン
「えぇ……。よいことしたのに、まだ残るの……?」
カモ
「……はい。整理すると、こうです。ぷるり~んは、それぞれの村の中でしか使えません。しかも、どんぐりでできているので、時間がたつと腐って使えなくなります」
シマウマ
「じゃあ、ぷるり~んは、その村の中を回るんだね」
カモ
「……はい。だから、毎月の買い物や、ちょっとした助け合いは、前より回りやすくなります。村の中の安心の土台にはなるんです」
ウサギ
「それなら、かなりよさそうだけど」
カモ
「……村の中では、です。けれど、村どうしの商売で動くのは、前からあるお金の方です」
ライオン
「とんま村なら、チャ~リンだね」
カモ
「……はい。そして、そのお金は、やっぱり勢いのある村へ寄りやすいんです」

イグアナ
「……では、ここで現場の声を聞いてみましょう。まずは、がつがつ村キツネさん」
キツネ
「うちはね、ぷるり~んが始まってからも、むしろ外からの買い物が入りやすいんだよ。みんな村の中では少し安心する。そのうえで、“ちょっといいもの”“少し多めの買い物”になると、結局うちに来やすいからね」
ライオン
「ひえぇ……。じゃあ、村の中では安心しても、村どうしではまた強い村に寄るんだ……!」
イグアナ
「……本日の百獣の王、たいへん正しい胃痛でございます」
イグアナ
「……では次、のびのび村ヤギばあさん」
ヤギばあさん
「……ぷるり~んがあるぶん、前より困る日は減りましたよ。けれど、村どうしの商売で、前からあるお金まで、うちに入りやすくなったわけじゃありませんからねぇ」
働きバチ
「……ああ。土台はできた。でも、村の外との流れは、また別なんだ」
ヤギばあさん
「……そうですねぇ。だから、のびのび村では、こんな声が出はじめたんです。“このまま外へお金が寄りつづけたら、うちのぷるり~んは、これからも配りつづけられるんだろうか”って」
広場が、少しだけ静かになりました。
アリクイ
「おーおー……。なるほどねぇ。ぷるり~んで安心の土台ができたからこそ、今度は“それを続けられるか”が問題になるんだねぇ」
カモ
「……はい。だから次に必要なのは、各村の中を支える仕組みではなく、村どうしの偏りを受ける仕組みなんです」
③ 村通しの埋められない格差を小さくしよう

そのとき、広場のすみの岩が、もぞ……と動きました。
ライオン
「うわっ! いたの!? ぼく、やっぱり毎回気づかないんだけど……!」
カメの長老
「……あ、代表です。村の中に土台ができても、村どうしで動くお金は、寄るところへ寄ります」
ライオン
「じゃあ、どうするの? ぜんぶ同じにするの?」
カメの長老
「……いいえ。必要なのは、差をなくすことではありません。差が、行きすぎないようにすることです」
ウサギ
「……全部同じにするんじゃないんだね」
カメの長老
「……はい。ひとつの村だけが安心でも、まだ足りません。どの村も安心を続けられる方がよい。けれど、だからといって、全部を同じ顔にする必要はありません」
キツネ
「それなら分かるよ。うちは商売したいし、競争したい。でも、ずっとこっちにばかり寄って、どこかが弱りつづけるのも変だと思う」
ヤギばあさん
「……のびのび村も、一番になりたいわけじゃないんです。ただ、置いていかれすぎたくないんですよ」
カメの長老
「……それでよいのです。競争したい村は競争できる。けれど、どこかが沈みすぎるのは、そのままにしない。そのための仕組みが要ります」
バク
「……うん。だから、村どうしの偏りを、あとから少しならす」
ライオン
「ひえぇ……。また大事そうなの来た……!」
④ 村どうしのお金の偏りを調整する仕組み

イグアナ
「……では、バクさん。予算の都合でCMなしでどうぞ」
バクは、前足で空中をすいと撫でました。すると、三つの村のつながりの上に、もう一枚、大きな光の板が現れました。
ライオン
「ひえぇ!? また板!?」
バク
「……うん。もっとつながりタブレット」
ライオン
「そのままだなぁ!?」
イグアナ
「……名前は雑、役目は重い、新型でございます」
バク
「……これは、村どうしのお金の流れを、村ごとに見る板だよ。どの村に多く入ったか、どの村から多く出ていったか。流れ全体をここに映す」
カモ
「……一人ひとりではなく、村全体の出入りを見るんですね」
バク
「……そう」
ライオン
「で、ならすための力はどこから来るの?」
カモ
「……豊かなところで余って戻ってきたぷるり~んや、上で集められた分です」
ウサギ
「腐って戻った分も入るの?」
カモ
「……はい。入ります。使われずに終わった分も、豊かなところで集められた分も、ならすための力になります」
バク
「……もっとつながりタブレットは、村どうしのお金の偏りを見て、その戻り分や集めた分を、偏りが大きすぎるところへ回す」
シマウマ
「なるほど……。前からあるお金で偏りを見て、戻ってきた分や集めた分で少しならすんだ」
バク
「……そう。じゃあ、早速やってみよう」
⑤ エンディング

イグアナは岩の上にのぼり直し、三つの村を見下ろしました。
イグアナ
「……えー、どうやら“村がそれぞれぷるり~ん(ベーシックインカム)を毎月配る”だけでは、まだ足りなかった模様です。
村の中は、前より回るようになりました。
けれど、村どうしで動くお金は、やっぱり寄るところへ寄っていく。
そこで、ほんの少しだけ、ならしてみたわけですが――」
イグアナは、少しだけ目を細めました。
「……不思議なことに、どの村も、“前より無理がない顔”になっております。
がつがつ村は、走る勢いを残したまま、吸い寄せすぎる感じがやわらぎました。
のびのび村も、急に強くなったわけではありませんが、しぼみつづけるような気配は薄れました。
つまり――」
イグアナは、いったん言葉を切ります。
「……ひとつの村だけが安心でも、あまり意味はなかった、ということですねぇ。
必要だったのは、どこか一つを強くすることでも、全部を同じにすることでもなく、どの村も“続けられる”ことだったようです。
そのうえで、走りたい村は走る。競いたい村は競う。
ただし、どこかが沈みすぎるほどの偏りだけは、そのままにしない。
……いやはや。やさしさというのは、配るだけでは足りず、ときどき“残り方”まで設計を求めてくるものですねぇ」
イグアナは、岩の上で肩をすくめました。
「……さて次回。最終話。
安心が続くようになると、人はどうなるのか。……いやはや。ひょっとすると、もう少し心置きなく、ポンコツでいられるのかもしれません。
……それでは、また。」
