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【とんま村の物語】🌻第12話 解説・番外編:なぜ、利益は金融市場に積み上がり、損失は実体経済へ戻るのか―現代のお金の仕組みが抱える「非対称な危機」 noteマネーピックアップ

🍃物語本文

【とんま村の物語】第12話:「足りない一枚は、最初からなかった。~バクの桁直しと、カメの一言~

🍃関連解説

第12話 解説:なぜ、社会は走り続けなければならないのか―現代のお金の仕組みが背負う「競争」という呪縛

はじめに:今のお金の作り方の問題の深堀

桃の介:
前話では、「元本は生まれる。けれど、利息は同時には生まれない」という構造を見ました。

ゆん吉:
そうじゃ。
それが第12話の「足りない一枚」じゃった。
※ここで言う「足りない一枚」は、すべての時点で現金が物理的に不足するという意味ではなく、銀行を除く民間実体経済から見たとき、元本返済で預金が消え、利息が金融部門へ流れるという構造的な圧力を指している。

ただし現実の社会では、この小さな穴は、村の中の不足では終わらない。
金融市場で増幅され、危機のときには一気にしぼみ、最後には雇用・賃金・倒産・財政負担として実体経済へ戻ってくる。

桃の介:
今回は、その流れを見るんですね。

ゆん吉:
うむ。
今回見るのは、金融市場における増幅・転嫁のメカニズムじゃ。


<前回解説(本編)と今回(番外編)>

<この記事の全体地図>

桃の介:
最初から「誰が得をして、誰が損をするか」に入るのではなく、まず金融市場そのもののキホンを見るんですね。

ゆん吉:
そうじゃ。
舞台を見ないまま登場人物だけを見ると、話が散らばってしまう。
まず、金融市場とは何か。
なぜ、そこで小さな穴が大きくなるのか。
そこから見ていこう。




1.【金融市場のキホン】実体経済と金融経済は、動き方が違う

桃の介:
まず、実体経済と金融経済の違いからですね。

ゆん吉:
そうじゃ。
実体経済は、労働、賃金、消費、生産の世界じゃ。人が働き、ものを作り、生活するには時間がかかる。

一方、金融経済では、将来の収益、金利、為替、信用リスクが、いまの価格として取引される。
だから期待や価格によって、実体経済より速く、大きく膨らむことがある。

桃の介:
金融市場は、現実の経済よりも速く動けるんですね。

ゆん吉:
その性質が、「足りない一枚」を大きくする土台になるんじゃ。


2.【金融市場のキホン】リスクも、売買できるものになる

桃の介:
金融市場では、株や債券だけでなく、リスクそのものも売買されるんですか?

ゆん吉:
そうじゃ。
金利が動くリスク、為替が動くリスク、借り手が返せなくなるリスク。
そうした「将来の不確実さ」そのものが、金融商品になる。

桃の介:
こう見ると、もともとは危ない変動に備えるための道具なんですね。

ゆん吉:
その通りじゃ。
金融の道具そのものが悪いわけではない。

ここで見たいのは、利息不足がそのまま金融商品になる、という単純な話ではない。返済、利息、信用、担保をめぐる圧力が、資産価格や金融市場の拡張と結びつき、より大きな取引能力へ変わっていく。その流れを見るんじゃ。

問題は、その道具が、実体経済を守るためではなく、取引そのものを増やすために使われ始めることじゃ。
金利に備えるはずの取引が、金利の動きに賭ける取引になる。
貸出リスクを分散するはずの商品が、さらに切り分けられ、再証券化され、元の借り手の顔が見えない商品になる。

桃の介:
リスクを減らすための道具が、逆にリスクを増やしていくんですね。

ゆん吉:
そうじゃ。
本来は、実体経済を守るための金融だった。
けれど、取引そのものが目的になると、金融は自己目的化し、マネーゲームになっていく。
これが、主従の逆転じゃ。
実体経済を守るはずの金融が、やがて実体経済を揺さぶる側に回るのじゃ。


3.【お金の届き方】新しいお金は、同じ順番では届かない

桃の介:
ここからは、「お金の届き方」の話ですね。

ゆん吉:
そうじゃ。
お金が増えること自体よりも重要なのは、誰のところから増えるのかじゃ。
新しく生まれたお金は、社会全体に同じ順番で届くわけではない。
金融に近い主体ほど、先に受け取りやすい。
遠い主体ほど、あとから物価上昇や家賃上昇として受けやすい。

桃の介:
つまり、お金が増えたとしても、みんなに同じように届くわけではないんですね。

ゆん吉:
そうじゃ。
新しいお金は、入口に近いところから流れ始める。
そして、その入口は、多くの場合、信用力のある企業、担保を持つ主体、富裕層、金融市場に近い主体の近くにある。
生活者や小規模事業者には、あとから物価上昇、家賃上昇、コスト増として届きやすい。

桃の介:
お金が増えることより、「どこから増えるのか」が大事なんですね。

ゆん吉:
うむ。ここを見ないと、格差がなぜ固定されやすいのかも見えなくなる。


4.【お金の届き方】近い主体ほど、増やす手段を持つ

桃の介:
先にお金に近いだけではなく、増やす手段も持っているんですか?

ゆん吉:
そうじゃ。
金融市場に近い主体は、単にお金を先に受け取るだけではない。
金利の変動に備える。為替の変動に備える。安く借りる。
担保を使う。レバレッジを使う。
つまり、変動を避ける道具も、変動を利用する道具も持っている。

桃の介:
金融市場に近い人は、盾も矛も持っている。
でも、生活者や小さな事業者は、結果だけを受けることが多いんですね。

ゆん吉:
そうじゃ。
金融市場の利益には遠い。
けれど、物価、家賃、金利、雇用不安という形で、その結果だけは受ける。
ここに、道具を持つ側と、結果だけを受ける側の差が生まれる。

桃の介:
同じ金融市場の変動でも、受け方がまったく違うんですね。

ゆん吉:
そうじゃ。
近い者は変動を管理し、時には利用できる。
遠い者は、変動の結果を生活の負担として受けやすいのじゃ。


5.【お金の届き方】先に得た利益が、次の借りやすさを生む

桃の介:
先にお金が届く。
増やす道具も持つ。
その結果、次も有利になるんですか?

ゆん吉:
その通りじゃ。

先にお金へアクセスできる主体は、資産を買いやすい。
資産価格が上がれば、担保価値も上がる。
担保価値が上がれば、さらに借りやすくなる。
借りやすくなれば、次のお金にもまた近づきやすくなる。

桃の介:
つまり、最初の差が、次の差を生むんですね。

ゆん吉:
そうじゃ。
アクセスの差が、資産の差になる。
資産の差が、担保の差になる。
担保の差が、信用の差になる。
信用の差が、次のアクセス差になる。

こうして、お金の届き方の差は、一回きりでは終わらない。

桃の介:
お金が増えることよりも、「誰のところから増えるのか」が大事なんですね。

ゆん吉:
その通りじゃ。
このように、お金が増えること自体よりも、「誰のところから増えるのか」が格差を広げていく。これは一般に、カンティロン効果と呼ばれる。

3章から5章をまとめると、こうなる。


6.【増幅と崩壊】レバレッジが、実体を超えた取引能力を生む

桃の介:
ここから、金融市場での増幅ですね。

ゆん吉:
そうじゃ。

ここが5章とのつながりで重要になる。

5章では、先に得た利益が、次の借りやすさを生むことを見た。
6章では、その資産・担保・信用が、金融市場の中で、さらに大きな取引能力へ変わっていくことを見る。

桃の介:
つまり、次も借りやすいだけではなく、もっと大きく取引できるようになる、ということですね。

ゆん吉:
そうじゃ。金融市場では、少ない証拠金で大きな取引ができる。担保があれば、さらに取引能力が広がる。小さな価格変動でも、大きな損益が生まれる。

桃の介:
これは、普通のお金とは違うけれど、金融市場の中では「お金のような力」を持つんですね。

ゆん吉:
その通りじゃ。デリバティブは通貨そのものではない。それ自体でパンや卵を買えるわけでもない。

しかし、金融市場の中では、将来の支払い義務、受け取り権利、証拠金、担保を通じて、実質的な取引能力を広げる。

つまり、資産・担保・信用が、実体経済を超えた「お金のような力」に変わるのじゃ。

桃の介:
だから「小さな穴」が、金融市場では大きくなりやすいんですね。

ゆん吉:
うむ。足りないから、ただ困るだけではない。

返済や利息の圧力は、担保や信用と結びつき、「もっと借りる」「もっと大きく取引する」という力に変わっていく。

だから金融市場では、小さな穴が、実体経済を超えた大きな取引能力の拡張につながりやすいのじゃ。


7.【増幅と崩壊】膨らむときはゆっくり、崩れるときは一気に

桃の介:
でも、膨らんだものは、ずっと続くわけではないんですよね。

ゆん吉:
そうじゃ。好況期には、担保価値が上がる。信用が増える。取引が増える。さらに担保価値が上がる。

この流れは、実体経済に比べれば十分に速い。
けれど、金融市場の中で見ると、膨張は信用と担保が少しずつ積み上がることで進んでいく。

桃の介:
実体経済よりは速い。でも、金融市場の中では、積み上がっていく感じなんですね。

ゆん吉:
そうじゃ。ところが、危機時にはそれが一気に逆回転する。

担保価値が下がる。追加担保を求められる。資産を売らされる。売却が増えて、さらに価格が下がる。また担保価値が下がる。

桃の介:
つまり、膨らむときも速いけれど、崩れるときはそれ以上に速いんですね。

ゆん吉:
その通りじゃ。金融経済は、実体経済より速く膨らむ。けれど、その金融市場の中でも、膨らむ速度より、崩れる速度の方がさらに速い。

桃の介:
増えるときと消えるときで、時間の流れが違うんですね。

ゆん吉:
そうじゃ。創造は積み上げ型。消滅は連鎖型。この非対称性が、金融危機を一気に破壊的なものにするのじゃ。


8.【損失の転嫁】金融市場の損失は、実体経済へ戻ってくる

桃の介:
金融市場で崩れたものは、金融市場の中だけで終わるんですか?

ゆん吉:
終わらない。
そこが大きな問題じゃ。

金融市場で膨らんだリスクは、金融市場の中だけで完結しない。

好況期には、金融市場に近い主体が利益を得る。
しかし危機時には、その損失は実体経済へ戻ってくる。

雇用が失われる。
賃金が下がる。
企業が倒産する。
財政負担が増える。
生活者が不安定になる。

桃の介:
いい時に利益を得る人と、悪い時に傷を受ける人が違うんですね。

ゆん吉:
そうじゃ。
しかも、恩恵と負担の量もスピードも違う。
金融市場の利益は、近い主体にじわじわ蓄積される。
けれど危機時の損失は、ある日突然、実体経済へ落ちてくる。

桃の介:
何もしていない生活者まで巻き込まれる。

ゆん吉:
そこに、現代金融の大きな不条理がある。


9.【ループの再生産】傷を受けた側ほど、次のお金から遠ざかる

桃の介:
でも、危機が終われば、また元に戻るんじゃないんですか?

ゆん吉:
そこが、そう簡単ではない。

問題は、危機で終わらないことにある。

危機で傷を受けた側は、所得を失う。
資産を失う。
担保を失う。
信用力を失う。

すると、次にお金が生まれる局面で、さらに借りにくくなる。さらに投資しにくくなる。さらに金融市場から遠ざかる。

桃の介:
一方で、金融市場に近い主体は、危機後の安値資産を買える。

ゆん吉:
そうじゃ。

政策による流動性供給にも近い。資産価格の回復局面でも恩恵を受けやすい。

こうして、危機は単なる清算ではなく、次の偏りを準備する。

桃の介:
つまり、損失の転嫁は終点ではないんですね。

ゆん吉:
その通りじゃ。

損失の転嫁は、終点ではない。
それは、次の「お金の届き方」の差を生む入口でもある。

先に届く。
道具を持つ。
次も借りやすくなる。
金融市場で膨らむ。
危機で一気に消える。
損失は実体経済へ戻る。
傷を受けた側ほど、次のお金からまた遠ざかる。

こうして、不条理のループは再生産されていくのじゃ。


まとめ:小さな穴は、なぜ巨大な不条理になるのか

桃の介:
第12話の「足りない一枚」は、村の中では小さな不足として現れました。

でも現実の社会では、それが金融市場で増幅されるんですね。

ゆん吉:
そうじゃ。
金融市場では、実体経済よりも速く大きく膨らむ土台がある。
リスクそのものが商品になる。
新しいお金は、同じ順番では届かない。
近い主体ほど、増やす手段を持つ。
先に得た利益は、次の借りやすさを生む。
レバレッジは、実体を超えた取引能力を生む。
膨らんだ流動性は、危機時に一気に消える。
そして損失は、雇用・賃金・倒産・財政負担として、実体経済へ戻ってくる。
さらに、傷を受けた側ほど、次のお金から遠ざかる。

桃の介:
金融市場そのものが悪い、という話ではないんですよね。

ゆん吉:
そうじゃ。
金融市場が必要か不要か、という話ではない。
リスク管理は必要じゃ。企業が備えることも大切じゃ。金融そのものが悪いわけではない。

問題は、その仕組みが、誰のために、どの大きさで、どの責任のもとで使われているのかじゃ。

いい時に利益を得る人と、悪い時に傷を受ける人が違う。
膨らむときはゆっくりで、崩れるときは一気に来る。
損失は実体経済へ転嫁され、その傷がまた次の偏りを生む。

桃の介:
「足りない一枚」を埋めようとする仕組みが、さらに大きな危機を生んでいないか。

ゆん吉:
そうじゃ。
そこまで見たとき、第12話の問いは、村の中の小さな計算問題を超えて、現代の通貨・金融制度そのものを問い直す入口になるのじゃ。


参考文献

・Bank of England, “Money creation in the modern economy”, Quarterly Bulletin 2014 Q1.
・Michael McLeay, Amar Radia and Ryland Thomas, “Money creation in the modern economy”, Bank of England, 2014.
・Wynne Godley and Marc Lavoie, Monetary Economics: An Integrated Approach to Credit, Money, Income, Production and Wealth, Palgrave Macmillan.
・Richard Cantillon, Essai sur la Nature du Commerce en Général.
・Bank for International Settlements, “OTC derivatives statistics at end-June 2024”.
・Financial Stability Board, “The Financial Stability Implications of Leverage in Non-Bank Financial Intermediation”, 2023.
・Claudio Borio, “Market liquidity and stress: selected issues and policy implications”, BIS Quarterly Review, 2000.
・Hyman P. Minsky, Stabilizing an Unstable Economy.
・John C. Hull, Options, Futures, and Other Derivatives.


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